はじまりの風
初投稿です。
少しずつですが、更新していきますお♪最初なので、ベタなのは多目に見てくれるとありがたいです。
風は、季節の変わり目を知らせてくれたり花の種子を遠くへ届けてくれたり変化を告げ運ぶもの。
今、一陣の風が新たな物語を告げる。
どこまでも続く草原。一人ぽつんと少年が立っていた。
山もなく、建物もなく少年の腿くらいの高さの草が生えているくらい。空は、青空で心地よい風が吹いている。
そこがどこなのか、なぜそこにいるのかわからない。でも、確かにやるべきことがあるそう思うのだ。胸の奥の方からなんとも言えない不安がこみ上げてくる。
「風人。」
か細い少女の声が風に乗って、風人の耳に届く。弱い弱い声だけど、必死な想いは伝わってくる。だが、辺りを見渡すも誰の影も見えない。たなびく草が続くのみ。出処不明の不安感と一緒でこの子を知っている。しかも、会いに行かなくてはいけない。そんな気がする。
探し続ける風人に急に突風が襲いかかる。とっさに目をつむり前傾姿勢をとり飛ばれまいとする。右足を前に出し凌ぎきろうとより低い姿勢をとったとき、風は風人の体を斜め下よりふわりと浮かす。慌てて地面に足をつけようとした瞬間、パッと地面は消え風人の真下したには深い闇が広がる。
風はふっと消え、真っ逆様に落ちていく。
「うあぁぁぁぁ…。」
ドサッ
カーテンの隙間から、1日の始まりを告げる新しい光が細く差し込む。風人のお気に入りの漫画が並ぶ本棚の一角を照らす。壁には、サッカーのユニフォームがかかっている。青いユニフォームで肩には足が三本の烏のエンブレムが縫い付けてある。机には、昨日やりかけの夏休みの宿題の問題集が開いたままでおいてある。
この部屋の主は言うとベッドの下に布団ごと落ち、布団が作り出した闇にもがいている。
「うあぁぁぁぁ…あ?」
背中から落ちたのか、痛みを感じる。
「いてて…また、あの夢か。」
最近、毎日のように見る夢。
知らない場所なのに懐かしい景色、そして、懐かしい声。知らないはずのことを知っているように感じるデジャビュってヤツだろう。そう納得していた。
太陽が目線の高さからやや上へ移動する頃、風人はリュックを背負い駅を目指す。昔の中学生は夏休みは遊び明かしたそうだが、今はそうはいかない。毎日、塾の夏期講習に通い。学校とは比べものにならない宿題が出される。学校がないだけ楽といえば楽だが、でも、遊んでる余裕はない。ただ、来年、高校に入りさえすれば、全部報われる。特にあの子と同じ高校にさえ合格すれば…
「風人くん、おはよう。」
声がした方向に顔を向け
「おはよう、紗恵。」
ばれるはずがないのに、今、想像してたことが気恥ずかしく伏せ目がちに赤い顔で挨拶を返す。
「顔赤いけど、走ってきたの?」
屈託のない笑顔で話しかけてくる。天使っているとすれば、こんな感じだろう。君の声は天上の音楽。心地よい調べ。なんて、自分の中の変なスイッチまで入ってしまう。
紗恵は幼馴染なんだけど、小学生の時に転校して去年、また、この町に戻ってきた。昔は、意識しなかったけど、戻ってきた紗恵は別人のように可愛くなっていた。他のヤツから見ても可愛いということの証明のように転校した先で彼氏がいたとか、今も付き合っているとか噂が飛び交っているが情けないかな本人に確かめられずにいた。
いつものように講習が始まり、いつものように1日が終わる。これがあと一週間くらい続くのか…
「来週、夏期講習が終わったら、花火を観に行かない?」
「えっ??」
ぼぉーっと、この世の無常を呪おうとした僕に
不意に夢としか思えないお誘いが聞こえた。
「えっ!?今、なんて言ったの?」
「聞いてなかったの?じゃあ、教えてあげない。」
いたずらに笑う紗恵は可愛い…じゃなくて。
「花火に行こうって言った?」
「な〜んだ。ちゃんと聞こえてたんだ。」
おちょくるように僕を覗き込んでくる。これが好意なのか、幼馴染だからなのか。わからずに脳内の僕はいたるとこにヘッドバッドをかまし、惚れてまうやろが〜〜と叫ぶのであった。
「僕でいいの?女子の友達とか、紗恵だったら他のお誘いもあるだろうからさ。」
急に膨れたような顔で
「風人くんこそ、他に先約があるんじゃ…。じぃーっ。」
「な、ないよ。あるわけないじゃん。」
「じゃあ、いいでしょ?行こう。」
「しゃーないな。」
嬉しすぎて顔がどんなだかわからなくなり、紗恵を直視できない。自分の気持ちを悟られまいと違う方向を向きながら歩く。正直、この後、何を話したか全く覚えていない。気持ちが遥か上空をハートを描くようにアクロバット飛行をしている。そうこうしているうちに紗恵の家の前に着く。昔はよくここで遊んだな。
「じゃあ、約束ね。」
「おう。」
「また、明日。バイバイ。」
「また、明日。」
振り向かず手だけをあげて歩きだす僕。いや、顔が笑顔過ぎて振り向けなかっただけなんだけど。
憂鬱だった一週間が急に輝きだした。夢なら覚めてくれるな。次の瞬間、ベッドの下なんて正に天国から地獄。そんな他愛もないことを考えながら横断歩道の信号が青に変わるのを待つ。
ふと、横断歩道を見るとちょうど真ん中に目が冴えるくらい鮮やかな青の毛色の子猫がおろおろとしている。中央分離帯の中に潜んでいたのだろうか。それにしても危なっかしい。あんなに目につく色なのに気付いているのは僕だけのようだ。それとも、大人が得意な見て見ぬふりだろうか。早く青に変われ、変わるまでそこを動くなよ。そんな祈りに似た想いで猫を見守っていると一瞬目があった気がした。次の瞬間、何を思ったのか猫は僕へ一直線に走り出した。
「ばかっ!あぶない、こっちにくんな!」
必死に叫んだが子猫が理解するはずもなく、片側三車線の道を横断してくる。車、くんじゃねぇぞ。祈る気持ち右を振り向くと全てを嘲笑うかのように、信号の変わり目で飛び込んでくる左折の車が目に入った。子猫は急に現れた赤い鉄のモンスターに驚き足がすくみ。その場で止まってしまった。それを見た僕は咄嗟に子猫に向かって走り出していた 。子猫を抱き抱えるとそのまま走り出すはずだった。しかし、急に突風が吹き目にゴミが飛び込んできて、一瞬止まってしまった。
「あぁっ!」
もう車は目の前、全てがゆっくりと動いて見える。これは、危険を察知した人間の脳みそがリミッター外した状態なんて、テレビでやってたっけ。もう間に合わないな。スポーツカーの若い男もハンドルを握りしめながら目を見開き叫んでいる。
変に冷静な自分に驚きながらも、花火大会行きたかったなと未練を思っていると、急に回りに竜巻のようなものが出来、風人の視界を360°遮る。
竜巻は直上に渦を巻きながら消えていった。
目線は、竜巻が消えていった空を見上げ、正面に戻す。
「ん?」
目の前から車は消え、ただ、草原だけが広がっている。遠くには山々が見え、さっきまでいた街の様相が全くなくなっていた。
「え?え?えぇ~?」
急なことで、状況が飲み込めずにいる。もしかして、ここは天国?死んじゃったのかな?短い一生だったな。キスもしてないのに…
「いたっ!」
えっ?
キョロキョロと回りを見渡すけど、誰もいない。
空耳かなと両腕に抱えた子猫の無事を確かめようと緊張で固くなった腕をゆっくり緩める。中には子猫……………じゃない。同じ青色だけど、頭に2つ、鼻の上に1本、角がはえていて、背中には小さな羽が。その訳のわからん生き物が羽をパタパタと動かす。
「わっ!!!!」
驚き過ぎて、その生き物を投げ、自分は尻餅をついてしまう。
宙にあげられたその生き物は、小さな羽を必死に動かし、宙に浮かぶ。飛んでいる。
不意に、そのちんちくりんな生き物から
「なにすんねん。落っこちたら、痛いやろうが!」
と関西弁が聞こえてくる。
風人は、あまりにもいろいろなことが起こりすぎて呆然と立ち尽くしていた。今、自分が見ているものをどう理解していいのかわからない。
「急に捕まえられて、窒息になるくらい強く絞められて、挙げ句の果てに放り出すってどういうことやねん!」
そのちんちくりんな体をバタバタさせながら言葉を畳み掛け抗議してくる。
本当なら逃げたい! …のだけれども腰が抜けて動けない。
「おま、おま、おま、えは、なんなんだよ!」
震える腕を持ち上げ、人指し指をちんちくりんに向け、吃りながら言うのが精一杯。この場を離れたい、逃げたいって思いだけが心に渦巻いている。本当は、目の前にいるのが何者なのかなんて知りたいとも思ってないのだ。
「わいかぁ~?わいは、青龍のゼファー。風を運ぶ宿命の龍や。」
ゼファーは、短い腕を胸の前で組みエヘンと胸を張る。存在に畏怖や尊敬の念を期待していたのだろうが風人はただきょとんとしていた。
「じぶん。なに、きょとんとしとるん。ここは驚くところやろうが。ほんま、聞いてたんか?」
パタパタと飛んできたゼファーは、風人の頭をぺちっとどつく。
「いたっ!何すんだよ!」
「シャキッとせんから、渇や。目ぇ覚めたか?」
叩かれた場所を両手でおさえてゆっくりと起き上がる。
「なにも叩くことはないだろう。青龍なんて言われたって、そんな想像上の生き物が目の前にいるなんて信じられるかよ。」
「運命を運ぶだなんて、なんのことやらだよ。」
いてぇ~と心に浮かべながら、反論してみる。
「想像上の生き物?こうして、目の前におるやろうが!? 現実を受け入れろや。」
「自分、ラッキーなんやで。わいに出会えたってことは人生の春、めっちゃええ運命が訪れることやん。」
人生の春?紗恵と両思いになることもできる?信じたわけではないが、紗恵の思い浮かべると自然と顔が弛む。
「なに、へらへらしとんねん。気色悪い。」
引いたゼファーの声のトーンに現実に引き戻される。
「ほっとけよ。」
急に気恥ずかしくなって、そっぽを向く。
「せやけど、なんでこんな山ん中におったん?この辺は、凶暴な魔物が仰山おるから人間はほとんど入ってこんねん。」
「実は…」
ゼファーに今までのことを話してみる。
今の自分の状況を整理するためにも、存在すら怪しい自称龍に話すのもありかなと。
「…ということ。」
ゼファーが難しい顔をし出した。
パタパタ、風人の右手の方に飛んできて、両手で掴んで手の甲をみる。
「やっぱり…」
「やっぱりって?」
「自分、おかしいとは思わんか?」
「何が?両腕も両足も目も鼻もある。おかしいとこは、どこにもないじゃないか。」
「じゃあ、なんでワイとしゃべれるん?」
「えっ?最初から普通に話してたから、こんなものかなって受け入れようとしてたんだけど違うの?」
「ワイもいきなり捕まれて、普通にしゃべってもうたけど、普通の人間には聞こえへん。」
「唯一会話を交わせるんは、異世界から召喚されたもんだけ。」
「異世界????」
「漫画じゃあるまいし、車に弾かれて外国の山に飛ばされたって言われた方が納得するよ!」
感情のままに話すも、最後は観念したようにポツリと言葉を出した。
「ここは、八王子の山ん中じゃないのかよ。」
さて、いかがだったでしょうか?
主人公が異世界に飛んで、青龍のゼファーと出会うとこまでだったんですが。
次回、ここがどこなのか、そして、なぜここに飛ばされたが描く予定です。
次回もよろしくお願いします!