106話 何気ない朝
海底に差し込む陽が、朝を知らせる。
その差し込んだ日差しに、重たい目蓋をアミリは強引に醒まさせた。
「ふわぁーぁ。え~と。も、もうこんな時間じゃない」
上体を起こし、伸びをして起き上がると、ホテル備え付けの壁掛け時計に目をやる。
時刻は八時を廻っていた。
「アミリちゃん、おはよう。ぐっすり眠れたみたいだね!」
「アミリ、おはようですの。朝ご飯もう済ませちゃったですの」
「アミリ、おはようございます」
「アミリ、おはよー」
ーーー私が目覚めたのに気付いて、挨拶してくれた。
ーーーだから。
「み、皆おはよう! ヒョウガ先輩も寝坊してるんじゃないでしょうね?」
「お寝坊さんはアミリだけですの」
「朝早くに出掛けたみたい。私も見てない」
「ですが、あのメイドさんがそう教えてくれたみたいです。どこ行ったかは知らないみたいですが…」
顔を未だに見せないヒョウガに、呆れた様子のアミリ。
それをアーティナが、アミリへしっぺ返しを喰らわす。
ーーーどうやらヒョウガは、何処かへ出掛けたらしい。
(こ、こんな朝っぱらからどこ行ってるのよ)
と、アミリが思っていると。
コンコンと、ドアをノックする音がし…
入ってきたのは小柄なメイドのロコだ。
「お目覚めになられた様ですね。お嬢様! 朝食をお持ちします」
と言い残し、一旦ロコは部屋を出て、少しして朝食を手にし戻ってきた。
気が付くと、アミリのお腹がリズミカルに鳴り出す。
なのでアミリは、テーブルの方へと移動する。席に着くや否や食べ始める。
ーーー朝食の内容は、デニッシュに、サラダと茹で卵だ。
「こ、このデニッシュ、卵とバターの量が私好みね。それに、しっとりふんわりしていて美味しいわね」
と絶賛らしく、あっという間に間食し、
「サラダと茹で卵も美味しいわね」
残すことなく食べ尽くすと、少し休む。
それから歯磨きと洗顔を済ます。
それから皆のところへ向かう。
「今日はヒョウガ居ないし、どうする?」
「ワタシは行きたいところがあります」
「ウチもあるからそこ行くよー」
「うん、分かった。アミリちゃんとアーティナさんはどうする?」
揃ったところでそう切り出すカナミに、ミューフィとサラは決まってるらしい。後の二人にも問うと。
「アタシはゆっくりしてるですの」
「べ、別に用事なんてないわよ」
二人とも無いらしい。
ミューフィとサラは親と会うようで…
既にカナミとアーティナは、試合後に其々近くまで来ていた両親と話していた。
コロシアムを先に出ていたアミリも、タイミング良く出てきた両親と言葉を交わしていて。
この場にいないヒョウガも、試合後直ぐに伝えに行ったのだが。
後の二人は、親の都合上出来ていない。
二人以外の家族は、前日に現地入り出来たが、二人の家族が着いたのは二日ほど遅かったから。
「では、ワタシは行ってきます」
「ウチも行ってくるねー」
ミューフィとサラは其々支度を済まし、ホテルを後にする。
残された三人は、部屋の中でゆっくりと過ごすことに。
それから少しの間を経て、
「そう言えばさ、アミリ。ヒョウガとは何の進展もしてないんですの?」
「わ、悪い? どうせ私の気持ちなんて伝わらないわよ」
「それは無いんじゃないかな? 想い続けてれば、きっと伝わるからね! それに…」
途中迄言い掛けたカナミだったがーーー
「ううん。何でもない。進展無いならさ、ほら! 今度遊園地にでも誘ったら」
と言って誤魔化す。
「良いアイディアですの。二人の仲が急接近すること間違い無しですの」
「ホ、ホント!? それなら誘って上げても良いわよ」
「ホントなのじゃ。妾もその時は行くのじゃ」
「うんうん、そうして···って、え!?」
加えてアーティナに、上手いこと言われ、デートの誘いをすることに。
然り気無くそこへ、リーフが混ざり混む。
違和感を覚えたカナミが、暫くしてリーフの存在を確認した。
「何時から其処に居たんですの?」
「アミリとヒョウガが進展してないって所からなのじゃ」
「ーーーそ、それって全部じゃない!? 悔しいわね…気付けなかったなんて」
思いがけぬ返答に、悔しい表情を滲ますアミリ。
「ほらほら、あの時じゃ。サラとミューフィが出掛けたのと擦れ違いなのじゃ」
「ああ、あの時ね」
「な、成る程ね」
リーフの説明により、謎が解けて。
「そんなことより、ヒョウガは未だ帰ってきてないのじゃ?」
「未だですの。何処迄行ったのやら」
と言う疑問だけを残して――。




