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異世界での再開と書いて希望と読む

「……ねえ、私どうしたらいいのかな?」


 夏祭りの日、花火が照らす夜空の下で俺は幼馴染の女の子から相談を受けていた。

 もしこれが恋愛相談なら彼女が好きだった俺は相当なダメージを受けただろう。

 しかし幸運にも……いや、不幸にも相談内容は彼女の家庭の不和に関することで、そのとき正真正銘十二歳だった俺には重すぎる内容だった。


「――」


 その時の自分が何を言ったのかはもう覚えていない。

 ただ、無責任でありふれた言葉を言ったような気はする。


「……うん、そうだよね。私がお父さんとお母さんを仲直りさせてあげないと」


 薄暗い中、花火を照明に笑う彼女を見て、これが空元気だと気づけないほど当時の俺は子供で、かといって何かをしたところで結果は変えられないほど無力だった。


「……またね、ばいばい」


 花火が終わった後、いつもの交差点で彼女と別れた。

 しばらくは会えないけど、きっと2学期からはまた会えるだろうという期待を持って。

 しかし、この日が俺と彼女があの世界で交わした最後の会話だった。

 初めて会ったとき、俺はルカが彼女の転生先であることがわかった。

 それは容姿が似ていたわけでもなければ、ルカが彼女の記憶を持っていたわけでもない。直感的にそうであると、理屈ではなく感覚で理解した。

 そして、こっちの世界(異世界)で俺を救ってくれたルカには感謝をしているし、あっちの世界(現実世界)では不幸な形で人生を終えてしまった彼女にはせめてこっちの世界では幸せになってほしいと思ったんだ。




 家族会議から数日後の朝、俺とルカは二人で城下町に来ていた。


「なんかこうやってアー君と出かけるのは久しぶりだね。あっ、右側に水たまりがあるから気をつけて」


 俺たちの住んでいる家は、人間側の三大大国における西側に位置するウルティアム王国、ザスティン領の城下町から少し離れた森林の中の一区画にある。

 学校もギルドも城下町の中にあるため、家から通うときは、俺とアンヌ以外は2人1組を原則にしている。

 城下町内に住めばそういった手間かからないのだが、住まないのはいくつか理由があり、今後もしばらくは引っ越すつもりはない。

 そして本日街に来たのももちろん仕事の用事があるからであり、荷物を載せた台車をルカは前から引っ張り、俺は後ろから押していた。


「たしかにそうだけど、そんなに喜ぶことか? っと、水たまりはこれか」


 鼻歌でも歌いだしそうなほどルカは上機嫌な声だ。

 今は位置的に後ろから彼女の亜麻色の長髪しか見えないが、いつもニコニコとしている彼女の顔が今日も破顔しているであろうことは(前世を含めて)十年以上の付き合いから容易にわかる。


「喜ぶことだよ。大好きな人と一緒に歩くってそれだけで幸せなことなんだから」


 若い男女(俺の場合、若いのは体だけだが)という間柄、周りから見れば恋慕の発言だと思われそうだが、ルカがそんなつもりがないことは百も承知している。

 素直な気持ちをまっすぐに伝えることのできる彼女は、彼女と親しい人、特に家族に対しては言葉を遠慮することなく使うため、第三者勘違いしそうなセリフを言うことは少なくない。


 しかし、俺は、体はともかく精神的には前世の年齢と合わせると四十を超えるのだ。

 今さら勘違いするような真似はしない。


 ただ、体の幼さや前世でのその手の経験が少ないことによる赤面くらいは許してほしい。

 好意を素直に受け取ることが苦手なだけだと自分の中で結論をつける。


 たぶん赤くなっているであろう今の顔を見られることのない位置関係に少し感謝した。


「幸せってそんなに簡単に使っていいのか?」


「……だってアー君が学校を突然辞めたちゃったから。どっかに行っちゃうんじゃないかと心配したんだよ?」


「それは……その、ごめん」


「謝ってほしんじゃないの。アー君がなんの理由もなく辞めたわけじゃないってわかるから。

 ただ、わがままかもしれないけど、私には事前に相談してほしかったなあって……」


「……」


「……あれなんだろうね、見世物なのかな?」


 何も返せなかった俺にルカは気を使って話題を変えてくれる。

 口先だけでも「わかった。今度からはちゃんと相談するよ」とすら言えない嘘つきの俺は、黙ってルカの優しさに甘えるしかない。


 ごめん。約束できないし、今後も皆を騙すことにはなるけど……絶対に家族だけは裏切らないから。


 そんなことを思いながらも、お互いの顔が見えない位置関係であることを安堵している自分がすごく嫌だった。




「おはようございます。本日はどのようなご用事ですか?」


「えっと、先週に受注したクエストのほうが終わりましたので、納品しにきました。これ、私のギルドカードです」


 商工会ギルド・ロレンスの受付で手続きをするルカを待合室のソファーから見守る。

 この街における経済は主に商工会ギルドが握っており、衣食住をはじめに交易や鍛冶などの元締めも行っている。

 そのため、商工会ギルドを敵にまわすと、貴族以上でない限りこの街ではまず生きていけないぐらい影響力があるのだが、裏を返せばそれだけ仕事も斡旋しており、この世界における大手派遣会社的な役割も担っている。


「ルシェルカさんですね。ドルマクス衣料品店様からの『衣服の修繕 十着』が受注されていることが確認されました。納品物のほうを検品いたしますので、しばらくお待ちいただけますか?」


「はい」


 ルシェルカというのはルカの正式名称だ。

 ここの国の出身の人は階級が貴族以下に属する人は苗字を持たないことが一般的で、名前が少し長く発音も少しややこしい。そのため、親しい間柄だと愛称で呼ぶのが普通だったりする。たとえばドルマクス衣料品店の店長も家族や友人からはドルと呼ばれているだろう。


 受付が衣服を持って奥に消えていくとルカもいったんその場を離れて俺の隣に腰かけた。


「大丈夫かな?」


「何が?」


「私が直した服、気に入ってもらえるかなって」


 商工会ギルドに登録しているルカは主に衣服の修繕についてのクエストを受注している。

 その技術の高さは料理の腕前と遜色ないほど高いのだが、本人はあまり自覚がないらしい。


「大丈夫だよ。俺が保証する。なんなら俺が買いとって着てもいい」


 俺は衣服については専門外だが、少なくともルカの技術がそこらのお店に並べられているものを直すのに不足しているとは思わない。


「ふふ、ありがと。でも、あれ全部女性向けの服だよ?」


「えっ?」


「まさかアー君にそんな趣味があったなんて……うん、私は大丈夫だよ? 気にしないよ?」


「いや、知らなかっただけだから! だからそんなに露骨に距離をとらないで!!」


 さっきまで隣に座っていたルカが一気にソファーの端まで移動する。

 お互いに気心がわかっているからできる冗談であるが、できれば家の外ではやめてほしかったと思いつつ、ルカを追いかけるのであった。

設定11

 ルカからの呼称一覧

 アンヌ→アンヌちゃん

 アーサ→アー君

 ルカ→私

 トーリ→トーリ

 ミーリィ→ミーリィ

 ユーリィ→ユーリィ

 ネク→ネク

 ヘルヘル→ワンちゃん、ヘルちゃん


備考:以前まで家族全員に「ちゃん」や「君」をつけていたが、トーリがぐれてから少し考えを改めて年下全員は呼び捨てにするようになった。


次回更新10月30日

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