クリスマスの夜 泥棒マルマン
今回は季節外れですがクリスマス回です
クリスマスの夜がやって来た。雪が降り、家を白く染める。ホワイトクリスマスだった。
れみは雪が積もった地面の上を長靴で歩いて大はしゃぎだ。後ろからは買い物鞄を持ったれなが追いかける。
「あー…鞄が無ければ空飛んで帰るんだけどなー」
面倒臭そうなれなの方に振り向くれみ。雪を踏む音をならしながら近づいてきた。
「そーいえばクリスマスって何でみんなこんなにはしゃぐの?」
「んーそうだな…」
回答に困るれな。実はこの二人、クリスマスの常識を知らないのだ。こんな時は大抵『彼女』に頼る。
「葵に聞いてみよう!!」
森の中にある葵のログハウスも雪が積もっていた。周囲の緑の茂みも雪がかかって幻想的だ。ドアを開くと暖かい空気が溢れ出してきた。
だが葵はいつも通り椅子に座って銃を拭いていた。
「あら二人ともいらっしゃい」
葵は席をあける。遠慮なく座る二人。
「ねえ葵、聞きたいんだけど何でクリスマスはみんな騒ぐの?」
葵は少し間合いを置いてから優しい声で答える。
「そうねーケーキに雪に…色々あるけどやはり一番はサンタクロースじゃないの?」
聞いて首をかしげる二人。
「サンタ…クロース?モンスターの名前?」
「ノンノン」
笑いながら手を振る葵。
「サンタクロースはね、クリスマスの日に突然現れて良い子にプレゼントをあげに来る人なのよ」
へえーっと声を揃える二人の目は輝いていた。それだけ聞くと再び外へ出ていった。寒いが幻想的だ。
「お姉ちゃん、私たちにもサンタクロースは来るかな?」
「んー来るんじゃねーの。ただ、サンタクロースはどうやって家に入るんだろう?」
顔を見合わせる二人。そして二人の頭にある案が浮かんだ。
その夜、家に帰って博士が研究に没頭してるのに気づいた二人。今日は早めに寝ようと部屋を消灯する。その際、窓を開けっ放しにしていた。こんな不用心なことをするのはサンタに入ってきてもらうことだ。
二人は寝たふりをして待ち続ける。今夜は空気が冷たく、二人は布団に潜る。
窓の外からは酔っ払いの声が聞こえてくるくらいでまだ変化はない。
それから何時間も、辛抱強く待ち続けた。
突然、窓の外から足音が入ってくるのが聞こえてきた。思わず身構え、ギリギリまで待つ二人。足音は確実に部屋の中に入ってきていた。
次に聞こえてきたのはタンスを開く音だった。タンスにプレゼントを入れてるのかと思ったが、どうも様子がおかしい。
「…」
息をのみ、突然布団から飛び出す!
足音の正体を取り押さえるれなと、それを睨むれみ。相手は球状の体を持つ泥棒だったのだ。
「ひいいいごめんなさいごめんなさい!!」
怯える泥棒は謝りながらも必死にもがいていた。しかしれなはそんな泥棒を離したのである。
「…何だ、貴方がサンタだね。妙に人相悪いから勘違いしたよ」
「え?」
泥棒は目を丸くした。予想外すぎる発言に、逆に焦り出す泥棒。絶好のチャンスと上手くごまかす。
「そ、そ、そうだよ。ワシがサンタじゃあ。この風呂敷にプレゼントを入れてるんじゃあ」
それらしい喋り方をし、れなとれみの目を輝かせる。二人は泥棒の手をとり、お願いをした。
「ねえ、サンタはどこから来たの?」
「そ、そりゃあサンタの国じゃよ」
「へえ!案内してよ!」
手を繋いだまま浮き上がる。泥棒は思った以上に変な状況に立たされたことに改めて気がついた。寒い町の上空を凄い勢いで飛び、あっという間に海上にたどり着く。
「さあ、サンタの国はどこにあるの?」
泥棒はコンパスを取り、北の方向を指差した。その方向にサンタの国があると信じて飛び去る二人。泥棒は長きにわたる逃亡生活で怯え、デタラメだとバレたら殺される、そんな不安を胸に、冷や汗をかいていた。
雪の中を進んで数分後、北国に辿り着く。木製の家がほとんどで、雪でまさに白銀の世界と化している。
「で、どこにサンタの国があんの」
泥棒は震えながら遠くに見える雪山を指差した。雪山の付近は村で、サンタがいそうなのは雪山だった。二人はなにも言わずに直行する。
雪山には白くなった木々が生え、下を見ても生き物はいない。木にぶつからないよう低空飛行し、山を隅々まで探索する。泥棒は僅かな可能性にすがる。山奥にも偶然村がありますようにと…。
「あっ!あれか!」
れみの声に泥棒は顔をあげた。三人の見る先には普通の村があった。
(これをサンタの国の村だと思い込んでくれ…)
だが信じられない事が起きた。その村の住人は赤い帽子に赤い服、小太りな体型に白い髭。
全員が…
「サンタクロース!?」
真っ先に避けんだのは泥棒だった。
「へえあれがサンタクロースかー」
初めて見て、初めて知った為かれなとれみの反応は薄い。泥棒は目を擦ったが、やはり目の前でこちらを見つめているのは昔から見てきたサンタクロースそのものだ。サンタは低くも穏やかな声で話しかける。
「おや、君らは一体」
泥棒が先に反応し、サンタの目の前にやって来た。不思議そうに泥棒を見下ろすサンタ。そして不思議そうにサンタを見上げる泥棒。
れなたちはサンタの村を探検していた。あちこちに赤や青のプレゼント箱がおかれてあり、多くのサンタクロースがトナカイの世話をしている。
「君たち」
サンタの一人が二人の肩に手を置いた。優しく微笑んでいる。
「私の家へ来なさい。ここは寒いだろう。あのお友だちもつれてね」
れなたちは泥棒を呼び、サンタの家へ案内される。
サンタの家は至って普通だった。昔話のような魔法の小物も魔法のソリも置いておらず、他の場所に置いてるようだった。人間が使うのと同じ家具がきれいに並べられている。暖炉の火が部屋を明るく照らし、熱を送る。
ホットミルクを飲んで甘いため息をつく三人。サンタの用意したソファーは雪のような質感、だがとても暖かみを感じる不思議なもの。
「わしらサンタは、これから世界中にプレゼントを届けにいかなくちゃならん。だが世界の子供の住所を頭に入れとかなくてはならんし、何より体に来るんでのお…」
サンタはある場所を指差す。そこには大量の紙がびっしりと置かれてあるテーブルが。よく見ると紙には誰かの名前が沢山書かれてある。
「子供たちの名前じゃ。じゃが最近人手が足りなくなってきてしまって…」
笑いながらも困るサンタを見て、れなたちが立ち上がった。
「じゃ、手伝ってあげる!」
えっ、と声をあげる泥棒。直後にサンタの方を見ると期待の目を向けていた。
「本当かい?とても助かるよ!」
ええーっと声をあげる泥棒。いつものように盗みに行ったのにとんでもない展開になってしまった。
サンタたちは時間を見て、早速準備を始めた。プレゼントをソリに乗せ、自分達も座ってトナカイを繋げる。トナカイの顔を撫でているのは青い帽子のサンタ、座っているのはさっき家に連れてってくれたサンタ。それぞれ役割があるようだ。
「では早速出発だ。乗りなさい」
「いや、私たちは飛んでいくよ!」
浮き上がるれなとれみを見て驚愕するサンタたち。驚愕しつつも彼らもソリを浮かべ、夜空への発進準備が完了した。
そして、凄い勢いで飛び出す。夜空の星々をバックに、町へと急発進した。
地上に見える家々の煙突目掛けてプレゼント箱を投げ入れる。サンタの投下技術は不思議で、プレゼント箱が煙突に吸い込まれていくようだった。
れなたちも負けず、プレゼントを投げ入れる。次々にプレゼントを入れていき、あっという間に町のプレゼント任務は終了した。サンタは予期せぬ助っ人の登場に喜んでいる。
ソリの後ろでは、泥棒が不思議な出来事に驚きつつも積まれたプレゼントを見つめている。
「…」
盗みの心が彼の腕を動かそうとしていたが、不思議な抵抗心があった。十年間もの間泥棒をしてきたが、こんな感情にかられたのは初めてだった。プレゼント箱に伸びては引っ込める手は震えていた。
「…なぜだ?」
泥棒はサンタの背中を見た。大きく、そして温かそうな背中。
「…!」
訳も分からず、息を呑む。そしてプレゼントを持ったれなたちに向かって叫ぶ。
「…お前たち!騙して悪かった!」
プレゼントに集中していた二人の意識が泥棒にいく。泥棒の顔は、複雑だった。だが、何かを決めたような表情に変化した。
「…聞いてくれ。お前たちを騙して悪かった。俺は、サンタじゃ…ないんだ」
下を向く泥棒を見て二人は顔を見合わせる。いつの間にかソリは止まり、トナカイたちも静寂に包まれている。
「…俺はお前たちから何かを盗もうとやって来た、こそ泥だ。お前たちに捕まらない為にサンタと言って誤魔化していた。本当に…すまない」
泥棒は再び顔をあげて目に涙を浮かべた。
「…俺は自首する。人殺しよりはマシと、十年間も思い続けてきたが犯罪は全て恥ずべき事だ」
れなたちはまた顔を見合わせる。そこで動いたのはサンタだった。
サンタは泥棒を優しく見つめる。白い髭が冷たい風に煽られ、雪のような輝きを見せた。
「よく言ったな。ワシはそれを待っていた」
サンタは泥棒の手を掴む。温かい手だ。
今まで子供たちに渡すプレゼントを持ってきた手で泥棒である自分に触れてくれてる…。
泥棒は不思議な気持ちになった。
「子供の時のような正しい心を取り戻して、改心するんだ。こうして自分の過ちに気づいたのは、凄いことだよ」
泥棒の目に涙が溢れる。れなとれみはお互いに顔をあわせる。お互いに笑顔だった。
「さあプレゼントの続きだよ」
白い雪の中、クリスマスの主役が世界に向けて飛び出した。