6.2 (月)20:10
「やべーな……何でこんなことになっちまったんだ……」
乳白色のにごった温泉のお湯につかりながら、顔だけは木の風呂桶で隠し、何とか呼吸を確保する真央。
その木桶の隙間から見えるのは
「やーん、さいこーじゃん、この温泉。紫またここ来たいなー」
下半身だけを温泉につからせながら、ぐいと背伸びをしてその薄い胸をさらけ出す紫。
「ほうじゃね。こんなにいいお湯があるなんてはあ、知りよらんかったわ」
肩までしっかりお湯につかりながら、頭に載せたタオルで額の汗を拭く綾子。
「えへへへー、そうですねー。けどここ、日帰り温泉もやってるみたいだからー、いつでもこれるんじゃないかなー」
ぴょこぴょこと体を揺らすたびに、その針艶に恵まれたたわわな果実が零れ落ちそうになる奈緒。
「そうですね。けど羨ましく思います。こんなにいいお湯が近くにあるだなんて」
下半身だけをお湯につからせながら、その青く美しい髪を指で梳く葵。
「もし入りたければいつでも言ってください」
石造りの浴槽の縁に腰をかけ、その発育しきった艶のある体の前面を、何とかタオルで隠そうとするもそれすらままならない岡崎。
「あなたたちには、大変お世話になりましたから。理事長に伝えておきますから」
「はぐわっ!」
真央は慌てて目を閉じた。
「……やべーって……こ、こんな裸の女どもが近くにいるなんて……しかもこんなたくさん……だから共学校なんて入りたくなかったんだっつーの……」
世界中の男達が求めてやまないシチュエーション、女性に対する免疫皆無のこの男には少々、いや絶望的に刺激的過ぎたようだ。
「け、けど、問題はそれだけじゃねえ……いや……一番やベーやつが……」
「ま、終わってみればいい経験ができたかな」
胸元を隠すように腕組みをして、その引き締まった長い足を組む釘宮桃、その人だった。
「今度の夏休みにでも、またこっち遊びに来たいなあ。うん、なんだかんだで気に入ったよ、群馬県」
「えー!? まじー!」
バシャン――
飛び跳ねる紫の体が、乳白色のお湯を細かい粒へと変えた。
「絶対だよ! そんで、あの秋元のバカも連れてきてよ!? 絶対だ――」
「――誰がバカだコラ!」
「「「!?」」」
「やべっ!」
「な、何よ今の声!?」
突如響いた男の野太い声に、こちらは男性に対する免疫の一切ない岡添が慌てて体を隠す。
「い、いま確実に男の人の声よね? だ、誰かこの浴室に……男の人がいるってこと? どどどど、どうしたらいの? わ、私たちみんな、襲われちゃう! い、いやっ!」
「せ、先生! お、落ち着いてください!」
震える岡添の体を抱きとめるが、不安に体を震えさせたのは葵も同じだった。
「だ、大丈夫ですよ……こ、これだけの人数がいるのですからきっと……」
「やっぱり、さっきからどうも変な気配がするんだよなあ……」
しかし物怖じすることなく、いらだったように爪をかむ桃。
「なんだろ、この雰囲気……なんていうか……野生動物が近くにいるような……獣臭いって言ったら変な感じなんだけど……」
「……野生動物はてめーだろーがよ、マウンテンゴリラ……」
勘の鋭い桃に、真央は一瞬たりとも気を緩めることができなくなった。
「はれ」
白く柔らかいその頬に赤みが差す綾子は、自分たちのやや奥の空間に注目した。
「ああ、これかも知らんね」
ジャブジャブとお湯をかき分け、綾子は真央の下へと近づいてくる。
「……終わった……俺の人生が……」
綾子の体が、真央の体に触れようか、そんな時――
「きっとこれじゃ。これ」
綾子は真央のかぶる木桶をコンコンと叩いた。
「なんかの拍子で、この奥にある木桶の山が崩れたんよ。ほんで浴室の中じゃけひくう音が響いて、男さんが叫んだみたいな音になりよったんよ」
「そっかー、そうだよねー」
奈緒はその大きな胸をほっとなでおろした。
「よかったー、本当にお猿さんとかでもいたらどうしようかと思った」
「にひひひ、それはそれで面白いかもだったけどね」
紫は綾子の下へ、こちらもじゃぼじゃぼとお湯をかき分けると、真央の近くへとよった。
そしてその横に座り込むと――
にゅるるん――
「あれっ?」
「やべっ!」
「なんかさー結構ごつごつした岩があるよ」
そういうと紫は真央の体をぬるぬるとなで始めた。
「や、やめろションベンガキッ!」
真央は前身を硬直させ、その岩のような体躯を文字通りの岩へと変化させた。
ぬるぬるぬる――
紫は真央の体を、やさしく、滑らかに撫で回す。
「なんかここの部分だけ、岩の手触りが違うんだけど。なんか……すごく手触りがいいよ」
すると紫は逸し纏わぬ裸のまま――
「や、やめ――」
「あー、やっぱりきもちいいー」
真央の上半身をイスの背もたれのようにして、その前面に座り込んだ。
「なんだろう、なんか岩って言うより、弾力のあるゴムに腰掛けてるみたい」
「や、やめろっていってんだろこのションベンガキ!」
しかし真央にはもはや逃げる、という選択肢は存在しない。
このまま前身を硬直させ続け、肌触りの良い岩を演じ続けるほかなかった。
そしてその紫の柔らかい肌は、真央の“男性として”の部分を――
「ひゃっ?」
「はえ?」
突然聞こえる小さな悲鳴に、奈緒は紫を振り返る。
「どーしたのー、紫ちゃんー。何かあったのー?」
「え? う、うん、気のせいだと思うんだけれど……」
紫は首を傾げて言った。
「なんか、岩が動いたような……なにかお尻のところから、たけのこみたいににょきっと――」
「ヤドカリでもいたのかなー」
「まさか。さすがに温泉にヤドカリはいないでしょ」
「けど不思議だねー。たけのこみたいに岩が生えてくるんだー」
奈緒もお湯をかきわけかきわけ、紫のもとへとやって来た。
そして、紫と同じように、岩と課した真央の体を無邪気に撫で回す。
「あー、けど本当に手触りのいい岩だねー。ここだけ手触りが違うのって、もしかしてここでリラックスするためにわざとこういう素材つかったんじゃない?」
「そうかもしれないね」
紫はうなづいた。
「奈緒も座ってみなよ。本当に気持ちいいんだから」
「ころすぞションベンガキッ!」
しかしその潜めた言葉は、当然紫には届かない。
「うんっ!」
紫の勧めに、奈緒は嬉々として真央の体に背中からもたれかかった。
「ふ、ふわっ?」
華奢な紫とは異なる、むっちりと肉付き良い奈緒の体は、ふんわりと、しかし現実的な重みを持って真央の体を包み込む。
「わー、なんかほんとにきもちいーねー」
気分は上々、奈緒は嬉しそうにその背中を真央の岩のような体の全部に擦り付け、枕のように、真央の顔を覆った木桶に頭をゆだねた。
「石って言うかー、なんだろー、お父さんとか、男の人に抱っこされてるみたいー」
「わかるー、なんか形も人の体みたいになってるんだよねー。よくできてるよ、ここ」
「うん。あーん、すっごく気持ちいいー」
恍惚とした表情を浮かべた奈緒は――
「ちょ、おおおおおおお!?」
「あー、本当に気持ちいいー」
体を返すと抱きつくような体制をとり、その巨大な胸の果実を真央の体にこすりつけた。
「……男の人と抱き合おうと、こんな感じがするのかなぁ……」
「いいいいいっ?」
「え? 奈緒、なんか言った?」
紫が問いかけるが
「ふわっ? え? う、ううんっ! なんでもないっ!」
慌てて首をフルな小野からだが、心地よい振動となって、再び真央の体を刺激した。
「はえ? なんか、硬い石みたいなものがつついたような……」
「奈緒もそう思う? 最初からあった石のようには思えないんだけどー」
「んんー、やっぱりでも、石が生き物みたいにかたくなって大きくなるなんてありえないからー、やっぱりいのせいじゃないかなー」
そういうと、奈緒は間の体を思いっきり掴む。
「はぐわっ?」
「ほら、こんなにかちかちだしー。気をつけて座れば大丈夫だよー」
奈緒は笑って紫に返した。
「あら、なんだか気持ちよさそうね」
よく熟れた、収穫直前の果実のような体を惜しげもなくひけらかしながら、岡添も近づいてくる。
「へぇ……石みたいにカチカチだけど――」
「はうっ!?」
今度は岡添が、真央の体をまさぐり始めた。
「――確かに、表面が滑らかで……すごく……いいわね」
「あらあら先生」
その表情を見た綾子は、いたずらな表情を浮かべて語りかける。
「なんだか色っぽいわぁ。なんだか、男の人といちゃいちゃしとる女の人みたいじゃねぇ」
「綾子さん!」
口をへの字にして、なきそうな表情で岡添は叫ぶ。
「もう! また私のことバカにして! 同世代とはいえ私のほうが年上なんだから! 子ども扱いしないでくださいっ!」
「あらあら、ごめんなさいねぇ」
岡添はしかし、あしらうように笑って言った。
「先生、ほら、ものすごういろっぽうて冷静な感じじゃけんど、こういうかわいらしいところもあるけ、ついついいじめたくなるんよねぇ」
「先生も座ってみます?」
奈緒はようやく真央の体から離れ、その場を岡添に差し出した。
「ほら、本当に気持ちいいんですよ? あ、石の立ってるところがあるんで、気をつけてくださいねー」
「そうね、それじゃあお言葉に甘えて」
視界の悪い岡添は、奈緒に手をとられ真央の体の前に立つ。
「……」
真央の目は、勝ち誇ったその体に釘付けになった。
しかしそれを見続けるわけにはいけない、ままよ、真央は再び力いっぱい両目を閉じる。
「私も、座ってみようかしら」




