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十三個目のピーピングジャック  作者: 豊福しげき丸
6/10

ケース2:川崎取締役の失墜(5)

 とにかく勝て、勝たなきゃ自分が惨めだぞ。

「勝つってなんだろう?」

 賢一少年は過去に自問する。

 

『貴方は、採用されたらどの部署が御希望ですか?』

『平社員です』

『君、平社員は部署ではないが?』

 高梨と川崎の過去への追憶。

 

「今日、鷹島さんに会いました」

「ほう、どうだった?」

「すっかり変わってました」

 千騎が宇津木に語るのは、変わり果てた過去。

 

 再び現れた過去は、人をどんな明日へと導くというのだろう?

 

 てなわけで、この作品では珍しく、一か月と言う早いスパンでの再会に感激の豊福です。

 え? 感激するぐらいなら最初っからやれって?

 ふっ(遠い眼で誤魔化す)。

 冗談はさておき、もう一つの作品『八枚の翼と大王の旅』の方にメインの執筆比重を置いているからですね。

 あっちは最近、ほぼ毎月連載でやっております(宣伝)。

 向こうは既に最終回まで構成が済んでいますが、こっちは最終話となるケース3の構成が大雑把な骨組みだけでほぼ白紙状態なのも、遅筆の原因となっていますね(汗)。

 ケース2自体の構成は既に決まっていても、ケース3の伏線となる描写に苦労してたり(爆)。

 まあ、その内何とかします。

 見苦しい内幕はこれくらいにして、それでは、本編をどうぞ。

 

 十三個目のピーピングジャック

 

 ケース2:川崎取締役の失墜(5)

 

 -1-

 

 賢一はビルの屋上で一人稽古に励む。

 今日は都合で千騎が来られないと言われたが、修行に手は抜かない。

 基礎稽古を一通り終えると、賢一はサンドバッグに向かう。

「骨の白虎で、手の重さを、サンドバッグの重さを退治して捨てるんだ!」

 繰り返し繰り返し、掌底を打つ。

 千騎は、基礎稽古以外は、とにかく好きな事を繰り返せと言う。

 苦手な関節技を練習しなくていいのかと聞くと、千騎はこう返した。

『そんな暇があったら、自分の骨の声をもっと聴け。骨の扱い方、その一つがうまくなれば、自然と苦手な事や嫌いな事も、関節技だって出来るようになる。自分の好きな事をして自分を好きにならなくちゃ、自分の骨の声なんか聴けるもんか』

 前のジムでは、勝つためには嫌な事や苦手な事もやれと言われた。

 とにかく勝て、勝たなきゃ自分が惨めだぞと。

「………勝つって何だろう?」

 惨めなのは嫌だ。

 でも、自分が好きな事をやれなければ、結局惨めじゃないか。

 サンドバッグを叩く手を止め、息を衝き、汗を拭う。

 そして、もやもやした気分を振り払うため、一番好きなバットを握る。

 バットの重さを、相手のボールの重さを、白虎で斬って捨てる。

 力と重さを水にして、骨の髄を通して地に向かって流す(滑らかの語源)。

 うねる青竜を軸に振り抜く。

 そうイメージする。

 ただひたすらに、無心に、気合いを、愛を漲らせ。

 

 -2-

 

 大城財団、取締室。

「鳥羽君、今夜の予定は――」

 川崎はそう言いかけて顔をしかめる。

「――すまない、小早川君。今夜は会食の予定はあるかな?」

 川崎付きの秘書、小早川は苦笑する。

「随分お悩みの御様子ですね」

「………悩んで解決する訳でもないのにね」

「ご安心ください。今夜は会食の予定はありませんよ。それこそ鳥羽部長をデートに誘えばよろしいのでは?」

「じゃあ、君もデートに付き合ってくれ。僕はプレイボーイだから、複数の相手じゃないと満足できないんだ」

「軽口が出る様なら、まだましですね」

 その時、部屋の電話が鳴った。

「もしもし――」

 小早川が対応する。

「取締役」

「誰からだ?」

「高梨常務からです。今夜、会食をお求めです」

「………とんだデートだ。モテモテなのも困るね」

 小早川は噴き出すのを堪えた。

 

 -3-

 

 千騎は独り、赤提灯の屋台で安酒を呑んでいた。

 ついさっきまでは、凛花と羽原、そして但馬課長こと鷹島元警部補と、高級レストランで値の張るワインを飲んでいたのに。


 但馬の奢りで、表向き和やかな会食。

 皆が笑う中、千騎だけは引き攣った笑いで、ただ心の中で繰り返す。

(鷹島さん、何故警察を辞めたんですか?)

(あなたは俺と違って、正義に疑いも迷いも無かった人だったのに)

 但馬は、ピーピングジャックですべて聴いていたはずなのに、その問いかけに応えない。

「最近三島興業は好調ですけど、何か秘密でもあるんですか?」

 凛花が軽口を装って探りを入れる。

「自慢じゃないけど、私の所為かな」

「凄い自信ですね。じゃあ、但馬さん自身の秘密は?」

「簡単さ」

「何です?」

「僕も聞きたいな~」

 羽原も軽口に乗る。

「気付いたからだよ。善良な人間なんていないって。だから欲を利用するのが上手くなったのさ」

 但馬、もとい鷹島は、そう言いながら、千騎に鋭い鷹の目を向けた。

 千騎は立ち上がった。

「すみません。うっかり用事を忘れてました。お先に失礼します」


 三杯目の菊正宗を飲み干し、酒臭い溜め息を吐くと、横の席に一人の男が座る。

 目を向けると、これまたよく見知った、よれよれのグレーのサマースーツ。

「宇津木さん?」

「久しぶりだな、千騎」

「俺の後でも尾けてたんですか?」

「お前が女ですこぶるつきの上玉なら、そうしてたかもな」

「冗談ですよ。凄い偶然だな」

「しけた面だな。探偵はそんなに儲からないのか?」

「………今日、鷹島さんに会いました」

「ほう、どうだった?」

「すっかり変わってました」

 宇津木は、どんな風に?、とは聞かなかった。

 それくらいは察した。

「まあ、人間だからな。同じままで居続けるのも大変って事だ」

「俺が―――」

「―――辞めなければ、なんて思うのは思い上がりだぜ」

「………」

「お前はお前の仕事をしろ。それが結局、本当の意味で人の心を変え現実をねじ伏せる」

「耳タコですね」

「真理だからな」

「それより、そっちはお変わり無く?」

「商売繁盛で反吐が出らあ」

「お変わり無い様で」

「そこでだ。それなりに顔の広いお前さんに頼みがある」

「じゃあ、ここは奢って下さいよ」

「冷酒一杯」

「鷹島さんはブルゴーニュのワインでしたよ?」

「けしからんな。あくどい儲けにも程がある」

「………宇津木さんの奢りの方が、美味しいですよ」

 宇津木は黙り込んだ。

 やがてごそごそとポケットの中を探って、一枚の紙の写真を取り出す。

「レトロですねえ」

「やかましい。とにかくこいつらを見かけたら連絡してくれ。整形は当然してるだろうが、そこはお前さんの勘に任せる」

 一組の男女の写真。

「こいつらは?」

「四、つまり死の付く日に殺しをやる、いわゆる快楽殺人鬼だ。本庁の指名手配犯だぞ」


 -4-

 

「しけた顔だな」

 高梨常務は高級料亭で川崎に言い放つ。

「地顔です」

 川崎は憎まれ口を叩きながらも、山梨の白ぶどう酒を高梨のグラスに注いだ。

 刺身を塩わさびとこの酒で食わせるのが、この店の趣向である。

 それは奇しくも千騎の寿司の食い方と同じだったが、当然二人は知る由も無い。

「最近はつまらない仕事ばかりをしているせいだろう」

「つまらないとは心外ですね」

「無難な企画、無難な仕事に判子を押すだけの単純な作業だ。以前の君は影も形も無い」

「…………事実上の謹慎中ですから」

「覚えているかね、面接試験の時を」

「……覚えていますよ。人事部長殿」


『貴方は、採用されたらどの部署が御希望ですか?』

『平社員です』

『―――君、平社員は部署では無いが?』

 川崎の答えに高梨の余所行きの口調が消える。

『お言葉ですが、それが希望です』

『分からんな。君の学歴なら、平など研修中の肩書に過ぎんよ。書類上の通過点に過ぎん。最初から管理職の経験を積むべきだろう』

『それでは、僕の望む管理職にはなれません』

『君の望む管理職とは何だね?』

『人事部長はゲームをされますか?』

『中学生まではやったが、結局はもっと役に立つ事に興味が移った』

『それは残念ですね。ゲームは役に立ちますよ』

『……そこまで言うなら最後まで言ってみろ』

 高梨の怒気に他の面接官が青ざめた。

『最初は誰も気にも留めない一人ぼっちの無名のキャラなんですよ。誰も助けてくれない。

 他の運のいい奴は面倒見てもらえるのに、自分はあれもしてもらえない、これもしてもらえない、そりゃもう、不満ばかりです。

 でもある日、自分よりも初心者のプレイヤーに出会って、自分の不満の裏返しを、して欲しかった事をしてみると、すごく喜んでもらえた。出会う人ごとに同じ事をすると、たちまち仲間が増えて行った。

 いつの間にやら、気付けばちょっと名の知れたギルドリーダーですよ。

 だからです。

 最初からのエリートコースなんてクソ喰らえです。

 平社員の不満をいっぱい抱えて管理職になりたいんです。

 ≪管理職の苦労も知らないで、好き勝手言いやがって≫、なんて言うだけの、平社員の不満を理屈だけで分かって、心で分からない人間になんてなりたくない。格好悪い大人になんてなりたくない。

 それが僕がゲームで学んだ事だからです』

 

「若気、汗顔の至りです」

「……鳥羽君は今も闘っているよ」

「―――?」

「彼は独自に今回の件に調査を入れている。無論、私費でだ。彼一人に闘わせるのが、君の言う、格好いい大人かね?」

「―――――ツ!!」

 川崎はわなないた。

 目尻に涙が滲む。

「私に言えるのはここまでだ」

「……恩に着ます」

「せいぜい恩に着てくれたまえ。少なくとも、さっきまでの君ならば、私の派閥に加える価値も無いからな」


 -5-

 

 千騎は三島興業を訪れた。

 羽原が別の仕事に手を割かれているので、代わりに三島に商談をこなしに行く人間が必要になったからだ。

 冴えない上司が希望者を募った時、千騎が一番に手を挙げた。

 大きな声では言えないが、以前から三島の調査をしていたお蔭で、引き継ぎもほぼ完璧である。

『いや、君はおっちょこちょいだと思っていたけど、やる時はやるんだねえ』

 と、無邪気に喜んでいた課長を騙すのは、少し心苦しかった。

 結局は自分の都合である。

 鷹島が今、どんな人間かを確かめたかったのだ。

 仕事は無難にこなした。

 それなりに相手を満足させつつも、悪目立ちしないように成果も挙げ過ぎない。

「藤上さんは、いつもいい取引をしてくださるので助かります」

 そう言う三島社長の顔色はどこか冴えない。

 成長株の企業の代表の印象では無い。

(本当に、大城の柳治専務に操られているのかもな)

 世間話も終わると、

「実は私は三島さんに来るのは初めてなので、後学の為、少し見させてもらってもよろしいでしょうか?」

 と、自然に切り出す。

「ええ、もちろん構いませんよ」

 ピーピングジャックのガード機能はオンにしておく。

 禅が揺らいでいるのを自覚していたからだ。

 何も考えていないように見えるのは、鷹島の変貌のショックの所為に見えるよう振る舞うつもりで。

 社内をぶらつき、それとなく但馬課長としての鷹島の評判を聞く。

 いい評判しか聞かない。

 ふと淡い期待を抱く。

 少しばかりの人間不信に陥っていても、心根は変わっていないのではと。

 だがそれは裏切られる。

 鷹島を見つけた。

 だがそれは一組の男女と親しげに話す姿だった。

 刑事の勘が告げる。

 アレは整形していても、奴らだと。

 指名手配中の快楽殺人鬼。

 鷹島がそれに気付かない訳が無い。

 鷹島は、本当に変わったのだと。

 

 -川崎部長の失墜(6)に続く-


「うるさい! お前はアタシの親か何かか!?」


「お前みたいな痛がりの辛がりの根性無しに、何も出来る訳が無いだろう!」


 過去を恐れれば怖れるだけ、人は空回って行く。

 だが、人は選べる。

 今に踏み止まり、立ち向かう事を。


「それは、お前の、立派な才能だ」


 千騎は、答を見出す。

 

 次回もよろしくご覧悦お願い致します。

 

 さて、今回も活動報告で、ログホラのモデルになった?時代のお話パート3をやっております。

 今回は、久しぶりにやらかしちゃいます(何をだ?)。

 それでは、まったねー。

 

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