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風追い人  作者: たいちょ~
2/2

アキリ

どこからか、犬の遠吠えのような獣の声が聞こえる。そういえば、さっきゼファーが凶暴な魔物とか言ってたっけ…

異世界とか、魔物とか、で、目の前に龍って、夢見てるだけなら覚めてほしい…


風人は、そんなことをグルグル迷想しながらゼファーの後をついて歩いていた。

「シャキッとせいや。こんなトボトボ歩いてたら、陽が暮れてまう。そしたら、ホンマにアウトや。朝には骨だけになってしもうてるで。」

後ろ向きに器用に飛びながら、風人に檄を飛ばす。

「こんな山ん中、どこに向かってるんだよぉ。」

考えも纏まらないまま嫌々体を動かしているせいか、疲労が溜まりだしている。今、座り込んだらもう立てないかもしれない。それをわかってるのか、ゼファーは励まし続けていた。

「確か知り合いのじいちゃんが住んではる山小屋があったはずや。そこを使わしてもらうんや。」

山の中にいるとちょっと陽が傾いただけでも薄暗くなってしまう。線状になって降り注ぐ光だけが希望。この光があるうちに山小屋まで辿りつかないと…


どこからともなく、温泉のような硫黄の香りが漂ってきた。温泉でも、近くにあるんだろうか?

「風人、ストップや。」

口の前に短い指を一本だけ立てて

「しー。静かに…。」

ゼファーは、少しだけ高いところまで飛び上がり、ゆっくり周りを見渡している。

神妙な顔で降りてきた。

「しもうた…ヘルハウンドに囲まれてもうた。」

「えっ?それって、まずいの?」

「不吉の象徴、地獄の一丁目のヘルハウンド。もう間もなく、しゃれこうべになってまうな…。」

「どうすんだよ!元の世界に戻って花火大会に行くまで死ぬわけにはいかないんだよ!」

さっきからしていた硫黄の鼻をつく臭いが濃くなった気がする。自然と冷や汗的なものが頬を伝う。

「これしかないな。風人、走るで!」

そういうと土手を降りだした。

何が何だかわからないけど、一人になるわけにはいかないので、ゼファーを追って土手を降りる。

「こっちに川が流れてる。ヘルハウンドは、水が苦手なんや。渡ってしもうたら、追ってこれへん。対岸にいたら一発アウトやけど、これにかけるしかない!」


「風人、死ぬ気で走れ!」


死ぬ気でと言うか、立ち止まったらほぼ間違いなく死んでしまう。死ぬ気でと言うよりは、何が何でも生きるつもりで走る。

微かに水の音が聞こえてきた。もう少しで川につく。もう少し…

森がきれ、目の前に川が姿を現した。運が良く幅は広いが浅瀬が続いている。ここを渡りきれば

「あっ!」

急に足元が土からゴロゴロした石に変わったせいか、足がもつれ前につんのめってしまった。

「風人!早よ!立って走るんや!」

前を飛んでいたゼファーは、素早く方向転換して、風人の元まで戻り腕を引っ張った。


ーガサッ


風人たちが抜け出てきた森の方からドーベルマンを一回り大きくしたような一匹のヘルハウンドが飛びかかってきた。目は血のような赤をたたえ、一直線に走ってくる。

風人は、無我夢中で手足を動かすも歯車が足りないオモチャのようにチグハグな動きをしてほとんど前に進まない。まさにヘルハウンドの前脚が風人の足を捕えようとしたとき、

「何さらすねん!」

ゼファーがヘルハウンドに向かっていく。ヘルハウンドの顔に体当たりして身じろぐもヘルハウンドは前足でゼファーを叩き落とす。

ラケットにスマッシュヒットされたバトミントンのシャトルのように川に叩きつけられる。

なんとか、後ずさりしていた風人に再び襲いかかる。まさにその時、空気を割く音とともに空から一筋の光が落ちてきた。


ドンバババンっ!


破裂音とともに衝撃波が風人を川まで弾き飛ばす。


「いたた…。」


目を開けるも強い光を間近で見たせいか、真っ白で何も見えない。焦るが見えない以上歩き出すこともできない。目をパチパチしながら徐々に回復する視界をまった、視界がある程度回復すると、ゆっくりと体を起こした。

そして、飛ばされた方向を恐る恐る見るとさっき襲い掛かってきたと思われるヘルハウンドらしき塊が青白い火で燃えていた。その周りを仲間と思われるヘルハウンドが数匹囲んでいる。ゼファーの言っていたようにヘルハウンドは水に弱いようだ。こちらには向かってこない。

ハッとして、ゼファーを探す。

「ゼファー!」

「ゼファー!!」

風人から3メートルくらい離れたところの川に横たわっていた。よろよろと風人はゼファーに近寄り抱きかかえた。

「大丈夫か?ゼファー。」

心配そうな顔でゼファーを覗き込む。

微かに動き風人に顔を向けるとゆっくりと目を開く。

「男がなんちゅう顔してんねん。わいが男の腕で死ぬわけあらへん。」

力なくではあるが笑って見せた。

「ばかやろう…」

ホッとしたのもあるのだろうか。風人の頬に一筋光るものが流れた。


それにしても、運良く雷が魔物に落ちるなんてあるはずがない。ここはファンタジーの世界。稲妻の魔法なんてあってもおかしくない。それを物語るように空は暗くなってきたものの雷を落とす雲なんて浮いてない。

ただ、さっきの雷が実は僕たちを狙ったもので手元が狂っただけってこともあり得る。

風人は、慎重に周りを見渡す。さっき渡ってきた方向には恨めしくこちらを見ながらウロウロするヘルハウンドの群れ。薄暗くなったその対岸も見渡す。よく目を凝らすと対岸の森の方から小柄な影がだんだん濃くなってくる。

「命拾いしたようじゃのう。」

黒のガウンに身を包み、右手には杖を握っている。杖をついているわけではないので足が悪いわけではないのだろう。白いひげをたくわえ、頭は逆に髪がない細身の老人がゆっくりと近づいてくる。

「水に浸かっていては、体が冷えてしまう。こちらへ来なさい。」

老人は穏やかな笑顔で話しかけてきた。

笑顔に心を許してしまえば楽なのだが、ここはわからない土地。いつも以上に慎重になってしまう。

「おじいちゃんは、敵じゃないんですか?」

老人はふっと笑い。

「ワシが敵じゃったら、さっきの雷でこの辺一帯を吹き飛ばしておるよ。お主らを川に飛ばすくらいの力で発動させるのはなかなか骨が折れたわい。」

ゼファーが老人の方に顔を向け

「アキリ。じぶん、来てくれたんか。」

表情に弱々しくも安堵の色を見せる。二人は知り合いなのだろうか?

「ほほほ。友人を見殺しにするまでは腐ってはないつもりじゃよ。」

ゼファーは、風人の方に顔を向けると

「風人、こいつは大丈夫や。わい達が向かっておった山小屋の主や。」


風人たちは、アキリに連れられ山小屋に着いた。

ゼファーをベットに横たわらせ、風人はアキリの用意してくれた温かいお茶をいただく。ジャスミンのような甘い花の香りがするお茶。今までの緊張を解いてくれるようである。

「改めて、自己紹介をしよう。ワシは、アキリ。この国の者は、ワシを大賢者と呼ぶ者もおるが見ての通りただのじじぃじゃよ。」

「いろいろと顔が売れてしまってのう。人がほとんど入って来んこんな山奥に住んでおる。」

「ゼファーとは、古い友人でのう。久しぶりではあったが近くに来ていることがわかったのでのう迎えに出てみれば、お主とヘルハウンドの餌になろうとしておった。」

「まぁ、青龍の鱗がヘルハウンドごときには食い破れんじゃろうから、おまえさんだけが餌になり損ねたわけじゃが。」

ほっほっほと笑うが、全然笑えない。

「賢者だから、アキリ様? ありがとうございました。」

「よいよい。様なんて、何年も聞いとらんからこそばゆくなるわ。アキリで構わんよ。」

「じゃあ、アキリは、大賢者ってくらいだから物知りですよね?僕の世界への戻り方なんて知らないですか?」

「もちろん、知っとるよ。」

「えっ!?教えてください!」

風人は、身を乗り出しアキリに迫った。

「そもそも、異世界の者がこの世界を訪れるのは、この世界〜ルリタニア〜に迫る危機を防ぐ為とされておる。」

「この世界の意思のようなものが呼びかけ、勇者を招くんだそうじゃ。」

「ま、まった!」

「危機を防ぐって、僕、戦いとかできないよ。さっきだってヘルハウンドに殺されかけたし…」

「危機を防げなかったら、どうなるの?」

「決まっておろう。この世界と運命を共にするだけじゃ。」

「元の世界に帰れないどころか、僕の一生も尽きちゃうよ。」

前に乗り出していた体を椅子に戻しガックリと頭を抱えた。

「おまえさん、ネガティヴの塊みたいじゃのう。この世界に召喚されたのと引き換えに特別な力が渡されておる。」

「力…?」

「なぜ、風人、お主がゼファーの元に召喚されたと思っておる。」

「たまたま…?」

なわけないと思いながらもははは…と空笑いしながら答える。アキリは、ため息をつきつつ

「たまたまなものか。異世界からの勇者にはこの世界の四方を守っている四象らが力を貸すことになっておる。ゼファーは、青龍、東方を守護する四象の一体じゃ。その元に召喚されたのも不思議ではなかろう。」

「ゼファーが僕に力を貸してくれる?」

「まぁ、お主次第じゃがな。ほっほっほ…。」

「まず、おまえさんがやるべきことは、他の三人の異世界人を探すこと。それぞれに白虎、玄武、朱雀の力を得ておろう。その四象の力が集まって、危機と対峙する力となるのだ。わかったか?」


アキリと話し終えたあと、ゼファーの隣のベッドに横になり、窓から降り注ぐ月の光を見つめていた。やけに明るい満月だろうか?

あちらの世界にいた時は、町の光が眩しくて月の光なんて気にしたことなかったっけ。今、異世界にいるんだな…。

そんな取り止めのないことを考えているうちに深い眠りへと誘われていった。


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