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予想外の味方と書いて失敗と読む

「……いや、ちょっとな。それよりどうしたんだ?」


 突然現れたネクに驚きながらも平静を装う。

 『致死性』などリスクが高い能力でことをすませただけに、昼のリハビリにはまだ時間が余っているはずだし、そこまで大きな物音もたてていない。

 ネクだって日頃からずっと部屋に閉じこもっているわけではないが、魔物が来た時を考えて倉庫とネクの部屋は一番遠くになるように配置したのだから、偶然ここに来たとは考えづらかった。


「……調子が良かったから、ちょっと散歩しようかなと思って」(ルカ姉さんが隠したお酒探しているって言わない方がいいよね?)


 ネクから見えた本音にあきれる。

 もちろん、あきれる対象はネクではなくて、探すように頼んだであろうアンヌに対してだが。


 ルカにばっか負担かけさせるわけにもいかないし、今度からアンヌの禁酒には俺も手伝おう……ん、あれ?


「と、ところで兄さん、それ犬……だよね? どうして……それに、兄さんの右目のものって何?」


 『読心性』を付与できるようになったとき、使う際に気をつけようと思っていたことが2つある。

 一つ目は、実用的なこととしてなるべく相手にばれないこと。

 二つ目は、自戒的なこととしてなるべく知り合いには使わないこと。特に、家族に対しては今まで使ったことはなかった。

 しまった。と後悔しながらも、まだこの魔犬のスキルを確認できていないことが外すことを躊躇わせる。外せなくても付与している能力をいったん消すなどの方法もあったのだが、それに気づかないくらいに焦っていた。


「えっと、これはだな……」


 どう答えるのが正解だ?


 また、この魔犬のことを隠すことも頭を悩ませた。

 妖精を呼び出したことによる魔物の出現は一時的なものであるが、ネクにも妖精に関しての話はしていなくてその説明ができない。そのため、こいつが魔物であるという事実を隠さなければ家族たちに魔物がまた現れるのではないかという恐怖からの心労を与える可能性を俺は恐れていた。


 魔犬の様子をチラっと伺ったが、ネクの登場で空気が変わったのかぎとったのか、この場は静観するようだ。


 幸い、こいつは犬の見た目と遜色ない。こいつが魔力や言葉を発しない限り、魔物だとはばれないよな……誤魔化せるか?


 この判断が魔犬の、ひいてはネクの運命も変えることになるのだが、そんな未来などこのときの俺に知る由もなかった。


「これは……そう、この犬が怪我してここにいたから、この眼鏡を使って傷の様子を見ようと思ってな。簡単なものなら家に連れて行って治療できるし」


 結局、事前対応を誤った俺は、片眼鏡(能力)のことを隠すか、魔犬のことを隠すか選ぶことができず、どちらも中途半端な答えを選んでしまった。


「怪我? あっ、本当だ」(酷い。いったい誰が……)


 ネクは魔犬のほうに近づいていき、傷口を確認する。

 まだ麻痺が効いているので、反撃をくらうことはないと思うが、できだけ早くネクをこの場から離さなければ。


「……ねえ、兄さん」(うん、これならいける)


「へ?」


「約束破ってごめんなさい。……『魔道五式、光魔の癒し』」


 魔犬に向かってかざされた両手の平から流れでた淡い光は傷口に集まり、塞いでいく。


「ふう……」


「……嘘だろ」


 一定時間魔力を放出し続ける治癒の魔道は体力の消耗が激しいはずだが、体の弱いはずのネクは特に息切れをすることなく平然としている。だが、驚いたのはネクがそんなことや魔道を使ったことではない。

 今はまだ魔道を使うことはおろか学ぶことを禁止している約束を大人しいネクが破ったことが俺の頭の中を混乱させていた。


「これでもう大丈夫だよ。……あれ?」(動かない。失敗しちゃったかな?)


 魔犬が動けないのは、ナイフの刃先に塗った(即効性を付与ずみの)麻痺毒が原因なのであり、ネクの魔道はちゃんと成功したのだが、今はそれどころではなかった。


「……ネク」


 呼びかけたものはいいものの、次の言葉が出てこない。

 魔道を禁止したのはネクの体を気にかけてのことだったので、怒るつもりはなかったのだが、読んだ後に無言なのを深読みしてかネクは少し怯えていている。


 何を言えばいいのか悩んでいた俺は、現在の状況を完全に忘れ、隙をつくってしまっていた。


(……ここが好機!!)


 動けないからと安心していたが、ここにきて沈黙を貫いてきた魔犬が突然不穏な雰囲気を醸しだす。

 しまったと思った時にはもう遅く、魔犬は最後の切り札をきった。


「クーン」


「え?」


 魔犬がやや高い声で鼻を鳴らす。もちろんこれは、言葉ではなく鳴き声だ。

 そして、この犬の鳴き方はこの世界でも同じ意味をなす……そう、甘え鳴きだった。


「クゥ~ン、クゥ~ン」(どうだ、人間! これで攻撃できないだろう!)


 プライドを捨て、まるで飼い犬のようにネクの足元でじゃれつく魔犬。

 現在も心を読んでいる俺にとっては茶番でしかないのだが、この上なく的確な行動にこれ以上の手出しを完全に封じられる。


「ねえ、兄さん……」


 ああ、待ってくれ。それ以上は……・


 今は心が読めてしまうゆえに、ネクが何を言うのかわかってしまう。いや、心がよめなくても今のネクの目を見れば予想はつく。だが、俺にそれを止めることはできない。


「この犬、しばらくうちで面倒を見ちゃ駄目かな?」


 ネクは魔犬を怯えさせないような優しい声で俺を後悔させる。

 自らついた最初の嘘が反対する理由をなくさせるのだ。


「……そうだな、いいぞ」


 こうして、家族の一員として魔犬(番犬)が加わったのだった。

 ちょっと面倒を見るだけといって、結局その動物を(今回の場合は魔物だが)飼うことになるのは、どの世界でも常である。

設定6

 魔物と動物の違いは魔力のあるかないかでわかれており、現状魔力があるほうが魔物、ない場合は動物と定義している(人は除く)。

 さらに魔物は個々が本能だけに従って動くものを低位、同種で群れをなして統率をとれるものを中位、言葉を操り、デブリや多種の魔物も操れるものを高位とランク分けされている(強さによるランク分けではない)。


-「魔物基本情報と対処法」 マーシャル博士著-


次回更新10月5日

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