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Ephemeral note ~少女が世界を手にするまで  作者: 瑞月風花
第一章 儚い記憶の物語(第一部)
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魔女・・・5


 キラが酒場を後にしてからもワカバの目は全く覚めず、昏々と眠っていた。その間もリディアスは躍起になって、衛兵達が突発的に家に押し入ったり、関所の守りを固めたりしていた。その目をどうやってかわしているのかは分からなかったが、ガーシュの酒場が目を付けられることもなく、噂が広がることもなかった。焦るキラを尻目に、時間は無情にキラの頭の上を通り過ぎて行くようだった。キラは日雇いの仕事をしながら、シガラスやキング、ランネル、ラルー、リディアスの様子を探っていた。人々の話題は専ら魔女とグラディールの病状、現国王の悪口が多い。


 そして、一時町を騒がせていたあの老婆や、ラルーについては忘れ去られたかのように話題に上らなくなっていた。おそらくその原因はワカバの褒賞金が五千万ニードという法外なものに跳ね上がったせいだ。おかげでワカバの話題には誰もが事欠かなかった。五千万ニードあれば軽く屋敷が一軒建ち、しばらく遊んで暮らせるだろう。その賞金額が馬鹿げているのと同時に生け捕りにという文句が付け加えられ、あの老婆の孫が魔女を殺してくれ、という依頼を請けてくれる人間を探しはじめていた。もちろん、誰も請けないが、もし、シルク老婆の孫娘のルリが心配の種のシガラスに出会ったら、と思うと雲隠れしたい衝動にすら駆られた。


 せめて、ラルーの情報が入れば、そいつを追いかけることも出来たのだが、それも出来ず、キラはオリーブへ向かうために列車の切符を購入した。良くも悪くもオリーブは魔女と因縁がある町で、キラが駆け出しの頃にいた町でもある。そして、差出人も宛先もないただ髑髏の封蠟を押しただけの手紙を出した。

 ゴルザム駅にいる乗客は普段よりも少ないように見えたが、それでもごった返していた。おそらくキラの向かうオリーブへの乗客ではなく、ワインスレー地方行きの船がある国境の町スキュラへの乗客がほとんどだ。そして、改札には検問をする衛兵がいて、改札を通る人間の顔を睨み付けている。その中に知った顔が何人かあった。どこを通っても見つかるのは必至だ。だから、キラはその中でもあの愚痴衛兵のいる検問改札を選び、「こんにちは」と挨拶をした。亜麻色の頭を掻いた衛兵は懐かしそうにキラに話し掛けた。この様子だとまだあのチップは使われていないのかもしれない。


「久し振りだな」

「相変わらず忙しそうですね。これなら、猫の手でも借りたいくらいじゃないですか?」

「あぁ、まぁ、そうだな。お前を引き止めてやっても良かったかも知れんな。まぁ、後一週間もすれば、この検問の仕事も終わるしな。少しは暇になる。ところで、オリーブへ行くのか? 仕事でも見つかったのか?」

「魔女でも探そうかと思いまして」

キラは愛想良く笑って、衛兵を見た。衛兵は疲れた笑顔で「お前が捕まえた時は褒賞金なんて出なかったな」と申しわけなさそうに呟いた。

「きっと今なら立派な家が建ちましたよ」

家なんて建てるつもりはさらさらなかったが、皮肉がましく言ってみた。あれだけ人を馬鹿にしてきたのだから一つくらい言い返してもいいだろう。真面目な衛兵がわざと明るく振る舞おうとしていた。

「オリーブはもう虱潰しだったから、魔女に会うことはないだろうが、まぁ、また金に困ったら雇ってやるからいつでも来いよ」

「その時はお願いします」

そして、キラが軽くお辞儀をして彼を通り過ぎようとすると、いきなり肩を掴まれた。振り返ったキラの目にあの衛兵の瞳が真っ直ぐ注がれる。キラの頭の中は一瞬真っ白になり、彼の意図を探ろうとめまぐるしく動き出した。


「お前、何か、そうだな、動物の訓練士か何かになればどうだ? あの犬よく働いてるぞ。お前のお陰だ」

そして、背中を景気よく押し叩かれた。

「ありがとうございます。考えておきます」

衛兵が白い歯を見せてキラを見送っていた。その衛兵は今キラの心臓がどれだけ鼓動し、どれだけ安心したかを知らないようだ.


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