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完璧(なはずの)王子と勘違い令嬢の攻防戦  作者: 夕鈴


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22/22

おまけ

 フラン王国の公爵家は魔力を継承し属性を守る義務がある。

 パドマ公爵家は水属性を守る一族であり、ルーン公爵家の最大の政敵である。


 パドマ一族は歴代宰相位を独占し王国一の治癒魔導士を束ねるルーン一族に私怨を燃やす一族である。

 王家に王子が生まれてからは娘を王太子妃に、息子を側近に取り立てようと勢力的に動いていた。

 3歳のアナベラ・パドマが最初に覚えたのはパドマ一族とルーン一族の熾烈な戦いの歴史だった。

 ルーン一族はウンディーネへの信仰とルーン領の繁栄のためだけに尽力し、結果的にフラン王国一権力を持つ領地になり宰相に任命されているという事実は語られていない。

 ルーン一族が動くのは誇りを貶められた時や自領が脅かされる時のみ。完璧主義で報復すると決めれば徹底的な一族のため、パドマ一族は存続できているのは相手にされていないからである。


 次に教わったのは必ず王太子妃に選ばれること。

 パドマ公爵より3歳年下の王太子の婚約者になるように命じられたアナベラは努力を重ねた。

 王妃主催の王太子クロードの婚約者候補選びのお茶会は必ず参加した。


「どんな方のお嫁さんになりたいかしら?無礼講よ」

「クロード殿下です。初代国王陛下の化身のような殿下に選ばれれば世界一幸せなお嫁さんになりますわ」

「そう。お名前は?」

「アナベラ・パドマと申します。お美しい妃殿下にお目にかかれて光栄至極にございます」


 アナベラは3回目のお茶会でようやくアリアから名前を聞かれた。

 社交デビュー前の令嬢を集めているため無礼講を宣言し、不敬を咎められないお茶会でアリアに名前を聞かれるのは気に入られた令嬢だけである。

 名前を聞かれるとクロードが参加するお茶会に招待される。


「頭をあげて」

「ごきげんよう。クロード殿下。父より剣の才能が開花され――――」


 常にアリアに気に入られるように立ち回り、王宮に頻繁に足を運びクロードを探し見つければ必ず挨拶をした。

 3歳年下のクロードは体は小さいが常に笑顔の物腰が柔らかい王子だった。

 アナベラはライバル達と熾烈な争いを繰り広げながら頼りになる年上のお姉さんらしさをアピールしていた。

 パドマ公爵のアナベラへの教育が厳しくなるのは5歳の時、因縁のルーン公爵家に青い瞳を持つ令嬢が生まれた日からだった。


「ルーン公爵令嬢には負けないように。5歳も年下の令嬢に負けるなど」

「はい。必ず手に入れて見せます」



 生まれたばかりの令嬢は社交の場には出てこないためアナベラのほうが有利だと勝気な笑みを浮かべて頷いた。アナベラにとって生まれたばかりのルーン公爵令嬢よりも同じ年のカトリーヌ・レート公爵令嬢と年下のエイミー・リール公爵令嬢のほうが強敵だった。








 王宮では定期的に王族との交流会が開かれていた。

3歳~12歳までの貴族子女が集められ無礼講と宣言された庭園では各々が交流を深めている。

庭園に顔を出したクロードに視線が注がれ、婚約者に選ばれたい令嬢達が挨拶に殺到していた。

アナベラは出遅れたため、クロードへの挨拶は後に決めた。

周囲を見渡すと銀髪をゆるい三つ編みにしている幼い少女を目に止めた。一番小さい少女はクロードに視線を向けず、テーブルに並べられたお菓子に見向きもせずに一人で庭園を散策していた。


 一番小柄な少女、3歳になったばかりのレティシア・ルーン公爵令嬢は淑女の礼と挨拶の口上とウンディーネに捧げる祝詞を覚えたばかりである。

 野心のないルーン公爵家は淑女教育の終えていないレティシアを王宮に参内させる予定はなかったが王命により仕方なく参加させていた。


 教育熱心な母親と優しい伯母と幾つか約束をしている最年少のレティシアは大きな庭園を背筋を伸ばして一人で歩く。

 泉を見つけてニッコっと笑い腰を下ろして泉に手をポチャンと入れてパタパタと手を叩いた。ブクブクと泡が浮かび3匹の青い魚が近づいてきた。


「こんにちは。いいお天気だね。泳ぐのも足をつけるのもいけないの。でも手をいれるだけなら許されます。伯母様が教えてくれました。うん。約束を破るのは駄目だよ。見つかったら怒られますよ。だってリオ兄様のお説教は長いのよ。お母様は凄く怖いの。伯母様は優しいけど」


 泉から顔を出した魚と楽しそうに話すレティシアをアナベラは茫然と見ていた。

そしてリオ・マールの従妹である小柄な少女がルーン公爵令嬢だと気付いた。

 パドマ公爵家では魚は水の精霊の化身として祀られていた。魚が集まるのは水の精霊に好かれる存在だとも。

 レティシアに魚が流した涙が贈られるのを見て自分よりも魔法の才能に恵まれている予感に襲われた。アナベラは水の中で泳いでも魚が近づいてくることはなかった。透明な玉の粒を落とす魚の涙の宝玉は商人が売る物しか見たことがなく、アナベラのドレスに飾られている透明な宝玉は全て購入した物だった。


「いつも綺麗だね。でももらっていいのかな?いいの?お魚さんのものだから、そっか。ありがとう。カナ兄様のお祝いにしてもいいかな。うん。いいの?またくれるの?ありがとう!!これで箱がいっぱいになるの。カナ兄様はリオ兄様のお兄様だよ。婚約するんだって」


「ここにいたのか。シア、それは」


 クロードに挨拶をおえて目立たないように過ごしているだろう従妹を探しに来たリオはレティシアの手に大量にある透明な玉を見て笑う。


「お魚さんがくれたの。お魚さんのものだから陛下のものじゃないって。リオ兄様、これで箱一杯になるからカナ兄様達のために作ってくれる?」

「義姉上のドレスの装飾に使うよ。貴重なものをよく集めたな」

「お魚さんが良い事があったんだって。いつか一緒に泳げればいいな。でもルーンが一番」

「帰ってから泳げばいいよ。帰るよ。その玉は人には見せるなよ。シアが持つと落とすから預かるよ」

「ありがとうございます」


 玉を渡しリオに手を繋がれて立ち去っていくレティシアをアナベラは呆然と見ていた。

「ルーン一族はパドマ一族の欲しい物を全て奪う」と言う父の口癖が頭をよぎり、クロードに挨拶することも忘れて泉を眺めていた。










 3歳のレティシアが王宮に顔を出すことはほとんどなく5歳になりお茶会に参加してもアリアの特別にはなっていなかった。魔法の才能についての不安を覚えても、アナベラのほうが有利とクロードと話しながら優越感に浸っていた。


 時が経ち8歳のクロードのお祝いのパーティーの日に内密に発表された婚約者候補の名前にアナベラは言葉を失った。社交デビューを迎えていないレティシア・ルーンの名前があった。


「あら?これは決まりですね。私はお付き合いで座っているだけですから」

「お可愛らしいから殿下が気に入るのも仕方ありません。どこで出会いがあったのでしょうか。ロマンスの匂いがしますわ」


 パドマ公爵家が率いる派閥に敵対するルーン公爵家が率いる派閥に所属するレート公爵令嬢やリール公爵令嬢達は微笑みながら受け入れた。


「ルーン公爵家なら申し分ないでしょう。お父様も祝福されます。お兄様が妖精のように可愛らしいと褒めてらしたわ。マール公爵邸でレイヤ様に抱かれているのを見たそうよ」


 アナベラは祝福するわけにはいかず、父に命じられるままクロードやアリアに近づく。

 そして婚約者候補が集まる妃教育が始まってからは優秀な成績を残し続けた。年下のレティシアに嫌みを言いながら。


「繊細さのない王族のお耳に入れるなどおそれ多い演奏ですこと。もう少しお勉強なさっては?」


婚約者候補達によるクロードとアリアの前での突然の楽器を披露する演奏会。社交デビューをしてない最年少のレティシアは一番酷い演奏をした。演奏会が終わって、自由時間になるとレティシアはアナベラの声には反応せずにピアノの練習をしていた。クロードやアリアの側で談笑することもない。

 令嬢の中で一番家格の高いレティシアはアナベラを無視しても許される立場なので咎められることはない。アナベラはレティシアへの憎しみを会うたびに募らせていた。


「私は殿下と踊りましたのよ。殿下とのダンスは、」


 課題をしているレティシアはアナベラの声に顔を上げない。集中して本を読んでいるレティシアには聞こえていなかった。

  授業についていけない出来の悪いレティシアだけが頻繁に王宮に通い特別授業を受けているのを嘲笑ったアナベラは気づいていなかった。



 クロードのファーストダンスのパートナーはアリアが決めていた。令嬢達の熾烈な戦いが繰り広げられても、贔屓される令嬢はいないためアリアに指名された婚約者候補が順番に務めていた。社交デビューをしていないレティシア以外の令嬢が。

 クロードが10歳になってからは誰にも通達が来なくなった。


「おめでとう。ダンスを申し込んでもいいかな?」

「ありがとうございます。光栄です」


 レティシアが社交デビューしたパーティーで頬をほのかに染めたクロードがダンスを申し込み、初めて二曲連続でダンスを踊った。

 連続でダンスを踊るのは親密、特別な相手にのみ許されることで会場中の視線を集めていた。


「花が見頃なんだ。案内させてくれないかな」

「ありがとうございます」


 ダンスを終えると、クロードはレティシアをエスコートして会場から消えた。

 アナベラは衝撃を受けながらも息を潜めて後をつけた。


「これから正式に発表されるんだけど、伝えたくて。私と、と、ともに、歩んでくれないか」


 正式な婚約の儀は王子が12歳になった年。

 レティシアに一目惚れしたクロードは両親を説得して婚約者にするために動いていた。

 初めてダンスを踊り、エスコートした日に伝えたいことがあった。

 婚約者筆頭候補として発表される前に、自分の口から。

 ほのかに頬を染めているクロードが右手をレティシアの前におそるおそる差し出した。レティシアは婚約者候補の一人として妃教育を受けていた。それでも婚約が内定するまでは仮であり、自身に決める権利がないことはわかっていた。レティシアはクロードの手を見つめて上品に微笑んだ。


「申し訳ありません。お父様に」

「ルーン公爵からは了承をもらってあるよ。もちろん父上にも」

「失礼しました。謹んで拝命致します。誠心誠意お仕え致します」


 社交デビューに伴う父からの命令はダンスを断らないことだけ。

 父の意向ならとレティシアはクロードの手にそっと重ねて礼をした。クロードは常に纏っている穏やかな笑みではなく満面の笑みをこぼし、かねてからの憧れを口にする。


「名前を、私もレティとよ、呼んでもいいかな」

「はい。殿下のお心のままに」

「ありがとう。私のことも」

「シア?ここにいたのか。すみません。社交デビューは」


 咎める声にレティシアの肩がビクっと動いた。

 クロードは穏やかな顔を作り近づいてきた友人に首を横に振って言葉を止めた。


「大丈夫だよ。怒られないから。私が誘った。レ、レティは一人で散歩に出ていない。そろそろ戻ろうか。リオとも踊るんだろう?」

「はい。リオ兄様、」

「俺はどちらでも、殿下がレティと踊りたいなら譲りますよ。レティと」


 会場に姿がない従妹を探しにきたリオがクロードを見てからかうように笑って小声で呟いた。

 和気あいあいとしている三人とは正反対にアナベラはショックで固まっていた。

 アナベラが目指した婚約者の座をレティシアに奪われたことに。ずっとレティシアと過ごしているクロードを見て、アナベラは会場を後にした。



 二年後、レティシアがクロードの婚約者に内定してもパドマ公爵家は諦めなかった。

 アナベラの兄はクロードの側近候補に選ばれなかったためさらにアナベラへの期待が大きくなっていた。


「まだ婚約者だ。殿下も幼い。諦めるな。ルーンだけには、側近候補も全てルーンの派閥か」


 アナベラがどんなに嫌がらせをしてもレティシアを婚約者の座から降ろすことはできなかった。

 時々報復され、いくつかの家が消えた。


「ルーンの花を踏みつけるとは宣戦布告ですわね。ウンディーネ様への冒涜ですわ。命を慈しまない者は治癒魔法は使えませんわ。私達はウンディーネ様を冒涜する者を受け入れることはありません」

「誰がルーンの世話になんか」

「王国屈指の治癒魔法の使い手達が教師を務めてます。王国一のお父様と次点の叔父様が指導をされることもありますのよ。叔父様が中心ですが、叔父様は遅咲きの花を咲かせるのも得意ですわ。独占するつもりはありませんわ。同じ心を持つなら、ええ、同じ心を持つなら」


 アナベラはレティシアの言葉を鼻で笑った。

 魔法の成績も良く、来年からは治癒魔法を選考するつもりだった。

 ただアナベラは治癒魔法を使えなかった。


 水魔法の中で繊細なコントロールが必要な治癒魔法を使えるものは少ない。

 治癒魔道士の育成に力を入れるのはルーン一族だけだった。

 学園卒業後、ルーンの養成機関に通えば一流の治癒魔法の使い手として認められる。ルーン領は治癒魔法を使える者の憧れの場所でもあった。

 養成所を卒業しルーン公爵家直属の治癒士になれば王宮魔導士並みの高級取りで輝かしい未来が約束され、王国でもルーンの治癒士は家柄に関係なく羨望を受ける存在だった。




 クロードにエスコートされステイ学園に入学した日からレティシアは生徒の注目の的だった。


「殿下が自ら学園を案内されていたわ。入学試験は次席。いつ見ても美しい」

「ルーン様は治癒魔法をすでに使えるそうよ」

「公爵閣下がご指導されてるのでしょう?」

「すでに教師の腕より上。殿下に何かあればルーン様が対応されるそうよ」

「俺、腕を治してもらった。怪我に気付いてなかったのに。しかも詠唱しないんだよ。そっと手に触れて目を閉じて祈るだけ。祈る姿はお綺麗でまさしく女神。さすがルーン一族。殿下に回復薬も渡されていたから調合の腕も一流だろうな。お美しいルーン嬢に世話されるなんて」

「しばらく公務で欠席か。殿下と共に外交に出かけるらしい。美しいお姿が…」


 アナベラはレティシアの評判に崩れ落ちそうだった。

 アナベラの手に入れなければいけないものは全てレティシアのもの。

 アナベラがクロードやアリアとのお付き合いや嫌がらせの用意をしている間にレティシアが学生よりも厳しく騎士の訓練のような過酷な教育を受けていたことを知らない。

 遊びもせずに、淑女教育、王妃教育、公務の手伝いは5年の差を埋めるには十分な物だった。

 私怨に振り回され、無駄な時間を費やすパドマ一族が完璧主義のルーン一族に敵わない理由である。



「殿下の婚約者でありながら、他の殿方と親しくされるなど」


 仲の良いリオ・マールとの醜聞はレティシアが態度を改めた所為で作れなくなった。

 エイベル・ビアードとは二人で過ごさないので醜聞にならない。


「殿下の瞳はお空のお星さまと同じ色ですね。さすが王国一美しい瞳。ルーンの瞳と同率一位です。殿下に内緒ですよ」

「不敬だろうが」

「バカですね。殿下は優しいのでそれくらいでは不敬罪にしませんよ。あげますよ。1日1本までです。体に合うと思いますが無理は厳禁です。失礼します」


 エイベルに回復薬を渡してレティシアは去っていく。

 レティシアとレオの醜聞が持ち上がった時はパドマ公爵家は盛り上がった。

 レオとレティシアの噂をどんどん大きくしてルーン公爵家を糾弾した。

 王家による婚約破棄が発表され、さらに攻め立てた。

 王太子の婚約者でありながら第二王子と関係を持った公爵令嬢を正当な罰をと。

 王家への不敬で斬首を求めた。


「未成年の公爵令嬢に?」

「婚約破棄だけでは甘すぎます。優しさだけでは国は統治できません。私達はいつでも殿下をお支えできる準備は整えています」

「公爵の言葉は重い。感謝するよ。おかげで決断できたよ。席を外すよ」


 意気揚々と語るパドマ公爵は気付かなかった。穏やかな顔のクロードの眼差しが冷たくなっていたことを。

 パドマ公爵家は過去のルーン公爵家への不敬が糾弾され、パドマ公爵邸は止まない雨、時々竜巻に襲わてていた。


「精霊の怒りだ。領主一族の邸宅は全て止まない雨や嵐に」

「雨を止める魔法は存在しない」


 雨乞いには大量の魔力を使い、局所的に雨を降らすには繊細なコントロールが必要だった。

 それを継続的にできるのは王国一水魔導士を抱えているルーン公爵領だった。

 パドマ公爵はルーン公爵家に抗議するもさらに不敬を問われ、気付くと魔法が使えなくなっていた。公爵の条件は精霊魔法を使えること。

 パドマ公爵家が取りつぶしになり、王侯領になった日に局所的に襲う雨は止まった。

 パドマ一族は精霊の怒りを買った一族とされ、パドマ公爵家を襲った悲劇にルーン公爵家が関わっているのは明らかでも証拠がなかった。そしてレティシア・ルーンの断罪を求める家は口を閉じた。


「恩情を、どうか」

「公爵の献身に報いて資産の押収は控えるよ。精霊の怒りを買った公爵家を王家は必要としていない。初代国王陛下は火、水、地、風の精霊達を信仰するにふさわしい当主を選んだ。精霊への信仰心を持たない公爵家に存在意義はない。私財で領民を保護して亡命しても止めない。反旗を翻すなら相応の覚悟を。優しさだけだと駄目だろう?公爵の言葉で私も大人になったよ。話は終わり。席を外すよ。御苦労だった」


 クロードは縋りつくパドマ公爵に穏やかな笑みを浮かべた。クロードに触れるのを近衛騎士が取り押さえる。


「殿下、どうかお考え直しを」

「わきまえないなら次はないと警告したのを覚えてないかな?」

「え?」

「レティシアを何度も転ばせようとしたね。靴を血まみれにしたものにすり替え、切り裂いた布を机に仕込んだのも君の取り巻きだろう?制御できない取り巻きの責任は誰がとるか覚えてないかな。君がレティシアに言ったことだ。淑女として相応しくないレティの取り巻きを使ってレティを糾弾したよね?おかげでレティはずっと淑女の仮面を被るようになったよ。全部知っているよ。レティには常に王家の監視がついているから」


 アナベラはクロードの穏やかな笑みにゾクリと肩を震わせた。そしてクロードに願っても無駄だと気付いて足を止め、去って行く姿を見送った。

 パドマ公爵家はクロードの逆鱗に触れたことに気付くのが遅すぎた。

 国王と王太子だけが使える無効化魔法。

 パドマ公爵から魔法を取り上げたのはクロードだった。



 爵位のなくなったアナベラはステイ学園で助手をして生計を立てていた。

 白衣を着て自慢の長い髪を切り、眼鏡をかけるとアナベラとは気づかれなかった。

 平等精神の学園では教師は敬われるので想像よりも悪い生活ではなかった。

 そしてかつてのアナベラのようにクロードの婚約者の椅子を争う令嬢達を静かに眺めていた。


「バカらしいですよね。決まってますもの。殿下はルーン様がいなくなり様子が変わられました。ルーン様以外選ばれません」

「どうでしょうか」

「お茶をいたしませんか?美味しいお菓子がありますよ」


 アナベラは課題を提出に来たリール公爵令嬢の窓の外で争う令嬢達に向ける声に曖昧に頷く。

 アナベラの正体に気付いても何も言わないリール公爵令嬢の誘いを受けた。元取り巻き達は助手の正体に気付いていない。


「ルメラ様は変わりませんね」


 レティシアが療養中になりリアナ・ルメラ男爵令嬢に意地悪されていると騒いでいるのは愛らしい外見で学園で一番男子生徒に人気のエイミー・リール公爵令嬢。

 王家主催のクロードの婚約者探しの夜会に頻繁に招待されている令嬢の一人。


「ビアード様をはじめ、上位貴族の子息も親しくされてますもの。彼らが動くなら裁ける生徒は限られています。ビアードに対抗できるマールとルーンは動きますかね。多くの殿方の心を掴む彼女が殿下の心を掴めるかはわかりませんが、蝶は花には敵わないのが私の持論ですのよ。貴族令嬢として殿方の花になれれば幸せでしょう。無邪気に飛び回る蝶も可愛らしいですが、栄養を与え、丁寧にお世話をすればするほど花は美しく咲きます。殿下は育てるのがご趣味ですから」

「ルーン様はいつも殿下の色を纏っていました。殿下の色を贈られるのはルーン様だけ」

「ルーン様はルメラ様を側妃として相応しく教育されるおつもりでしたが。殿下の片恋を見るのも有意義ですがいささか心配ですわ。マール様がお世話されていますが…」


 アナベラは愛らしく笑うリール公爵令嬢の話に耳を傾ける。

 アナベラがレティシアを追い落とそうと必死な時に観察を楽しんでいた愛らしく笑っている元後輩は性格は全く愛らしくないと思いながらお茶に手をつける。

 元ライバルのリール公爵令嬢相手でも生徒と教師の立ち位置は楽だった。

 そして全てがレティシアに劣ってもアナベラは学園では優秀な生徒だった。

 自身を慕う生徒達を教育しながら、人の成長を見守るのも悪くないとお茶の時間を楽しんだ。



 エイベルが一心不乱に剣を振っていた。

 クロードの側近から外され、生徒会役員から除籍されていた。

 リオがエイベルを怒鳴りつけて殴る光景は噂になり、クロードにも側近のリオにも疎まれるエイベルは遠巻きにされていた。



 明らかに無茶な訓練をしているエイベルをアナベラは見つけた。

 貴族は目的のためなら手段を選ばない。

 家格の高い者は孤独である。

 他者を追い落とすことに夢中で親切に忠告してくれる存在はいない。

 リオとレティシアに劣等感を抱えるエイベルの噂を生徒から聞いたアナベラはかつての自分と重なった。

 アナベラは幼いレティシアに数々の嫌がらせをした。

 それは平民の生徒達が顔を真っ青にするほど酷い事だとは気づいていなかった。瞳を潤ませたレティシアを嘲笑い、心を折った。青い瞳を悲しみに染めるため常に策を巡らせていた。



「ビアード様、お話を聞きましょうか?」

「俺は」

「他言は致しません」

「殿下に必要なのはレティシアだった。リアナじゃない。もっと強くなって、二人の進む道を」


 アナベラの声に剣を止めたエイベル。

 王家の事情は安易に口に出してはいけないと教わっているエイベルの相談相手のレティシアも説教が趣味のリオもいなくなり弱い自分を鍛えることしか思いつかなかった。

 いつも指針を示してくれるクロードもいない。

 騎士見習いの友人達にも話せなかった。


 アナベラはエイベルの勘違いに驚く。

 クロードがレティシアを望んでも王家が許さないことを。そして療養から社交界に復帰しても醜聞を持ったレティシアの立ち位置は変わらない。


「殿下達の道は別れました。レティシア・ルーンは王太子妃に選ばれることはありませんよ」

「は?」

「レオ殿下と不貞の噂を持つレティシア・ルーンをアリア様は許しません。そして王家は醜聞を持ち婚約破棄した令嬢を迎えることはありません」

「復帰すれば」

「復学しても事態は変わりませんよ。王家は殿下の婚約者を新たに選んでます。婚約解消ではなく二度と縁を結ばないという破棄ですから」


 エイベルはアナベラの言葉に剣を落とした。

 真っ青な顔で無言のエイベルをアナベラは静かに眺めていた。


「どうにかならないのか」

「レティシア・ルーンの醜聞がないと証明するしかありません。ルーン公爵家やご両親にお話すれば新たな道もあるかもしれませんわね」

「感謝する」


 エイベルが剣を拾って駆け出していく背中をアナベラは見送った。

 そして前代未聞の公開記憶晒しに驚くも、エイベルの決意に笑う。

 王家のために全てを捧げる忠臣ビアード公爵家嫡男の決意に。




「私は王妃になって手に入れる。王妃になれば全てが思い通り。ハクも私のものになるわ。レティシアなんかに惚れるなんて……。私の方が可愛いのに。レティシアがいなくなったのにハクはレティシアのことばかり。せっかくエイベルと仲良くなったのに、無駄だったわ。家の名前を捨てる?バカみたい」

「リアナ?ここにいたのか」

「うん。綺麗な花が咲いていたから。こんなに綺麗な花は初めて」

「本当?今度はもっと綺麗な花を贈るよ」


 愛らしく笑うリアナ・ルメラ男爵令嬢が伯爵子息の腕を抱く姿をアナベラは偶然見かけた。

 好きな男を手に入れるために王妃になろうと夢を見ている様子にアナベラは絶句する。

 無知な少女に騙されるバカな男に呆れながら、求めていた薬草を収穫してその場を後にする。



 エイベルとレオとリアナが退学してしばらくするとレティシアが復学した。


「先生、卒業試験の資料をください」

「卒業?」

「はい。卒業試験の申込書をお願いします」


 復学した翌日の早朝にレティシアが職員室に顔を見せた。

 アナベラはクロードとレティシアの追いかけっこを眺め、元取り巻きのアリッサ・マートン侯爵令嬢との会話に目を見開いた。


「失敗しましたわ。リオのファンの真似をしましたのに。私の求婚方法が悪いと物凄く怒られました」

「求婚相手の家をバカにしたじゃない」

「バカに?」

「弱小とかしがないとか言われれば、私なら怒るわよ。ルーンと比べればどの家も弱小でしょう」

「湾曲した物言いは伝わりませんから、大きくしてあげますってわかりやすくアピールしましたのに。小説にも素直にってありましたのに。ウンディーネ様は偉大ですから当然の結果ですわ。新しい候補者リストは作りましたのよ」

「三人目の伯爵次男は女癖が悪いわよ。絶対にルーンに縁談を申し込めない家ばかりじゃない。この侯爵家も上位貴族落ちした家、この家は、本気で選んでるの?この子息は男色よ」

「子供さえ作らないなら構いませんよ。彼らは魔力は少ないですが地属性の魔導士として優秀です。ブラコンでも変態でもありません。大きいお胸さえあればイチコロですのに。ルメラ様が転校した所為ですわね。失恋は人を変えるなんて。恋なんてくだらないものに振り回されるなんてごめんですわ。そこ違ってますよ」

「え?」

「水属性でなくても治癒魔法は使えます。適正がないので体の構造をきちんと理解できないと使えませんよ。貸してあげますよ。学園ではほとんど教育してくれないので、まずいですわ。シエル、片付けをお願いします。嫌な予感がしますわ」


 レティシアが飛び出していくとクロードに会い固まっていた。

 レティシアをクロードが妃にすると公言し、本人は否定をしている。


「変態も腹黒も嫌。なんで、新たな候補者探しが面倒なんて、私はルーン公爵令嬢。ルーンのために生きたいのに」


  レティシアの悲痛な呟きが響いていた。




「ルーン様、お時間を」

「レティシアに交際や婚約の申し込みは俺を通して。任されてるんだよ。シア、探したよ。父上から土産が」

「え?呼ばれたような気がしますわ」

「気のせいだろう。行こうか」


  伯爵子息にレティシアが返事をする前にリオが腕を掴んで爽やかな笑顔で華麗に回収した。レティシアが恋人を探していると知り声を掛けようとする生徒も多かった。リオは邪な男が従妹に近づくのは許さなかった。




 アナベラはかつてはパドマ公爵令嬢として生まれ、父に望まれるままに歩んでいた。

 家が取り潰され、贅沢はできないが自由な生活を手に入れた。

 そしてクロードに振り回されるレティシアを見て王太子妃に選ばれなかったことに感謝した。アナベラはレティシアのようにどんなクロードも受け入れ、常に側に控えることはできなかった。


 アナベラはレティシアと縁があるのかよく見かけた。

 夫と共にフラン王族の眠る土地を訪問していると見覚えのある髪色が見えた。

 背の高い蜂蜜色の髪と小柄な銀髪を見つけた。

 小柄な銀髪は歩いている青年の腕を掴み胸倉を掴んで目を吊り上げて睨んでいる。

 青年は小柄な銀髪を睨み返した。


「何するんだよ!!」

「貴方のバカのせいで恐ろしいことがおきましたのよ!!」

「は?」

「どうして加害者が幸せで被害者が苦労するんですのよ!!きちんとお役に立ちなさいよ!!どうして一番の幸せを甘受してるんですか!?貴族も自己責任ですわ。きちんと責任取ってくださいませ。避けないでください!!」


 レティシアは水魔法で拘束して眉間に皺のあるエイベルの頬をパチンと打った。


「よくもシエルを傷つけましたわね!!き、気持ち悪い」


 頬を打つとレティシアの体が傾き、顔色が真っ青になる。

 レオは嫌そうな顔をして崩れる体に手を伸ばすも間に合わない。


「レティシア!?帰るぞ。兄上に見つかれば」

「うるさいですよ。私は私は」


 ふらつきぺたんと尻餅をつき座ったレティシアの瞳からポロポロと涙が流れた。


「あの時、捕まらなければおかしくならなかったのに。私のクロード様が、悪い魔法が解けません。一番はレオ殿下ですがエイベルも悪いんですよ。きっとお話されませんがルメラ様にフラれて、エイベルに裏切られてクロード様の心が壊れましたのよ」


 魔法で拘束され動けないエイベルは泣き出したレティシアを呆然と見た。レオは真っ青な顔で。


「転移しないと泣くって言ったのに、連れてきても泣くのかよ。それなら放っておけばよかった」


 馴染みの魔力の気配にレオの顔がさらに青くなる。

 転移魔法で現れたのはクロードとリオ。

 クロードはレオを冷たい顔で見つめ、リオは呆れた顔で泣いているレティシアの前に腰を下ろし頭を撫でた。


「レオはまだわからないか」

「護衛を外して抜け出すなよ。シア、そいつは平民だよ」

「で、でしたら我慢します。ずるいですが、平民なら庇護しなければなりません。でもシエルを傷つけたら、ゆるしうっ、気持ち悪い」

「具合が悪いのに転移するなよ。殿下、帰りましょう」


 女性が駆け寄り、動けないエイベルを背に庇って立つ。


「なにするんですか!?」

「失礼しました。お気になさらず。リオ、送って下さい。二人は放置しますわ。兄弟の時間は大事ですわ。私はブラコンに、気持ち悪い、治癒魔法さえ使えれば」


 クロードは座りこみ下を向いているレティシアを抱き上げて、優しく顔を覗く。


「大丈夫?言ってくれれば良かったのに。レティが望むなら」

「胎教に悪いことはやめ、気持ち悪い」

「レティの目には入れないよ」


 レティシアは涙を拭いて、背中を撫でるクロードの胸を掴んで頬に唇を押し当てた。クロードの目元が赤くなり、金の瞳を潤んだ青い瞳が見上げた。


「一緒にお昼寝してください」

「レティの願いは叶えるよ。帰ろうか。転移は平気?近くに宿をとろうか?リオ、任せるよ。レオはあとでゆっくり時間を取るよ」


 真っ青な顔のレオと笑っているリオに見送られクロードはレティシアを抱いて姿を消した。


「ルーンに行きますね。代わりに執務をお願いします。頬への口づけで真っ赤になるから心配してましたが……」

「レティシアが悪い魔法を解くために子供を生ませる姫を迎えいれようとしたのが悪い。マール公爵やアリッサが変な本を渡すたびに……。手綱をあえて兄上は握らない。俺を巻き込むな」

「すみません。昔、そいつと喧嘩したんですよ。一発殴れば満足するので、次はないでしょう」


 リオはレオの苦言を流して、睨む女性に爽やかに笑いかけた。


「この人を知っているの?」

「知りませんよ。よく似た人物を知っているだけです。それでは」

「リオ、転移する。風で逃げるな。兄上を」

「エドワードも待ってますよ。身重の情緒不安定な王妃と王弟が消えるなんて………ある意味感心します。逃げれば叔母上が動きますので大人しく帰るのが賢明かと」

「ルーンが……。エイベルが羨ましい」


 真っ青な顔のレオはリオの腕をがっしり掴んで転移で消えた。




「記憶晒しの副作用で記憶喪失。王家が用意した女性との間に五人の子が生まれ、ビアードで育ってます。魔法を失い、今後は子供を作ることはできません。それでも学園にいた頃よりも幸せそうに見えますよ」


 わけのわからない顔をしているエイベルを拘束している魔法をアナベラが解いた。エイベルは女性に腕を抱かれて、立ち去っていく。

 アナベラは見覚えのある二人に礼をした。


「頭を上げて。喜劇は気に入りました?」


 美しく笑うサラと幸せそうに一歩後に控える元薬学教授を見て呟く。


「記憶を失ったのは副作用ですか……」

「さぁね。でも私は先代とは違うから陛下にも渡してあるのよ」

「しがない平民が知ってもどうにもならないことですわ」


 アナベラは真実を聞くのはやめた。

 平凡な夫の手を繋いでお参りをして歩んでいく。

 誰かと比べて生きるよりも、大事な人との幸せを探して生きる方が楽しい。

 亡命して爵位を得たと手紙が来ても返事は出さない。

 アナベラは新たな家族と歩んでいく。

 


 ****


  クロードはルーン領に転移し、レティシアの好きな泉に降ろした。

 レティシアは靴を脱ぎ泉に足をつける。

 クロードに背中を撫でられながら、馴染んだ空気のおかげで体が楽になり、しばらくしてふぅっと息を吐いた。

 クロードは顔色の良くなったレティシアを優しく見つめていた。


「エイベルが羨ましい?」

「いえ、私は満足しています」


 レティシアはクロードの物騒な問に首を横に振った。


「記憶を失う薬を手に入れたんだ。飲みたい?」

「全て失うと困ります。クロード様が悪い魔法にかかる前に、戻れるなら」

「君の怖い記憶を消したいか聞いているんだよ」


 優しく頬を撫でるクロードの金の瞳に不安の色を見つけてレティシアは優しく微笑む。レティシアの中ではすでに終わったことを周囲はいまだに引きずっていた。


「昔の私に会いたいですか?クロード様だけのために生きていた頃に」

「私はどんなレティも愛しているよ。怖い夢を」


 民の前では穏やかな笑みを絶やさない国王はレティシアと二人だと弱気で不安そうで頼りなくなる。

 クロードから贈られたお忍びようの青いローブはレティシアへの嫌がらせのために破かれた布を丁寧に縫い合わせて作られたもの。

 クロードが恋に夢中になるまでならレティシアを大事にしてくれると信じていた。たとえ時々物騒な思いつきでおかしなことを始めても、声かければとどまってくれるようになった。

 平穏を手に入れたエイベルが羨ましい。それでもレティシアは幸せだと思っていた。恋が嫌いなレティシアはクロードにだけ抱える想いの正体には気づかない。


「クロード様が求められないなら必要ありません。怖い夢、クロード様が助けてくださいました。怖い夢を見ても、温もりをくださいます。それだけで十分です。新しく迎え入れたい方がいるなら遠慮なく教えてくださいませ」

「小さな命が無事に育って元気に生まれてくれればいい。でも次の子はレティの瞳を持つ子がいい」

「王家の伝統が」

「時代は変わるものだよ」

「まだ先のことでしょう。子供が生まれたらクロード様はきちんとお食事と睡眠を」

「誰にでも不得手があるんだよ」

「かしこまりました。ルーンの治癒士としてお世話致しますわ」

「ありがとう。幸せだよ」


 クロードはレオ達に抱える憎しみは決して表には出さない。

 サラと薬学教授は王家に逆らわず、危害を加えないという精霊の誓約を結び監視をつけて研究所に送った。

 エイベルを裁けばレティシアが悲しむので記憶を失ったエイベルは王家の墓守にした。

 廃嫡されたかつての幼馴染。

 レティシアを貶めたリアナ・ルメラは隣国に妾に差し出し国外追放に。

 父親を見習い国益になるように駒としてうまく使うだけである。

 レティシアさえ傍にいれば憎しみはうまく飲み込めた。

 ルーン領の泉に足をつけて泳ぎたそうに水面を見つめるレティシアを抱きしめると微笑む顔に優しく笑い返す。

 レオが王宮でエドワードとルーン公爵夫人に調教されているのは忘れて妻との時間を堪能することにした。

 二度と宝物が傷つかないように。

 宝物が腕の中で眩しく輝き続けるように。






「変態にも腹黒にも育ってはいけませんわ。お父様のようにはならないでください」

「はい。頑張ります」

「婚約者を迎える時は相談してください。勝手に動いてはいけませんよ。お父様は失恋でおかしくなりましたのよ。兄弟は仲良くしてくださいませ。ですがブラコンはいけません」


 妃は夫によく似た息子達に教える。

 レティシアの誤解は解けていない。

 レティシアは思考がおかしくなる恋が嫌いである。

 高鳴る胸も思考を放棄する頭も知りたくない。どんなに小説を読んでも夢見る気持ちは理解できない。

 水の国の水の魔力に富んだ空気はレティシアをおかしくさせた。空気に酔い、思考できなくなり、人恋しくなり―――――。

 フラン王国に帰国して正気に戻った時はぞっとした。

 エドワードとレオが迎えに来なければ現実を忘れ、クロードとの世界に入り浸っていた自身に。

 その時に授かった蜂蜜色の髪と青い瞳を持つ第二王子に特に厳しく教えていた。


 レティシアはクロードを悪い魔法にかけたのは自身だと生涯気付かなかった。

 知れば水に溶けて姿を消しそうな寵妃に教えることをクロードは許さなかった。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

ブクマ、評価、感想、誤字報告も感謝しております。


ヘタレ気味で暴走したクロードをはじめ自分本意な王族に対して読者様に不快な気持ちを与えてしまっても結末は変えませんでした。

クロードは格好いいヒーローではありませんが、レティシアが諦めたものをすくいあげながら、最終的に幸せにしました。


監禁される前のレティシアはクロードのために完璧な王妃を目指しましたが、完璧な王妃を目指すほど感情を隠すようになり素の顔がみたいというクロード個人の願いとはかけはなれていきました。

クロードはレティシアの理想を崩さないように奮闘するほどレティシアとの時間はなくなりました。また本当の自分を知り幻滅されるのが怖くてレティシアに本音を言えませんでした。


ずっとクロードの本音を勘違いしているレティシアと外面は完璧でも実は不器用なクロードのお話でした。

追憶シリーズを読まなくても平気なように綴ってましたが、わかりずらいところも多々あり釈然としないように感じられたらすみません(苦笑)


お互いを大事に想うゆえにすれ違う二人の物語を最後まで読んでくださりありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 最後まで読んでもクロードを始め王族はゲロ野郎としか思えんかった スカッとしねぇな
2021/09/21 12:47 退会済み
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