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    4.27 (土)13:00

「珍しいじゃねーか、お前から練習内容提案してくるなんてよ」

 土曜日の放課後、昼食を取った真央は、クラブバッグを抱えて体育館への道を歩く。

「しかもあんだけヘロヘロにさせられたプールトレーニングやろうなんざぁ、どういう風の吹き回しだ?」

 そして、左隣を歩くレッドの頭をポンポンと叩き

「いいか? 今日は覚悟しとけよ? お前、今日は笑ったり泣いたりできなくなっちまうからな。まっ、こういう練習繰り返し解けば、デ・ニーロばりに体型変わるかもしんねけどな」


 真央の言葉の意味、洋画に詳しくないレッドは真意を測りかねたが

「……は、はぁ……」

 今回の練習の真相を把握しているレッドは、あえて不安そうなそぶりを見せた。

「じ、自分は初めてのトレーニングなんで、詳しい内容は全部丈一郎先輩と真央先輩にお任せしようと思いますので……」


「そうだね。久しぶりのプールトレーニング、緊張しちゃうね」

 一方で、言葉とは裏腹に余裕の表情の丈一郎。

「インターハイ予選までもうすぐだしね。マー坊君も前言ってたけど、やっぱり環境変えて連取練習をするってのも、、気持ちが切り替わっていいんじゃない?」




「……おい丈一郎、これは一体どういうことだ?」

 競泳用の水着に着替えた真央は、腕組みをして丈一郎をじろりと睨みつける。


「あはは、まあまあ」

 苦笑しながら、なだめる丈一郎。


 彼らの目の前には、たくさんの水着の女子生徒。

 思い思いにプールで水と戯れている。

 よく見るとと彼女らは、真央たちの所属するクラス、2年A組の生徒たちだ。


「……」

 一方、大勢の水着の女子生徒を目の当たりにしたレッドは、顔を真っ赤にしてうつむいている。


「あ! 川西君だ!」

「あ! ほんとだ! あ! それとま、マー坊君も!」

 彼女たちは、二人の様子を認めると、歓声を上げて近づいていた。

「今日は誘ってくれて本当にありがとうね、川西君。 あー、川西君って細いと思っていたけど、結構筋肉ついているんだねー」

 そのうちの一人は、今度は真央のからだを、顔を真っ赤にして見つめる。

「……すごーい……マー坊君の体……噂には聞いていたけど、超マッチョじゃん……」


 自分に寄せられる熱い視線に戸惑う真央は

「ちょっと来い!」

 丈一郎の方を掴み、プールの影へと引きずり込む。

「てめえ! どういうことだ! 今日はプールトレーニングをするって言うからわざわざ水着持ってきたっつーのによ! なんでこんな……」

 チラリ、真央は水着の女子の集団に目をやる。

 そして顔を真っ赤にして

「あんでこんなに女どもがいるんだよ! これじゃあ……練習に集中できねえじゃねーか!」


「あ! マー坊君たちもうきてたんだー!」

 そこに姿を現したのは

「やっぱり男の人って支度早いねー。わたしたちの方が早く体育館に入っていたはずなのにー」

 グラマーな体を惜しげもなく水着の中に詰め込んだ奈緒の姿だった。

「あのねー、実はこれが今日の練習だったんだよっ!」


「ええ。その通りです。今日はたまたま、水泳部の活動はオフになっていましたから」

 その後から、均整の取れた肢体、奈緒ほどではないが強く自己主張をする胸元、それ自体が一個の水生動物のようにフィットしたつるりとした競泳水着がよく似合う

「そのために、私がご依頼を受けたのです」

 礼家葵の姿だった。


「最近さ、マー坊君、ちょっとテンションおかしかったんだもん」

 真央の肩に手を置き、丈一郎は語りかける。

「何か思いつめたみたいに自分追い込んでたからさ、かといって練習するなって言っても聞く耳持たないだろうし。だから何とかしなきゃって思ったんだ」


「丈一郎……」

 真央はその顔を真っ直ぐに見つめる。

 

 丈一郎は続ける。

「いくらマー坊君でも、体壊しちゃうよ。だからどうしたらいいかなって考えたとき、あの人に相談してみようってなったんだ」


「あの人?」

 疑問を口にした真央の背後から


「……あたしだよ……」

 170近い長身に、雌鹿のようなしなやかな肢体、美しくまとめられた髪の毛

「……あのさあ、川西君、何であたしまで水着にならなくちゃいけなかったんだ?」

 頬を赤らめ、うつむくようにして桃は言った。


「……そこは詳しく私も理由をお聞きしたいところですね……」

「……うん……わたしも、前みたいに、同好会と葵ちゃん、まあ、トレーナーとして桃ちゃん、って感じでやるもんだと思ってたんだけど……」

 笑顔を引きつらせる葵と奈緒。

 その視線の先には、方を寄せてひそひそと耳打ちをしあうクラスの女子生徒の姿。

「……どうしてA組の皆さん、しかも女子生徒だけがいらっしゃるのか、その理由をお聞きしたいですね、川西君」


「いやー、やっぱりほら、今回はマー坊君にリラックスしてもらうことが目的だったから。うん。僕なりのサプライズ」

 そういって苦笑し、頭をかく丈一郎。 

「葵ちゃんも言ったじゃん。マー坊君クラスで友達まだあんまりいないから、クラスメートと中を深めた方がいいって。いい機会だから、二三人に声をかけてみたんだ……まあ、こんなに来るとは思っても見なかったけど」


「それは確かに……そうですが」

 不服そうにこぼす葵。


「リラックス?」

 その言葉に反応する真央。

「一体どういうことなんだ? 話の中身が全然見えてこねーよ!」


「あんたは、少し追い込みすぎだよ」

 顔を赤らめたまま、うつむき、真央の方を見ることなく口を開く。

「そんなことしてたら、インターハイ予選までに体が悲鳴を上げちゃうよ。常に緊張させてたら、いつか糸は切れちゃうから。だから、今日は体とこころをリラックスさせるために、トレーニングじゃなくてゆっくりとプールで重力から開放されるべきだ、って言ったの」


「……桃ちゃん……」

 真央は真っ直ぐに桃を見つめる。

 その視線の先にあるもの、初めて目の当たりにする桃の水着姿。

 彼自身も言うように、胸元は少々物足りなさが残るが、真っ直ぐに伸びた手足、無駄な肉のついていないしなやかな体、シャワーでし選った美しい髪の毛がまとわりつく伸びやかな首筋、そして何よりも整ったうつくし顔立ち。

 その桃の持つ全てに、真央は視線を奪われてしまっていた。


 チラリ、桃も真央の方を見る。

 すると、二人の視線が交錯した。

「……」

「……」

 真央と桃、二人は顔を赤らめて視線をはずした。


 それに目ざとく気付いた丈一郎は

「あれー? 二人ともどうしたのー? どうしてそんなに顔が真っ赤なのー?」

 ニヤニヤと笑い、冷やかすような言葉をかける。


「川西君!」

 見咎めるように叫ぶ桃。


「丈一郎! てめー!」

 真央は、拳で丈一郎の頭を殴りつけた。


「あだっ!」

 頭をさする丈一郎。

「……あははは、冗談だって……」


 すっ、真央の背後に気配が。

 すると、ギュッ

「あがっ!」

 皮膚をつままれる激痛が走る。


「……あら、真央君、そんなにデレデレして、いかがなさいましたか……」

「……そんなに桃ちゃんばっかり見ちゃってさー、目がえっちな感じになってるよー……」

 ささやかな葵と奈緒のお仕置きが待ていた。




「まあ、プールトレーニングじゃなくて、今日はなんにしろ、泳ぎゃあいいんだろ?」

 そういうと真央は水泳キャップかぶり、ゴーグルを装着する。


「あ、おい……」

 桃が何かを言いかけたが


「んじゃ、ま、ちょっくら、いよっと!」

 ザブンッ!

 飛び込み台から、真央は異様に美しいフォームで水面へと滑り込んだ。


「え? マー坊君泳ぐの速くない!?」

「え? まじ!? マー坊君って、ボクシング同好会だよね? 何であんなに泳ぐの速いの!?」

 周囲で見つめる女子達が、まおの耳には届かない黄色い声援をあげる。 

 

 真央はあっという間にクイックターンで壁を蹴ると、瞬く間に50メートルを泳ぎきる。

 そして更なるターンで75メートルを――


「スカタンッ!」

 バキッ!


「あだっ!」

 真央の頭に、激痛が走る!

「っつー」

 顔を上げるとそこには


「誰が本気で泳げといった! これはトレーニングじゃないんだぞっ!」

 飛び込み台に足をかけ、腕組みをした桃の長い足が、真央の後頭部を捉えていた。

「君はあたしの話をぜんぜん聞いてないな? 今日は体とこころをリラックスさせる日なんだ! そんな日にオリンピック張りの気合の入った泳ぎを見せてどうする!」


「……桃ちゃん……」

 真央は、プールから見上げるようにして、叫ぶ桃の姿を見つめる。


「とにかく今日はゆっくり水に浸かれ。そして、筋肉の緊張を解いて、体を十分に休めるんだ」

 そして、小さく柔らかく微笑を浮かべる。

「何があったか知らないけどさ。最近の君はナーバスになりすぎだ。今日だけはしっかりと体を休めるんだ。よく言うだろ? “休息もまた練習なり”ってさ」


「……あ、ああ……」

 真央は硬直し、顔を真っ赤にして答えるのみ。


「……?……」

 そのいつもとは違う様子に、桃は首を傾げてその視線の先を辿る。

 するとそこには、すらりと美しい足を前後に開き、普段は誰にも見せない領域を大胆に見せ付けるようにしている自分の姿。

「……み、み、み、み、み、み……」


「……み?」

 その言葉の意味がわからず、怪訝な表情の真央に対し


「見るなバカ! この変態!!」

 再び、真央の顔面に向かって右足のかかとをめり込ませる桃だった。

 

「ぐぉあっ!?」

 そのかかとを、真央の額は極めて全うに受け止めた。


「あーあ」

 その光景を目の当たりにした丈一郎は、顔を抑えて悲嘆の声を上げる。


「ま、マー坊先輩、大丈夫でしょうか……」

 その痛々しい光景に、レッドは心配そうに呟くが


「あははっ、大丈夫だよ」

 丈一郎はフォローするように返答する。

「まあ、マー坊君もああやって釘宮さんと、ちょっときつめのスキンシップを取っていた方が絶対リラックスできるもん。それに……」

 チラリ、後ろで二人のやり取りを睨みつける葵と奈緒に視線を移し

「……僕も、なかなか面白い光景が見れるから。うん。僕自身もリラックスできるしね……」

 ニヤニヤと、底意地の悪い微笑を浮かべた。



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