表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/14

第4章3

 キン、と耳に突き刺さるほどに鋭い、それは、悲鳴のような声だった。

「――知ってる? 『友好の証し』は、父上が言い出したことじゃないわ…始めたのは、ホラン王よ」

「父が?」

「そうよ。最初言い出したのは、ホラン王。最初の『友好の証し』は…」

「月芳、なんの話をして居るんだ? 最初って…私の前にも居たのか? 誰か来ていたのか?」

「来てたんじゃなくて、行ったのよ…。連れて行ったの。ホラン王が。まだ、この国の方が小さかったから、『友好の証し』として…父上から……奪って…。けれど…この国は力をつけたわ。だから…奪い返したのよ」

 なん…だって?

「嘘だ」

「嘘じゃないわ!」

 月芳(ユエファン)は言い放った。まだ瞳に大きな涙をためたままで。

 沈黙が、息苦しい。

「そんな話は聞いたことがない…」

「そうだろうな」

 不意に、低く重い声が部屋に満ちた。音もなく、静かに部屋に入ってきたのは――

「冷厳王…月芳に何を言ったんだ?」

「口の利き方がなっていないな、ウォルバン」

「答えろ」

 ぎっ、と睨み付けるウォルバンに、冷厳王は表情も変えずに言った。

「なに?」

「私が、憎いだろう? どっちだ? 国から引き離したことか? 月芳に真実を告げたことか?」

「どっちもだ!」

「どっちも、か。子に憎まれるのは、存外苦しいな」

 冷厳王の目はウォルバンの向こうの扉を見ている。なのに、その言葉はウォルバンに向けられたものだ。

「子ども扱いは…」

「仕方有るまい。お前は子だ」

 だから子ども扱いはやめろと、言おうとした。したのだが、上手く行かなかった。何か、違う。そういう話をしているのではない。この、目の前の男はそんな話をしているのではない。子ども扱いしている訳ではなくて…。

 ゆっくりと、言葉が頭の中にしみこんで、それまでの話と手をつないでいく。

「だから、言ったでしょう…。嘘じゃないって……」

 それまで黙って話を聞いていた月芳が、ウォルバンの手を取って、そのまま自分の頬にあてる。くすみの一つもない、滑らかな頬をすり寄せながら言った。

「最初の『友好の証し』も、やっぱり、あなた。二人生まれた子の一人、次の王になる資格のある、男の子。私の兄さん―― あなたが『月芳』なの。」

 掌が、濡れて、冷たい。

 泣かないで欲しいのに、とウォルバンは思う。自分にこの話をするのが、どうして月芳なんだろう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ