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エマのおつかいと書いて依頼と読む

「そういえば、エマちゃんってどうしてここに来たの?」


 申請は無事受理されたが、事務処理と爵位用ギルドカードへの更新するため再度待たされることになったルカが戻ってきた。


 たしかにルカの言うとおり、エマのやつ、いつの間にいて自然に話していたな。

 なんでだ?


「それはですねー。お小遣い稼ぎです……って、どこに行くんですか!?」


「アー君!?」


 ルカの手を引いてギルドの外に向かう。

 ギルドのカードはまた明日にでも取りに来ればいいだろう。


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」


 珍しく焦った様子で背中からエマが抱きついて止めに入る。

 そのまま引きずってでも行きたかったが、絶対に離しませんと言われ、諦めてテーブル席に戻り話を聞く。

 さすがに貴族の令嬢をひきずるという行為はまずく、もしその現場が貴族や城下町の憲兵に知られたりしたら投獄される可能性すらある。


 こいつ、そこまで計算して抱きついたんじゃないだろうな?




「なんで逃げたんですか?」


「お前の小遣い稼ぎで俺が何度犠牲になったと思っている?」


「えっ? えっと……二、三回くらいでしょうか?」


「そんな少ないわけないだろ!」


「アー君、何かエマちゃんとあったの?」


「……学校に通っていたときのことだ。こいつに小遣い稼ぎと誘われて散々酷い目にあったんだよ。

 蜂に追いかけられたり、蛇を捕まえることになったり、学校の倉庫屋根の補修をやったり、そうそう、教師全員と戦うことになったこともあったっけな」


「あ、あははは……そんなこともありましたっけ?」


「あったから言ってんだよ!」


 エマと今までやったことはいつも責任をとらざるをえない問題に発展してもおかしくなかった。

 そう考えると、あのことがなくても俺が学校を辞めるのはどのみち規定路線だったのではないかと思えてきて少し虚しくなる。


「きょ、今日は大丈夫ですよー? お小遣い稼ぎっていっても、お父様から頼まれたおつかいですし」


「おつかい? なら、なんでギルドにいるんだよ?」


「おつかいっていっても、買い物じゃなくて、用事のほうです。

 ギルドにこの依頼書を出しに来たんですよ。ね! 大丈夫でしょう?」


 エマは自分のバックから紙を一枚取り出し、こちらに見せてくる。

 そこにはたしかにエルシャナス氏のサインが書かれていた。そして、依頼内容には、


「『ユニコーンの角の採取』?」


「ユニコーンって、あのユニコーン?」


「そうですね、鋭利な一角に白い体毛を持った馬の魔物です」


「これまた珍しい依頼だな。というより、ユニコーンなんてこの辺で見かけたことがないんだけどいるのか?」


「それがですね、どうやら最近になって目撃情報が増えていまして、昨日もラグナ山のほうで、見かけたって報告があったんですよ」


 ラグナ山は城下町の近くにある小さな山だ。

 ふもとから約二時間ほど歩けば山頂につき、道中も害のある魔物に出くわすことは滅多にない。

 また、クエストでの用事がある魔界大陸まかいたいりくのうちの一つに行くにはちょうどいい近道なので俺もたびたび利用している山だった。


「たぶん角の生え変わりの時期なんじゃないかってお父様は言っていました」


 この世界のユニコーンは角が生え変わるとき、一定のところに留まる習性があるらしい。

 ちなみに元あった角は根元からポッキリ折れて、また新しい角へと成長していくそうだ。


「そうなんだ。でもこれって商工会ギルドに依頼でいいの? 別のギルドのほうが合っていると思うんだけど」


「冒険者ギルドや討伐ギルドに依頼するとユニコーンごと狩りかねませんからね。

 あくまでいることの確認と保護をかねて角の採取と決めたらしいです」


 たしかに魔物でありながら気性的には穏やかで人に危害を加えた実例がほとんどないユニコーンなら普通の人でも問題はないはずだ。さらにユニコーンの角は傷つきやすいと聞くので、物品を扱うことに長けている商工会ギルドの人間に頼んだほうがいいのかもしれない。

 しかし、俺には依頼書のところでどうにも気になるところを見つけた。


「なあ、エマ。これってクエスト受けるのに爵位制限があるんだが?」


「そ、それはですね、いくら安全性には問題ないっていっても、そこらへんの人に任すのは心配じゃないですか。やっぱりある程度実績がある人に任せるべきじゃないかと……」


「それとバロン以上の爵位を持つ人が受注可能って書かれているんだよなあ」


「……い、いやだなー、疑っているんですか?

 ルカさんだってバロンになったのは今日じゃないですか。いくら私でもそんな予知みたいなことができるわけないじゃないですよ」


 ……こいつ、しらを切るつもりだな。


 たしかにいくらエマでも今日ルカがバロンになるのを予見するのは難しいだろう。

 しかし、今日に限らなければ話は違ってくる。

 例えば、このユニコーンの依頼書を数日間保持しておき、ルカがバロンになったときに偶然を装って依頼を出すことなどぞうさもないだろう。ルカがバロンに上がりそうかどうかは本人に仕事の状況を聞けばエマなら推測できるはずなのだから。

 だが、これもあくまで仮説であり、そうであるという確たる証拠はないため、これ以上追及することもできずどうしようと思っていると、隣のルカが口を開いた。


「アー君、私これ受けてもいい?」


「……ルカ、いくら友達だからってここで情けをかけてもお互いのためにはならないぞ」


「情けとかそういうのじゃないよ。ここ見て」


 ルカが指を指したのは依頼書の追加報酬欄。

 そこには鎧や剣などの武具の他に卓上織機という報酬としてはあきらかにおかしいものがまじっていた。


「これ私のために入れてくれたんだよね?」


 ルカの裁縫技術は確かなものの、簡単な裁縫道具しか持っていないためできる仕事は衣服の修繕や簡単な縫い物や編み物しかできずにいた。それがこの卓上織機を手に入れたらもう少しは幅が広がるだろうし、もしかしたら簡単な服を作れるようになるかもしれない。


「そ、そんなわけないですよー! 私はただお父様のお使いできただけですし……」


 はあ、まったくなんでこいつは……


 俺にはまだエルマティス=アルケインという人物がどういった人間なのかはつかめてはいない。

 自分の都合のため他人を動かそうとしている節はあるので、少なくともただの善人ではないだろうし、本人にもその自覚があるから接し方には気をつけているのだろう。他人には敬語を禁止しておきながら、エマ本人はややくだけた敬語を使うのは、他人の懐に入りつつも決して深入りはしないようにしているに違いないのだから。


 しかし、彼女が利己的な人物であるかといわれたら間違いなく違うわけであって、彼女は自分だけが得するのを良しとはしない。

 蜂や蛇の件は、街から危険を取り除くためだったし、学校倉庫の修理の件は、修理担当の用務員さんがぎっくり腰で動けなかったし、先生たちと戦うことになったのは、誰かの闇属性の魔道が暴発してしまい、暴れだした先生たちを抑えるためにはしかたのないことだった。


 そう考えると、彼女には誰かのために動ける善性はあるのだが、本人としては善意を悟られることを恥ずかしいようで、顔を赤くして依頼書をしまおうとする。


「や、やっぱりなしです。このクエストはまた今度出します」


「じゃあ、エマちゃんがそれを出すまで私、ずっと見張っておくから!」


「ぐぬぬ、じゃあこの卓上織機はお父様に言って追加報酬から外してもらいますよ?」


「それでもいいもん!」


 もはやなんの口論をしているのかよくわからないルカとエマをしり目に、どうせ受けることになるんだろうなと思いつつ、モロコーのバター炒めを食べつつ、グラスをかたむけるのであった。

設定13

 条約第89条

 この街において、基本的に街の住人ではないものに職業に密接に関連する道具(織機や鋳造用の器具など)を売ることは禁ずる。

 この場合の街の住人というのは、城下町に住居を持っているものをさし、たとえザスティン領に住み、城下町内に職があるものでも城下町外に住居があるなら街の住人のカテゴリーから外れるとする。


-「ザスティン領 基本条例一覧」 エルシャナス=アルケイン著-


次回更新 11月10日

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