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Ephemeral note ~少女が世界を手にするまで  作者: 瑞月風花
第一章 儚い記憶の物語(第一部)
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オリーブにて・・・1


 オリーブに来てから三週間。キラはジャックとしてではなく、便利屋として日々の小銭を稼ぎながら生活していた。その中で一番の話題がグラディール様崩御だった。老若男女全てと言っても過言ではないくらいに、彼らはアイルゴットの正式な国王任命に恐れ、国の行く末を案じていた。キラも同調するが、今のご時世なら、アイルゴットで充分だろう、という気持ちしか現れなかった。しかし、それはキラが魔女に関わっているからなのかもしれない。


 グラディールが崩御した、という知らせが(ちまた)を騒がせたのは、キラがオリーブに着いてから、僅か数日のことだった。本当に病状悪化の知らせが届いてからのグラディールは呆気なかった。誰も彼もが過去の魔女狩りを記憶に呼び起こし、勝手がって呪いのせいにし始めて、面白がっているようにも見える。あの衛兵が言っていたようにゴルザムの検問も終わり、厳戒態勢はオリーブへと移っていた。奇しくも、今日は各国の研究者輩も招かれる国際会議で、魔女についての議論がなされるのだ。本来なら半年に一度の定例会議であり、キラがワカバをリディアス城壁で捕まえた騒ぎで延期になっていたものが、再度仕切り直されることになったのだ。表向き魔女はまだゴルザムにいることになっているため、オリーブに白羽の矢が立ったのだ。


 だからだろう、いつも緊張感のないこの町が、妙な緊張の渦の中にあった。


「俗称魔女の町であるオリーブで、魔女会議とはな」と言っていたシガラスにはずっと会っていない。


 キラは今、オリーブ西公園、通称鳩公園と呼ばれている場所にいた。人のあまり寄り付かない辺鄙な場所だ。オリーブで人が集まる場所と言えば、もっと日陰になっている町外れや、裏通りにあたる。シガラスならともかくも、人付き合いが鬱陶しいキラは鳩の集まる公園で軽食を食べ終り、用意されていた新聞を読んでいた。キラの横にはゴミと共に入れられた札束の紙袋がある。場所を指定したのはキラだが、新聞を用意したのは、キラの待ち人だった。


 人工的に植え付けられた木の陰にあるベンチの上に置かれていた新聞が、キラと待ち人を繋ぐ目印になる。その待ち人と仲介なしで会うのは初めてだった。最後の手段というか、最後のあがきをしようとしているのが、キラ自身よく分かった。ワカバが安全に暮らせる場所も、逃げ果せる場所もないのだ。だから、キラには一週間前に受け取ったマーサの手紙の書き出しが皮肉にしか思えなかったのだ。


 しかし、朗報らしい。手紙の書き出しにそう書いてあったのだから、きっと朗報なのだろう。


 ワカバの熱が下がり、髪を切ったこと。それから、ワカバが酒場の掃除をしてくれているということ、薬作りをはじめ、マーサの友人のカミュアがそれを誉めて、買ってくれるということ。一度、一緒に買い物に出かけて、新しいすり鉢と乳棒を買ったということ。なんだか、かわいい娘が出来たみたい。とてもいい子よ。と締め括られていた。やはり、キラにはどうしてもそれが朗報には思えなかった。どちらかと言えば嫌味である。特に買いものに出かけた辺りは……。


 その日、キラはシガラスを捜すためにあの近くにいたのだから。マーサもそれを承知で、未来確定事項までも書き連ねた手紙を酒場に残るガーシュに託していたのだから。あの時のワカバは、髪はまだ長いままで、おそらくマーサが結ったであろう大雑把な三つ編みが二本垂れていた。そして、魔女に似つかわしくない薄桃色の服を着たワカバはマーサの後ろを相変わらずキョロキョロしながらついて歩いていた。


 灰色の鳩が一匹、グルルククゥと鳴きながら、キラの足下に寄って来た。ククゥ、ドゥドゥ。もう一羽。キラを警戒しながらも、無防備に餌を探して首を動かしている。マーサの大切な娘を放って逃げたりすればどうなるか。そんなこと、恐ろしくて考えられない。




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