表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生民族  作者: 黒野理知
3/4

初めての魔法

「やあやあ、あれが僕らの村だよ!」


陽気な声をかけられて、馬車の荷台から顔を出す。僕とジョージ、チビ達七人とタムタム(牛型の動物)の死骸を載せた馬車はギュウギュウに狭くて、前を見るのに乗り出さないといけない。あ、ちなみに駄洒落ではないです。アフリカ人、日本の駄洒落わかりませんので。


ニーファが指差す先、森と草原の境目になっている場所には、木でできたあまり高くない柵に囲まれた、木製の家が立ち並ぶ集落が小さく見えた。まだ数キロは離れていそうだが、日が暮れる前には到着できそうだ。


僕達を救ってくれた妖精族は、あのトールキンで有名な『ホビット族』を名乗った。僕達は映画『ロード・オブ・ザ・リング』や『ホビット』で映画化された部分の知識しかないが、うちのチビ達と同じぐらいの背丈(120センチぐらい)で、少しだけ尖った耳は脳内の特徴に一致する。


僕達は映像作品はたくさん見ているが、書籍にはほとんど触れたことがない。後進国では本は高いのだ。またネットサーフィンの文化もない。先進国で流行しているスマートフォンなんて持っていないし、PCも孤児院に一台しかなかったので、インターネットを触ろうと思えば触れたものの、自国の人間が立ち上げているサイトなんてほとんどないため、特に有用性を感じないのだ。PCは動画を映写する機械でしかない。


この結果、僕達のような境遇の子供は『アニメ化部分(映画化部分)しか見てない民』が多い。あの名作やこの良作の、最終回がどうなるのか知らなかったりするのは不幸だ。それはともかくとして。僕達を救った彼らはニーファ、アルド、コナー、ギナス、ダーフィ、ネーヴァ(ネーヴァだけ女性だ)と名乗った。あの村のホビットの戦士達だそうだ。


タムタムを山分けにする事になって、解体作業だとか大変なのでホビット族の村に持ち帰り、僕達もそこで御相伴に預かるという話でまとまった。ホビット族が村から荷物運搬用の馬車を持ってきて、待ち合わせ場所にチビ達を連れてきて馬車に乗り、今に至る。ぶっちゃけ石器時代から抜け出していない僕達にタムタムの解体なんて重労働だった上、倒したのは実質ホビット達なので、僕達には得しかない話である。


村が近づいてくると、段々と両サイドの景色が農地になってくる。それが見慣れた景色すぎて感慨深い。タバコ畑だ。地球時代の僕達の国もタバコの輸出で成り立っているような国で、そこら中トウモロコシ畑かタバコ畑だった。ちなみに輸出先第一位は日本だったりする。ホビット達は自分で吸うために栽培しているだけで、輸出品ではないらしいが。タバコ以外にはライ麦がまだ青い穂を夕方の風にたなびかせている。


村に到着すると、馬車を取りに行った時に話が既に広まっていたのか、広場には椅子やテーブルがたくさん並べられており、村人が集まって宴の準備が整っていた。気が早いことに既にビールを飲んだり、パイプを吹かしたりしているものもいる。ホビットにとって普段群れで行動するタムタムが手に入ることは稀で、自然死した個体などを偶然見つけるでもしないと食べられないご馳走だそうだ。


『ハリー・ポッター』の学生達のような、いかにもなローブを着た女ホビットが杖を振りながら何やらむにゃむにゃ唱えると、巨大なタムタムを空に浮かべて楽々馬車から降ろした。ちなみに載せるときは僕達と六人のホビット総出で汗だくになって引きずりあげたのだが、初めて見る魔法に僕達は感動を覚えた。転生時女神に魔法の才能を貰っていたし、ステータス画面の基礎値の中に『魔法力(マナ)』という項目があるので魔法の存在は確信していたものの、こう目の前で見るとやはり心が動く。そして村人達によって、広場の真ん中でタムタム解体ショーが始まった。


「すげええ!」

「夢みたいだ!」


魔法、マホウ、まほう。人類の夢。どうやって覚えてどこで使え流ようになるのだろうとずっと思っていた。どうにかしてこの村で魔法を教われないものか?


広場の真ん中に大きな焚き火がめらめらと燃えている。解体作業をしていたホビット族の青年の一人が背肉の一番いいところ、いわゆるサーロインの部分を見た感じ2キロぐらい大きな串に突き刺して、わざとつんのめった感じでおっとっと、と全員息のあったみんなの前に躍り出る。そのまま体勢を持ち直した彼は、テンプレートなアメリカ人みたいに肩をすくめて見せた。すると、村人が拍手喝采。一斉に歌を歌い出す村人達。転生時の特典で全ての言語が脳内で自動翻訳されるはずだが、歌詞の意味が全くわからない。その歌にリズムを合わせるように、青年が串を焚き火に差し出すと、じゅううっと煙が上がった。たちまち焼肉の素晴らしい匂いが漂ってくる。歌に合わせて手拍子が始まると、青年は串を火に近づけたり遠ざけたりして、中までちゃんと焼けるように弱火と強火を踊るように調整する。ぼたぼたと垂れる肉の油。た、たまんねえ。早く食いてえ。


やがて焼けたようで、大きな鉄の皿にどんと乗っけて大きな肉切りナイフで切り分けられる。客人だからか第一陣の肉が真っ先に僕達のテーブルに届く。一緒に木のジョッキに入ったビールと黒くて平たいパンが、村の女性達によって提供される。ちなみに地球時代の僕達の国には飲酒に関する法律が無いが、僕やジョージぐらいの年齢ならOK(十六歳)、それ以下はアウトとなんとなく慣習的に決まっている。ので、僕とジョージはありがたく飲む事にし、七人のチビ達には水をもらう事にした。


外側はカリカリ、内側はミディアムレアに焼けた分厚いステーキ。生前でもサーロイン200グラムステーキなんて食べた事ない。ナイフで一口切り取り、口に運ぶ。うほっ!激ウマ!ちゃんと牛!ホビット族の不思議なソースが酸味と甘みが効いてて、それも含めて最高にビールに合う。


そして、ビール!である。思わず強調してしまうほどビールが美味い。こういう世界だから当然完全手作りで添加物無しだからだろうか、水みたいに抵抗なくスッと入る感じの癖に、ビールの醍醐味である喉越しはしっかりとある。どことなく果物のようなフルーティーな香りがあり、村長曰くライ麦で作ったビールだそうだ。このビールはこの大陸で『ホビットのビール』と呼ばれ、村の唯一にして最大の収入源となっているらしい。さもありなん。地球の缶ビールなんて目じゃないぜ!ぐらいの衝撃の美味さだから。


黒パンは見た目通りライ麦っぽい味がして、イーストが足りないのかあまり膨らまずモチモチした食感だが、それはそれでなかなか美味い。このパンがコーンブレッド(生前の国の国民食で、トウモロコシの粉で焼くパン)だったら今日は最高の日だったけれど、決してこの黒パン自体は嫌いじゃない。木の実か果物の果汁を練り込んで焼いてあるらしく、絶妙に爽やかな香りと後味がある。


「お客人は、人間族かな?この大陸には珍しい。どこからいらっしゃった?」


顔中白髭で覆われた老ホビットが僕達の席に近づいてきた。到着した時ニーファ達に村長だと紹介された人だ。


「人間ですよ。肌が黒いので珍しいかもしれませんが」


珍しい、と言われて反射的に肌の色を連想する僕。しかし村長はキョトンとした顔で


「なぜじゃ?黒かろうが白かろうが人じゃろ。黒かろうが白かろうがエルフはエルフじゃし、人狼族なんて肌の色なんぞ人によって決まっておらん。そういう事でなく、この大陸には人間族自体、あまり住んでおらんのじゃよ」


女神の言う通り、この世界では肌の色はとても瑣末な問題らしい。それはとても素晴らしい事で、その反応を見た瞬間僕は感動した。


「じゃからどこから移り住んできたのか不思議でのう」


話によると、この世界には少なくとも二つの大陸があり、僕達が今いる大陸はルードミオン大陸ーーー『亜人大陸』と人間族から呼ばれているらしい。亜人って差別用語やろ、と一瞬思ったが、ファンタジー世界の住人達は差別意識も非差別意識もないらしく、ホビット達は全く気にしていないようなのでそこは別にいいらしい。海を隔てた西にもう一つ大陸があって、そっちの大陸はガンデュミオン大陸といい、人間族はそちらの大陸全土に広がって国家を作り、暮らしているそうだ。


二百年ほど前に入植を目指してガンデュミオン大陸の人間の国から軍が渡ってきたことがあるらしいが、ドワーフ王国が人狼族や人兎族、人猫族、エルフにホビットなどの助力を得、撃退したらしい。その結果、ガンデュミオン大陸に一番近い西北の半島ーーーマレリア半島と言う、雪深い気候の厳しいところらしいーーーに逃げ遅れた人間族が小さな国を作って住んでいる他、この大陸には人間は住んでいないとの事である。その半島と同じ名前のマレリアという国がその後相当頑張ってこの大陸で亜人達と友好関係を築き、ガンデュミオン大陸との貿易の橋渡しとなっているから、現在の亜人達には人間へは割と友好的な感情を持っているらしい。そう聞いてとてもホッとした。


「村長、僕達を、この村にしばらく置いてもらえませんか?」

「はあ?聞いてねえぞ!」


宴もたけなわの頃、僕は村長にそう切り出した。隣にいたジョージが驚きの声をあげる。何の相談もしてないからごく当然の反応。


「いやだって、僕達九人で原始人やってても仕方ないし、この村で仕事手伝って、色々この世界のことを勉強したりして、いずれ独立してってのが一番現実的なサバイバルだと思うけど」

「まあ‥‥そりゃそうだけど‥‥」

「そういうことなんで、どうでしょうか?村長」

「フム、構いませんぞ」

「即答っ!」


色々交渉の流れとか頭の中で用意してたのにっ!


「見ての通りワシら小人じゃからの。客人達に比べて非力じゃから、何につけても色々助かる。腕力のある働き手が増えればビールもそれだけ多く作れるし、客人の食い扶持ぐらい多く作ったビールでお釣りがくるわい。もちろん、食い扶持を超える働きをすれば、給料も出すでの」

「じゃあ、よろしくお願いします。チビ達も、それでいいか?」

「うん、いーよ」


アグネスがそう答えると、他の子達もうんうんと首を縦に振った。アグネスはチビ達の中でお姉さん格を自認している。


よし、これで展望が見えてきた。ある程度の文化レベル、安定した衣食住の基盤で、頑張ればお金を貯めて装備も買い揃えられる。独立するためには最低限鉄製の武器防具と馬ぐらいは揃えないとどうにもならないしな。


それに何より、魔法を覚えたい。村の魔女に魔法を全員習って、是非ともマスターしなければ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ