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    4.13 (土)16:20

 シュ……ゥン


 賑わいを見せる表通りの喧騒をさえぎるような、自動ドアが静かに開閉する。

「いらっしゃいませー」

 若い女性の声が店内に響く。

 女性店員は銀色のトレーを抱え、出入り口に待つ来客に応対する。

「お客様、何名様ですか? ってあれ? 君以前も来てくれたよね」

 先頭を進む大柄な少年の、その特徴的な髪型には見覚えがある。


「ん? まあな」

 ぶっきらぼうに真央は三本の指を立てる。

「三名だ。できればあの窓っ側の席がいいんだがな」

 そういうと、人差し指でいつも座っている四人掛けのテーブル席を指差す。


「オッケー。待ってて、今したくするから」

 と小さくウィンクすると、女性店員はトレーに乗せた台拭きで手早くテーブルを拭くと

「どうぞ」

 明るい声で三人に着席を促す。


「あ、どうしたのミキちゃん、なんだか今日はご機嫌じゃない」

 カフェ・テキサコのオーナーは、にこにこしながらあごひげを触る。

 そして、ミキが接客をする相手を見れば

「おっ! モジャモジャ君じゃない。また来てくれたんだね、いらっしゃい」

 そしてにやりと笑うと

「まったく、ミキちゃんったら格好いい男見ると、本当に嬉しそうになるんだから」


「当然じゃないですか。こんないい男、私が同級生だったら放っておかないもの」

 胸を歯って答える三木は、三人分の水の入ったタンブラーを運び、そしてめいめいの手前のコースターの上におく。 

「時間があったら、いつでもおいでよ。私がいるときだったら、きちんとサービスしてあげるから、ね?」

 そういうとミキはまた真央に小さくウィンク。


「んなことどーでもいいからよ、さっさと注文取ってけよ」

 頬杖をつき、面倒くさそうにして真央は応えた。

「俺ぁブレンドだ」


「はいはい、君は……ブレンドね」

 さらさらさら、いまどき珍しいメモ書きのオーダー票だ。

「で、君は……あ、君もこの間来てくれてた子だよね」

 そういうと、ミキは再びニコリと微笑を投げかける。

「君のことも覚えてるよ。君のオーダーは?」


「ありがとうございます。僕のことも覚えていてくれたなんて、嬉しいですね」

 へにゃっとした微笑を返す丈一郎。

「じゃあ僕は……うん、僕もブレンドで」


「はいはい……ブレンドね」

 さらさらさら、手早く表記する。

「私、君が最初入ってきたとき、女の子かと思っちゃった。だって君、本当にかわいい顔してるんだもん」


「ええ。よく言われます」

 余裕綽々の笑顔で応える丈一郎。


「……お前もまたとんでもねーこといいやがる……」

 頬杖をつきながら顔をしかめる真央。


「えっと……あなたは?」

 そういってミキは、もう一人の同席者、瀬川隼人、レッドに対しオーダーを取る。


「……え、ええと、自分は……」

 顔を真っ赤にしながら、メニュー表を覗き込み

「……グレープフルーツジュースをお願いします……」


「オッケー。グレープフルーツジュースね」

 さらさらさら、よどみなく筆を走らせるミキ。

「それじゃ、ゆっくりしていってね」

 そういうとトレーを抱え、カウンターの奥へと向かった。

「店長、ブレンド二つ、それとグレープフルーツジュースね」


「了解」

 店長はにこやかにその声に応えた。




「どう? 部活には少しは慣れた?」

 カチャリ、カップをソーサーにおきながらレッドに訊ねる丈一郎。

「たぶん、今日も体中筋肉痛だと思うけど、大丈夫?」


「は、はあ……正直、歩くのも辛いっす」

 ため息をつくレッド。

 その傍らにあるグレープフルーツジュースにも、ほとんど手をつけていない。

「だけど、辛いけど……楽しいっす。走って、ひたすら縄跳びして、ひたすら左ジャブを打ち続けていると、なんだかいやなことも忘れられそうっす」


「そうか、よかったな」

 ブレンドコーヒーを一口含み、真央は声をかけた。

「とにかく教わったことを、馬鹿んなって死ぬ気で繰り返せ。そしたら、また新しいこと教えっからよ」


「そうだね」

 その言葉を聞き、丈一郎は微笑んだ。

「ところでさ、話は変わるんだけど……」

 一口ブレンドを口に含み、訊ねる丈一郎。

「電撃バップって、今もやってるの? 新聞のテレビ欄チェックしてみたけど、一度も見たことないんだけど」


「で、電撃バップは、自分が子どものころに放映していた変身特撮ヒーローっすから」

 そういうと一口、グレープフルーツジュースをすする。

「だから、皆さんもきっと見たことがあるんじゃないかと思っていたのですが……」


「うーん、記憶にないなあ」

 と首を傾げる丈一郎。

「僕、子どもの頃結構そういうの見てたと思うんだけど、全然わかんないよ。マー坊君は?」


「俺にその手のこと聞くんじゃねえよ」

 頭を掻き毟りながら真央は言った。

「子どもの頃、ろくにテレビなんか見る男じゃなかったからな」


「そ、それなら」

 というと、レッドはポケットからスマートフォンを取り出す。

「こ、こ、ここに動画が入ってます! ぜ、ぜ、是非一度、ご覧になってください」

 鼻息荒く、そのスマートフォンの画面の二人の前に差し出した。

「そ、その画面の再生マーク押せば、動きますから」


「……マジでか?……」

 やや辟易とした表情の真央だったが


「まあまあ、せっかくレッド君が進めてくれてるんだし」

 苦笑いして丈一郎はそのスマートフォンを受け取った。

 そしてイヤフォンの一端を真央の耳に差込み

「じゃ、ここ……かな。これを押せばいいのかな」


 二人の耳に、勇壮な音楽が鳴り響く。

 電撃バップのテーマソングだ。

 それからおよそ30分間、レッドのスマートフォンの画面の中で、電撃バップの縦横無尽の活躍が展開された。




「いやー、もしかしたら見たことがあるのかもしれないけど……」

 丈一郎は首をかしげる。

「まあ、子どものころの事だから、よくわかんないのかもしれないな。ねえ、マー坊君……」

 とふと隣の真央に視線を移すと


「うぉー! つえーぞ! 電撃バップぅ!」

 拳を固め、目をキラキラと輝かせる真央の姿が。


「……ははは、マー坊君ははまったみたいだね……」

 その子どものような表情を見て丈一郎は苦笑するしかなかった。


「ほ、本当っすか!? マー坊先輩!」

 ぱあっ、その顔を明るく輝かせ、レッドは言った。

「理解していただいて、自分本当にうれしいっす! そうなんっすよ! 本当に格好いいんすよ! 電撃バップ!」


「おお! イエローバップも、お前に聞いてたよりか、めちゃくちゃ格好いいじゃねーか!」

 同じく興奮ぎみに、鼻息荒く答える真央。

「いやー、いいもん見させてもらったわ。格好いいぜ電撃バップ」

 そのイヤフォンからは、電撃バップのエンディングテーマが流れていた。

「いや、お前がこんなヒーローになりたいって言う気持ちもわかるわ」

 腕組みをし、うんうんとうなずく真央。

「お前はこのバップレッドになろうってんだよな? こんなん格好良くなろうっつうんだから、よっぽど追い込んでいかねーときついんじゃねのか?」


「そうだね」

 小さくうなづく丈一郎。

「だったら、なおさら今まで以上に頑張っていかなくちゃだね。一緒に頑張ろうね」

 そういってにっこりと微笑みかけた。


「ががが、頑張るっす! こ、こんなに電撃バップの素晴らしさわかってくれた人、はじめてっす! すっごっくうれしいっす!」

 ぎこちないながらも、基本に忠実な構えを作り気合を入れるレッド。

「そ、そうだ! 自分、電撃バップのフィギュア、いっぱい持ってるんす! 自分でも作ったりして、家にいっぱいあるんっす!」


「フィギュア?」

 と訊ねる丈一郎。

「フィギュアって、あの人形の? 電撃バップの?」


「そうっす!」

 首が千切れんばかりにうなずくレッド。

「こ、今度、新しいフィギュア、作ります! 電撃バップの! だから、マー坊先輩と丈一郎先輩に、バップイエローとバップブルーのフィギュア、持ってきます! 自分の、せめてものお礼っす!」


「お礼なんてそんな……」

 その思いもよらぬ申し出に丈一郎は戸惑ったが

「けど、嬉しいな。友情の証って感じで。レッドくんはバップレッドを持っているんだから、僕たちで丁度電撃バップになるね」


「おお! マジか?」

 目をまん丸に見開く真央。

「お前って意外な趣味っつーか特技、持ってんだなー。よっしゃ! んじゃー格好いい、できのいいやつ頼むわ。待ってんぜ」

 そういって、ニイッ、と笑った。


「はいっ!」

 レッドの、本当に嬉しそうな声が店内に響いた。

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