インターミッションその2
しばらくぶりの御久しぶりです。また皆様にお会いできまして感謝感激の豊福でございます。
御無沙汰で申し訳ありません。充電期間兼、ガンダム小説執筆の為、長いインターバルを置かせて頂いております。
ガンダム小説の方は無事全12話中第6話まで書き終わり、現在第7話執筆中でございます。
よって、ピーピングジャック本編再開は、後もう約半年後までお待ちください(陳謝)。
もう一つのシリーズ、八枚の翼と大王の旅は通常通りアップしています。本作本話と同日アップなので、そちらもよろしくお願い致しまーす(^^)」。
それでは、千騎たちの日常、インターミッションその2をどうぞ。
十三個目のピーピングジャック
ケース2.5:インターミッション(2)
-1-
本多家リビング。
「貴方が息子の落とした写真の配達を、東條さんに依頼して下さった方でしたか」
本多夫妻が深々と頭を下げる。
「いえ、そんな、そこまでされると困ります。この御宅に寄らせて頂いたのも、ただのついでなので、あの」
長髪の美女――凛花が恐縮する。
「本当になんとお礼を言えばいいか、頭を下げた程度では到底―――」
「ええ、もう、本当に」
夫妻の目尻に涙が浮かぶ。
「な、何かやらかしたんですか? 千騎は?」
「やらかしたも何も―――」
「賢一は―――」
「け、賢一君は!?」
-2-
探偵事務所雑居ビル屋上
「岡と云う字が有る」
バットの素振りをする賢一に千騎が語る。
「張り合わせる、より合せると言う意味だ。鉄と鉄を張り合わせ強固に鍛えた物を鋼、縄と縄を強固により合わせたものを綱と言う」
「青竜と背骨を張り合わせて鋼にし、また捩じり寄り合わせて綱にする。だよね」
「そうだ。そして、物事は常に不安定から安定へと流れる。水は高きから低きに流れるという奴だ。だから、身体を捩じって動かすイメージでは無く、捩じり切った姿勢が実は安定した『綱』というイメージで、その安定した姿勢へ向かって流れて行くイメージで振れ」
血肉の中心である青竜と、骨格の中心である背骨、それぞれを単独で中心軸にして動かさせたのは、最終的にこの『鋼と綱』と言う感覚を掴ませる為である。
血肉と骨が寄り合わされて螺旋を描く。
実際に、腕も足もその構造でできている。空手の三戦立ちも、それをより具体的に掴ませるための物だろう。
「青竜と背骨の間を鋼(綱)芯と言う」
流派によっては玉芯とも言う。
「そこには何もない、ただの無である点だ。
だが、昔の人は、実体そのもの一つが中心では無く、何事も、物と物とが合わさる所、人と人とが合わせる手の中に、何も無い実体の無い只の『点』こそが『天』であり宇宙の中心であると、そう感じていたんだ。
だから日本の神社は注連縄(綱)を祀り、中国の人は太極印を祀り、ユダヤの人は、互いに逆向きの三角が合わさって円(縁)になる六芒星を調和の証として祀っている。ま、師匠の受け売りだがな」
―――己とは異なる者(物)こそ、互いに対成す陰と陽。陰陽揃いて天(点)より宇宙(太極)を成す―――
「???」
「あー、わりい。分かり易く言うとだな、自分を中心にしちまうと、傲慢とか自己中ってやつで嫌われるし、相手を中心にしちまうと、甘え過ぎや頼り過ぎってので、これまた嫌われちまうってやつだと思ってくれ」
―――頼に非ず、無頼に非ず、それ即ち『癩』―――
「うーん。嫌われるって、前ほど怖くないけどなあ」
「じゃあ、自分が自分を嫌わない為にと、相手をもっと好きになる為だ。いうなれば、絆や縁、相手と自分の関係を気持ち良くする事、そのものが芯なのさ」
「あ、そっかあ」
「気持ち良く生きるってのは、大切な事だろう?」
「そうだね」
「よし、じゃあ、だいぶ良くなってきたから、ステップアップだ」
「本当?」
顔が輝く。
「縄ってのは、もともとそれ自体も糸を縒り合わせて出来ている。その縒りのねじれで更に綱は出来る訳だ」
「うん」
「だから、青竜と背骨の寄りも、それぞれを覆う金龍の縒りの力でねじり依るイメージでしてみろ」
「えー!あの、弦に巻く細い糸みたいなあれでしょ。アレ、イメージするのすごく大変だもん、難しいよっ!」
「ほ~、野球が上手くなりたくないと?」
「う~~~」
頬を膨らましながらも、真面目に試みる賢一少年であった。
「よしよし」
-3-
ジョニー宅、電子の要塞。
「うーむ」
千騎がまた置いて行ったピーピングジャックを前に、ジョニーが唸る。
「相変わらず手がかりは無しか」
ハッカー同士や技術開発者のネットワークにも、ピーピングジャックらしき物の話の欠片も出てこない。
チップ一つをとっても、誰も心当たりすらないと言う。
情報屋ブロガーのサイトにも、ピーピングジャックを用いたと思われる犯行や事件の痕跡も無し。
いやな予感がする。
残りのピーピングジャックはまだ9個も有る。
なのに、こうも噂すら無いとは。
可能性は二つ。
使われずに保管されている。
または、使用者が恐ろしく狡猾で、影すら踏ませない。
いや―――
もっと嫌な予感が脳裏をかすめる。
使用者が、より、神か悪魔の如き狡猾で、用意周到、且つ巨大な犯罪計画の為に、完璧な管理の下、絶対秘密裡に保管や運用をしている。
もしそうなら、相手は刹那的な犯罪者ですらなく――――
-4-
夜。東條探偵事務所。
千騎が師匠から送られてきた日本酒、燦然木村式――奇跡のお酒――の封を開け、ローストビーフをわさび醤油でつまんでいると、普通のTLジャックにTELが入る。
「もしもし」
『千騎?』
「凛花? どうした?」
翌日、公園。
「待たせたな」
千騎が声をかける。
「大して待ってないわよ」
ぶっきらぼうに答える凛花の服は、普段の黒基調のOL姿では無く、白青色調の爽やかなカジュアルだ。
「嫌われたかと持ってたから、デートに誘ってくれてうれしかったぜ」
「べ、別に嫌ってないし、デートは写真を届けたらって約束してたし」
「そりゃよかった。流れた話かと思ってたぜ」
「私が約束を破る女に見える?」
「これはレディーに対して大変失礼致しました」
「わかればよろしい」
「じゃあ、映画でも見て、海岸にドライブしてディナーってところでどうかな?」
「ま、まあいいんじゃない」
-5-
第2綿津見島、ゴルフコース。
「ファー!」
高らかなキャディーの声。
「飛ばすなあ」
「今日の本多君は絶好調だね」
目を丸くする川崎と鳥羽。
「これも取締役と部長のお蔭です」
「またまたあ」
「本当はプライベートでいい事あったんじゃないの?」
そう言うと、本多は顔を輝かせたかと思うと、次の瞬間にはくしゃくしゃにして目尻に涙を浮かべ始める。
「ううぅっ、実は~~~~~」
「ど、どうした!?」
「な、なにがあった!?」
「そうだったのか」
「驚かすなよ」
「す、すみません」
「いやあ、それにしても、賢一君へのいじめが無くなって本当に良かった」
「まったくです」
「それどころか、最近ではみんなに頼りにされているようで、文化祭の実行委員になってくれって、みんなに頼まれたって、ううぅっ、本当に………」
「世の中にはいい人がいるもんだ」
「まったく」
「ええ、東條さんと葵さんには、何度御礼を言っても言い足りません」
「「東條さん?」」
「はあ?」
「ひょっとして?」
「下の名前は千騎?」
「よく御存じで?」
「そうか。これも何かの御縁だ。今晩、是非3人でお礼を言いに行こうではないか!」
「と、取締?」
「まあ、話すと長くなるんだがね」
「部長? ???」
-6-
とにかく取り留めも無く楽しい会話を心がける。
そしてさりげなく、もう少し喋っていたい、その流れで―――
「コーヒーでも飲んでいく?」
さりげなく、さりげなく―――
がっつかず、がっつかず―――
取り留めなく、取り留めなく―――
大事な事なので(心の中で)2度ずつ言いました、草草草。
他愛も無い会話を続けて、辿り着いた雑居ビルの駐車場から、車を降りて探偵事務所の階に向かう。
もう少し、もう少し―――
焦らない、焦らない―――
エレベーターから降り、事務所の玄関へと向かうと―――
何かアルコールの入っているっポイ中年3人。
「おお、東條さん!」
「君が東條君か?」
「……あ、あの部長、取締」
「是非君に会って御礼が言いたかったんだよ! さあ、いい赤ワインが有るんだ! 何とあのバローロだよ! 是非飲み明かそう!」
「ささ、遠慮せずに!」
「い、いや、むしろ我々が遠慮した方が……」
「ひょっとしてそちらの方は葵さんかね?」
「は、はい―――」
「我々からも是非お礼を言わせてくれ、実は本多君は僕らの可愛い可愛い部下で!」
「その子供の恩人ともなれば、やはり!我々の恩人!」
できあがり、まくしたてる中年2人。
本多は千騎と目を合せると、すかさず両手を合わせ、声を出さずに唇の動きで『すみませんすみません』と何度も繰り返す。
千騎はひたすら遠い目をする。
一体何を間違ったのだろう。
考えても考えても、やっぱり答は出なかった。
-次回へ続く。藁藁藁―
噛み合いそうで噛み合わないのがラブコメの基本。
基本に忠実にやっておりますが、千騎と凛花が可哀想でなりません(お前が言うな)。
それでもお話としてこういうのが有るから、恋愛って面白そうとか、俺(私)もこう言う経験あるよとか、ワクワクしたり癒しになったりするんですよねえ。
いわゆるエモい。
ちゃんとエモく描けてたでしょうか?
こっそり最終章への盛り上げもエモかったでしょうか?
風呂敷畳めるように頑張らないとなー(千騎の様に遠い目)。
後また武術ヲタクの話。
鋼(綱)芯の位置は個人的に前5:後3.1と感じております(いみふ)。
それでは、あと約半年お待ちいただけるならば、また本編でお会い致しましょう。
まったねー。
追伸、今回の近況報告は八枚の翼と同日アップなので、合同として本作独自のそれは省いております。
悪しからず。mm