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第12話 青い接触後

 青山とGPEXをしてから数日。


 久しぶりにあの日の出来事を思い出した。事件直後はあいつに対して恨みとか怒りとか恐怖があった。


 しかし時間というのは万能薬らしい。


 この二年で恨みが消えたとは言わないが、接触しても怒りとか殺意は湧かなくなっていた。それに、あいつとはやっぱり波長が合う。一緒にゲームしていると楽しくて仕方なかった。

 

 ディスボに書かれたあの謝罪チャットだけは謎だ。転校後に謝罪をしてくる意味もわからない。


 ……まっ、考えても無駄か。


 あれから家でちょくちょくGEPXをしていた。基本的にはソロだが、たまに真広とデュオで戦う。久しぶりにプレイして情熱が戻ってきた。


「いやー、昨日は惜しかったね」

「もうちょいで優勝だったな。真広はかなり上手くなってるぞ」

「自分でも少しは成長してるかなって思うよ」


 真広の腕前は確実に上がっている。元々センスがいいらしく、このまま行けば間違いなく俺より上手くなるだろう。


 昨夜の激闘の話をしばらくした後で。


「……そういえば、好きな配信者がいるって言ったの覚えてる?」

「あれだけ力説されたらな」

「これは内緒だけど、その人って実は青山さんなんだ」


 知ってたけどな。

 

 ただ、この口ぶりだと。


「俺も途中で気付いたよ。あの【青海】が青山だってな。アカウント見て驚いたぞ。真広は最初から知ってたのか?」

「まあね。彼女が配信者なのは青の派閥だと有名だから」

「へえ……って、青の派閥?」

「あっ、派閥について説明してなかったね。女神にはそれぞれ派閥があるんだ。派閥はそれぞれの女神のファンが作ったものだね。情報交換とかしてるんだよ」


 要するファンクラブってわけだ。


「……翔太には感謝してるんだ」

「急にどうした」

「青山さんとGPEX出来たのは翔太のおかげなんだ」

「どういう意味だ?」


 特別何かした記憶はない。


 青山のほうが勝手に話しかけてきただけだ。俺としては絶対に近づきたくない相手だったが、あっちが勝手に接近してきた。


 にしても、今思い返しても強引だったな。


 教室で話しているだけの俺達に突然話しかけてきた。同じクラスならともかく他のクラスの俺達にだ。昔から強引だったが、これほどではなかった。


「去年の天華コンテストの話はしたよね」

「女神の同票優勝だろ?」

「女神達は次こそ単独での女神就任を狙ってるんだ」

「普通に考えりゃそうだろうな……って、そういうことか」


 ようやく理解した。


 赤澤や青山が俺に構ってくるはずだ。あいつ等からすると転校生である俺の票が欲しいわけだ。転校生に優しくする姿を見せてイメージアップを図る腹積もりかもしれない。


 今の二年生や三年生はある程度どこに投票するか決めているだろう。去年生活してきたわけだし、女神の性格みたいなものは理解しているはずだ。多少の推し変はあるかもしれないが、そこまで多くはないだろう。

 

 ここで注目されるのは一年生と転校生である俺ってわけだ。


「俺より一年生に声掛けたほうが早くないか?」

「とっくにしてるよ。そもそも、今年の一年生の大半が入学前から【4色の女神】を知ってるんだ。この辺だと天華院の制度は有名だからね」


 中学時代の俺は知らなかったぞ。


 いや、そういえば周りで女神について話していた奴等がいたかもしれない。二年の途中から誰とも話してなかったから知らなかっただけか。


 一年生はすでに投票先がある程度決まってるわけだ。


「実は秘密裏に一年生にアンケートしたみたいなんだ」

「初耳だな」

「行ったのは翔太が転校してくる前だからね。現段階で誰に投票するのか調べたところきれいに分散したみたい。まあ、そのアンケートはあくまでも今の女神達を対象にしたアンケートだから参考程度だけど」

「……つまり、一年や三年から新女神が誕生する可能性もあるわけか」

「可能性はあるね。特に一年には可愛くて優秀な人も多いみたいだし」


 悪魔共が貪欲に俺の票を欲しがるのも危機感からか。


 だとしたら青山の強引な誘いも理解できるな。こっちとしてはあいつと近づきたくないのでいい迷惑なわけだが。


「だから翔太を利用したみたいで申し訳ない気分になるよ」

「別に利用してないだろ。あいつが勝手に話に割り込んできただけだ」

「それはそうだけど」

「てか、真広は青の派閥なんだな」

「……推しなんだ。昔から」

「一応理由を聞いておこう。赤の女神がクラスにいるのに青を推す理由を」


 このクラスには赤の女神がいる。クラスメイトの多くは赤澤支持だと推測するが、そんな中で青山を推す理由は気になった。


 質問に真広は教室を見てから、顔を近づけてくる。


「青山さんって怪我する前は陸上部だったんだ」

「へえ、イメージ通りだな」

「走る姿がすごく魅力的だったんだよ。多分、その頃から何となく推してたいうのかな。上手く言えないけどさ、憧れみたいなものだったと思う。走ってる姿に見惚れたんだ」


 気持ちは理解する。あいつの走ってる姿は美しかった。思わず見惚れてしまうくらいに。特に俺が好きだったのは走り終えた後の充実感に包まれた笑顔だった。

 

 あいつの性格がクソじゃなければ真広の恋を応援してやりたいところではあるが、本性を知っている身からすると止めたほうがいいか迷うところだ。 


「告白しないのか?」

「へっ? いや、僕じゃ釣り合わないから」

「あいつが格下すぎるって意味か」

「違うよ。僕と青山さんなら確実に――っ」


 真広は教室の扉を見つめて言葉を止めた。


 青山だった。こっちに手を振りながら教室に入ってくると、グループで談笑している赤澤を一瞥した後で俺達の元に向かってきた。


「おはようっ。虹谷、名塚」

「おはよう、青山さん」

「……おっす」


 挨拶を返すと、青山がスマホの画面を見せてきた。

 

 画面にはGPEXに新しい武器が実装されるという情報が出ていた。どこぞのまとめサイトだか攻略サイトのようだ。


「新武器が登場するんだって。というわけで、アプデ後にまたトリオでやろ。今週の土日は空いてるから都合いいんだ」

「いや、俺は遠慮して――」

「虹谷はたまになら一緒にプレイしてくれるって言ったもんね?」


 忘れていた。


 あの時はついGPEXが楽しくて適当に約束しちまった。相変わらず後先をこれっぽっちも考えない場当たり的なアホ野郎だ。


「っ……バイトのシフト確認してみないと答えられない。もし無理だったら真広とデュオでもしてくれ」

「デュオはダメ。先約があるから」

 

 先約ね。

 

 誰と、とは聞かない。


「というかさ、今後はボク達でトリオのチーム組んで楽しもうよ。連携深めていけば結構やれると思うんだよね。大会とか出てみたいしさ。ねっ、どうかな?」


 ちらっと真広を見る。


 そわそわしていた。誘いに乗りたいが、俺の承認が得られないと頷くことはできないって感じだった。


 申し出を拒否したい。先日の浮かれてしてしまった約束とか破りたい。


 ただ、友人を推しに近づけさせてやりたい気持ちもあったりする。真広には世話になっている。最初こそ中学時代の情報を聞き出せればいいとか思っていたが、今では大切な友達だ。


 それにだ。青山の奴とプレイするGPEXは懐かしい感じがして……改めて思い返してみても悪くなかった。


「僕は賛成だけど、翔太はどう?」

「……」


 仕方なくだ。真広は友達だ。推しである青山と仲良くしたい友達の願望を叶えるために仕方なくだ。


 自分に言い訳をして。


「真広の返事次第って言ったからな。でも、毎日とかは無理だからな」

「やった、ありがとね!」

 

 弾けるような青山の笑顔は、かつて見惚れたものだ走り終えた後のような充実した笑顔で――


 本物の女神のように映ってしまった。

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