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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ぼくはニンゲンで育ての親はドラゴンさん

作者: 走不 歩

 初めまして、ぼくは「ニンゲン」です。


 いえ、種族のことだけじゃなくて、名前も「ニンゲン」なんです。

 え? 名前は「サム」だと聞いていた……ああ、確かにここの人はぼくのことをそう呼びますが、ぼくの名前は「ニンゲン」です。ドラゴンさんはそう呼んでいたから、そうなんです。


『ドラゴンは喋れるのか?』

 ええ喋れますよ。声帯は使いませんが、頭の中に情報を送り込むことは出来るので。

 聞いたことが無いって、そりゃそうですよ。お互い信用してないと情報を頭の中に送り込むなんて芸当は出来ません。ドラゴンを人は怖がりますし、ドラゴンさんやその友達も自分たちに最初から敵意を向けてくる人と意思疎通しようだなんて思いませんから。あと、人の場合言語が厄介だそうですよ。お陰でぼくに言葉を教える際にどの言語がいいか迷ったそうです。


『ドラゴンはどんなところに住んでいるか』

 ……それはお答えできませんね。貴方だって誰かに勝手に住所を他人に広められたりしたら嫌でしょう?


『ドラゴンは人間を襲うから、倒さないといけないから情報が必要』

 えぇ……? ドラゴンさんにはそんな趣味はありませんよ。人は美味しくないってドラゴンさん言ってました。

 そりゃあ大きな翼に鋭い牙、何もかも切り裂く爪を持っていたら怖いかもしれませんが、味の好みがあるんですよ。あと一言でドラゴンって括られても草食系と肉食系がいますし。


 え? なんでそこでドラゴンが恋する話になるんですか? ぼくら食べ物の話してましたよね。あ、そう勘違いですか。なんの勘違いなのか知りませんけど、とにかくドラゴンにはお肉ばかり食べる方と、草や果実ばかり食べる方がいるんです。

 大体鱗の色が、赤はお肉が好き、緑は草が好き、オレンジとか黄は果物が好きで、黒はどれも好きです。


 うちのドラゴンさんは、赤色でしたけど、人は食べなかったですね。ドラゴンさんの祖先で人の死骸を非常事態に腹の足しにした方がいらっしゃったんですが、大層まずかったって言ってたみたいで、ドラゴン界では人間はまずいと言う共通認識があります。

 食べるならヤツヅノ牛が美味しいです。標高が高い所に住んでるから、人は食べる機会があまりないそうですけど、頬っぺたが蕩けそうなくらい美味しいですよ。

 だからドラゴンは人を基本食べません。多分、人がドラゴンに食われた数は、人が人に食われた数を圧倒的に下回りますよ。人が人を殺した数ならさらに差は大きいでしょうね。


『人は人を食べない』

 そうですか……まぁ、基本共食いはしませんけどたまにありますよ。ドラゴンは空を飛べるし、移動も早いので飢餓状態に陥ることはなかなかないんですけど、人はその小さな足で歩くしかないから大変なんですよ。貴方は、裕福なので知らなそうですけど。


 ぼくも食べられはしなかったけれど、口減らしにまだ言葉も覚えて無い頃に荒野に放り出されましたから。


『ドラゴンは炎を吐くから危ない』

 基本、空中に吐いているからいいじゃないですか。爬虫類の癖して標高高い所によく行くからって寒さに耐えようとするから、謎の進化をしてしまったんだってドラゴンさんたちも混乱してるんですから。

 マグマを摂取して暖かさを体に溜め込めるようにした結果なんです。体温調節の為に、暖かかったり暑い地域では炎ださなきゃ、体に悪いんです。爬虫類止めるか、炎吐くかの二択の進化だったんです。


『何故、ドラゴンを庇うんだ』

 そう言われてもねぇ。確かに人は人を庇うのかもしれませんけど、ぼくはドラゴンさんに育てられたんでそこら辺が違うんですよ。


『ドラゴンに攫われて、保護された子供だろう? 憎くないのか』

 ああ、やっぱそういう説明を受けているんですね。分かってましたけど、会話の内容から察せないようで残念です。あのですね、ぼくは親に口減らしに捨てられてドラゴンさんに育てて貰った子供なんですよ。だから、ぼくが恨むなら人だと思うんですよ。まぁ、そのことについては恨んでませんけど。

 捨てられたぼくを面白そうだからって育てるドラゴンさんに拾われましたから。ドラゴンさんをきっかけにドラゴン界で別種族の生物育てるのがブームになったそうですよ。


『そんな適当で酷い』

 いや、別にお互い満足してるからいいと思うんですけど。少なくともここまで育ってますし。今まで、ぼくを『ニンゲン』って呼ぶのが愛情が無いとか、どうでもいいから名前を付けないで種族名で呼んだんだねとかとか可哀想なものを見る目で言う人がいましたよ。ですけど無理に駄目な所探してません?


 みなさんはどうしても人として、人に囲まれて生きてきたから、ドラゴンとぼくみたいな子供がいたら、加害者と被害者と言う見方になってしまうかもしれませんが、ぼくにとってはそうでないんですよ。ドラゴンさんと一緒にいたぼくは不幸でも可哀想でもありません。


 そもそも不幸か幸福かなんて、当人次第です。


 ぼくは幸せでしたよ。


 善意で人はぼくをドラゴンさんから引き離したんでしょうけど、ぼくにとっては――いえ、やっぱなんでもないです。


 ***


 とある大衆向けの新聞の記事にて、


『ドラゴンに洗脳された少年、サム!


 数年前、救助隊によってドラゴンから助けられた少年サムに会ってきたが、彼は依然として悪しきドラゴンの洗脳が解けないままだ。

 洗脳されている彼はドラゴンにそう教育されたのか、ドラゴンは人間を襲わない穏やかな動物だと騙る。しかし、その内容からドラゴンの悪しき姿が浮かび上がる。

 彼が言うにドラゴンは声帯は使用しないが、頭に情報を送りこむことが出来るそうだ。この能力を使って少年は洗脳されたに違いない。哀れな少年はその事実に気づかずに、人を食らう悪しき生物を賛美する。少年の必死さに話を聞いたものが、ドラゴンが悪いものではないと思うかもしれない。しかし、これこそが罠である。

 ドラゴンは我々に自分たちは危険な生き物ではないという意識を刷り込ませて油断したところを狙って虎視眈眈と狙っているのだ。その残忍さが隠せなかったのか、過去に仲間が人を食らったことを少年は聞いている。

 ドラゴンには大きな翼に、鋭い牙、何もかも切り裂く爪に、マグマに耐える強靭な体に、炎の息に、洗脳能力と高い知能がある。

 ドラゴンは人を襲う凶暴さと、我々人間を罠に陥れようとする狡猾さを持ち合わせた恐ろしい生き物だ。

 少年の洗脳が一日でも早く解けることを祈ろう。そして、少年を洗脳した悪しきドラゴンをこの世から絶滅させよう』


***


「ドラゴンになりたい」

 ぐしゃりと新聞記事を握ったニンゲンがそう呟いた。

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