異世界での日々と書いて日常と読む
基本的に設定は本文中で説明したいと思いますが、メタ的視点でしかわかりえない情報または都合上(力量不足で)説明できない情報は後書きのほうに随時書いていく予定です。
「……ねえ」
……ん?
「話を聞かせてほしいな。君の人生の話」
まだ人生を語れるほどたいして生きていないんだけど。
「そうだね。……でも、それはこの世界の話だろう? 君が言っていたあの世界……君の前世の話が聞きたいな」
信じていなかったんじゃないのか?
「今も信じていないよ。……でも、急に聞きたくなった……駄目かい?」
……わかった。じゃあ、何から聞きたい?
「なんでも、いい……なんでも…………君の話を聞かせて、声を聞かせて…………」
なら、最初から話すよ。俺が住んでいたのは……
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「……朝か」
朝の光で自然に目が覚める。
体を起こして改めて太陽を見ると、地平線からようやく離れたところで日差しはまだ熱を持っていない。
つまり、夜明けの時刻である。
「……だいたい六時ぐらいかな」
異世界に転生して驚いた、いや安堵したことは、異世界にも太陽や月が存在し、数も10進法で数えられていたことだったりする。
「今朝はキャトのラディの収穫だな……トーリもつれていくか」
寝巻きから着替えて外に向かう。
途中、寝ている三女のトーリも布団からたたき出すのを忘れない。
「いってー! 何すんだよ、このくそ兄貴!!」
「確実に起こそうと思ってな。早く着替えろ。畑にいくぞ」
「はあ? そんなのお前一人でいけよ」
「別にいいが、それならお前の朝飯は抜きだぞ?」
「ちっ、わかったよ」
渋々といった様子で準備をする。
最近のトーリは俺の言うことを中々聞いてくれないが、おそらく反抗期なのだろう。
さすがに人生二度目となると反抗期は来なかったが、気持ちはわかる。
幸い、道義に背くようなことはしていないので、トーリが自身で反抗期を卒業するまで見守りのスタンスでいこうと決めていた。
「ふぁ……、あれ? アー君、畑に行くの?」
廊下から妹のルカが寝ぼけ眼を擦って歩いてくる。
長い髪が無造作に垂れているのは、起きた直後であることをあらわしていた。
「悪いな、起こしたか?」
「ううん、そろそろ朝ごはんつくろうと思っていたからきにしないで。
ところで、今日は何を採るの?」
「キャトとラディかな」
「んー……じゃあ、今日の晩ごはんはスープだね。朝は別のを用意しておくよ」
「ああ、頼んだ」
我が家の料理担当は主に次女であるルカが担当している。
もちろんときどきは俺も手伝うのだが、ルカのほうが圧倒的に手際もよく味もうまい。
「おい、準備できたぞって、姉さん!?」
「あっ、トーリも行くの? 頑張ってねー」
満面の笑みを浮かべるルカに対して、トーリは罰が悪そうな顔を浮かべる。
ルカは人一倍面倒見がよく、家族の中でも相談役や慰め役になることが多い。
そして、トーリが反抗期に入った当初も一番心配し、世話をやいていた。
「う、うん……行ってきます」
そのうえ、この前ちょっとしたいざこざがあり、その負い目があるためかトーリはルカに対しては、強く当たることなく従順な態度だ。
「準備できたならさっさと行くか」
「いてっ! お、おい命令するなよ!」
トーリの頭を軽くたたき外に促す。
まあ、反抗期の憎まれ役は俺の役目なんだろう。
あの世界(前世の世界)とこの世界(今の世界)で共通している部分も多いが、やはり違う部分も多く、その一つは野菜の違いだった。
「おい、なんだこれは?」
「何って、キャトとラディだよ。食べごたえがありそうだろ?」
この世界においては、キャトはニンジンにあたり、ラディは大根にあたる。
幸い味もあの世界と遜色なく、この世界における食べられ方も似ていた。
ただ、ニンジンと大根という旬の時期が異なるものが同時に収穫できるなど異なる点は存在し、その中でも大きさと収穫方法は重要な違いだといえるだろう。
なぜなら、収穫するためには人間大のサイズで襲ってくる野菜を倒さなければいけないからだ。
「ああ。……返り討ちにあわなければの話だがなあ」
我が家が所有している小さな公園ほどの畑にいるのは、合計十体ほどのキャトとラディの群れ。
テリトリー(畑)に入ったら問答無用で襲いかかってくるため、事前の打ち合わせが何より重要になる。
今回は、野菜の種類的にそこまで危険はないため、トーリと二手に分かれて挟撃で収穫することに決めた。
「トーリの合図が出たな。3、2、1……よし!」
0のタイミングで畑に入ると畑は変化を見せた。
キャトは地面から出ると、ケモノのように身を伏せ、ラディは葉っぱをプロペラのように回し、宙に浮き上がり、こちらに突っ込んでくる。
いくら野菜といえど、それなりの速度を伴っているため、当たったらただじゃすまない。そのため、避ける必要があるが、先にラディが空中から攻撃をしかけたのは、避けたところを伏せているキャトで追撃する2段がまえになっているのだろう。
さすがに十体もの突撃を避けることは難しい。
だから事前の一手はすでに打っていた。この世界に存在する魔法という一手を。
「『魔道二十七式。吹き飛ばせ、風魔の声』」
「ふう、これで後は拾って帰るだけだな」
トーリの風の魔法(この世界では魔道というらしい)によってテリトリー(畑)の外に追い出され、活動を停止した野菜を拾い集める。
全部持って帰っても消費はできないので、まだ熟れていないものはもとのテリトリーに投げ入れる。すると、野菜たちは再び動きだし、自動的に土の中に入っていく。
「はあ、はあ……」
「はあはあ、言ってないで、手伝えよ」
「……立ってた、ばかりのお前と、違って、こっちは、魔道を使って、くたくただって、わかってるだろ」
「わからねえよ。だって俺は魔道使えねえし」
「て、てめえ……」
この世界に魔道はあるが、必ずしもそれを全ての人が使えるというわけではなく、むしろ使えない人のほうが多かったりする。
魔道が使えるかどうかは先天性の才能が大きいらしく、少なくとも後天的に魔道が使えるようになったという話は見たことも聞いたこともない。
「くっそ、朝っぱらからこんなに魔力を使っちまうとは」
「無駄に新しい魔道に挑戦するからだ。20番台なんて初めてじゃないのか?」
「うるせえ、別にいいじゃなねえか。いつもより早く終わったんだし」
「それで魔力切れになったら元も子もないだろ?
……まったく、ここは俺がやるけど学校は休むなよ? 休んだら怒るぞ」
「はあ? 学校を辞めたお前に……」
「ルカが」
「……ちっ、わかったよ」
設定1
現実世界のいくつかの名詞や用語(学校、おはようなど)は使われているが、これは異世界の同じ意味を持つ言葉の代用をしているだけである。
第2話更新日 8月20日