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ま、まさかこの人はゴブリン子ちゃんの……?


 支配人は護衛隊長に言った。


「建物に関しては全てお見せできますが——ただ、宿泊客のある部屋の検分だけは、どうか控えめにして下さい——さあ、厨房は、あちらです」


 じっとりと、こめかみに汗が浮く。




 そうだ、彼らが厨房に行っている間に、ヒナたちに知らせに行こう!!


 トイレに行く、とかなんとか言い訳して!!!



 

 ところが護衛隊長は厨房に行く前に、外で待機する部下たちを手招きした。


 同時に、護衛兵全員が酒場の中に入ってきて、客全員を囲むように壁に並んだ。


 これにはあたしのみならず、小声で話していた客たちも息を飲んだ。



「みなさん、何してらっしゃるんですか? そんなところにいられては、ゆっくり食べるものも食べられませんよ……」


 冒険者の一人が、冗談ぽく近くの護衛兵に尋ねる。


「今、我々は聖女様の捜索にあたっている」


 その護衛兵は、酒場全体に響くような大声で言った。


「この建物全体の検査が終わるまでは、皆ここから動かないように——それと、事件について何か知っている者は、今ここですぐに挙手せよ」



 ……ダメだ。


 これじゃ、トイレに行くなんて言っただけで、下手に注意を引いてしまう。


 ああ、ヒナ、ゴブリン子ちゃん、気をつけて——!!



 支配人と護衛隊長は厨房に姿を消し、カウンターの内側にはあたし一人が残された。


 他の給仕の二人は、客の間で盆を持ったまま立ち尽くしている。


 まあこの状況じゃ、誰も何か注文しようとは思わないだろうから、あたし一人でも大丈夫だろうけど……



 その時だった。


 誰かがあたしをじっと見つめているのを背中に感じたのだ。


 鋭い視線。


 冷や汗が流れる。



 何気ない様子をして後ろを振り返ると、カウンターの端に、一昨日あたしに大嘘をついた青年がいた。


 ——護衛兵に気をとられていて、全く気がつかなかった。



 先日と同じ軽食の皿を前にした青年は、あたしにこっそりと軽く二度頷いてみせた。


 あたしはそっと近づく。

 

 気をつけなければ。

 

 この人、第一印象では警備兵かも、と思ったんだった——護衛兵は特定の人間などを守る役割だが、警備兵は犯罪者を捕まえる方が主な仕事。

 

 もしそうなら、今のあたし達には護衛兵と同じぐらい厄介だ。


 

 あたしがゴブリンのような見かけだからって、まさか聖女を攫ったモンスターだとか、思ってないわよね!?


 やめてよね!?



「お、お客様……お酒のお代わりですか」


「…………」


 何も言わない。


「それとも、もっと食事を?」


「……きみ。なんだか気分が悪そうだけど、大丈夫? ガタガタ震えてるよ」


「え、そ、そうですか?」


「ちょっと水でも飲んで、落ち着いたら……。何か後ろ暗いことでもあるのかと思われるよ」


 青年の射るような視線に、心臓が飛び出そうになる。


 もう、なんてこと言うのよ!


「いえ、別に……」


 ともすると上ずりそうになる声で答えたけど。


 この人に、完全に怪しまれてる。


 その青年の顔をチラッと見ると、疑いの色、というよりもっと、何か胸を打つ——個人的な悩みでも抱えたような、悲しげな色が微かに浮かんでいた。


「きみを見ていると、何だか懐かしい気分になるよ」


 青年は小声で呟いた。


「懐かしい?」


 唐突な話に面食らう。突然、なんなんだ。


「ああ、知り合いに似ているんだ」


 え、まさか、あたし以前この人と会ったことある……わけじゃないよね?


 そもそもあたし、ゴブリン風体だし。


 そう思って青年の顔をよく見てみると——不思議なことにあたしも何だか懐かしさを感じた。


 

 いつか、どこかで会ったような——。


 なんで?


 なんだ、この懐かしさ?


 



 あたしは、青年の先日の大嘘をもう一度大雑把に思い返してみた。


 彼は、聖女を昔から知っていたと言った。モンスターが出たあの夜も、そばにいた、と。


(いや、モンスターなんて出てないんだけどね。あのへっぽこ魔法のせいで、あたしとヒナがモンスター風にはなっちゃったけど——まあ、影で動いてくれたゴブリン子ちゃんとご主人様は別として)


 そこまで考えて、あたしはハッとした。


 まさか。


 もしそれが嘘でなければ(まあ、どちらにしても事実とは異なってるんだけどね)。


 まさかとは思うけど。


 青い翼のゴブリンじゃないけれど。


 もしかして、この人がゴブリン子ちゃんの『ご主人様』——!?


 あたしは自分自身の突飛な発想に困惑してしまった。



続く

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