表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/30

一人七色(職)と書いて能力(チート)と読む

 犬型の魔物が倒れているのを見ながら、探知性(たんちせい)を付与したモノで周囲を探る。

 会敵は魔物たちに話しかける事前にもやっていたが、後になって仲間や他の勢力がやって来る可能性はある。

 しかし幸いにも、今回はこれ以上の追撃はなさそうだ。


「さて、体を切ったがそこまで深くはないはずだ。口は動くだろ?」


 地面に横たわった魔物、もとい魔犬に近づき、上から見下ろす。

 魔犬のわりには、大きさは中型犬ぐらいの大きさで、身体的特徴も銀色に近い灰色の毛並みぐらいで普通の犬とはそこまで違いが見られない。


 この魔物ってたしか、ヘルハウンドだったか? 初めて会ったな。


 魔犬は頭を起こしてこちらを睨んでくるが、体のほうは麻痺により動けないので反撃はできないはずだ。


「さっきにも言ったとおり、お前にはいくつか聞きたいことがある。嘘をついてもわかるが、なるべく正直に話してもらうとこちらとしても助かる」


 一応そう言ったが、実際に相手が正直に答えたことはなかったため、着ていたローブの懐から度のないレンズだけの片眼鏡を取り出し、右目にはめる。薄い青緑色でコーティングされたそれにはすでに『読心性どくしんせい』を付与していた。


「さて、まずお前に聞きたいこと……確認になるんだが」


 この魔犬を捕らえたときに最初に聞く質問は決めていた。


「お前、本当に人を殺したのか?」


「殺したさ。覚えきれないくらいにはなあ」(人間を殺すなんてハイリスク、普通はしねえよ!)


 言葉とは裏腹に、予想通りの返答が見えたことに得心がいく。

 さきほどの会話や戦闘を通して感じたこいつの性格は慎重かつ臆病。事前に考えてからじゃないと行動に移せないであろうことはわかっていた。

 したがって、このての性格の持ち主は、いくら魔物であろうと、衝動で人間を襲うなんてことはしないだろうし、人間を傷つけることで受ける報復のリスクを考えるとまず人は殺さない。それでも殺したと自称するのは何か理由があるはずだが……


「さて、次の質問だが……」


 続いて情報を得るために質問を考える。

 心が読めるのだから、聞きたいことを率直に聞けば問題はないのだが、心を読んでいることはばれないようにしなければならない。


「お前たちは何をしにここに来た?」


「……俺様はとある高位なお方の腹心でな、ここの調査をするためにやってきた」(エサを食べにやってきただけだ)


「どこから来た?」


「北のはてにある高位な魔物たちがひしめく大山脈、お前たち人間はたしかギガノ山脈とつけているところだ」(本当はその手前のペルノ山だけどな)


 『読心性』を付与した片眼鏡のレンズ越しから覗くことで目の前の魔犬現状考えていることを読み取る。

 予想はしていたが、こいつらは妖精(魔物はよくエサと呼ぶ)を狙ってやってきたようで、同じような回答は以前にも別の魔物から聞き出したことがあった。どうやら魔物にとっての妖精は栄養価の高い食べ物のような扱いで、今朝のように妖精を彼らが住んでいた野菜から外に出すと、その痕跡をたどって魔物がやってくるのだ。


「他の仲間は?」


「俺があの方の元に戻らなければ、さらに五十体の魔物がここに攻め入る予定だ。なあ、ここは取引をしないか?」(お前に倒された部下たちで全員だよこんちきしょう!)


 なるほど、こいつの言うあの方(架空の存在)の脅威をでっちあげるために人殺しを自称したのか。

 人殺しをしたことのない魔物なんて怖くないもんな。

 でも、心を読んでいるからバレバレなんだけど。


「お前の『スキル』はなんだ?」


 この世界において、魔法は大雑把に二つ存在する。

 一つはトーリのように呪文を唱え、魔力によって物理現象を変化させる魔道。

 もう一つは、個人または種族の特性を魔力によって強化するスキル。

 どちらも魔力によって発動するのは同じだが、それ以外のところでいくつか違いが存在する。

 魔道は使えるのが先天的なセンスが必要な反面、もし魔道が使える者は理論上は全ての魔道を習得できる可能性がある。

 反対にスキルの方は魔力を持っているなら肉体強化ぐらいは誰でも使うことができるが、強化される特性については完全に個々の素質によって決まるため、生まれ持っていないスキルを新たに獲得するのはまず不可能である。


 魔物で魔道を使えるものはめったに見たことはないが、反対にスキルを使う魔物なら数え切れないほど見てきたため、目の前の魔犬に聞いたのだが、臆病なこいつにただ淡々と質問することは逆効果だったようだ。


「お、おい、聞いているのか? 魔物が五十体、遅くても明日にはここに来るんだぞ!? 今、俺を解放すれば特別にこの場所を見逃してやるから……」(何故だ!!? もしや、俺様の嘘がばれている? ……いや、そんなはずはない。精神感応のスキルにもしっかり魔力で守っているはず。それに、いまだにこいつからは魔力を感じないではないか!)


 この後も予定が詰まっているから、なるべく早く終わらせたいんだけどな。


 片眼鏡に付与した場合の読心性の能力は、魔力で発動しているわけではないので、たとえ相手がどれだけ魔力があろうが、防がれることはないのだが、いくら心が読めても違うことを考えられていると知りたい情報を得られないという欠点はあった。

 この魔犬のスキルを探るために、今度は誘導しながら聞くことをしようとした俺の前に意外な人物が現れる。


「……兄さん、何をしているの?」


「!」


 知っている声が聞こえ、その方向に振り向く。

 俺と魔犬がいるところから離れた壁に、そこにいるはずのないネクの姿があった。

設定5

 異世界に転生した俺はある能力(チート)を持っていた。その能力は端的に言うと、触れたモノに特性を与える能力。

 この能力を自覚した当初は、これも魔道やスキルの一種かと思ったが、俺自身に魔力がないため、別物であるというのが現状の認識だ。

 現時点では直接的には(生物を除いた)モノにしか特性を与えることしかできなく、またいろいろ共通の制約と特性ごとの欠点があり、最強(チート)ではあるが、無敵(ばんのう)とまではいかない。しかし、魔物が出るこの世界においてこの能力がなければ生きていないだろうと思うほどには有用な能力だ。

 今現在、付与できる特性としては、治癒性(ヒーラー)読心性(シャーマン)探知性(ハンター)即効性(メイジ)耐久性(タンク)隠密性(シーフ)そして致死性(キラー)

 どれも一癖あり、容易に扱える能力ではないが、俺がこの世界でやっていくには、これらを最大限に使いこなす必要がある。もうこれ以上大切なものを失わないためにも。


-アーサ 日記より-


次回更新9月30日

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ