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Ephemeral note ~少女が世界を手にするまで  作者: 瑞月風花
儚い記憶の物語(第二部)
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月が静かにほほ笑む夜・・・1


 ワインスレーのディアトーラ。そこは魔女が棲むとされるときわの森がある。ワカバの望む場所であり、キラの故郷にもあたる。大きな国ではない。ときわの森がなければ、注目されることもなく、恐れられる様な国でもない。ただ、その国は今も魔女と共にあり、リディアスが一番に恐れている国でもある。


 ディアトーラで恐れられているときわの森の魔女は、リディアスに現れるような中途半端な魔女ではない。彼女の逆鱗に触れることはこの世の破滅につながる。だから、ディアトーラは魔女に求められれば、たとえ子どもでさえときわの森に捧げるのを厭わない。


 しかし、それは魔女の言いなりになっているということではなく、『時の遺児』を森へ封じているのだ、と幼いルオディックは聞かされていた。時の遺児がトーラを持てば、世界の根幹を揺るがすことになるからだと。ただ、母は少し否定的だった。本当に恐ろしい者は、時の遺児ではなく、どこにも存在しなかった者であると。そして、それは時の遺児として生れる。だから、銀の剣を持つ看視者は魔女を殺すには銀の剣しかないと吹聴するかのように、勇者を祭り上げる。


「どうして?」


「それは枷がないからよ……。唯一トーラの記憶を持つ銀の剣が枷になるの。だから、本当は彼女が世界を崩壊させないよう森へ隔離するのよ。だけど、魔女狩りがあるの。だから、ね、お姉ちゃんを護ってあげてね、ルオディック」


母の微笑みを見たのはそれが最期になった。ただ、母の言葉には足りない言葉があった。ルオディックがそれを知るのは、もう少し後の事だ。そして、次の日、母は磔台に立っていた。



 「容姿に騙されるな。奴らは悪魔だ」



 この世を恐怖で震撼させる父の声が頭の上から降ってきた。父に歯向かう者などいなかった。母の額は茨の冠の棘が刺さって赤くなっている。


「おかあさんっ」


もう一度その手を振り解き、母の元へ行こうと力を入れた。あの冠を取ってあげなくちゃ。しかし、まだルオディックと呼ばれていたキラの身体が宙に浮き、屈強な男の手に摘みあげられた。父は言う。まるで地獄の門番が身の行く末を告げるような絶望を感じた。


「あれは魔女だ。母などではない。魔女は人間に災いを齎す。魔女の血は始末しなければならない」


母の足元に火が添えられた。たくさんのどうしようもない涙が溢れてきて、もう何も見えなくなった。キラは幼すぎてどうすることも出来なかった。だから、幼いキラはときわの森に逃げ込んで、出会った魔女に願ったのだ。大きな木が空間を抱え込むような場所だった。「何でも願いを叶えてあげる」と言ったその魔女の瞳の色がちょうどワカバと同じ明るい新緑色だった。



 嫌な汗を掻いてキラは目を覚ました。母は血の繋がらないキラに姉を護ってほしいと願っていた。魔女は何も願いを叶えてくれてはいない。だから、キラは領主の館から出て、ジャックになったのだ。両手で顔を覆った後、キラは部屋を眺めた。もうすっかり雨は上がっていた。横になっていたはずのアブデュルのベッドが空っぽだった。


 ときわの森の西に位置するマンジュに着いたのは、夜だった。マンジュの方角はディアトーラと真逆になる。もしワカバを護衛する便利屋がキラでなかったのなら、シャナの言う通りディアトーラに向かったのだろう。町の大きさ、国が敷く魔女に対する警戒態勢の違い、逃げやすさ、どれをとっても今のディアトーラはマンジュに勝る物を持っていない。しかし、どれを優先したとしてもキラはときわの森の東にあるディアトーラには行きたくなかった。私情を挟むなんて、ジャックどころか、便利屋失格である。シャナが腹を立てる理由に初めて納得出来た。


 それ以外のことで言えば、シャナは大人しくキラについて来ている。ワカバを国に売ろうとする気配もない。奪おうとする気配もない。ただ、気掛かりなことがあった。どうもシャナの父親の病状が悪化しているらしいということをマンジュのクイーンが面白半分の情報として、ジャックに言いふらしているのだ。おそらくはガセ。シャナ達が魔女を捕まえようとしているという噂が流れ、それを面白おかしくしたいのか、もしくは情緒的な物語にでもしたいということなのだろう。人の不幸ほど面白いものはない。しかし、それもどこかでシガラスが糸を引いているような気がしてならない。


 だから、クイーン対策として金貨を一千万分用意した。おかげですっからかんだ。そして、今になってあの時のバグベアの心臓を頂いておけばよかったと後悔してしまう。ワインスレー地方においては、あの心臓なら万能薬の材料として高値で売れたはずなのだ。そんなことにも気付かなかったなんて。キラは苦笑しながら、ワカバへ対する認識を貧乏神であると位置付けることにした。


 それから、キラは窓の外にワカバの影があるのに気が付いた。どこへ行く気だろうか。生死を問わず。確かそんな文句の手配書がリディアスで発行されている。これはキラが取った確かな情報だ。そして、おそらくそれが付け足された理由としてキャンプでの出来事とマナ河での出来事が関わっていることは想像に容易い。



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