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能力の過信と書いて油断と読む

「クエストを受けたのは私なんだし、アー君は来なくてもいいんだよ?」


 結局あのよくわからない議論の結果は、予想通りルカが勝ちを収め、一度家に帰った俺とルカは山登りの準備をしていた。

 太陽はまだ天頂を越えていないため、今から行けばおそらく夕方には帰ってこれるだろう。


「そんな服装で何言ってんだよ」


 俺の服装は動きやすさと肩からかけている道具かばんの取り出しやすさを重視したものなので、鎧がなく袖付きのベストに長袖のシャツという軽装なのだが、ルカの服はそれ以上に薄い。

 白色の半そでシャツに膝丈ほどのぴっちりとしたパンツ、くるぶしまでしかないシューズは山登りどころかとても今からクエストに行くようには見えないだろう。というより、普段街に行く時だってもう少し着ている。


「だって、エマちゃんがユニコーンは警戒心が強いからなるべく薄手の恰好した女性じゃないと近づけないって言ってたし……」


 露出した女に弱いっておっさんみたいだなと思いつつ、あっちの世界でのユニコーンの話を思い出す。


 そういえばユニコーンをあの世界で捕まえる方法って……いや、深く考えるのはやめよう。しょせんあっちの世界の作り話だし、もしあっちの世界の神話に沿うならこの世界でユニコーンが温厚な魔物だと言われていないはずだ。


 年頃ではあるが、ルカからそういったういた話を聞いたことはない。

 それは、表面上には出すことはないけれど、心の奥底にある俺の身勝手な独占欲を満たす。

 だが、俺に彼女を縛る資格なんてないのだから、将来的には家族としてその欲を克服しなければいけないだろう。


「それに、エマもたぶん俺にも行かせるために、あの時俺に声をかけたんだろうし……あ、ちょっと待って」


 それより、気になるのはユニコーンの角のことだ。

 あっちの世界では、その角は万病を治す作用が力というのは有名だ。

 こっちの世界でそういったことを聞いたことはないが、わざわざ角を標的として設定するぐらいだから何かしらあるかもしれない。

 ユニコーンの存在を知ったときも、実際に実証してみたいと思っていたことだが、実際のユニコーンの情報が入ることなく諦めていた。そう考えると、今回のクエストはまさに絶好の機会といえるだろう。


「ルカ、ほらローブ。これならユニコーンを見つけたときにすぐに脱げるだろ?」


「う、うん、ありがと」


 俺が普段使っている旅用のフード付きローブを渡す。外側は黒色だが、内側に茶色の布地を縫い付けてあるそれには耐久性を付与しているので、今日一日ならどんな攻撃も防ぐことができるはずだ。

 欲をいえば、自分の装備にも耐久性を付与したいところだが、俺の能力には、同種の特性を同時に発現することはできないという制約があるため、諦めるしかない。


「ん? どうした?」


 ルカがローブを受け取ったまま動かない。

 何か気になることがあり、着るのをためらっているのではないかと心配になったが、幸いにも違うようで、呼びかけに気づいたルカはすぐにローブを上から羽織り、顔を隠しているフードを下げると目じりを下げてニコニコ笑った。


「えへへ、当たり前だけど、アー君の匂いがするね」


「……同じ家に住んでいるんだから、匂いの違いなんてないだろ」


 その発言の真意はわからないが、とりあえず悪いことではなさそうだ。

 臭いとか言われなくて安心したのは秘密であった。



 俺とルカはラグナ山の麓に到着すると山頂に向けて歩を進めた。

 ラグナ山は山というよりも丘に近く、全体的に斜面はゆるやかな傾斜であり、特別な準備がなくても登ることは難しくない。


 雨が降っていた昨日とは一変して、青空が雲一つなく広がっている。

 木漏れ日が降り注ぐ程度に生えそろえられた木々の間を歩くことは、森林浴を満喫しているように思われるかもしれないが、当然なるべく危険のない道を選んでいるだけだ。


「ここで少し休憩しようか」


 俺とルカが山に入ってすでに一時間経過しいていた。だが、当然そんな簡単にユニコーンが見つかるはずもなく、足跡などのそれらしい痕跡すら発見できていない。


「まだ私は平気だよ?」


「そうかもしれないけど、目的は山を歩くことじゃなくて、ユニコーンを見つけて、角を取ることが目的だから、ずっと歩くことが正解とは限らないんだよ。

 せっかく見つけても、その時点で体力が尽きていたら話しにならないし」


 こっちの世界ではまだ体力が基本資本なので、ルカでもあっちの世界の一般人よりは体力はある。

 しかし、今日はすでに街までの一往復を終えたあとだ。まだ息をきらすような見える疲れはなくても体の奥底にたまっているのは間違いないだろう。


「そこで休んでいてくれ。俺は水筒の水がきれたから川を探してくる」


「だったら私も」


「二人で行ったら休憩の意味がないだろ? 大丈夫、すぐ戻ってくるから」


 ルカを倒れている乾いた大木の上に座らせ、ローブだけは絶対に脱がないことと、魔物が来たら逃げるように指示した後、踏み固められた山道からそれて草木が茂った横道に入る。歩いているうちにぬかるんだ土が服を汚していくが、川に行くまでの近道ではあるので、ルカをなるべく一人にしないためにもしょうがなかった。




 最短経路で移動したかいもあり、ルカと別れてから十分もせずに川にたどりついた。

 昨日の雨の影響か、いつもより水位が少し高くなっているように感じているが、濁っているわけではないため問題はないだろう。


 肩掛けの道具かばんから灰桜(はいざくら)色の金属製水筒を出すと、水面より下に沈ませた。

 水筒が水でいっぱいになると引き上げ、蓋を閉める。こっちの世界なら水の補給はこれで終わりだが、山の水には目に見えない細菌や寄生虫がいる可能性があると知っている俺は、念のためいつも殺菌を行っている。


 煮沸するのが安全なんだろうけど、やっぱり致死性でやる方が手軽だよな。


 左手は水筒の蓋に、右手は水筒の底に触れ、周りになにも問題になりそうなのがないのを確認してから致死性を与える。

 致死性を与えられた水筒を振ることで殺菌ができるのだが、これは危険な作業でもあったりする。他の特性は、特性を与えた道具によって発動の形式や能力が微妙に変わるのだが、致死性だけはどんなものでも触れた者に死を与えるという同一の発動を行う。

 今は触れたまま致死性を与えたから平気だけれど、水筒が体から一瞬でも離れた場合、致死性は俺にも牙をむくだろう。

 もちろん、体から離れても水筒から致死性を取り除くことはできるが、何かの拍子に手を滑らして致死性を解除を試みる前に水筒が体にぶつかってしまって死ぬ危険性というのはある。


 致死性なら本当に豆腐の角に頭をぶつけて死ぬことだってできるから使いづらいんだよな。

 この世界に豆腐があるかは知らないけど。




 水筒の消毒を負え、致死性も解除すると水筒を道具かばんの中に戻す。

 後は、ルカの戻るだけなのだが、実はわざと水筒の水が途中でなくなるようにしてまでルカと離れた狙いがあった。


「よし、今のうちに」


 道具鞄から探知性を付与した音叉を取り出すと近くにあった木にたたく。

 青銅混じりのそれからキーンという少し鈍くも高い音が一瞬鳴った後、音叉を持った手から伝わる振動をもとに頭の中に情報が入り込んでくる。探知性を付与した音叉は、擬似的なソナーの役割を持つことができるようになり、音が届くとは思えない数キロの先の生物情報を感知することができる。

 山に登っている最中もときどき音叉をたたいていたのだが、ルカにばれないようにしていたため、周りに危険がないか程度の把握しかできなかった。なので、ルカと離れた今が情報を掌握するためには絶好のチャンスなのである。


 人間が五人に、デブリが八体、魔物が二体か。


 人間のうち一人はルカとして、残り四人は同じ場所に存在している。おそらく狙いは同じだろう。

 この山には討伐するような魔物やデブリはほとんどいなく、交易するにしても他の道で行ったほうが早い。正式にクエストを受注しているかは知らないが、たとえ受注できていなくてもとりあえずユニコーンを捕獲して、クエストが貼られた直後に素知らぬふりをして仕事を達成したことを報告すればいい。

 あっちの世界ではそういうマッチポンプ的なことに厳しいが、こっちの世界ではそこらへんの取り締まりはまだ緩い。だからといって、俺らの現状も似たようなものだから、特に責める気もない。

 もっともそんなことを考えている時点であまり信用できない人格だろうから会う気はもともとなかったが。


 魔物が二匹か。これのどっちかがユニコーンだったら嬉しいんだけど、まあ期待しないほうがいいか。


 探知性に反応したのは二体だったが、この山全てを感知できたとは限らないので、この二体の魔物を調べた後、山頂に向かうことに決める。

 最後に確認のためもう一度、音叉を鳴らし、ポケットに入れようとしたが、このときある異変に気付いた。


「あれ?」


 魔物の反応が一体増えている。


 しかもその位置はルカのすぐそばにあった。


「!」


 理由を考えるよりも早く、ルカの場所へと駆ける。

 途中、木の枝が擦れて体に傷をつくっていくが、体から流れ出たアドレナリンは痛みを無視して一秒でも早くその場所へと向かわせる。


「ルカ!」


 五分もしないうちに、休憩場所にたどり着くと一縷の望みをかけて大声で彼女を呼んだ。

 しかし、そこにルカの姿はなかった。

設定14


クエストの受けるときの注意事項

・クエストを受注した場合、受注した本人がちゃんとクエストに関われば他者とパーティーを組んでクエストを達成することは原則かまわない。しかし、クエストによるギルドポイントが入るのはあくまで受注者本人であり、パーティー内の報酬の分け方にギルドは関与しない。

・狩猟や採取に関わるクエストで、対象となる生物が存在しない場合やどうしても狩猟が困難な場合に、受注者はその理由書と調査報告書を提出することで依頼主から報酬の一部(最大8割)を受け取ることができる。


-商工会・討伐・冒険ギルドの共通ルールについて エルシャナス著-


次回更新 11月15日

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