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Ephemeral note ~少女が世界を手にするまで  作者: 瑞月風花
第二章 消えゆく過去の澱みの中で
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それは恋に似て異なるもの・・・1


 ターシャは奥方様の庭の手入れをしながらふと思った。


 もしかすると、これは、初恋、みたいなものなのかしら?


 ターシャは坊ちゃまがどうしてあんなにあの魔女のことを庇うのか、ということに理由をつけてみたのだ。ただ、相手が魔女となると、これは奥方様の時みたいにはいかないわよね。


 次期領主と言われていた今の領主様にリディアスから奥方候補が送られてきた時も、町全体が反対していた。領主様も全く女っ気がなくお年頃を過ぎてしまったために、リディアス王の遠戚にあたる奥方様の申し出を断りきれなかったらしい、ということはターシャも聞いていた。


 まぁ、そんなお人がいたとしても、先代の領主様が断れたかどうかは定かではないのだけど、もしそんなお人がいたのなら、少なくとも領主様は大きく抵抗なさっていただろう。領主様と坊ちゃまはよく似ておられるから。しかし、領主様は年が十も下であるということにだけ、難を示されただけで大きな反対もなさらなかった。


 その奥方様の噂はあまりよい物ではなかった。その女は年齢性別を偽り武術大会に参加するような者であり、しかも、入賞を果たしている。もしかすると、ディアトーラに送られる刺客かもしれない。嫁だと託けて、寝首を掻っ切ろうとしているのだろうなど。


 そして、彼女はお連れの者を一人も残さずディアトーラに残った。それも誰もが様々なことを勘ぐるに足る材料になった。


 あまり歓迎されていなかった奥方様はまだ十九という齢でこの屋敷に一人で過ごすことになったのだ。一人になるよりはまだ、姑にあたる大奥様が生きておられる方が良かったかもしれない。


 そう思うと、ターシャの心は深く沈んだ。この点で言えば、ターシャと領民の意見は完全に合致する。大奥様が生きておられれば、……。


 ちょうど、リディアスが魔女狩りに勤しんでいた頃で、魔女に明るいディアトーラもちょくちょくと駆り出されていたことは、ターシャだって知っている。きっとそれが徒になったのだろう。

そして、今も村八分の仕打ちかと信じて疑わないのだが、一番話題にされないはずのターシャに白羽の矢が立ったのだ。しかし、考えようによってはこれは先代の最期の功績だと思えなくもない。

仕事をしたかったターシャに何の噂にも染まっていない奥方様。使役関係を思えば、これ程の最良、考えられない。


 リディアス国王遠戚の奥方様付きの仕事だ。その頃のターシャは学校が終わり、男のように何か社会に関わって働いていたいという願望だけで立っているような状態だった。それは両親すら煙たがり、その煙は町中に広がっていた。今でも思えば涙が浮かんでくるような毎日だった。


 誰にも認められないということほど辛いことはない。


 しかし、とても華やかで、何不自由なく育ってきただろうそのお嬢様の姿に自分そのものを見てしまったのだ。


 きれいなドレスと、婚礼のためと揃えられた家具。白い肌に紅色の頬。透き通るような金髪にガラスのような青い目。表現に乏しいが、人形のような、がぴったりのお嬢様だった。


 その何にも出来そうもない奥方様にターシャが身の回りの世話を焼くことになった。最初はどんなわがまま娘だろうと警戒もしていたが、奥方様は何でも「手伝うわ」と言ってターシャを手伝ってくれ、秘密を一つ教えてくれた。


「この婚礼、実はね、わたしが望んでしてもらったのよ。ちょうど、うちの国王様が勝手にディアトーラの花嫁探しをしていたから、立候補したのよ。当選は簡単だったわ。だって、他に立候補者はいなかったんですもの。推薦者なんて、押し退けてやったわ。わたしね、十五の時に彼に武術大会で会っているの。彼ね、わたしが負けた相手を破って優勝したの。すごいでしょう」


彼女が唯一ディアトーラで描かせたその『彼』の絵が彼女の部屋に飾られた時に頬を紅潮させてターシャに自慢した。


「あぁやって飾っておけば、彼が帰ってきた時に緊張せずに済むでしょう? でも、誰にも内緒よ、立候補のこともこの絵のことも」


ターシャはたった一人でこんな場所に乗り込んできた少女を、その時初めて『少女』だと思えたのだ。


 たくさんの薬草が植わっている奥方様の庭。そこで魔女がターシャの摘んだ薬草を入れるカゴを持って、車椅子に座って待っている。


 一人で乗り込んできた、という点では同じかもしれない。そう思えば、魔女など全く怖くなくなってきた。





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