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    3.8 (土)15:45

再改定です!


いやー、いかに自分の文章に説明不足があったのか身にしみますね。


また内容分割になりました。


もしよかったら、ご覧ください!

「「ええー!」」

 声をそろえて叫ぶ真央と奈緒。


 桃は頭を下げたまま

「あたしたち、君が男の子だって聞いてなかったんだ。うちの母が肝心なこと伝えていなかったから悪いんだけど」

謝罪の言葉を続けた。


「いや、ちょっと待てよ!」

 おもむろに真央は立ち上がる。


「だから、“ごめんなさい”なんだ」

慎重に言葉を選びながら、桃は言った。

「やっぱり、初めてあった男の人を、女の二人暮らしの家に何日間も泊まらせるなんて、できないよ」


 真央を女性だと思って同居に合意したのは自分たちだ、その誤解を棚に上げて、東京に来させた上でその約束を反故にする、それがものすごく無礼なことであることは桃も理解していた。


 しかし、一日二日ならばともかく、何日間も一つ屋根の下に異性を、鹿も見ず知らずの血も繋がらない少年をおいておくなど了承することはできない。


「俺、その、きちんとその辺結城のおばさんに話してもらったと思って」

 真央は必死の形相で言った。

「だけど、それはあんまりだろ!」

 

「そうだよ桃ちゃん! 」

 またもや“姉の心妹知らず”な奈緒。


 人懐っこく小柄でかわいらしい、女の子そのものの奈緒を異性の手から守らなければならない、その意図をまるで理解していなかった。


「悪いのはきちんと話を伝えなかったお母さんでしょ?」

 無邪気な正義感からが真央の肩を持つ。

「わざわざ広島から出てきた真央君を追い返すなんて……」


 しかし

「奈緒は黙ってて」

 桃はその一言で奈緒の言葉を終わらせた。


「はい……」

 桃の言葉に、奈緒はうなだれる他ない。


「ごめんね。今回は本当にこちらの落ち度。だけどやっぱり承諾はできない」

そういうと桃はレモンティーを一口含み、また謝罪した。

「悪いけどいったん広島に帰って、改めて別の人を探したほうがいいと思うんだ」


 真央は拳を握り締め、立ちつくす。

 なぜ桃がこれほど自分の同居に反対しているのか、その真意を測りかねたまま。

 自分の見た目のせいだろうか、いや、引ったくりを見過ごさないような正義感の強いこの少女が、そのような偏見を持つはずはない。

 頭の中でいろいろ考えをめぐらせて見ても、女性というものをよく理解していない、ある意味では幼いこの少年に結論を出すことはできなかった。

 しかし、それでも

「……俺は……」

 心の中に湧き出る感情は抑えることはできなかった。

「……俺はもう二度と広島に帰らん決意で東京に来たんだ。いまさらどの面下げて帰ったらいいんだよ」

 静かに、自分自身に訴えかけるかのように口を開いた。


「ほえ? 広島帰らないの?」

 またものんきに奈緒が口を挟む。

「じゃあさー、真央君は東京の高校に転校するの?」


「いや、俺、高校中退する予定なんだ」

そういうと真央は再び椅子に腰を下ろした。


「そうなんだ」

 真央の言葉を聞くと、さすがの桃もその言葉をややトーンダウンさせた。

 桃は、選びながらも厳しい言葉を口にしたことを少々後悔した。


 自分と同級生の人間が、高校を中退して上京してくると聞けば、相当の事情があるに違いない。

 しかし真央の情況には同情はするものの、、やはり見ず知らずの異性を何日間も泊めておくというわけにはいかない。

 なんとかうまく、真央の立場を尊重しながらその申し出を断らなければならない。


「君にもそれ相応の事情があるかもしれないけど、でもね……」

 なだめるように、できる限り優しく教え諭そうとしたところ


「ねえねえ、どうして高校中退するのー?」


「奈緒!」

 桃の言葉に奈緒が割り込んだ。


 奈緒の言葉は、真央の心情情を考え、慎重に言葉を選んでいたその桃の心遣いを、全く無意味なものにした。


「で、東京来て何したいの?」

 あっけらかんとした表情で訊ねる奈緒。


 奈緒にしてみれば、心にうかんだ疑問をそのまま口にしただけのことに過ぎない。

自分の聞きたいことを聞いてみただけ、無神経といわれればそれまでだが、そのかわいらしい容姿もあいまってその雰囲気をいっそう無邪気にも見せた。


「あんたって子はぁぁぁ!」

 そういうと桃は奈緒の頬をギリギリとつねった。

「あんたにはデリカシーってものがないの?」


「いたーいーよぉ」

 無邪気であるがゆえに、桃の大人の配慮というものを理解できないのだろう、なぜ桃に自分が怒られているか、理解ができないようだ。

「ふえーん」

 奈緒は手足をパタパタさせた。


 しかし、それは当の真央にとっても同じであったらしく

「いや、別にいいよ」

 どうやらこの少年、桃と同年代ではあるが精神年齢は奈緒と同程度であるのだろう、あっさりと答えた。


「……」

 何故自分の身の回りには、マイペース過ぎる人間しかいないのだろう、何故自分だけこれほど気苦労をさせられるのだろう、桃は軽くめまいを覚えた。


「俺、やりてーことあるから高校中退するんだからよ」

そういうと真央は軽く笑い

「で、この春休み期間にバイト先と下宿先決めておきたくて、少しだけ居候できる先を探してたんだ」


「ひゃあさ、ほの“やひたいこと”って、なわに?」

頬をつねられたまま奈緒が尋ねる。


「それは……」

 真央の口が静かに開かれる。


「「それは?」」

桃は奈緒の頬から指を離し、二人でそのの言葉に耳を傾ける。

 

「俺、プロボクサーになりてーんだ」

 真央は、自分に言い聞かせるかのようにはっきりと断言した。

 

「「プロボクサー!?」」

 二人は声をそろえてその言葉を繰り返した。

 

「ああ」

そういうと真央はコーヒーを一口すする。

「プロボクサーになって世界チャンピオンになる、それが俺の夢なんだ」

 

「すごーい! だからあんなに強かったんだ!」

その言葉に奈緒は興奮仕切りの様子であった。

「真央君もうすぐ17歳だもんね。ってことは、プロ試験を受けに、東京に出てきたんだね!」

 

「おお、よく知ってるな! 俺もうじき17歳で、プロテスト受られっからさ」 

 かわいらしい少女の口から、思いもよらない言葉が飛び出てきたことに、真央自身も興奮し、いつになく饒舌になった。

「だけど地方のジムだと世界戦にたどり着くまでに時間かかるから、王拳とか四迫とか、世界戦の経験豊富なジムなら世界戦にも早くたどり着けるかなって」


 王拳ジムに四迫ジム、多くの世界チャンピオンを輩出した名門ジムだ。

 真央は地方のジムではなく東京の名門ジムに所属し、そして一気にスターダムにのし上がることを夢見る少年だったのだ。 


「そうなんだー。やっぱり、地方のジムよりも東京のジムのほうが有利なんだー」

  頷きながら奈緒は言った。


「……」

 対照的に、桃は再び無口になった。


 ボクサーであるということは、先ほどの一連の騒動で知ってはいた。

 しかし、プロボクサーになる、というところまで覚悟を決めているとは。

 奈緒だけではなく、この少年も、いったいなぜ皆、スポーツというにはあまりにもその範疇から外れた存在に夢中になるのだろうか、桃にはわからなかった。


 その瞬間、派手な音楽が店内に鳴り響く。


 その音のする方向を、三人は一斉に振り向く。

 そこには、巨大な液晶画面のテレビモニターがすえつけられていた。

“さあ今週も始まりました、週刊ワールドボクシングサテライト、ナビゲーターの橋本真奈美です”

“同じくナビゲーターの、松本健二です”

 そのチャンネルは、衛星放送のWEWWEWという放送局に合わせられていた。

 

「おお!この店WEWWEW見れるんか!」

一気に真央のボルテージが上がった。


 WEWWEWは国内最古の民放衛星放送局であり、国内外の映画や、サッカー、メジャーリーグの中継で人気を集めている。

 そして何よりも、今では地上波ではほとんど放送されなくなった、ラスベガスを中心とする海外ボクシングの中継を国内において独占的に放映するチャンネルである。

 現在、海外ボクシングをリアルタイムで見るために、欠かすことのできない放送局だ。


「うん。ここは夜はスポーツバーも兼ねてるからね。ワールドカップのときとか、結構込み合ってるんだよ」

奈緒が答えた。

「サッカーだけじゃなくてね、この間とかボクシングのタイトルマッチとかもリアルタイムで放送してたんだよ」


「まじで!?」

 真央は興奮して身を乗り出した。


「うん。ボクシングファンには結構な有名スポットなんだよー。もちろん、夜中に18歳未満は入れないけどねー」

奈緒が自慢げに解説した。

「えへへ、すごいでしょー」


「うーん、さすが東京だわ」

真央はひとしきり感心しながらも、その目は店内の巨大なスクリーンを凝視していた。

「俺んちWEWWEW加入してなかったから、海外ボクシングをリアルタイムで見たことなかったんだ」

すると、ふと真央の心に疑問がよぎる。

「ひとつ、質問があんだけどさ」


「ほえ?」

奈緒が首をかしげた。

「何? 何でも聞いてー」


「ひょっとして、奈緒さんはボクシングファンなのか?」

 自分が引ったくり三人を叩きのめしたと聞いたときの反応や、プロボクサーを目指しているといったときの興奮した様子、もしかしたら、と思い真央は訊ねた。


「うん!」

 そして真央の予想は的中した。

「わたしねー、この世の中にある全部のスポーツの中で、ボクシングが大好きなんだ!」

 自分の言葉に酔いしれるかのように、奈緒は体を震わせた。

 

 また話が脱線し始めたことを指した桃は、 ぴしゃり、とたたきつけるような言葉で

「そんな話はどうでもいい!」

 奈緒の言葉をさえぎった。

「君が何で東京に来たのか、その続きを話してくれるんじゃなかったのか!?」


「おお、そうそう」

ごほん、真央は咳払いをした。

「あのな、俺……」


 しかし、その話はまたも奈緒によってさえぎられた。

「あ!フリオ・ハグラーだ!」

 奈緒が店内のモニターを指差して叫んだ。

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