37話 開戦
そして迎えた試合当日。
―――この日の天気は晴れで、秋風が吹き荒れている。
季節はもう秋だ。
そしてヒョウガ達は、競技場の中央でルゼイン達と向かい合っていて。
先生は二チームの真ん中に立つ。
既に全員が、武装展開を完了させていた。
「己達は負けないだ!」
「ああ、俺達もだ!」
「それでは、ルゼイン君の率いる448号室と、アリマ君が率いる450号室の試合を開始します」
意気込みを露にするルゼインに、ヒョウガも言う。
先生の相図を聞いて、二チームのリーダー同士が握手を交わす。
他のメンバーも握手を交わす。
それが終わると直ぐに、試合が開始する。
―――俺は、予定通り、二、二、二に分かれたぞ!
組み合わせは、ヒョウガとカナミの幼馴染みチームで一つ。アーティナとアキラの意外な組み合わせで二チーム。最後のアミリとミューフィの仲良しのチームと言う感じだ。
「そう言う作戦で来たださか! 己達も行くださ!」
「分かっただべえ」
「分かってる」
「グハハハハハ。予定通りにだな」
「はああぁ~凄く眠いけど頑張るよ」
「・・・・」
ルゼインの出した指示に、全員が了解する。
―――女性陣が動き出し、それに合わせて男性陣も動き出す。
恐らく、三、三で戦うスタイルだろう。
そして最初に仕掛けたのは、男性陣側の一人。
小柄で訛った喋りの青年が、アーティナに仕掛けて来た。
「行くだべえ」
ーーと言うと。
「武装鋼腕奥義<二重螺旋の切刃>」
自身の腕を鋼へ変化させた。
二重に作られた螺旋の刃を、彼は作り出してーー、
螺旋の容赦なくアーティナを襲う。
「そうはさせませんよー。守護魔甲!」
アーティナの前に立ったアキラ。
アキラは自らの腕に力を込め、魔法の盾を創り出すのだが―――
「ぐはっ…」
攻撃を受け止め切れず、螺旋の刃を腕を中心に食らってしまう。
一方その頃、アミリ達の方はと言うと。
「これ以上は行かせません」
「はああぁ~眠い。ウチが相手する」
「グハハハハハ。ケリアス先輩ここは任せよう」
「・・・・任せる」
眠そうな少女ーーーケリアスが、ミューフィ達の前に立ち開かる。
何故か眠そうなケリアスに、二人は安心し切っている。
―――な、何よ! こいつは。凄く眠そうなのに、何で此奴に任せたのよ。まさか、こいつがそんなに強い訳?実は強いとか? まさかね? 隠れた強キャラ!?
とアミリは、眠たそうな少女に半信半疑になった。
「はああぁ~行こうか~」
多きな欠伸をし、うとうとしながら。
「睡眠魔術<眠々歌謡歌>!」
「耳を塞いでいるので・・・・・・ヤバいです。スぴ~」
魔法の指揮棒を振り―――魔法を発動 。
指揮棒を振って、眠たくさせられる歌曲の子守歌を奏でた。
耳を塞ぐも既に遅く、ミューフィはその場で文字通り寝入ってしまう。
ヒョウガ達の方は。
「グハハハハハ。我とパラテイーナ先輩が相手になる」
「ん……!? どこからでも良いぞ!」
「・・・・うん」
自分と大人しくて赤い眼鏡をかけた少女―――パラテイーナが、二人の前に立ち塞がると。
「じゃあ宜しくね! ヒョウガ」
「ああ、分かったぞ!」
時間稼ぎを頼まれたヒョウガは、思った通りの言葉を返す。
「グハハハハハ。行く!」
大銃剣をテナは右手に構えーー、
「武装大銃剣奥義〈鮮血の地獄〉>・・・・ッ」
次第に大銃剣の色が変化していく。
瞬く間に血の色に染まった。
鮮血の如く紅の大銃剣で、地獄の如くヒョウガに斬りかかった。
―――ん……!? 何て攻撃だ!? 唯の痛い子じゃなかったんだな。
とヒョウガは、テナを評価する。
「ま、そんな恐ろしい攻撃食らって溜まるかだぞ!
迫る斬撃を前にしたヒョウガは、
「能力<暴風>!!」
ヒョウガの体の周りから、突如荒れ狂う風が吹き荒れると。
それにより斬撃は、悉く吹き飛んで行ってしまい。
アーティナ達とルゼイン達の戦いはと言うと。
「アキラ、大丈夫ですの?」
「大丈夫だよー」
「良し、己の攻撃の番ださ!」
心配そうに見詰めて来るアーティナに、無事であることをアピールしてきて…
次の瞬間。ルゼインが攻撃の準備に入った。
「武装金槌技<土竜叩き>!!」
高くまで飛び上がった青年は、金槌を空に上げーー、
他の二人は逃げられたものの、後の二人は逃げきれず。
二人目掛けて振り下ろされてしまう。
「こんなの食らったら一溜りも無いですの!」
「どうしよー。何回も打ち付けてこようとしてるよー。こんなんでやられたくないよー」
アーティナとアキラは、ヤバいと言う感じに焦っているのを。
「《エ・アノーク》。それを唱えるですの。成功しないと思いますが、試す価値はあると思うですの」
「《エ・アノーク》? 何か分からないけど出来るかどうか分からないよー」
エ・アノークとは、妖精を呼び出す古代言語の呪文。教科書や研究者達の集めた資料などにも載っている類の。
研究者たちがその生態を調べているが、数十年経っても未だに結果がでない。
―――まあ、上手くいく確率は低いのだが…
状況を少しでも良くならばと、アキラは試すことに。
「でもやって見るよー。《エ・アノーク》!!」
呪文を唱えると。
突然目の前に現れたそれは、白色のワンピースを纏う少女。
掌サイズで―――背中には小さな羽が生えている。そう妖精だ。
『貴方に力を貸します。屹度あの攻撃を何とか出来ます』
―――え!? もしかして本当に妖精?
『はい。間違いなく妖精です』
―――それなら力を借りるよー。
姿形が古の通りの妖精が、アキラの心に囁きかける。
それを聞いたアキラは、本物の妖精かどうかを確かめてみるとに。
―――すると、透き通る声で答え、力を借りることにして。
「成功した様ですの! 成功率が低いのに!! それよりもう落ちてきてるですの」
「任せてー」
そう言うと。
「守護魔甲術<妖精の守り>!!」
次の瞬間―――
自分より一回りも二回りも大きな守りを、彼女の手から全体に作り出す。
それにより、ルゼインが放った土竜叩きを見事防ぎきって見せると。
「何だ! 今の技は?」
「ヤバいだべえ」
「中々の技だったな」
「これでも食らうですの!
ルゼインの目前に瞬間移動し、光魔剣を構えてーー。
「武装魔術<雷光一剣>!!」
突如虚空に稲妻が発生。
―――その稲妻は、光魔剣に向って降り注いだ。
それを浴びた光魔剣でルゼインに斬りかかり―――。
「ビリビリ。ぐはああぁ~。まだまだだ。
これでも食らうださ! 」
ダメージを受けるも、もう一度攻撃を仕掛ける。
「武装金槌奥義<金槌落とし……ッ!?」
「そうはさせないですの」
攻撃を発動する最中、アーティナがルゼインの真上に瞬間移動してきた。
両手で光魔剣を構えるとーー
「武装魔術<流星斬り>!!」
ルセインの攻撃を妨げた。
突如上空に流星を出現。
流星は、凄まじい威力を持つようだ。
光魔剣が流星を帯びると、凄まじい威力でルゼインを斬り倒す。
「ぐはああぁ~。己が負けるとはださ・・・・」
斬擊を食らい、大量の血と共に落下して行く。
「やったですの!」
「そうだよー。後、五人」
アミリ達とケリアスの戦いはと言うと。
「お、起きなさいよ! ミューフィ」
「スぴ~スぴ~」
「はああぁ~。無駄だよ無駄無駄。ウチに勝たないと」
ミューフィに駆け寄るアミリに、ケリアスが起こそうとしても無駄だと言う。
「い、良いわよ! それなら仕様が無いから行くわよ」
スコープから蹌踉けるケリアスを覗き込んだ。
「武装魔銃術<氷炎の弾>!」
狙いを定め、引き金を引く。
ーー火薬の弾ける振動と共に、高速で回転する弾丸。
弾丸は次第に形を変え、氷と炎に。
氷と炎へ変化した弾丸は、発射口から発射された。
氷と炎の弾が一つとなった弾が、ケリアスの所へと飛んで行く。
「はああぁ~。眠い」
大きな欠伸をし、目を擦ると
「武装魔指揮棒奥義<指揮棒幻覚>」
飛んで来た氷炎の弾を、彼女は指揮棒を振ることで弾を別の何処かへと移動させた。
―――な、何よ! あれ!? 強すぎるわよ。私よりランク低いくせに‥‥
とアミリは、ケリアスを見て感じているのを余所に。
「もう駄目かも。お休み!」
「ど、どういうつもりよ!」
―――眠気に負けたケリアスは、お休みとだけ言い残し眠ってしまう。
それ光景を見たアミリは、怒りを隠し切れずにいるのをーー
「すう~ふう・・・・・すう~能力<夢遊攻撃>!!」
健やかな寝息を立てた彼女が、ごにゃごにゃと何かを呟く。
その時―――
寝息の聞こえる彼女が起き上がって来た。
―――ね、寝てるわよね! あ、こっちに来るわ!
と、アミリは内心で呟く。
思った通りケリアスは、アミリの方へと蹌踉けながやって来た。
―――スピードの方は、熟睡しているにしてはあまりにも速い。
「あ、危なかった。 何で正確なのよ」
「スぴ~スぴ~す~う~んん? んふ~っ・・・・・・!」
指揮棒をを振り下ろす僅かな時間を、アミリはギリギリで回避する。
いまだに気持ちよさそうに寝ている。
「は、早くケリを着けますね! 」
スコープから迫るケリアスを覗き込んだ。
「武装魔銃奥義<光華の魔石弾>!!」
狙いを定め、引き金を引く 。
ーー火薬の弾ける振動と共に、高速で回転する弾丸。
弾丸は次第に形を変え、美しい光に包み込まれた魔石に。
魔石に変化した弾丸は発射口から発射された。
光華の魔石の弾丸は、瞬く間にケリアスの心臓部分まで飛んでいく。
命中した。
「すう・・・・・すう・・・・・・す~・・・・・・ぐはああぁ~。魔石の弾・・・・・・。ウチの夢遊攻撃が聞かない」
「ま、まだやるつもりですか? 私は良いですよ」
撃ち抜かれたケリアスは、痛みと苦しみで目を覚ます。
アミリは、もう諦めろと言いたげだ。
噴き出した血の量がヤバく、意識が朦朧とし始めーー
その場に倒れ込んだ。
「はああぁ~。アミリ。勝ったんですね?」
「よ、良かった。目覚めたのね。 そうよ!」
ミューフィが起き上がると、アミリにそう聞く。
―――嬉しそうな顔をして、少女はそう答えた。




