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どうして、何が、どうなった?

 あたしはゴブリン子ちゃんに言った。


「まあ、まあ、そう気を落とさないでよ。悪い方にばかり考えないで……それより」


 彼女を解放する前に、まだ聞いておかなければならないことがたくさんある。


「さっきあなた、あたしたちのこと知ってた、って言ってたわよね。あれはどういうこと? どうしてあたしたちの様子を窺ったりしてたのよ?」 


 ゴブリン子ちゃんは泣き腫らした目で私たちを見つめる。


「そ、そ、それは……」


「それは?」 


「き、聞いても、お、怒りません?」


「何よ。あたしが怒るようなことがあるの?」


 何だか聞く前から腹が立ってきた。

 

 こちとら、この慣れない生活で、忍耐力も底をついている。


「それなら、あたしが怒り出す前に、さっさと話したほうがいいわよ」 


 ゴブリン子ちゃんは、カタカタ震えだした。


「は、はい……その、ご主人様とワタクシは、白銀山の麓村に住んでいました」


「ふもと村? それじゃ、あたしたちのいた村じゃない」


「そうなんです。ご存じないでしょうが、ワタクシどもの住まいは、ナギ様のお宅のすぐ近くでした」


 あたしは、自分の村の地図を頭に思い描いてみた。小さな村。


 皆昔からの顔見知りで、ゴブリン子ちゃんやそのご主人様とやらが住んでいるような場所はないように思う。


「具体的には、どのあたりよ」


「……ナギ様のお宅の、真下です」


「真下……? 土の中ってこと?」



「いいえ、正確には……ご存じないでしょうが、ナギ様のお宅は、地下五階まであるのです。人間の皆様の目には見えないものですが、立派な家具も整った、快適な住まいです……私共ゴブリンは、たいてい人間の家の地下に住居を構えているのです」


「そうか、だからゴブリンの住処は見つからないはずだよ!」


 ヒナが感慨深げに言う。


「冒険者がゴブリン探しに洞窟や山なんかに行っても、全然いないって言うもんね……あ、安心して、ゴブリン子ちゃん。こんなこと、誰にも、特に冒険者には言わないからね」


 怖がるゴブリン子ちゃんへのフォローも忘れない、が。

 ヒナは時々単純すぎて、こんな突拍子のない話もすぐ信じて受け入れてしまう。


 地下の見えない住居?


 あたしは——頭がおカタイのか、納得できない。

 まあ、とりあえず論点はそこじゃないから、ゴブリン子ちゃんの話を聞く。

 

 ゴブリン子ちゃんが、あたしが怒るかもしれないと心配していたのは、どうやら住居のことだったようで、その点についてあたしが何も言わないので、少し安心したようだった。


「ワタクシどもは、のんびりと、幸せに暮らしておりました——ナギ様が今度の聖女に選ばれたと言うのも噂に聞きました」


「で?」 


「そちらは知らぬとはいえ隣人同士、これも何かの縁だし、ナギさまの王宮入りの際には、可愛らしいお花でも密かにお送りしようと計画しておりましたの。その花は、白銀山の中腹の、切り立った崖にだけ生えているんですよ。一輪の可憐な花に、三色の細かい小さな花が密集していて、——」


 話が逸れていきそうだったので、あたしは咄嗟に言った。


「あ、ありがとう、そんな心遣い、申し訳ないわ。それより、その後どうなったの?」


「は、はい、花はやはり前日に摘みに行ったほうが新鮮でいいかと思い——」


「いや、だから花じゃなくて!」


 ちょっとだけイラッとして、語気が強まってしまう。


 ゴブリン子ちゃんの目に恐怖の色が浮かぶ。


「ごめん、怖がらせるつもりはないのよ」


 深呼吸していう。


「あたしたちのことを知ってた、というのは大まかにはわかったけど、それでなんであなたは一人でここにいて、あたしたちの様子を窺ってたわけ? ご主人の姿が変わった、っていうのはどういうこと?」


「あ、あ、あの、聞きたいですか?」


「あなたがその人から離れて、あたしたちの様子を窺っていたことに関係なければ、別に言わなくてもいいわよ」


 ゴブリン子ちゃんは肩でため息をついた。


「あの夜——あなたが王宮へ行かれる前の夜。はたから見ていた分には、何がどうなったかわからないのですが、王宮の使いはあなたたちを攻撃しているように見えました。武器や魔法まで使って……」


 あの夜のことを語り始めたゴブリン子ちゃんにつられ、あたしもその時のことを思い返した——





続く

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