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4色の女神達~俺を壊した悪魔共と何故か始まるラブコメディ~  作者: かわいさん
第3章 無色の再会

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第15話 黒と白と紫の体育祭

「く、悔しい」

  

 猫田が玉子焼きを口に運びながらそう漏らした。


 午前の部が終わり、赤組は4位で折り返した。


 スタートダッシュを決めた赤組だったが、その後は振るわなかった。他の組に抜かされ、この順位まで下がってしまった。


 悔しがっている猫田は出場した種目で良い結果を残せなかった。気にする必要はないと慰めたのだが、自分の不甲斐なさが許せなかったようだ。


「まあまあ、順位は下がったけど得点はそこまで差があるわけじゃないし」

「申し訳ないよ……最高の出だしだったのに」

「これくらいなら全然巻き返せるよ。ねえ、翔太?」


 真広からの声に大きく頷いた。


「上位は僅差だからな。ここから逆転だ!」


 午後の部では高得点の種目が多い。


 特に最後のクラス対抗リレーは一発逆転が狙える。4位に転落したのは残念だけど勝負が終わったわけじゃない。


「安心しろ。リレーは絶対トップになるから」


 その励ましが効いたのか、猫田は元気を取り戻した。

 

「……ありがと。そうだよね、ここでクヨクヨしててもしょうがないもんね。よし、ここからは気合い入れて応援するよ。うちらの代表も頑張ってるし!」


 猫田はある場所に視線を向ける。


 そこには人の輪が出来上がっていた。輪の中央には赤澤がいて、仲間と楽しそうにコミュニケーションを取っている。

 

「相変わらず大人気だね」

「夕陽は学園のアイドルだからね」


 これは赤組にいる赤の派閥に向けたファンサービスみたいなものだ。


 様々な生徒に声を掛けられながら、中央で相手をするその姿は握手会を開いている本物のアイドルのように映った。


 ファンサービスではあるが、俺はあの行動を好意的に受け止めている。あれは間違いなくチームの士気をアップさせるはずだ。


「僕等の強みは走る系の競技だから、リレーまで点差を開けられずにいきたいね」

「綱引きとかすぐに負けちゃったもんね」

「あれはちょっと手も足も出なかったね」


 俺達より上にいるのは桃組、青組、黄組だ。


 優勝候補だった桃組は全体的にレベルが高い。青組もそれに匹敵するくらい粒ぞろいだ。


 意外だったのは黄組だ。午前中最後の種目である綱引きで逆転されてしまった。他の組よりも士気が高いというか、団結力があるように感じた。真広から聞いた話によれば黄組の女神候補はそういうのが得意なタイプらしい。


「よし」


 弁当を食い終わった俺は立ち上がった。


「翔太?」

「……気分転換にちょっとブラブラしてくる」

「午後の部までには戻ってきてよ」


 おう、と答えて歩き出す。


 ブラブラといったが、本当は他チームの偵察だ。ただし、桃組には行かない。もし桃楓に顔を見られたら面倒になりかねないから。


 青組は楽しそうな雰囲気だった。代表の青山は赤澤と同じように人の輪の中心でお喋りしている。関係は良好みたいだな。


 続いて黄組の偵察に向かう。女神候補の様子を見にいこう思ったが、生憎と不在の様子だ。しかし雰囲気は良く、優勝に向けて一致団結している感じが出ていた。


 その後、他のチームを軽く確認してから校舎のほうに向かった。人の少ないところで午後の部まで休みたかった。


 校舎裏に到着すると、ポツンと立っている黒峰の姿を見つけた。目が合うと、一瞬だけ迷った素振りをした後でこっちに近づいて来た。


 ここで逃げたら不自然だ。俺は笑顔を作った。


「お疲れ」

「……お疲れ」


 黒峰の声はかなり疲れているようだった。


「調子はどうだ?」

「……悪い」

「体調は?」

「別に悪くない」

 

 なるほど、体調ではなくただ今の調子が悪いだけのようだ。


 それもそのはずだろう。黒組は現在6位だ。


 最下位ではないが、成績は芳しくない。代表である黒峰のテンションが低くなるのも当然だろう。先ほど見てきたが、黒組の雰囲気はあまり良好とは言えなかった。男女の間に壁があるように感じた。


「元気出せよ。まだ午後の部があるだろ。全然取り返せるぞ!」


 そう励ますと、黒峰は小さく息を吐いた。

 

「……ねえ、最近テンション高くない?」

「まあな」


 学園だけでなくバイト先でも俺のテンションは高い。


 理由はもはや言うまでもないが、テンションが高くなってしまうのは仕方ないだろう。しばらくはこの調子が続くと断言できるね。


「そういう黒峰は最近テンション低いみたいだな」

「……体育祭は嫌い。こうなると思った」

「苦手って言ってたな」

「本当は休もうと思ったくらい。代表とかやりたくなかったし」


 俺の知っている頃の黒峰は地味な少女だ。図書室で俯き加減で読書していた暗い子だった。


 元々の運動能力は知らないが、それほど高くないと思っていた。それに、チームの士気を上げるような声掛けとか何となく苦手そうだしな。


「でも、頑張らないと」

「黒峰?」

「期待してくれてるのもいるし。簡単には諦めないよ」

「無理はするなよ」

「……ありがと」


 そんな話していると、遠くのほうから足音が近づいてきた。


「お姉様!」


 紫音だった。黒峰を追ってきたらしく、息を切らしていた。


「あれ、お兄ちゃん?」

「おう」

「え、えっと……お姉様と密会中だったり?」

「違う。ばったり会ったんだ」


 紫組は現在5位だ。


 下の順位だが、これがまた全然油断できなかったりする。1位から5位までが僅差で、簡単に順位が引っくり返る点差だ。


 ……そうだ、ちょうどいい機会だ。


 ここで紫音に女神になりたいか意思を確認しておくか。


「なあ――」


 口に出しかけて気付いた。ここだと黒峰が話を聞いている。慕っている黒峰に聞かれていては本心で答えてくれない可能性が高い。


 文化祭はまだ先だ。体育祭が終わってからでいい。


「どうしたの?」

「いや、あれだ……宣戦布告をしていなかったなと」

「宣戦布告?」

「そうだ。紫音よ、優勝するのは赤組だ!!」


 紫音は一瞬ポカンとした顔になった後で。


「突然の宣戦布告にビックリしたよ。でも、紫組は負けないから!」

「点差がほとんどない状況だ。どうだ、何か賭けないか?」

「いいね。燃えてきたよ!」

「後で吠え面をかくなよ」

「お兄ちゃんこそね」


 俺達の会話を見守っていた黒峰はくすりと笑って。

 

「……仲良さそう」


 微笑ましそうにそうつぶやいた。


 それからしばらく兄妹でくだらない争いをして盛り上がった。結局、負けたほうがジュースを奢るという内容で合意した。


「じゃあ、俺はそろそろ戻るよ」

「またね!」

「……また」


 ◇


 黒峰達から離れ、赤組の陣地に向かって歩いていると。

 

「先ほどは随分と楽しそうでしたわね」

「白瀬?」


 横から白瀬が現れた。


「見てたのかよ」

「ばっちりと。仲良し兄妹ですね。本物の兄妹のようでしたわ」

「……尾けてたのか?」

「いいえ、暇なので散歩していただけです。本当に偶然でした」

「そっか。てか、白組の代表なのに呑気に散歩してていいのか?」


 現在、白組は最下位だ。


 それも結構ぶっちぎりで最下位だったりする。黒峰の落ち込みっぷりからして、白組代表である白瀬は結構気にしていると思ったのだが――


 しかし、当の本人は特に気にした様子はなかった。黒峰と違って表情は明るい。


「ええ、大丈夫です」

「作戦会議とかしないのか?」

「したところで結果は変わりません」

「えっ――」

「ああ、勘違いしないでくださいね。別に適当にやっているとか、そういうわけではありませんよ。白組はやる気満々です」


 意味が分からない。


「得意不得意の話ですわ。白組の皆様は元より運動自慢が少ないみたいです。なので、最初からエンジョイ勢というわけです。これは最初からある程度わかっていたことなので仕方ありませんわ」


 なるほど、それは確かに仕方ないな。


 色分けだが、女神のいるクラスを中心に分けられている。赤澤がいる俺達は2年3組なわけだが、1年生と3年生の3組が同じ赤組となっている。


 こればかり運要素があるので運動が不得意な生徒ばかりいるチームもある。


「わたくしだって手は抜いていませんよ。心はずっと燃えています。ただ、まるで活躍できていないのが現実です。出場した障害物競走でも足を引っ張りましたもの」


 自信満々に言うことじゃないだろ。


 そもそも白瀬は待機場所に向かう途中で転んでいた。本番では転びこそしなかったが、結果は断トツで最下位だった。


 ただ、不真面目ではなかった。真剣に走って、真剣に頑張っての最下位だ。


「やるからには全力で頑張るだけです。そちらのほうが翔太さんに向けたアピールになると思いますので」

「……何とも答えにくいことを言ってくれるな」


 俺がどうにも言えない表情になると、白瀬は愉快そうに笑った。


「じゃあ、俺はそろそろ戻るよ」

「優勝目指して頑張ってくださいね」

「そっちもな。優勝は難しいかもだけど」

「白組は最下位から脱出できるように頑張りますわ!」

 

 志が低いのか、それとも現状から考えたら高いのか。


 考えながら陣地に戻ると、赤澤を囲む人の輪は消えていた。全員次の種目に向けて準備していた。


 間もなくして午後の部が開始された。

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