#2:ある夜
新緑が芽吹く5月初旬の櫻井家のとある夕暮れ。 居間のテレビを眺めるユウとケンとニャゴ。 台所には夕食の準備に追われるヤマトがせっせと作業をしていた。
ニュースキャスター:遂に今年の大陸杯の予選が始まりました!! 今年はなんと大陸杯20回目の大きな節目の年です!! 6大大陸の猛者達が集う今年の大陸杯の盛り上がりは過去最高といっても過言ではありません!! それに加えて今回の大陸杯の公式応援ソングであるMELIRUの・・・・・
テレビから流れる大陸杯の予選開始のニュースに噛り付くユウとケン。 2人は息巻き興奮を抑えきれずにテレビから語りかけるニュースキャスターに夢中だ。
ケン:ヤマ兄ぃ。 ニャゴと一緒に大陸杯に出てよ!! ヤマ兄ぃは大陸杯に出れる年齢だよね!?
夕食の準備で忙しいのか。 無言のまま聞き流すヤマト。
ユウ:ケンさぁ、ニャゴはせいぜい行けてもEクラスぐらいでしょ。 そんなのムリに決まってんじゃん!! ま、記念に出るってのも面白そうだけど・・・。
ニャゴ:おいおいユウ。 俺は実はめっちゃ強いんだぞ!! 余裕でSクラスの奴らもぶっ倒せるぐらいにな!!
ユウ:えぇぇー、嘘だぁ!! ニャゴなんてお喋り出来るネコガゾルじゃん!! だよね、お兄ちゃん?
無言を貫くヤマト。 ひたすらこの会話をスルーしようとしている。
ケン:すげぇー!! ニャゴってそんなに強いの!? それなら今年の大陸杯優勝じゃん!!
ニャゴ:おうおう!! ユウちゃんよぉ、ケンの言うとおりだぜ!! 俺とヤマトのコンビなら間違いなくこんな大会優勝しちまうぜ!! なっ、ヤマト。 せっかくだから俺達出ようぜ、予選。
それでもなお無言を貫くヤマト。 この会話の一部始終を聞いているようだが、訳あって聞き流すフリをしている。
ユウ:ねぇお兄ちゃん!! ねぇってば!! さっきから一言も喋らないけど聞こえてるんでしょ!? なんで答えないの!?
ヤマト:・・・・・出ねぇよ。
息巻くユウにボソボソとヤマトがついに答えた。
ユウ:えぇぇぇー?? 聞こえないんですけどぉー!! ちゃんと言ってくださぁーい!!
ケン:出てよ!!出てよ!!出てよ!!出てよ!!出てよ!!・・・・・。
ケンカ腰のユウとダダをこねるケンの態度にヤマトの作業の手が止まった。 肩を怒らせて大きく息をする姿は普段は優しい兄が爆発する瞬間だ。 2人と1匹は後姿から浮かび上がる怒りのオーラに息をのむ。
ヤマト:さっきからゴチャゴチャうるせぇな!! 俺が出ないと言ったら出ないに決まってんだろ!! だいたいなぁ、ニャゴは俺達の家族なんだ!! あんな野蛮な戦いで家族が傷を負って死んでしまったらどう思うんだ!? なぁ、答えろよ!! なぁ!! 俺はまっぴらゴメンだね!! これ以上ゴチャゴチャ言うんならお前ら一生メシ抜きだからな!!
鬼の形相で言い散らかすヤマトにユウとケンは小さくうずくまりお互いにごめんなさいと謝り続けた。
ニャゴはその光景をただじっと眺めているだけだった。