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新しいご主人様?

「ゴブリン子ちゃん? 本当にそんな名前なの?」


 ゴブリン子ちゃんは俯いて言った。


「ワタクシどもには、人間のような生まれつきの名前はありません」


 じゃあなんでゴブリン子ちゃんなのよ?


 あたしが問う間もなく、彼女は続けた。


「ワタクシには、仕えているご主人様がおりまして——その方を探しているところでございますが」


 彼女の話をかいつまんで言うと、こうだった。


 彼女は別の名前があって、そのご主人様とやらにつけてもらったものだという。

 ひと月ほど前、『聖女とモンスターの行方不明事件』があった時、その人は失踪した。

 失踪の直前、彼女の主人は何らかの術にかかり、姿が変貌してしまった。

 そばにいつも控え、隠し事もなかったゴブリン子ちゃんにすら、その姿を恥じて見せず——翌朝、書置きを残していなくなったとのこと。

 問題を解決するために出かけてくる、心配しないように——と。


「じゃあ、本当の名前は別にあるんじゃない。あたし達にはちゃんと名乗らせたくせに」


 ゴブリン子ちゃんは、さらに泣き出した。


「そうなんです! そのはずなんです! でも、前の名前が使えないのです……」


「使えない?」


「先ほど、あなたがワタクシに、『ゴブリン子ちゃん』と呼びかけた時、ワタクシの名前は『ゴブリン子ちゃん』と定まってしまい——あなたにお仕えするよう、決まってしまいました」


 は??


「もう、あなたのご命令にしか従えない体になってしまったのです! ……ご主人様がご無事なら、こんなことは起こらないはずなのに!」


 眉をひそめたヒナが口を挟む。


「ナギさま、聞いたことあります。ある種のモンスターは名付けの宿命を背負っていて、名付けられたが最後、一生その名付け親のために尽くさなければならないと——」


 そしてゴブリン子ちゃんに向き合っていう。


「じゃあ、何? 君は名付けた人間のために働かなくてはならない。しかし何故か今までのご主人の、その名付けの効力がなくなり、さっきのナギさまの呼びかけが効いてしまった、と」


「それなら、そのご主人様はどうしちゃったの? ——まさか……」


 ゴブリン子ちゃんは、大きな口を四角に引きつらせて、オイオイと泣き出した。


 大粒の緑の涙が盛大に地面に降り注ぎ、驚いたことに雑草がざわざわ育って可憐な花を咲かせる。

 

 ——植物の栄養剤にもなるのね、その涙。すごい。


「名付けの効力がなくなるのは——ご主人様が他の者にワタクシにつけられたのと同じ名前をつけて、ワタクシへの宿命を解かれたか——そうでなければ——」


 亡くなったか。


 続きは明らかで、あたしもヒナも、慰める言葉を見つけられなかった。


 






続く

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