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    3.22(土)12:30

「じゃ、明日9時に会場でね」

 自宅へと分岐する十字路で丈一郎は言った。


「ああ。とにかく今日は気負わず休め」

 真央は丈一郎に声をかけた。

「なんせ本番は明日なんだからな」


「あのねあのねー、明日は桃ちゃんと葵ちゃんも応援に来てくれるんだって」 

 元気を取り戻した様子の奈緒が言った。


「え? 何か緊張しちゃうな……」

 丈一郎は不安げな声を上げたが


「リラックス、リラックス! マー坊君に教わった通り、落ち着いてやれば絶対勝てるから!」

 奈緒は丈一郎に励ましの声をかけた。


「未来の世界チャンプがコーチしたんだぜ? 負けるわけねーだろ」

 ニイッ、ポケットに手を突っ込んだまま真央は笑った。


「うん!それじゃ、また明日ね」

 テンションが上がったせいだろうか、丈一郎は足早に去っていった。


 その後姿を見届けると、二人は釘宮家への道を歩き出した。




「そういえばさー」

 ふと、何かに気づいたように奈緒が声をかけた。

「マー坊君と二人っきりで帰るのってはじめてかも」


「そうか?」

 そういうと真央は首を傾げた。

「そういやそうだな。いつもは桃ちゃんと三人ってことが多かったからな」


「今日はわたしたちの方が早く練習終わったからね」

 すると奈緒はやや足早になり、真央よりも半歩ほど先に立った。

「あのね」

 そして振り向きもせず真央に声をかける。

「さっきはごめんね。困らせるつもりはなかったんだ」


「言っただろ。ぜんぜん気にしてねーし、むしろ嬉しかったって」

 奈緒の後姿に語りかけるように応えた。


「だけどね、あれ、本心なんだよ。本当に、マー坊君と同じ学校に通って、それでボクシングやれたら楽しいなあって、そう思ってるんだよ」

 話しながら、奈緒の足はややゆっくりとしたものになった。

「それでね、それで……」

 そういうと奈緒は足を止め、振り返って言った。

「……ずっと、マー坊君と、一緒に入れたらいいなって……」


「奈緒ちゃん……」

 いつもの甘ったるい声ではない、訴えかけるような真剣なその声に、真央は戸惑った。


「それとも、桃ちゃんみたいなスタイルのいい人じゃなくちゃだめ? 葵ちゃんみたいに、おしとやかな人じゃなくっちゃだめ?」

 奈緒の真剣な表情、高潮した頬、潤んだ瞳が、真央の心をダイレクトに射抜いた。

「わたしまだまだ子どもだけど、すぐに桃ちゃんや葵ちゃんみたいな大人の女の人になれるよ? だから……わたしね、マー坊君とずっと一緒にいたい」

 

「あ、あのさ……」

 その言葉を聴くと、真央は目をそらすしかなかった。

 そして無言のまま立ち尽くすしかなかった。

 何と言葉を発するべきだろうか。

 これまで生きてきた中で、これほどまでにストレートに感情をぶつけられて事は、一度も無かった。

 それも、これほどかわいらしい少女に。

 いつまでもこのままでいるわけにはいかない、それは自分でもわかっている。

 自分は自分の道を歩いていかなければならない。

 しかし、奈緒の言葉に真央の心は揺れた。

 自分は、一体何と言葉をかけるべきなのだろうか。


 すると

「なーんてね」

 その真剣な表情が一気に笑顔に変わった。

 そして奈緒は真央の右腕にしがみついた。

「また困らせちゃったね。ごめんね」


「うぉ? あ、あ」

 真央の体は硬直した。

 そして困惑した。

 今ここでにこにこと笑う奈緒と、自分の心を惑わせた奈緒。

 そのどちらが本当の姿なのだろうか。

「ああ、んんと、奈緒ちゃん……」


 それにもかまわずに奈緒はきゅ、と真央の腕にしがみつき続けた。

「あのねあのね、明日のパーティー楽しみだよねー」

 年齢にそぐわないボリュームのふくらみが、真央の腕を包み込む。

 そして真央の腕に頬を押し付け、くんくんと子犬のようにまとわりついた。


「……奈緒ちゃん……できれば、離れて欲しいんだけど……」

 異性の、しかもこのような可愛らしい少女による緊密なスキンシップに慣れていない真央は、もはや爆発寸前だ。


 その言葉を無視し、奈緒は真央の腕にしがみつき続けた。

「ね? 祝勝会と、マー坊君のお仕事とアパート見つかるようにの壮行会。いっしょにやろーよ」


「あ、ああ、いいね、それ」

 ゆっくりと、両腕の間から引き抜くように真央は奈緒の腕から抜け出た。

 そして奈緒との間に距離を作り

「いい思い出になるよ」 

 そして遠くを見つめるようにして前を向き、そしてそのまま足を進めた。


「ぷうぅ……」

 自分の腕から真央が向け出ていたことになおは不満そうな表情を見せたが

「全部終わったら……る…」

 両手を後に組み、真央に言葉をかけた。


「ん? なんだって?」

 聞き返す真央に対し


 奈緒はにっこりと笑い、潤んだ瞳で真央を見た。

 そして

「全部終わったらね、そしたらね、あたしマー坊君にプレゼントあげる!」


「プレゼント?」

 真央は言った。

「そいつぁ嬉しいな。なにくれるんだ?」


「えへへへへへへへー」

 すると再び真央の腕に抱きついた。

「なーいしょ!」


「うぉ? お、っと」

 真央の体は再び硬直した。

「っそ、そうか。ヒ、ヒントくらいはほしーなー」


「あたしが、いっちばん大切にしているもの!」

 にこにこと笑う奈緒の表情は真っ赤に高潮していた。

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