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Ephemeral note ~少女が世界を手にするまで  作者: 瑞月風花
第一章 儚い記憶の物語(第一部)
19/91

再会・・・3

 途中下車まで、十分弱。


 キラは時間を確かめて、三両目と四両目の間の連結部に立っていた。三両目の扉の向こうにはトイレがあり、四両目の扉の向こうには喫煙所がある。連結部には屋根が無く、人が二人並んで通れるスペースがある。


 後、七分。もうすぐ、車両が大きく傾くカーブに差し掛かる。稼ぎの一定しない三年前くらいまで、少しスピードの落ちるこのカーブ手前にお世話になっていたのだ。二十ニードくらい安くなる。乗車券を確かめる車掌は、あのカーブの後に一回きりしか来ない。その頃はそれで一日の生活が違っていたのだ。そして、まだ来ないワカバを考えた。少し心配な面はあるが、置いてきた手紙に身を隠す場所の地図と住所、切符、簡単な警告がある。それにマーサだって少しは持たせているはずだし、来なくても食うに困らないだろう。しかし、こうやってワカバを待っていると、変な心配が脳裏に過ぎるのだ。魔女は十一年前から一歩も研究所から出たことがない。魔女の年齢は十六歳。研究所の奴らは十六年という変な数え方をしていたが、きわどいラインだと思えた。


 一人で列車に乗る、はクリアしているとして、残る問題はお金を使ったことがあるかどうかだった。


 三分後、カーブに差し掛かる。時間を確かめたキラはその目の端に映る人物に気付き、視線を移した。


 まるで立てつけが悪いかのように、不器用にがたがたと扉を開くワカバがいた。諦めかけていた事態に、どうしてかキラは安心していた。不意に砂塵に襲われたワカバは、キラを見たかと思うと顔をしかめ、額に手をあて、視界を庇った。その手にはしっかりと手紙と黄色いハンカチが握られている。その後からワカバをつけて来た奴らが見えた。ワカバが何かを言いかけたが、キラは急いでワカバの手を掴み、自分の後ろへと引っ張った。そして、素早く扉を閉め、ノブの部分をワイヤーで柱にくくりつけた。


「しっかり目を瞑って、それを食い縛ってろよ」


あまりにもワカバが何も言わないので、キラは居心地が悪かった。そう言っている間にも賞金稼ぎ達は固定されている扉を抉じ開けようとして、指を扉の隙間に突っ込んでいた。ワカバはまだごそごそと鞄の中を探っている。後七秒。賞金稼ぎ達は開かない扉に苛立ちを表し、扉に体当たりをし始めた。


「いいな?」


言われた通りにやっと大判の桃色のハンカチを口に入れたワカバはキラを見て、しっかり頷いた。その姿に何だか違和感があったが、気にしている暇もなかった。扉はかろうじて開かない程度。


 車体が大きく傾く。キラはワカバをグッと脇に寄せ、スピードが一番落ちる瞬間を狙って、その列車から飛び降りた。一瞬だけゆっくりと、そして、急激に体が落ちていく。口を開ける賞金稼ぎの姿を目端に映しながら、キラは少しの衝撃でも壊れてしまいそうなか細いワカバを途中で落とさないようにしっかりと抱き締めた。車体がキラのすぐ横で轟音を立てて去って行くのが見えた。そして、黄色い大地が岩のように変化した。今までにない激痛がキラを襲い、あれとも言う間もなく体が軽くなった。

やはり、慣れないことはするべきではない。キラは一人で転がって少しの間ぼんやりと考えていた。ワカバは少し重くなったのかもしれない。きっとマーサがたくさん食べろと、ワカバを太らせたのだ。マーサならやりかねない。キラの脳裏にはガーシュに連れられ、初めてマーサに出会った日の食卓が自然と思い起こされた。


 肉料理中心の品々とそれを完食することが当たり前だと思っているマーサの顔。


 それについては同情の余地はある。


 ワカバが少し離れたところで息をしていた。生きているようだ。それが良かったのか悪かったのかが、キラの中で全くはっきりしない。ただ、無理な姿勢で落ちたせいか、左半身が痛い。キラは、右手の甲を額に載せ、砂埃に揺れる太陽を見た。少し西へ傾いている。早く町まで行かないと、夜が全ての温度を拭い去ってしまう。そして、言われた通りしっかりと目を瞑って歯を食い縛って、手足を縮めたまま砂の上にくの字で寝そべっているワカバを見遣った後、立ち上がった。


「大丈夫か?」


 無事を確かめたはずなのに、ワカバはより一層目を硬く閉じて、突然熊に遭った人間のようにぴくりともしなかった。


 しかし、そのワカバの感覚はあながち間違っていない。魔女と人間。ジャックと人間。何を取ってもあまり変わらないものなのだ。


「……もう大丈夫だから。動けるか?」


キラは自分に言い聞かせるために、制約を込めた約束をした。ワカバの瞼が恐々開かれ、自分の体が動くかどうかを確かめるようにして、体をゆっくりと起こし始めた。


 キラはこのワカバと大丈夫な形で別れなければならないのだ。



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