第4章3
キン、と耳に突き刺さるほどに鋭い、それは、悲鳴のような声だった。
「――知ってる? 『友好の証し』は、父上が言い出したことじゃないわ…始めたのは、ホラン王よ」
「父が?」
「そうよ。最初言い出したのは、ホラン王。最初の『友好の証し』は…」
「月芳、なんの話をして居るんだ? 最初って…私の前にも居たのか? 誰か来ていたのか?」
「来てたんじゃなくて、行ったのよ…。連れて行ったの。ホラン王が。まだ、この国の方が小さかったから、『友好の証し』として…父上から……奪って…。けれど…この国は力をつけたわ。だから…奪い返したのよ」
なん…だって?
「嘘だ」
「嘘じゃないわ!」
月芳は言い放った。まだ瞳に大きな涙をためたままで。
沈黙が、息苦しい。
「そんな話は聞いたことがない…」
「そうだろうな」
不意に、低く重い声が部屋に満ちた。音もなく、静かに部屋に入ってきたのは――
「冷厳王…月芳に何を言ったんだ?」
「口の利き方がなっていないな、ウォルバン」
「答えろ」
ぎっ、と睨み付けるウォルバンに、冷厳王は表情も変えずに言った。
「なに?」
「私が、憎いだろう? どっちだ? 国から引き離したことか? 月芳に真実を告げたことか?」
「どっちもだ!」
「どっちも、か。子に憎まれるのは、存外苦しいな」
冷厳王の目はウォルバンの向こうの扉を見ている。なのに、その言葉はウォルバンに向けられたものだ。
「子ども扱いは…」
「仕方有るまい。お前は子だ」
だから子ども扱いはやめろと、言おうとした。したのだが、上手く行かなかった。何か、違う。そういう話をしているのではない。この、目の前の男はそんな話をしているのではない。子ども扱いしている訳ではなくて…。
ゆっくりと、言葉が頭の中にしみこんで、それまでの話と手をつないでいく。
「だから、言ったでしょう…。嘘じゃないって……」
それまで黙って話を聞いていた月芳が、ウォルバンの手を取って、そのまま自分の頬にあてる。くすみの一つもない、滑らかな頬をすり寄せながら言った。
「最初の『友好の証し』も、やっぱり、あなた。二人生まれた子の一人、次の王になる資格のある、男の子。私の兄さん―― あなたが『月芳』なの。」
掌が、濡れて、冷たい。
泣かないで欲しいのに、とウォルバンは思う。自分にこの話をするのが、どうして月芳なんだろう。