表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Ephemeral note ~少女が世界を手にするまで  作者: 瑞月風花
第一章 儚い記憶の物語(第一部)
27/91

滅びの魔女・・・4


 旅商人達があらゆる場所でかき集めた品物を屋根だけの簡易テントの中や、御座の上で売りさばいていていた。キラは、水筒、乾パンの袋一つ。蜂蜜一瓶、二人分の雨具とちょっとした小遣い稼ぎになりそうな仕事を探していた。そして、一見にして怪しいと感じられる、胡散臭いテントを見つけた。キラは何となく足を止めて、その店の前に立つと、テントの主人が少しだけ顎を上げた。頭に紫のターバンを巻いた蛇使いのようないでたちの店主がたわしのような髭を生やして、胡坐をかいている。その周りには幾何学模様の布や、ガラス瓶、赤と黄色と黒の縞模様の蜘蛛の標本数点、金の火かき棒、ルビー、サファイア、水晶、ターコイズ、それらが埋め込まれたナイフが陳列されてある。おそらく、冒険者の持ち帰ったものを買い取ったのか、くすねたのか、といった感じのものばかり。どう考えても役に立たないものばかりだった。


「いらっしゃい」


その気だるそうな店主の声で、キラはふと我に返った。その時キラはショーケースの中に丁寧にたたまれているぼろきれを見ていた。店主はそのぼろきれの説明を始めていて、ちらちらとキラの顔色を窺っていた。やる気があるのかないのか、さっぱり分からない。


「それは、護符効果のある布でぇ。退魔の布とも呼んでるものでぇ。どんな魔術もそれを撒きつけたモノには効果を発揮しないらしい代物なんだそうでぇ。魔女に関わるんなら持ってて損はないねぇ」


 紫のターバンに、上前歯が一本無くて、その下が金歯の店主はどう見ても胡散臭い。そして、彼が喋る度にそこから息が漏れていた。もし、キラなら金歯にするよりも先に穴の空いた歯を何とかするだろう。そして、店主は、頼んでもないのに黄トンボの目玉の入った瓶をがさがさ鳴らし、それの説明も始めた。


「これを食べると、一時的にどんな痛みも感じなくなるんでぇ。なんせ、殺される時は想像だにしない痛みを伴うらしいですからねぇ。持ってて損はないねぇ」


 そういえば、ワカバは役に立たない丸いものが好きなようだった。昨日も宿に物売りに来ていた者から飴玉を買ったらしい。そして、その後のワカバの行動はいつにも増して変だった。まるで、隠し事の出来ない子どものようにがま口を大事に握り締めたワカバは、話をしてもキラから目をすぐに逸らすし、声を掛けただけで肩を竦ませていた。その理由が明らかになったのは今朝だった。朝食を持って行った時、ワカバが浮かぬ顔をして自分のがま口の奥を眺めていた。中身を知って悲しくなったのはキラの方だった。もちろんワカバとは違う理由で。


 溶けた赤い飴と、それに絡まる金貨、銀貨、銅貨五枚。緑と青のビー玉二つ。


 丸いものを種別構わず一緒に入れた結果があっただけ。ワカバの性質も、ワカバが買い物をしたことも分かっていたはずなのにキラは何も言わずに朝食だけを置いてその部屋を後にした。


 キラはワカバに褒賞金のかかった魔女だとは一言も言っていない。五千万ニードの魔女。キラに怒鳴られ肩を竦め、今にも泣きだしそうな魔女にそれを伝えることが出来なかった。そう、ここで起きるキラの苛々の全ては、全てキラから派生しているのだ。だから、余計に腹が立つ。


 歯抜けの金歯は思い出したように手を打ち、彼の背後にあった麻の袋の中身を探り始めた。「お客さんお客さん、ちょっと待っててくださいねぇ……」そして、彼の気付かないところで、小さな影がキラに並んだ。


「あんた、滅びの魔女を見つけようとしてるのかい?」


継ぎ接ぎだらけの服を着た老婆がキラの横に立っていた。老婆の腰はあと少しで折れてしまいそうなくらい曲がっていて、その腰に片手を当てて、もう片方の手に棒切れとも言えそうな杖を持っていた。体重のかかった杖はぐらぐら震えている。


「なぁに、小さい町の出来事さ。気にしなさんな」


老婆はキラの顔なんて全く見ずに、にんまりと笑っていた。


「じゃあ、これは絶対に掘り出し物でぇ」


さっきよりも訝しげな金の蛇が商人の手に握られていた。しかし、すぐに彼の表情は曇った。


「婆さん、また来たのかよぅ」


「関わらん方がいいさ。関わったってろくなことがない」


老婆はキラを戒めるように静かに言った。必死の商品説明をキラが聞いていないと知った店主は、蝿でも追っ払うように手を振り、老婆を追いやろうとした。


「もう! いい加減にしてくれ。毎日毎日。商売の邪魔ばっかり!」


「婆さん、魔女について知ってるのか?」


老婆は意味深げに首を横に振った。しかし、誰が見ても知っているとしか思えない。商人は老婆を睨み、キラに微笑みかけた。キラの興味は商品のどれでもなくて、その老婆に移りはじめていた。もちろん、商人は不機嫌だった。


「今すぐ、出て行け」


商人と、老婆の声が交差した。両者の間に不思議な沈黙があり、出て行ったのは老婆だった。老婆は手を軽く振り上げ、歩き出した。別にキラを説き伏せようと思っているわけでもないらしい。


「さっきの婆さん、いったい何者だ?」


「あぁ、ドンク婆だよ。魔女の墓守をしてるらしいんですがねぇ。変人ですねぇ。あれは。一歩間違えば、ギロチンもんでさぁ」


商人の使った墓守の言葉が引っかかった。魔女を供養してやろうなんて思えばシルク婆の二の舞だ。商人の視線はキラを逃がさないようにずっとキラに注がれている。


「その婆さんのこと教えてくれないか?」


「へぇ?」


商人は不意をつかれたように、キラを見上げた。キラは次に続く言葉を考える。彼が何を望んでいるのか。見た目悪人顔だが、意外と真面目に商売をしている様子に見受けられる商人に、その答えを駆け引きから遠ざけた。


「ただでってわけにはさぁ……」


「その代わり、買うよ」


キラはあっさりと答えた。


「……へぇ、……。あっ、あっ、そうそうどれにしやす? こっちはぁ、商売成り立てばいいんだけど、物好きだねぇ」


気でも振れた奴を見るような商人の目付きにキラは「さっきのぼろ布にするよ」と答えた。布なら、効果はなくとも、包帯替わりにくらいにはなるだろう。


 魔女の墓守を名乗る人間。彼女が一体何を護ろうとしているのかが分からなかった。どうせキラとワカバの存在がばれているのなら、その関係をうまく言い表す嘘をつかなければならない。魔女の疑いをかけられた知り合い。国の兵から逃げるのに疲れてきていること。それから、もしかしたら魔女かもしれないと思うことがあること。そうだ、ワカバはマーサが太鼓判を押すほどに薬作りがうまい。キラの治るはずのない傷を治した。ワカバが魔女であるかもしれないことで悩んでいる。そういう筋書きでいいかもしれない。結果はどちらでもいいのだ。ただ、三日間を何もせずに過ごすよりはずっといい。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ