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小さな決意と書いて成長と読む

 民主主義は対話的である。

 それは、個人が考え、決定し、意見する権利を持っているからだ。

 ルカとトーリの言葉が三人には相当堪えたのか、俯いて最初のころの元気もなくなっている。

 三人の年齢を考えると、言っていることは少し厳しいかもしれないのだが、甘やかすだけが優しさではないと知っている彼女たちだからこその言葉なのだろう。


 ともかく俺の番だ。

 たとえ三人に嫌われたとしても言うべきことはちゃんと言わなければいけない。


「わかっていると思うが、俺も反対だ。

 ネク、最初にあの犬を拾った時にお前は言ったよな? 『しばらく面倒をみる』だけだと」


「……うん」


「俺はお前のその言葉を信じて許可した。あのとき最初からお前が飼うって言っていたのなら、俺の答えは違っていたかもしれない。少なくともその場で許可はしなかったよ。

 だから今になって飼いたいって言うのも許さない。卑怯だからな」


 どこの口がそれを言うんだか……


 本当に卑怯なのは自分であると自覚していた。

 あの犬を魔物だと言っていないこと、それを隠すために嘘をついたこと、心を読んだこと、そして自分のために今また彼らを騙そうとしていること。もし真実が暴かれれば全て俺が悪いことは明白だった。

 しかし罪悪感は胸の中で殺し、予定通りにことを進めるために演じ続けることはすでに決めていた。


「それに、犬にはノミやダニっていう人の体にも悪い虫が住み着いているからな。

 ネクの体を考えるとやっぱりうちでは飼えない」


 実は魔物であるなら魔力で体を覆っているため、特別な理由がない限りはダニやノミなどの害虫はついていないのだが、あえてダニやノミがいる前提で話をした。

 すると、ネクの体のことを気にかけてミーリィとユーリィの表情から諦めの色が見え始める。おそらくもう一押しすれば二人は折れるだろう。

 後はネクだけだと思って様子を見てみるが、顔を俯かせて表情が見えない。


 さすがに言い過ぎたか?


 俺が家族会議を始めた理由は誰かを糾弾するためや、自分の意見を家族に押し付けるためではない。生まれや育ちが違う俺たちがちゃんと家族としてやっていくために、家族に関することは皆で話し合って皆で決めていくべきだからと思ったからだ。

 だから、言ったことは後悔をしているわけではなかったが、言葉はもう少し選べたかもしれない。

 そんなことを考え、ネクに声をかけようとした瞬間、彼の顔が上がった。


「兄さんが言ったこと。トーリ姉さん、ルカ姉さんが言ったこと。僕なりに一生懸命考えてみた。みんな、僕たちのことを考えて言ってくれたんだよね?

 たしかに僕たち、ううん、僕は飼いたいって言ったとき、自分のことしか考えられていなかったし、そんな僕に飼う資格はないのかもしれない……でも、それでも僕はあの犬を飼いたい」


 少し泣きそうな声で、だけれど決して挫けない強さを持ってネクは続ける。


「あの犬は僕なんだ。弱くて、臆病で、一人じゃ生きていくこともできない僕。

 でも、そんな僕を兄さんや姉さんたちが受け入れてくれた。家族にしてくれた。

 あの日、兄さんたちがしてくれたことを今度は僕が誰かにしたい。だって、僕だってこの家族の一員なんだから」


 子供の成長は早い。ついこの前までは立たせることすらできるか不安だったのに、今ではもう一人で立ち、前に歩き出そうとしている。

 二度目の人生だからか、つくづくそう思う。いや、俺が成長できていないから相対的にそう見えるだけかもしれないが。


「……僕はこの体だから、ルカ姉さんが言ったように毎日面倒を見るのは難しいかもしれないし、アーサ兄さんの言っていた体に悪い虫のこともどうしたらいいのかわからないけど、僕頑張るから。だから……」


「私たちも毎日ヘルヘルの面倒を見るからお願い!」


「……犬についても勉強する」


 強い意志は波及する。それが純粋であればあるほどより広く。

 ミーリィとユーリィの表情からさきほどの諦めの色はすでに払拭されていた。


 あえて言うのなら、わがままを自分だけで背負うのではなく、他人を巻きこむことができれば一人前だ。しかし、今の彼らならこれで十分だし、逆にそこまでされると今度は俺の立場がなくなる。

 ネクがこんなことを言うようになっていたのは完全に想定外であり、予定通りにことを運ぶための難易度は上がったが、彼の成長は素直に喜ぶべきことだろう。


「別にお前たちに全てを押し付けるつもりはないよ。

 あの犬を飼うことになったら家族みんなで面倒を見る。それが当たり前だ」


 個々の決定は個人が責任を負わないといけないが、家族の決定は家族全員が責任を負う。

 それを約束するために家族会議を行っているのだ。議論をしているときの立場がどうであれ、それは変わらない。

 だからさきほどのトーリの苦言も、一理あるのだが、俺個人としては彼らが反省する点はあったにせよ、犬の面倒の全てをやる必要はないと考えている。だからあえてそこらへんの話は蒸し返すこともしなかった。


「だけど、俺が反対なのは変わらないけどな。

 俺からは以上だ。最後は、アンヌの番だな」


 家族会議は終盤に向かう。今のところ賛否は三対三。つまり、この会議はアンヌが全てを握っている。

 会議が始まってから未だしゃぺっていない家長に家族全員の視線は集まった。

設定8

 魔物の大きさは、最低でも小型犬ほどの大きさであり、虫の魔物はほどんどいない。

 これは、魔力を持っている動物を魔物と呼ぶことが定義上決められているため、知能がない虫や小型犬以下の脳しかない小型動物には魔力がもてないからである。(ただし、脳が大きい=魔力を持っているとは限らない)

 一方で、虫や小型動物の身体的特徴を有している魔物は存在し、それらは同種の動物を操ることができる者も存在する。


-「魔物基本情報と対処法」 マーシャル博士著-


次回更新10月15日

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