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Ephemeral note ~少女が世界を手にするまで  作者: 瑞月風花
儚い記憶の物語(第二部)
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キラとワカバ・・・4

 どこをどう歩けばこんなに時間がかかったのだろう。結局空も白み始める明け方に、キラは戻って来た。


「あなたが帰ってくるまで起きてるって言ってたんだけどね。寝かせたの。これ、傷を治す薬だって」


小瓶を突きだしたシャナが、得意そうにキラに言った。


「その肩の傷を治す薬だって」


「あいつが喋るわけないだろう?」


シャナはあの高慢な笑みを浮かべていたが、キラは疲れていた。だからシャナの顔を見続ける元気がなかった。


「魔法の原理って知ってる? もちろんあたしは魔女じゃないから事実を言っているわけじゃないのよ。でも、リディアスの奴らよりもずっと近付いていると思う。あれは悪魔との密約でも神様との契約でも何でもないの。ほら、言霊って言うでしょう? どうやるかは分からないけど、魔女はその言葉で世界を紡ぐの。でも、未熟な魔女程感情が定まらなくて、恐ろしい魔女として目立つわ」


一気に自慢話をし始めたシャナを放っておき、キラはゆっくりと部屋へと歩き始めた。シャナはその歩調に合わせてついて来ているようだ。


「ねぇ、聞いてる? だから、会話に魔術を仕込むようなことが出来るなら、それはかなり手練れの魔女よ」


少し休まなければ、今日はときわの森へと向かうためにマンジュまで歩くんだ。部屋の前で思い出し、振り返った。


「あのね、いい。だから、ちょっと待ちなさいよ」


「二時間後には出発する。それまでに支度しておいてくれ」


「いい加減にしなさいよ」


珍しく覇気を抑えた声でシャナがキラの腕を振り切れないくらいに強く掴んだ。


「あの子ね、声を出すのを怖がってたのよ。どういうことか分かる? 手練れの魔女がそんなこと怖がると思う?」


「それは、おれが言ったからだ」


キラは力任せにシャナの手を振りほどいた。魔法は使うな。あの言葉のせいだ。だけど、ワカバは魔法を使ったわけではないのだろう。きっと、どうしてあんなことになったのかすら分かっていないのだ。キラにだって分からない。ワカバが未熟なのか手練れなのか。


「分かってるんなら、責任もってそんなことで魔法は生まれないって言ってあげなさいよ」


そうだ。疲れていたのだ。だから、キラは何も言わなかった。シャナのキンキンする声が頭に響いてキラに頭痛をもたらす。どうしようも出来なかった。シャナの憤慨にも納得できる。だが、どうしようも出来ない。


「あなたが要らないって言うんなら、あたしがあの子、もらうわよ」


「勝手にしろよ。そんな感情だけで振り回されるなんてうんざりだ」


キラは扉のノブに手を置いたまま静かに叫んだ。息を呑むのと同時に言葉を終い込んだシャナが、怒りと怯えの表情でキラの顔を見つめていた。


「少し休ませてくれ」


覇気すらない声だった。キラはその言葉を零した後、部屋に入った。シャナは黙って時間を止めていた。他人にまで気を留める余裕がなくなっていた。だから、扉はゆっくりと閉まり、キラの視界から完全にシャナが消えた。


 シガラスが言った。


 あの魔女狩りで人間の敗北が決まったんじゃ。


 いいか、覚えておけ。あの魔女のすぐ傍には死神がおるんじゃ。あの魔女に危害を加えようとすれば、そいつが牙を剥く。そして、死神が直接手を下すとは限らん。あの時から歪んでたんじゃ。


『わしはあの魔女を撃つことを依頼されておる。お前がわしを殺すことになるかもしれん、ということをよく覚えておけ』


 部屋の中ではアブデュルの寝息がすぅすぅとキラの耳に届いてきていた。



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