例えば転生するときこんな感じはどうですか?
あまり見たことのない感じではあります。が、私としてはこんな感じが増えてくれると嬉しいなあ、とか思ったりします。
1.高名だが年配の科学者が可能であると言った場合、その主張はほぼ間違いない。また不可能であると言った場合には、その主張はまず間違っている。
2.可能性の限界を測る唯一の方法は、不可能であるとされることまでやってみることである。
3.充分に発達した科学技術は、魔法と見分けが付かない。
『クラークの三法則』 アーサー・C・クラーク
彼は何もない空間で一人立っていた。
「ここは・・・?」
そんな呟きもこの空間に吸い込まれて消えていく。
何が何だかわからない様子ではあるが、あたりに何もないか確認するためにキョロキョロと視線を動かす。しかし、やはり何もなかった。
これはおかしい、と彼は思った。この場所は何もないばかりではなく、色さえもはっきりとはしないからである。白なのか黒なのか、はたまた青なのか。それらのどれでもあるようだし、そのどれでもない。はっきり言うと、到底言葉では説明できるようなものではなかった。
「ふむ・・・一応成功か」
突如としてそのような言葉が背後から聞こえてきた。
慌てて彼は後ろを振り向くと、そこには老人が立っていて、
「君、あんまり慌てなさんな」
と話しかけてきた。
一体何が何なのかわけがわからず、彼は混乱する。さっきまで確かに何もなかったし、誰一人存在しなかった。それだというのに、何故かいつのまにやら背後に見たことのない老人が立っている。この状況下で混乱するな、という方が無理がある。
「ここは一体何だ?」
混乱しつつも、一番の疑問を尋ねられるあたり、彼は意外と神経が太いのかもしれない。
ふむ、と老人は顎に手を当て、言葉を発した。
「君は意外と呑み込みが早いな・・・いや、単に気付いていないだけか。ならばそれについては後でもいいな。まあ、それは兎も角、現在君が置かれている状況を簡単に説明しよう」
と、いつの間にか手に持っている杖を地面に一突きする。
すると、突然この摩訶不思議な空間が変化した。何もなかった空間にはいきなり壁が出現し、地面はタイルで覆われはじめ、目の前には四足の丸い大理石でできたテーブルと革の椅子が現れた。そして、何色か判別できなかった空間はどこまでも白く、まるで病院を思わせるような外観に変わった。
「・・・・・・」
あまりの驚きに彼は言葉も出ないようであった。
「それでは、君の置かれた状況を説明しよう。取り敢えず、そこの椅子に腰を掛けたまえ」
彼は老人に勧められるままに椅子に腰かける。
「さて、まず何から説明しようか・・・」
老人は口元に手を当てて思案する。
「まずこの場所について説明してくれ」
ようやく混乱から少しは回復してきたのか、自ら説明を求める。
「そうだな・・・まずはこの空間からか」
そうして、老人が語り始めた内容は予想を大きく裏切り、彼の度肝を抜く結果となる。が、彼はまだそのことを知らない。
「いいか、まずこの空間は君が今までいた次元ではない。より高い次元の世界だ」
「そして、ここはありとあらゆる想像を具現化できる。更に、それだけではなく表面的な思いさえも相手に伝わるような世界だ」
「そこでこの世界を利用し、君にはやって貰いたいことがある」
「やって貰いたいということは私の研究についてでな。言い方は悪いが、私の実験に付き合っては貰えないだろうか」
そこまで聞いた彼は暫し沈黙し、やがて口を開く。
「もし、それにNOと答えた場合、どうなる?」
「別にどうにもならん。これを言うのは後にしようと思っていたが・・・君は実はもう死んでいるのだ。だから、私の提案を断った場合、このような次元あるいは更なる高次元世界である、所謂死後の世界というものに行くだけだ」
彼は大きく驚き、やがて深く納得する。
「なるほどな・・・。どうして幽霊だの妖怪だのいると云われているくせに姿が見えないのは、つまり彼等が俺達より高い次元の存在だからだな」
そう言った彼の言葉に今度は老人が大きく驚く。
「たったそれだけの情報でそこまで推察できるとは・・・君は余程頭が良いようだな」
「やめてくれ。そういうのは嫌というほど体験してる」
そこまで口にして、ふと彼は疑問に思った。そういうのは嫌というほど体験している? 確かに自分は今そう言った。しかし、それに関係する情報が自分の頭からは欠落している。じゃあ、何故そんな言葉が口をついて出たのだろうか・・・? 彼は思考に没頭し始める。
そのお蔭か、彼は自分という意識がやけに薄いことにも気が付いた。知識はあるのに自分という存在がどのような存在なのかがわからない。おそらく、これは死んだことが原因だろう、と推察する。
「落ち着け。そういう考察は後にしなさい。今は質問タイムだろう?」
彼は老人の言葉にハッとする。
「ああ、そうだったな。すまない。それでは二つ目の質問はいいだろうか?」
「いいぞ」
「一つ目はこの場所についてだったからな。次は、あなたについて聞きたい。あなたは一体何者だ?」
「そう来るとは思っていた。聞けば驚くと思うが、私は人間だ。まぎれもなくな」
「なんだと!? だが、普通の人間がこのようなことが出来るとは到底思えないのだが・・・」
「そう思うのも無理はない。言っていなかったが、そもそも私は君とは違う世界の人間だ。そこに於いての技術の差というものがあるのだよ。私達の世界の技術は君たちのそれより、およそ数千年は先を行っている。そこでは、君達とは比べ物にならないほどの差が歴然として横たわっているのだ。だから、君の知識を基準に考えない方が良い。そこではな、君たちが非科学的だとか、オカルトだとか言っているようなものは普通に存在している。勿論超能力だとか魔法などといったものだな。科学は発達すれば魔法と見分けがつかないし、魔法もまた然りである。結局何が言いたいのか、というと私たちの世界では科学技術がありとあらゆるものを内包し、叶えられないことなど片手で数えられるぐらいになってきた。いやはや人類というのは無限に進化し続けるものだ。いや、こういうと語弊が生じるな。生物学的には間違った用法になる。正しくは進歩と言うべきだろう。つまり、そのような世界の人間である私にとって今やっていることは決して不可能ではないということだ。そして、初めの問いに改めて答えるならば、不可能がとことんまで排除された人間ということになるだろうな」
「なるほどな・・・」
彼はそう呟き先程の老人が語った内容について考察する。
彼はそこで一つの疑問を得た。
「一つ気になることがある。あなたが不可能がとことんまで排除された人間となれば何故俺をこんなところに呼び寄せた? 一体実験とは何をやるつもりだ?」
「そこを疑問に思うのは当然のことだろう。それについてが、これからの大事なことになるのだよ」
そこまで言うと、老人はいつの間にか持ってたガラスのコップに、これまたいつの間にか持っていたボトルから炭酸水を注ぎ、それの一口飲み喉を潤してから言葉を発する。
「君にはこれからとある異世界に行ってもらいたい。そして、その手段は所謂輪廻転生というやつだ。そして、これは私のいるとすれば神に対する、いなければ世界のシステムに対する挑戦だよ」
彼はそれを聞いて素直に感嘆する。
「全く自らの欲望に素直な科学者ほど度し難いというが・・・その通りだよ」
「科学者なんてそんなものだ」
と老人はクカカカと笑う。
「それで、あなたは神に挑戦するのか」
「そうだ。何時の時代だってありとあらゆる人ならざるものを倒してきたのは人間であり、ありとあらゆるものに挑戦し、それに打ち勝ち、無限に進み続ける、それこそが人間の真骨頂だ。あらゆる可能性を内包している人間だである以上、神にだって勝てる。その為の第一歩が君になるということだ」
「それで、実験の詳しい内容は?」
聞き続けている内に彼は実験に参加してもいいのではないか、と思い始めていた。どうせ、このままでも死語の世界に行くだけであるし、どうせだったら新たな試みに挑戦するのも悪くない、と。
「参加する気か?」
「それは詳しい話を聞いてからだ」
「言質を取らせないか・・・。まあいい。具体的な話に移ろう。君にはこれから科学よりも魔法が発達した世界に行ってもらう。まあ、所詮科学も魔法も突き詰めれば変わらないものだが。話が逸れたな。取り敢えず、私の目的としては君の転生さえ成功すればいいからそれさえ上手くいけばそれで終わりだ。だが、それでは君がこの実験に参加するメリットがない。そこでだ。君にはこれから一つ餞別ということで何か贈ろう。それを使って生まれ変わった後、好きに生活するといい」
「餞別?」
「ああそうだ。どんなものでも構わない。どんな機能が付いていてもだ。なにせ、この空間はあらゆる想像が具現化する空間だからな。残念ながら君にはまだ無理だろうが」
「? どうしてだ?」
「なぜならば、ここで具現化するには明確なイメージとそれが必ず具現化するという強いイメージが必要だからだ。こればっかりはそうは上手くいかない。だからだ」
「なるほど・・・一つ訊くが、本当に何でもいいんだな?」
「ああ。名前を叫ぶと斬撃が光になるような剣でもいいし、名前を知った相手の考えていることがわかる日記でもOKだ。または、乗り込んで惑星戦争が出来るようなロボでもいい。さて、どうする?」
「・・・少し、考えさせてくれ」
「了解だ」
彼は考える。何が起こるかわからない。だとすれば、汎用性が高く、いざという時に身を守ることが出来るような、そんなものが良いだろうと結論付ける。
彼は要望を伝える。
「それはなかなかだ。だが、別にモノが一つだからといって機能も一つに限るわけじゃない。二つ三つぐらいなら大丈夫だ。だったらどうする?」
ならば、と彼はさらに機能を付け加える。
「よし、それじゃあそれでいいだろう。名前を呼べば出てくるようにしておく。それでは君の転生が成功するように努力させてもらう。万が一ということもあるが、成功したら次目覚めた時が君の新たな人生だ。それではGood Luck.」
彼は意識が闇に沈んでいくのを感じ、やがて完全に意識が途切れた。
確かに神とかそういう人ならざるものじゃないとチート能力とか授けられないとは思いますが、人でもそういうことは出来るんだぞ、というある意味私の主張です。
人の可能性は無限大なんだ、ということを強く推していきたいものです。