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むかしむかし

 語る。


 この世界には神という存在があって、かつて人間はこの世の全てが神によって創られ、神によって生活が作用すると信じていた。


 「今年は稲の収穫が全然足らんぞ…。」

「隣村では飢饉で人が何人も死んでるそうじゃないか!」

「仕方あるまい…」


村の人は毎日毎日飢えに恐怖を抱いていた。

ただでさえ一つの村で収穫できる穀物や野菜の数は人一人が十分に食える量は実らない。誰も彼もが常に空腹だったのだ。

それなのにその年の稲の実りは悪く、村人は限界だった。


「女子を贄に…。」


 この村が生贄というまるで儀式のようなことをするようになったのは九年前。

飢饉、嵐や津波といった自然災害が起きると、村人は「神の怒りだ」と恐れ、何を思ったのか齢十もいかない幼い少女を村の裏にある山奥の寺へ一人で行かせ、同時にその年に実った中でも一番大きく艶のある果物を持たせ、神への供物とした。

少女を贄に出してから数日すると村の作物の実りは良くなり、災害も起こらなくなる。

また、村の一人が山奥の寺へ行ってみると生贄となった少女はどこにもいなかった。探しても死体すら見つからなかったのだ。

それを村人どもは「神様へ献上できた」と喜び、生贄の制度を続けることとなった。


「お前の家の子を贄に出す」

「そ、そんな…この子はっまだむっつにもなってないのに…!」

「お前の家には家族が多い。家としても養う者が減れば少しは楽だろう。」

「っ…!」


贄に出されるのは大概子沢山の家の末の娘だった。

村長は冷酷で、決めたことは曲げない人だった。それを知ってか、贄となる少女の家族は悲しみで涙こそ流すも、自分の子供を差し出すことに反対はしなかった。


 そしてその少女は十年目の飢饉年に生贄となった。

何も分からない少女はただ美味しそうな果物を持たされ、「お寺へ先に行ったら後から迎えに行くからね」と大人の嘘を飲み込み、一人寺へと歩いた。

娘が帰ってこないまま一週間という日が過ぎた。


 「…おかしい。稲が実らんぞ…。」

「本当だ。贄は出したのに。」

村人が疑問を口にすると、それはすぐさま村長まで届き、彼もまた稲が実らないことに疑問を持った。

「寺へ行け。あの娘が逃げ出したのかもしれぬ。」


村の男数人と村長が寺へ向かうと娘はいなかった。山の崖下へ落ちたかもしれないと思って探しても、いなかった。生贄の儀式は確かに成功していた。

しかし、稲は実らない。


「…神よ。何が不満か。」


神は答えない。人と神は互いの「言葉」を聞くことはできない。


 それから稲の実りが良くなることもなく、一年で五人の贄を出したが飢えで村人が死んでいくばかりだった。

村長をはじめとした生き残った者は怒り狂う。

あんなに生贄を差し出したのに、と。最高の果実も与えてやったのに、と。

そして人は思いつく。

願いを叶えてくれない神なんぞ神ではない。ならば寺なんて祠なんて壊してしまえ。人の怒りを思い知れ。

そうして村の山奥の寺は人間によって無様に壊され、誰が書いたのか呪術札まで祠に貼られてしまった。


その後の生き残った人々の行く末は分からない。













 平成の世に太古から続く神社の家系があった。三神というその家に、今日新たに赤ん坊が生まれた。


「ほぉ、女子か。」

「はい。爺様。私に次ぐ巫女です。」

「…ふむ。」


生まれた子を「爺様」と呼ばれた老人が抱きあげる。


「っ…!?」


途端、その老人は何かに痺れたように腕に力が入らなくなった。


「爺様!」

「…大事ない。……その子は、とんでもない巫女の力を持っているぞ…。」





 生まれた赤ん坊は弥英と名付けられた。そして三神家には弥英と十歳年の離れた姉の美夜がいた。弥英が四つの歳になった頃だった。


「じじさま!」

「おぉ~美夜に弥英。どうした。」

「このご本読んで!!」


弥英が手にしている本は三神家の書物庫にある古い文献だった。


「弥英にはまだ難しいぞ。」

「ごめんねおじいちゃん。弥英がそれ読みたいって私にも同じこと言ってきたの。私も難しいって言ったら怒っちゃって…。」

「はっはっは!良い良い。…どれ、この爺が読んでやろうぞ。」


美夜と弥英の祖父であるこの老人は弥英を自分の膝に座らせ、弥英の持つ書を開いた。


「これはな、昔々……」














 

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