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    2.28(土)18:30

女の子の気持ち、そして可愛らしい姿が描けているでしょうか?


ぜひご一読を!

 ヴヴヴヴ、ヴヴヴヴ――


「ほえ?」

 テーブルを拭く釘宮奈緒の耳元に、細かな振動音が響く。とてとてと小走りでソファーに駆け寄り

「んんー」

 とその周囲を見回せば

「あ、桃ちゃーん、ケータイ鳴ってるよー。誰からかなー」


「え? ちょ、ちょっと奈緒!」

 奈緒の姉、桃はあわてて包丁から手を離し、エプロンで手を拭く。ブルージーンズをはいた長い足は、あっという間に奈緒との距離を縮めた。


「んーとね……」

 しかしその言葉に聞き耳を持つことなくスマホをひょいと摘み上げれば、大きな瞳はさらに開かれ輝きを増す。

「あ! ねえねえ、お母さんからだよ!」


 ドタドタドタ「やめろって言ってるだろ! 勝手に人の携帯見るなって言ったじゃないか!」

 桃は奈緒の手から自身のスマートフォンをひったくった。


「ぷうぅ、別にいいじゃん。別にメールの中身とか見たわけじゃないんだからさー」

 姉の神経質な物言いに、マイペースな奈緒はリスのように頬を膨らませる。


「あたしはそういうの嫌なんだって前から言ってるだろ!?」

 形の良い眉を吊り上げ、仁王立ちになって怒鳴る桃。


 しかし

「てことは、見られたくない人から電話かかってくることあるのかなー?」

 ニヤニヤ、奈緒はいたずらな微笑みを返し、桃の顔を覗き込んだ。

「ねー、だれだれー? わたしの知ってる人ー?」


「奈緒!」

 その悪びれない様子に、奈緒のこめかみを両拳でぐりぐりとねじりあげる。

「あんたって子は! まったく悪いと思ってないだろ!」


「いたっ、痛いって! ごめんなさーい! ね? わかったから、わかったから早く電話にでよーよぉ」

 やや栗色の、軽くウェーブのかかった髪を二つにまとめる、タータンチェックのリボンががふわふわと舞い踊る。

 甘えるような声ととろけるような笑顔で、なだめるように奈緒はなだめるようにはスマホを指差す。


「あのねえ、あんたは何でいっつも……」

 しかし、甘えるような声と、上目遣いのとろける笑顔をむける奈緒に桃の手も緩む。

「えへへへへー」


「……ああ、もう……あんたって子は……いっつもこの調子なんだから……」


「ほらほら、早く出ないと、電話切れちゃうから。ね?」


「……まったくもう……はい、もしもし」


『おはよう桃、あらあら、朝から機嫌が悪いのね』


 あっけらかんとした母親、京香の声に、桃は軽いめまいを覚えた。

「“朝から機嫌が悪いのね”じゃないよ、もう。いったい今何時だと思ってるんだよ」


『あら、そういえばそうだったわね。今晩は。ところでどうしてそんなに疲れているのかしら』


「……ちょっと奈緒とね……」


「えー、なになにー? わたしのことよんだーってわっぷ?」


 あくまでもマイペースな奈緒の言葉と顔を手のひらでさえぎる桃。

 そして “言うつもりは無かったけど、一応言うべきことは言っておかないと”というニュアンスをこめて返事をした。

「前も言っただろ。時差ってものを考えなよって。こっちは今、夕食の支度の途中なんだから。」


『どういうわけか時差があることを忘れちゃうのよ。これがいわゆる、時差ぼけってやつね』


「そういうのは時差ぼけとは言わないの! 天然ボケって言うんだよ! ったく……“子の心親知らず”だね。奈緒とお母さんは間違いなく似たもの親子だよ。ところでなんの用? しばらく忙しいって言っいてたじゃないか」


『あ、ごめんなさい、また話が長くなっちゃったわね。いつもいつも要領よく話を終わらせようと考えているんだけど、やっぱり日本語の特性って言うのかな、その特徴がね、やっぱり外国に住んでいると、ほら……』


「ねー桃ちゃん、桃ちゃんばかり電話してずるーい。あたしにも話させてよお」

 奈緒は桃の背中に覆いかぶさりスマホを奪い取ろうとする。

「やっほー、おかーさーん、元気ー?」


 桃の背中に押し当てられた、中学生の大きさとは思えないほどに発達した柔らかい二つのふくらみに強いショックを覚えながらも、その体を振り払おうとする桃。


『あら、奈緒の声がするわね。そこにいるの? 元気にしている? 学校の成績はどう?』


「ちょっといい加減にしなよ! 全然話が進まないじゃないか!」

 桃は背中の奈緒を振り払い、苛立ちの混じりの言葉を口にする。。

「……まったくもう……お母さんは通訳のくせに話が長すぎるんだよ。それでよく通訳が務まるよね。もういいから、とにかく要点だけ言って。こっちだって家事とか宿題もあるのに」


『……』


「お母さん? ちょっと、お母さん?」

 桃の体に、緊張が走る。


「ほえ? どうしたのー?」


「わからない。返事がないんだ」


「ええー? 何か緊急事態?」


「お母さん今、アメリカにいるから……海外生活が長いとはいえ、何が起きるか……」

 母親の身に、抜き差しならない何かが起こったのか、桃は電話に向かって声を張り上げる。

「もしもし? お母さん? 答えて! ねえ、答えてったら!」


『聞こえてるわよ。耳元でそんなに大きな声出さないでちょうだい』


 桃の焦燥をよそに響く電話口の声に、再び桃の体が小刻みに震え、そして爆発する。

「いい加減にしろ!! こっちだって忙しいんだからな! 用件ないなら切るよ!?」


『わかった……らそんなに怒……ないで、ね? とにかく用件っ……うのは……って子をしばらく一緒に………てほしいの』


「ごめん、また聞こえない。もしもーし」


『……ごめ……なさい、電話が……みたい……』


「OK。じゃあメールで教えて。待ってるから。いい? きちんとした文章でメールし」


 ――ツー、ツー、ツー――


「って切れてるし!」

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