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十三個目のピーピングジャック  作者: 豊福しげき丸
4/10

千騎、格闘技ジムに現る。

嘲弄する者たち。


千騎と凜花の調査は行き詰まり、宇津木の脳に衝撃が走る。


そして格闘技ジムにおいて本多健一少年がいじめに近い扱いを受けているのを見た、千騎の取った行動とは?


どうもお久しぶりです、豊福です。

また長々とお待たせして申し訳ありません。

書きためるなりなんなりして、定期的に決まった日にアップするよう助言も受けたのですが、決まったアップ日にパソコンの前にいられる保証がないので見送らざるを得ない事態に。

困ったもんだ。

〇っちゃん助けてー(情けない)

まあ、それはさておき本編をどうぞ。

 十三個目のピーピングジャック


 ケース2:川崎取締役の失墜(3)


-1-


 三島興業の社長の訓示を聞く社員たちの顔は輝いていた。

 一時は倒産を危惧する声も囁かれたが、ここ最近は大城財団や藤上流通と言った壮々たる大手との長期継続取引を結ぶ事に成功し、業績は右肩上がりである。来月には臨時ボーナスが出るし、さらに来年には韓国への社員旅行も予定していると言う。

「もう少し頑張れば毎年ハワイにみんなで行けるかもしれませんよ?」

 社長の軽口に皆がどっと沸く。

 業績が苦しい時も社員の首を切る事をせず、逆に有能な人材を招聘して窮地を乗り越えた社長への皆の信頼は厚い。

 訓示が終わると何人かがその招聘された人物に声をかける。

「但馬課長、いや、ホント、アンタのお蔭だよ」

「社長もいい人見つけて来てくれたもんだ」

「いえ、皆さんの頑張りあっての事です」

 但馬と呼ばれた男はそつなく笑みを返した。

 

 訓示を終え、社長室のドアを開けた三島の顔は、一転して蒼白となった。

「社員にいい顔出来て、僕ちゃん嬉しいねえ。げへへへ」

 やや痩せぎすな事を除けば、容姿に文句のでないであろう危険の香りのする美女が、下卑た声を上げる。

「また、あの人からオーダーが入ったぜ。俺達仕事して来るから、手配いつも通り宜しく~」

 軽薄に見えて凄味のある男が爪をヤスリで砥ぎ、ふっと粉を息で飛ばす。

「…………っ!!」

 三島の声と顔は引き攣り、音にならない悲鳴を上げる。

「ヤダナア、まるで僕たちが社長を苛めてるみたいじゃないですか? 社長は社員にいい顔できる。僕たちは僕たちの好きな事が出来る。これってwin-winでしょ。もっと笑ってクダサイよ」

 温和で社交的に見えるハンサムが親しげなスマイルを向ける。

 三人の男女は三島の肩を気安く叩くと、並んで社長室から出て行く。

「っ………!]

 三島は声無くわなないた後、備え付けの洗面台に逆流する胃の内容物をぶちまけた。


 -2-


 綿津見市警、宇津木警部のデスクフォンに内線が入る。

 資料編纂課の紅一点、姫川からだった。

「何だ?」

『何だは無いでしょう?』

「わりいわりい。嬢ちゃん、それで何の要件なんだ?」

『嬢ちゃんも失礼ですよ。まったく』

「あー」

 これだから女は、と言う言葉を呑み込む。

「すまなかった」

『分かればいいんです。それより変な事を見つけたんですよ』

 4の付く日。

 ここ二ヶ月、四日、十四日、二十四日と言った具合に十日置き、4の付く日に失踪や事故死が起きている。

 例の殺人事件もそうなのだ。

 ただの偶然と言うにはあまりにも不自然な気がする。

「……何てこった!」

 ≪4≫、≪死≫、の付く日に執着するサイコパス、連続快楽殺人。その線が浮かんでくる。

「今井、行くぞ!」

 スーツを引っかけデスクから立ち上がる。

「ちょちょっと待ってください、宇津木さん、俺まだ痴情のもつれの傷害事件の報告書を書いてる途中で――」


 -3-

 

 凛花と千騎の捜査は簡単に行き詰った。

 本多の出した損失は、藤上流通が仲介する家電量販店、クール電器へ大城財団が卸す商品においてだったのだが――

 クール電器の担当者は、取引資料のいくつかを持って失踪していた。

 失踪の一週間前にガンの告知を受けたばかりだったと言う。

 本当に失踪した担当者が持ち去ったのか、他の誰かがそのどさくさに紛れて罪を押し付けたのかは不明だったが、公式にはそれでこの件は片付いた扱いになっており、再調査をするのは非常に難かしい。

 詳細は不明だが損失が有ったのは事実。

 損失は三社が公平に三分して補填。

 クール電器の担当者は責任を感じ失踪。藤上流通の担当者の降格。 

 そして大城財団からも責任を取る者が必要。

 筋書きを覆す事はとても困難に思えた。

「……はあ」

 凛花は溜め息を衝く。

「行き詰ってるようだな?」

 隣のデスクから千騎が声をかけた。

「そっちはどうなのよ?」

「こっちもだ」

「……なら手を貸してあげてもいいわよ?」

「どうも目的は同じみたいだから、そうしてやってもいいぜ」

「謙虚になりなさいよ」

「こっちの台詞だ」

 睨み合う。

「「フン!」」

 そっぽを向く。

(喧嘩したみたいだな)

(ならチャンスじゃね?)

(お前声掛けろよ)

(いやお前が)

 外野も賑やかな藤上流通オフィスの一幕であった。

 

 -4-

 

 千騎は退社後、気分を変えて最近の日課である本多賢一少年の調査をする事にした。

 とは言っても昨日までに粗方調べは済んでおり、後は自宅か賢一少年の通う格闘技ジムにでも行くしか無い。

 幸いそのジムには知り合いの選手がいるので、そいつを訪ねた振りをして、それとなく様子を見る事にする。

「こんにちは」

 事務の戸を開けた千騎に一瞬皆の注目が集まるが、トレーナーの一人が椅子から立ち上がってこちらの相手をすると見るや、それぞれの練習に戻って行く。

「入会希望ですか?」

「いや、ブレード陣馬に会いに。知り合いで東條千騎と言う」

「ブレードならロードワーク中ですよ」

「なら、待たせてもらってもいいかな?」

「邪魔はしないでくださいよ」

「わかってる」

 トレーナーは選手の指導へと戻る事にしたが、どうにも頭の隅に何かが引っ掛かる。

(東條千騎? はて、どこかで聞いた事があるような……)

 千騎は激しいワークをこなす選手の邪魔をしない様に(と言う見せ掛けで、本来の目的である)奥の畳で柔術コースに励む子供達を見物する。

 目当ての賢一少年はすぐにわかった。

 控えめに言っても、一番下手だった。

 下手なのを意識し過ぎ力み過ぎ、ガチガチになって簡単な基本の関節技一つかける事が出来ない。

「力も無いのに力任せにも程がある。体が固くなり過ぎだ。柔軟からやり直して来い」

 コーチが見かねてやめさせる。

「お前も固いな。コンビでやれ」

 賢一の次に動きが固かった女の子が顔をしかめる。つまらない柔軟より楽しい技の掛け合いがしたかったのにと言う顔だ。

 柔らかくならない賢一の身体を女の子がぎゅうぎゅうに押す。賢一は歯を食いしばって必死に耐える。

 賢一の身体から見た目、力が抜ける。だがそれは体を痛めて力が入らなくなっただけで、筋肉が柔らかくなったわけでは無い。

 明日になれば防御反応でまた固い体に戻るだろう。

 例えばヨガで説明しよう。ヨガの本来の修行とは、呼吸法で心身を温め解したり、骨格のずれを地道に整える事であり、その上で運動不足や無理な体の使い方で引っ付き張りついた筋肉どうしをゆっくり剥がして行く事である。

 しかし修行の成果を見せる技比べに於いて、派手なポーズで体の柔軟さを競うようになると、本場インドの少なくない人にさえ常人には体を痛める難しい派手なポーズをとる事自体が修行と誤解されるようになった。

 結果、修行では無く、単に生まれつき柔軟さに恵まれた者のパフォーマンスごっこになった(無論ちゃんとした修行者もいる)。

 同様の事が武術に於いても往々に起きたが故に、今でも真伝を頑なに守る昔気質の武術家は競技を嫌う者が少なくない。

 賢一は力が入らなくなった体で技を掛け直す。

 今度はふにゃふにゃと定まらない。

 今度はコーチは、

「今度は力を抜き過ぎだ。わからんのか? 骨が無い奴だな」

 と来た。

 千騎は目を覆いたくなった。賢一にではなくコーチにである。

 コーチは一人の男の子に手本を見せるように言う。

 少年は手早く(千騎の眼から見れば真に滑らかと言う訳では無いが)賢一の腕をひしぐ。

 今度はコーチは

「見ろ。骨があるってのは、これくらいできるまで本気で練習する奴の事を言うんだ」

 と来た。

 他の生徒も

「真一は東区チャンピオンだもんな」「格が違うよ」

 と褒めちぎる。

 どこぞの偉い人は言う。

『馬鹿は相手にするな』

 千騎もそりゃそうだけどさと思いつつも、自分に呆れながら口を開いてしまった。

「俺の聞き間違いかな? 日本語がおかしいぜ」

 一瞬場が静まり返る。

「何だと?」

 コーチが凄む。

「別にアンタらの所為じゃねえ。本物の武術家の稽古を見学しただけの奴とか、修行の途中で逃げ出した奴とかの言う間違った使い方の方が世に広まっちまっただけだ。広めた奴がヘタレでも、格好悪い事にそれを間違って覚えたアンタらの所為じゃねえ」

「何が言いたい?」

「だが、やっぱり、格闘技に携わる人間が間違ってるのは恥ずかしいモンだな。本来、『骨が無い』なんて言い回しは存在しねえし、『骨がある』も、断じて差別の為の言葉じゃねえ」

「鼻持ちならないな、その態度。ならお前が本当の事を知っているとでも云うのか?」

「知っているとも。『誰にだって骨が有る。骨の声を聞き、骨に身と力を預ければいい』 当たり前の事を気付かせ、励ます優しさが本当の口伝で、手前の教えの下手さをそいつのせいにする言い訳の言葉なんかじゃねえ。ついでに言えば、『格が違う』は、骨格の使い方が間違ってるって意味で、本来そっちの方が褒め言葉じゃなく叱る為の言葉だ」

「ぶははは」

 コーチは嘲りの為の笑いを放つ。だがそれはどこか引き攣っていた。

「いるんだよな、カビの生えた大昔の武術を習って、それが実戦でも使えるとか勘違いする奴が」

「じゃあ試してみるか?」

 千騎は無造作に右腕をコーチに向かって差し出す。

「掴んで見ろよ」

 コーチは躊躇ったが、子供たちの視線が自分達に集まっているのを感じて、思い切って千騎の手首を右手で掴み、万力の様に握り締める。

 千騎は右手の五指を開いた。

 指を開く事によって前腕の骨を開き、掴んだ相手を崩す。まさしく骨の技。『朝顔』『花火』『発破』などと呼ばれる技である。

 千騎の右腕が時計回りに回され、左手が相手の肘に添えられ、歩を左前、相手の背中側に滑り込ませる。

 百戦錬磨のはずのコーチは、いつぞやのチンピラのように、綺麗に腕関節を後ろに極められた。

「う、ぐぅぅぅ」

 千騎は腕を離し、間合いを取り直す。

「これくらいじゃ納得しないだろう?」

 人差し指を突き付け挑発。

「ほら、今度はお前らの流儀に合わせてやる。タックルしてみろよ」

 ―――日本古流とは、本来合戦の技である―――

「う、うぉぉぉ」

 コーチは千騎に猛然とタックル。

 千騎の足腰はそれを受け止める。

 ―――乱戦の時、足軽が大将首を獲るため懐に組みつく事など当然想定の内―――

 千騎の右手が相手の顎を掴み、左手が左耳を掴み、中指が耳の穴に差し込まれる。

 そのままゆっくりとコーチの首を捩じる。

 ―――風巻光水流『捩じ切り』、本来は『斬徹(発勁)』を以って一瞬で相手の首の骨を捩じり折り切る技―――

「が~~~~~~~っ!」

 コーチは堪らず千騎の腰と背中を叩きタップした。

「「「「…………!!!?」」」

 ジム中の視線と殺気が千騎に集まる。

 ――その時――

 ジムの表扉が開いた。

「あっ、陣馬さん!」

 ロードワーク帰りの汗だくの湯気が昇る、誰が見ても凄味のある男。

「お帰りなさいっス」

「実は、陣馬さんのいない内に変な奴が」

「一つ、ガツンとやっちゃってください!」

 ブレード陣馬はまっすぐに視線を千騎に向け、のしのしと歩み寄る。

「久しぶりだな。陣馬」

 陣馬は両腕を熊の様に広げ――

「久しぶりっす、千騎さん!」

 ――千騎をハグした。

「やっと俺に風巻光水流を教えてくれる気になったすか?」

「じ、陣馬さん?」

「そいつは一体?」

「そいつはコーチをやった奴なんすよ?」

「馬鹿野郎! この人はな、俺が昔地下格闘技トーナメントの決勝で負けた御人『壊し屋戦鬼』! つまりこの街で一番つぇえ御仁なんだぞ!」

 ―――ガーン!―――

 ジム中の人間の顔にガ○スの仮面の如き縦線が入る。

「おい陣馬、それはいいからそろそろ放せ、暑苦しい」

「あっ。失礼したっす。それで教えてくれる件は?」

「そうだな~」

 千騎は考え込むと、何かを思いついてニタリと笑う。

「俺はこいつに教える事にする」

 そして指差した先には、本多賢一少年。

「だから教えてもらいたかったら、こいつから習え」


 -5-

 

 アフターファイブの藤上流通。

「まったくもう!」

 凛花は頬を膨らませながら資料室の書類の束を片付けていた。

「あのアホめ!」

「誰かと喧嘩したんですか?」

 柔らかく甘い男の声。

 凛花がそちらを向くと、控えめに言ってもハンサムな男が歩み寄ってくる。

「手伝いますよ」

 さりげなく地面に置かれた書p類を持ち上げ、アイウエオ順に整理していく。

「貴女みたいな人に仕事を押し付けるなんてひどい奴ですね」

「……そうなのよ!」

「申し遅れました、僕の名は羽原加賀徒。三島興業からの出向です」


 -ケース2:川崎取締役の失墜(4)に続く―



凜花の調査は羽原の助力を得て進展するかに見えた。


千騎は本多少年の家を訪れ、正式に弟子にすることに(間接的にブレード陣馬もwww)。


順調に進むかに見えた日々は、千騎の前に現れた男によって急変する。

「………先輩」

「久しぶりだな、東條」


てなわけで、次回の事態は順風から始まり混迷へと移り変わります。

千騎は悩み苦しむ事になるでしょう。

〇〇もピンチだ、わかってんのか?

最近ジャックが出てこないのでただの武術ハードボイルドでしたが、次回より又ピーピングジャックが出てきて再びサイバーパンクに。


てなわけでどうか次回もよろしく御一読お願いいたします。

m(_ _)m


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