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    3.8 (土)14:30

またもや再改定を行いました。


いろんな人の小説をよんで、色々成長したせいでしょうか、自分でも恥ずかしくなるくらい稚拙な表現でした……


それを成長のあかしだと思い込んで、ますます頑張ろうと思います!

「はッはッはッはッはッはッ」

 桃は自慢の俊足を生かしどんどん距離を縮めていく。

 毎日陸上部でトレーニングを行い、一年生ながら200m走で東京都の代表に選ばれたこともある。

 たとえ男性であろうと、鍛えていない相手であるならば絶対に負けない自身はあった。

 しかしまだまだバックを持った男にはたどり着けない。

「やばい、このままじゃ……だけど……」

 いくら桃が俊足と体力に自信があるとはいえ、スタートを開始した時の距離が遠すぎたのだ。

「あんなやつらに! 負けてたまるか!」

 桃は自分を奮い立たせた。

 大の男が寄ってたかってあんなおばあさんのかばんをひったくる、その卑怯なやり方が桃には許せなかった。

 そんな卑劣な真似をする人間に自分が負ける、そのような事実を自分自身に許すことはできなかった。

 息が上がってきた。

 徐々にスピードが落ちていきそうだ。

 それでも自分が負けるわけには行かない。 

 桃は正義感を奮い立たせ、卑劣な連中を追い続けた。


 その刹那


「え?」

 シュンッ、桃の横を駆け抜ける一陣の風が。


「まてやコラぁ!」

 その風は俊足自慢の桃をあっという間に背後から抜き去るほどのスピードで、弾丸のように、竜巻のように

「おるぅらららららららららららららららららららららららららあ!」

 周囲のあらゆるものをなぎ倒すかのような勢いで駆け抜けていった。


 桃は思わずその場に立ち尽くし、あっけに取られてその後を見送っていたが、地面がなければそのまま宙へ飛び出してしまいかねないような勢いで走るその後姿には見覚えがあった。

「あれは……」

 最近では見かけない学生服。

 風になびくくしゃくしゃの髪の毛。

 そして服の上からもわかる、躍動する筋肉をまとう大柄な体。

「さっきの……さっきの男の子?」




「ふっ、ふっ、ふっ」

 老人のバッグを抱えた引ったくり犯は、仲間の待つ駐車場めがけて一目散に駆けていた。

 あと少し、あと少しで仲間と合流し、このバッグの中身を自分のものにすることができる。

「はっ、はっ、はっ、ちょろい、もんだぜ」

 にやり、とほくそ笑む若者。

 しかし、背後から、けたたましい音が少しずつ近づいてくる。

「……なんだ?」


「おるぅらららららららららららららららららららららららららあ!」


「?」

 老人のバックをその手に抱えた引ったくりの一人は思わず後を振り返った。

 するとそこには、すさまじい勢いで駆けて来る黒い塊が。


「らぁっ!」

 振り返ったその若者を、弾丸のような少年はあっという間に抜き去った。

 そして、クンッ、右足を支点に180度体を反転させる。

 左腕はわずかに前に伸び、右腕はしっかりとこめかみの横にすえられる。


「はあっ、はあっ、はあっ」

 少年にやや遅れ追いついた桃の視線に写ったのは

「あれは……」

 瞬時にファイティングポーズをとり、引ったくりと対峙する少年の姿だった。


「ふぁッ!」

 少年は大きく息を吐き出した。

 左足を前に踏み出し、左手は胸に抱え込む。

 肩の余計な力を抜き、顎はきちんと引く。

 しっかりと隙間無く拳を握り締め、脇はしっかりと締める。

 右足から送り出した体重を滑らかに左足の親指の付け根を軸に右手に送り込み


 ゴッ


「!」

 桃は体を硬直させた。


「がはっ!!」


 少年の右拳は、若者の顎を最短距離で打ち抜いた。

 

 バッグを持って走ってきた若者のエネルギーは、そのまま自分の顔面への衝撃に変換された。


「ああっ!」

 若者の仲間が悲鳴を上げる。



 バッグを持った若者は、拳と顔を支点に、腰を軸にして逆上がりのように回転し、周囲の人々の、そして桃の目の前で鮮血を噴出して吹っ飛んだ。


 少年は何事もなかったかのように冷静にバッグを拾い上げ

「これ、返してもらうけぇの」 

 ポンポンと埃を払った。


「てめえ、何しやがる!」

 二名の若者が少年を挟み込んだ。

 

「てめーら恥ずかしゅうないんか。こんなばあさんの荷物ひったくるなんての」

 挟み撃ちにあう状況においてもなお、少年の振る舞いははあくまでも冷静だった。

 まるで、こんなことは日常茶飯事である、とでも言いたいかのように。


「……」

 桃は無言で立ち尽くしながら、しかし目をそらすことなく少年の様子を見つめている。


 少年のその言葉に全く恐れの色はなく

「俺ぁ、もう二度とゴロまくつもりぁなかったけどの。こんなあ見過ごすようなまね、でけんのじゃ」

 自信をもって、胸を張って己の正義を主張していた。


「うっ……」

「っく……」

 数では優位を保ち、年齢でも5つは下であろうはずの少年の威圧感に、若者たちは完全に飲まれていた。

 ごくり、唾を飲み込む音が異様に大きく響いた。

「あ、ああ!? ど、どこの田舎モンだよ!? 」

 威圧感を跳ね返すかのように、かろうじて吐いた言葉がかすかに震える。

「に、日本語しゃべれよこの野郎!!」

 精一杯の強がりを、目一杯どすの利いた声色で吐き出した。

 

 しかし

「こんなあゆうてくれるけえのぉ」

 役者の違いは一目瞭然だった。


「こ、この野郎……」

 少年の目の前に立つ若者はそうつぶやくと、少年の背後に立つもう一人の若者にアイコンタクトを行った。


 コクリ、その若者は頷くと、腰の後ろから何かを取り出す。

 それは、スチール製の特殊警棒だった。


 ニヤリ、少年の前でほくそ笑む若者。


 ジャキッ、背後の若者は警棒を延長すると

「だから何いってっかわかんねえって!」

 少年の背後でそれを振りあげた。

「言ってんだっ!」


「あっ!」

 それに気づいた桃が

「危ない!」

 あわてて声を上げると


 ピクッ、少年はその声に反応する。


「っよ!」

 ブン、背後の若者の警棒が、少年の後頭部を痛烈に叩き割った


 はずだった。

 

 桃の言葉に反応した少年は、つむじ風のように体を回転させた。

 背後の若者を視界にとらえると


 クンッ、上半身を後に倒し


 ヒュンッ、皮一枚のところで警棒をかわした。


「ンの野郎!」

 逆上した若者は、少年を叩きつぶそうと何度も警棒を振り回した。


 しかし

 

 ブンッ、ブンッ、ブンッ

「なっ! ん! らぁっ!」

 ブンッ、ブンッ、ブンッ

 必死の形相で若者は鉄の棒を振るが

 


 ヒュン、ヒュンッ、ヒュン

「そんなもん持ったっての」

 少年はそのすべてを見切り、ほぼノーガードでかわし続ける。

「人間は強くはなれんのじゃ」

 ヒュン、ヒュンッ、ヒュン


「うるせぇぇ!」

 逆上した若者は、 ブンッ、ブンッ、ブンッ、さらに警棒を振り続けるが、全ては空しく空を切る。

「はっ、はっ、なんで! このっ!」


「……」

 桃は一歩も動けなかった。

 いや、動けなかったのではない。

 その美しい動きに魅了されていたのだ。

「……すごい……」

 下半身とはまるで別の生物であるかのように縦横無尽に動く上半身。

 その奔放な上半身を然りと支える、強靭な下半身。

 リーチのある警棒の動きをすべて見切り、そしてかわし続ける動体視力と反射神経。

「……なんて……綺麗……」

 桃は、その一挙手一投足に魅せられていた。

 警棒を振り続ける若者は、もはやそこには存在していないも同然だった。

「……まるで……」

 その無駄の無い一連の動作は、もはや優美なダンスだった。

 この少年は、まるでたった一人でダンスを踊っているかのようだった。 

 

 両者の、いやむしろ一方的な応酬が何度も繰り返された後 

「しまいじゃ」

 短く一言発したのは少年だった。


 スッ


「えっ?」

 若者の視界から忽然と消えた。

 確実に叩き割ると心に決めた少年の頭部が、何の手ごたえもないまま忽然と姿を消した。

「ど、どこに?」

 首を振り、少年の行方を追う。

 すると


「ここじゃ」


「!?」


 少年は体をかがめ、若者の死角に沈み込んでいた。

 そして縮ませた下半身のばねを瞬間的に解放し、

「っらぁっ!」

 一気にそのまま斜め下から右拳をかちあげ


 ガッッ

 

 石のような拳が、見事に若者の顎を打ち抜いた。

 

「かはっ!!」 

 顎が激しく揺さぶられ、その激痛が脳髄を麻痺させる。

 口から鮮血がはじけ飛ぶ。

 若者は一言も無く崩れ落ちていった。


「ひっ!?」

 情けない悲鳴が上がる。 

 そこにはたった一人の若者が取り残された。


 その残された若者に目をやることもなく、少年はゆっくろと拳を下ろす。

 一仕事終えた、といわんばかりに、だるそうにコキコキと首を回す。

「さぁて、どうするかいの」

 ぎょろしとした、鋭い眼光が若者を射抜く。

 凍りつくような冷たい目線だった。

「俺ぁこのかばんが戻ってくりゃあ文句は無いんじゃけど」

 

「う、うぅ……」

 二人の、しかも一人は警棒で武装した成人男性を難なく叩きのめす腕力。

 返り血を浴び、威圧感を増したそのたたずまい。

 もはや、勝ち目など望むべくもない。

 若者はじりじりと後ずさりをしたかとおもうと

「うわぁああああああ!」

 と溺れるように逃げ出した。



「はっ、情けないのぉ」

 少年は吐き捨てるように言った。

 そしてその場に落とした老人のかばんを拾うと

「またかばん汚れてもうたろうが」

 再びポンポンと払った。

「これでよし、っと。ん?」

 少年は顔を上げた。

「あんたは……」


 そこには、少年を見つめる一人の少女が。

 それは釘宮桃、その人だった。


 二人の視線が交錯した。

 数10分前、駅ではじめてあったその時のように。

 時間にすれば、数10秒の事だったかもしれない。

 しかし、それはまるで数分間にも及ぶように感じられた。

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