2話
兄達が出勤して部屋で
勉強していると
〈ピロン♪〉
とスマホがなった。
それは私の親友の
秋風梨だった。
《恵莉!助けて!》
そう書いてあった。
《どうしたの!?》
私は変な事件に
巻き込まれていないか
心配だった。
《宿題が終わらない!》
何を言われるかと思ったら宿題が終わらないという
ことだったので安心した。《わかった。
すぐ行くから
家で待ってて!》
そう書いて秋風梨の家に
向かった。
でも、秋風梨が
宿題終わらないなんて
珍しいな。
と思いながら
インターフォンを押した。秋風梨はすぐ
迎えてくれた。
「恵莉ありがと!
上がって!」
そう言う秋風梨は
顔が真っ赤だった。「...ねぇ、秋風梨
具合悪そうだよ。
しんどくない?」
「え、だ、大丈夫だよ!」明らかに作り笑いをした。ますます心配になった。「ダメなとき無理しないでちゃんと言ってね」
そう言い、勉強を始めた。しばらく勉強していると
突然秋風梨がトイレに
走って行った。
戻ってきた秋風梨は
とても顔色が悪かった。「秋風梨、少し休んだら?顔色悪いよ」
今度は素直に
「うん」
と言ってソファーに横に
なった。
私は体温計を探して
秋風梨の脇に挟んだ。
〈ピピ、ピピ
...〉
見てみると
「38度か...」
高熱だ。
秋風梨はとても顔色が
悪いのでもしものために
洗面器を持ってきた。
念のためはる兄に
電話した。〈pipipipi...〉
仕事中かな?
なかなか出なくて
諦めようとした時
「もしもし?」
と聞こえた。
「あ、はる兄?ゴメン、
仕事中だった?」
「今休憩もらったから
大丈夫。どうしたの?」「あのね、今秋風梨の家に居るんだけど、秋風梨が
具合悪くて。
来てもらえる?」
「わかった。来るまで30分ぐらいかかるけど、
それまで恵莉が
看ててくれる?」
「うん」
そう言って電話を切った。それと同時に秋風梨が
洗面器に顔を入れて
吐き始めた。
私は急いで秋風梨に
駆け付けて背中を摩った。秋風梨は嘔吐を
繰り返して、水を飲んでもすぐに吐いてしまう。もういつ脱水症状になっても
良いくらいだった。
ふと時計を見たらもうすぐ30分だった。
そろそろ来るかな?
そう思っていると丁度良くはる兄が来た。
「恵莉、ありがとう。
秋風梨の状態はどう?」「さっきから嘔吐を
繰り返して、
水も受付けないみたい」「熱は?」
「はる兄に電話する前は
38度ぐらいあった」
「じゃあもう一度計って
みよう」
はる兄は体温計を出して
秋風梨の脇に慣れた手つきで入れた。
〈ピピ、ピピ...〉
はる兄は体温計を取って
見た瞬間、一瞬固まった。私はチラッと覗いたら
39℃あった。
「もしかしたらインフルエンザかも知れない」
聞き覚えのある声が
聞こえた。
「え!?かず兄?
どうして!?」
「俺だと詳しい事はわからないから兄貴連れてきた」そうはる兄が説明した。「とにかく病院連れてくぞ」
はる兄は秋風梨を抱いて
車に向かった。
途中秋風梨が
目を覚ました。
「はる...き?」
「秋風梨今から病院行くから、辛くなったら言ってね」
秋風梨はコクリと頷いた。「晴輝は彼女の側にいて
あげて。その方が安心
だろうし」
かず兄は人の気持ちも
考えているなんて。
やっぱりかず兄は
かっこいい。
なんて思いながら車に
乗った。
はる兄が側にいる
お陰かさっきよりも
顔色が良くなって、
呼吸も安定してきた。
「病院までもうすぐだよ」「秋風梨、頑張って」
病院に着くとかず兄が受付してくれた。
「晴輝、午後からあるか?」
「ううん。午後からは休み。あ、でも午前中に予約していた患者さんの中に午後来るからって帰った患者さんいたんだ」
「どうしようか...俺も午後から大学病院に行かないといけないし」
はる兄とかず兄は悩んでいる様子だった。
「仕方ない。恵莉、秋風梨を看ててくれるか?」
「うん。いいよ」
「じゃあ恵莉よろしく」
そう言ってはるとかず兄は行って残りは私と秋風梨だけになった。秋風梨はさっきと変わらず寝ている。《秋風梨さん、山本秋風梨さん。3番の診察室へどうぞ》
午後になってからは人があまりいなくなったのですぐに呼ばれた。
「秋風梨呼ばれたよ」
秋風梨は熱があるせいか、ぐっすり寝ていて起きなかった。すると診察室から先生が出て来た。
「ちょっと持ち上げますね」
と言って秋風梨を持ち上げた。診察室へそのまま連れていった。私は慌ててついていった。
「じゃあ秋風梨さんの状態を押してくれる?恵莉ちゃん」
「えっと、吐き気があって高熱があります。さっき計ったら39度ありました。って何で私の名前...」今さらだけど。不思議に思っていると診察しながら話した。
「覚えてない?俺がまだ研修医だった時、和樹先生と仲良く話していた女の子がいたから和樹先生の娘さんかなと思って話しかけたら妹だったっていうときの」
「ああ!あの時の諄先生!?」
「そうだよ」
諄先生は笑いながらそう答えた。
「あの時はいきなりかず兄の事『お父さん』って呼ぶからびっくりしました」
そんな昔の事を思い出しているうちに秋風梨の診察が終わった。
「和樹先生からインフルエンザの検査も頼まれているからするね」
「あ!知ってます!諄先生って検査するの得意なんですよね?はる兄から聞きました」
「え!和樹先生そんなこと言ってたんだ。何か緊張するなぁ!」
諄先生はとても嬉しそうだった。
「じゃあ始めるよ」先程とはまるで別人のような目付きだった。
「終わったよ」
諄先生の取り方が上手かったのか秋風梨は痛そうな顔ひとつしなかった。
数分後
「秋風梨さん、検査結果が出ました。和樹先生の言った通りやはりインフルエンザの反応が出ました」
「わかりました。諄先生、ありがとうございました」私が診察室を出ようとした時
「あ、ちょっと待って。今晴輝先生呼ぶから」
そう言って電話をかけ始めた。
「もしもし?晴輝先生?今山本さんの診察終わりました。...はい。わかりました。お待ちしています」電話の内容からするとはる兄は今からこっちに来るようだ。その時
「え...り?」
秋風梨が目を覚ました。「気分はどう?」
「だいぶ楽になったよ」「良かった。あ、こちらは今回担当してくれた加藤諄先生」
「ありがとうございます加藤先生」
諄先生はペコリと頭を下げた。二人の挨拶が終わった時、丁度はる兄が駆け付けた。
「加藤先生、秋風梨の事ありがとうございました」「いえいえ。秋風梨さんって恵莉ちゃんと同じくらい可愛いね」
諄先生が禁断の事を言って私は焦った。
「あの、そういう事言ってくださるのは嬉しいんですけど、はる兄の前では言わない方が...」
私は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「もしかして晴輝先生と彼女は...」
「はい...その通りです」
私は苦笑いしながらそう言った。
「少し残念だなぁ、一目惚れだったのに」「先生、いくら先生でもそれだけは譲れません!」
はる兄の目力が強かった。「安心してください。人のものを奪うほど俺は卑怯じゃありません」
はる兄はほっとしたのか笑みを見せた。
その後秋風梨は1週間休んですっかり回復した。
はる兄の意外な一面を見た時間だった。