私の為に悪役令嬢を演じている義姉様が愛しくて仕方がない~すべてお見通しですよ?清純派ヒロイン(隠れヤンデレ)の私が、外堀を埋めてじっくり溺愛して差し上げます
平民に戻りたい義妹のために悪役令嬢を演じて追放しようとする義姉様が、清純派ヒロインの皮を被った義妹の手の上でコロコロ逃げ場をなくされて転がされるお話です。
「聖女を騙る偽物め、我が公爵家にお前の居場所はないわ! この女を今すぐ教会へ追放しなさい!」
華やかな卒業パーティ会場のど真ん中で、悪役令嬢と名高いシャーロット・ウィズマリアが、義妹のナターシャ・ウィズマリアを糾弾した。
元々平民のナターシャを庇う者はいない。シャーロットの取り巻きの令嬢たちが嘲笑する中で、私は涙を浮かべてうつむいた。
「義姉様……っ、私は……偽物じゃありません」
「平民は恥を知らないようね。魔物を浄化する力は聖女にしか使えないというのに、お前がいなくても魔物を浄化できていると聞いたわ」
「それは……、王太子殿下たちの使う武器に神聖力がこめられているからで……」
「では、その武器に神聖力をこめたのはお前なのかしら?」
「いえ……。私では、ありません……」
私のその言葉を待っていたと言わんばかりに、義姉様がその場にいる全員に聞こえるように大きな声で言った。
「そう。お前でないのなら誰なんでしょうね? 本物の聖女様なのではなくて? つまり、お前は公爵家に取り入るために聖女を騙った恥知らずということに他ならないわ!」
(これでいいのよね? あぁ、ごめんなさい……。涙をいっぱい溜めて可哀想なナターシャ。血は繋がらなくても、たった一人の可愛い妹なんだもの。私だってこんなに酷いことを言いたいわけがないわ。でも……、こうでもしなければ貴女を『聖女』という檻から解放してあげられないの……)
「武器に神聖力をこめた方は、王太子殿下たちが探しています。聖女が二人存在した事例はないそうですけど……、まだ結論は出ていません……っ」
「醜いわね。そうまでして、公爵令嬢の地位にすがりついていたいのかしら?」
「そんなこと……っ」
「それに、王太子殿下が武器を使い始めてから、お前は神聖力を使っていないそうね。本当は使えないんでしょう? 公爵家令嬢であるというのなら、最後くらい矜恃を魅せて潔く身を引きなさいっ!」
義姉様の怒鳴り声にびくりと肩を震わせると、一瞬だけ眉をひそめるのが見えた。
(ごめんなさい、ナターシャ。お願いだから、早く頷いて。だって、それが貴女の本当の望みのはずでしょう……?)
「教会は元聖女様を快く受け入れて下さるそうよ。貧相なお前には田舎暮らしがお似合いだわ!」
(シスターも優しくてのどかな場所だったわ。そこに行けば貴族から虐められることも、貴女が怖がっていた魔物討伐ももう行かなくていいの。こんなに薄汚れた貴族社会は純粋で優しい貴女には似合わないわ。これで貴女の望み通り、平民に戻れるのよ……!)
返事をしようと私が口を開きかけた瞬間。ぐい、と誰かによって私の肩が引き寄せられ、凛とした声が会場に響き渡った。
「そこまでだ! いい加減にしろ、シャーロット・ウィズマリア!」
「……王太子、殿下」
いつの間にか、王太子殿下と護衛騎士、宰相候補というそうそうたるメンバーが、義姉様から庇うように私の前に立ちはだかっていた。
「王太子殿下、これは我がウィズマリア公爵家の問題ですわ。聖女でなくなったというのなら、ただの平民。そんな者が視界に入るだなんて許せませんもの」
「……なっ、僕の知っていた優しかったシャーロットはもう居ないようだな。昔馴染みだからと、目溢しするのはもう辞めだ」
(散々、酷いことをしてきたものね。聖女の追放は証拠を揃えて陛下へ根回しをしているし、せいぜい国外追放っていうところかしら。……いいえ、私はどうなってもいい。どんな手を使っても、この子は私が守ってみせるわ……!)
「王太子殿下。恐れながら申し上げますが、これは陛下による決定事項ですわ。たとえ、殿下であっても覆すことはできません」
義姉様がそう告げると、王太子殿下たちは申し訳なさそうに私に頭を下げた。
「……すまない、ナターシャ。手は尽くしたのだが、新たな聖女の存在と君の神聖力が使えなくなったこともあって、私では君の追放を止めることが出来なかった」
「そんな……、王太子殿下が頭を下げないでください……っ! 私が神聖力を使えなくなったのは事実ですから。皆さんが私を助けようとしてくれたこと、そのお気持ちだけで私は幸せでした」
「ナターシャ……」
王太子殿下は決意したように、義姉様に向き直ると幼馴染の情を捨て、王太子として冷たい声色で言い放った。
「シャーロット・ウィズマリア、お前を国外へ追放する!」
どよどよ、と義姉様の取り巻きたちから困惑の声が上がった。公爵令嬢である義姉様がこんなことを言い渡されるなんて想像もしていなかったようだ。
「殿下……っ!? どうして、義妹ではなくて私なんですか!」
「度重なる聖女への嫌がらせ、度を超えた虐めの証拠もある。今は聖女でなくなったといっても、ナターシャは国の宝である聖女であった。それに加害する者はこの国の公爵家に相応しくない!」
王太子殿下の剣幕に、義姉様は震えているのを隠そうと懸命に拳を握りしめている。最後まで気丈に振る舞うその姿こそ、公爵令嬢の矜恃なんだろう。
私は、計画通り、庇護欲をそそるか弱い表情で涙を浮かべると、膝をついて王太子殿下に許しを乞いた。
「殿下っ! 義姉様をお許し下さい……っ! 不相応な居場所を求めた私がいけなかったんです。国外追放だなんて、義姉様が可哀想……っ」
「ナターシャ……、君は優しすぎるよ。シャーロットは君を追放したんだよ?」
「私は元々平民ですから、元あるところに戻るだけです。でも、公爵令嬢である義姉様に国外追放は厳しすぎます。私が義姉様を改心させます。ですから、せめて、私と同じ教会にして下さい。お願いします、最後のわがままを叶えてはくれませんか……?」
私はこの時のためにとっておいた『一度だけわがままを叶えてやる』という王太子殿下との約束を持ち出した。
誠実な殿下なら、この願いを無下にしないことを知っていた。
「本当に、いいんだな……?」
「勿論です。必ず、私が義姉様を幸せにしてみせます!」
「幸せに……? 反省させる、ということか……? はぁ、分かった。ナターシャ・ウィズマリア、シャーロット・ウィズマリア。其方等に教会への追放を言い渡す!」
前代未聞の公爵令嬢姉妹の教会追放。
『計画通り』と、義姉は天使のように微笑んだ。
◇ ◇ ◇
教会へと向かう馬車の中、私と義姉様は会話もないまま二人きりで揺られていた。
なんて声をかけようかと悩んでいると、義姉様は公爵令嬢にあるまじき所作で馬車の床に頭を擦り付けると、嗚咽まじりで謝罪の言葉を告げた。
「ナターシャ、今まで……酷いことをして本当にごめんなさい……っ! それと、私の国外追放を止めてくれてありがとう……っ。こんなに優しい貴女に、私……、本当になんてことを……。許されるだなんて思っていないわ」
「義姉様! やめてください……っ、私、分かってましたから……っ!」
「……えっ?」
義姉様を起こして椅子に座らせると、私は義姉様の隣に腰掛けて白魚のような美しい両手を握った。
「大丈夫です。義姉様が私のために『悪役令嬢』を演じてくれていたこと、分かっていますから。私が子供のころ、『平民に戻りたい』って言っていたのを聞いていたんですよね」
「なん、で……それを……?」
「あの日、物音に振り返った時に馳けていく義姉様の後ろ姿を見たんです。そして、その日から義姉様は私が『聖女』の仕事をしようとすると邪魔をするようになった。ちゃんと、気がついてますよ。私をあそこから救ってくれて、ありがとうございます。義姉様」
私が今までずっと隠してきた秘密を打ち明けると、義姉様は罪悪感から開放されたのか、子供みたいにわんわんと声を上げて泣きじゃくった。
「もう大丈夫よ、私が守ってあげるわ」と震える手で私を抱きしめる義姉様があまりにも可愛らしくて、私はぎゅっと抱きしめた。
「落ち着きましたか?」
「……えぇ、取り乱したところをみせてしまったわね。その、貴女には嫌われているだろうと思っていたから、嬉しくて……」
「義姉様。子供のころみたいに、ナターシャって呼んで下さい」
「……ナターシャ。貴女とこうやってまた話せて嬉しいわ」
「私もです。大好きです、義姉様」
義姉様のあまりの可愛さに思わず目元にキスをした。口の中に涙の味がひろがる。
「ナ、ナターシャ……?」
「ごめんなさい、義姉様の涙が甘そうだったから。ふふっ、しょっぱいですね」
「……もう、貴女は大人になっても食いしん坊なのね」
そういえば、子供のころもこうして義姉様の涙を拭ってたっけ。
「義姉様は大人になっても泣き虫ですね」
「……恥ずかしいわ」
「恥ずかしくなんてないですよ。義姉様は可愛いです」
「……貴女も私に虐められる義妹を演じていたのね、全然気がつかなかったわ」
「義姉様が頑張ってくれていたので、私が台無しにしてはいけないと思って……。——でも、義姉様のことなら、私はなんでもお見通しなんですよ?」
「ふふっ、そうね」
子供をあやすみたいに抱きしめたまま私の髪を撫ぜる。
私はこの幸せに身を委ねたまま、そっと義姉様の背中に腕を回した。
「——義姉様、大好きです。ずっと、一緒にいてくださいね」
◇ ◇ ◇
教会には予め根回しをしていたこともあって、義姉様を悪女だと罵るような人も居ない。
これもすべて、私の追放を企む義姉様の背後から仕組んでいたのが、他ならぬ私だったからだ。
——卒業パーティの数ヶ月前。
私は、私の追放のために動き始めていた。
聖女にしか使えない神聖力を武器に付与してしまえば、魔物を倒せること。神聖力が弱まれば、遠隔で補充することができることが分かった私は、バレないように平民街へとおりると教会から王室に献上される『祈りを込めた武器』の一部に神聖力をこめた。
案の定、一部の武器を使用した兵士たちでも魔物を倒し切ることが出来たため、王太子殿下たちへと連絡が入った。
そして、私がやっていたのだから当たり前のことだが、この国に二人目の神聖力を持つ人間は見つからなかった。
諦めた殿下たちに「私にもやれるかやってみます」と言って目の前で武器に神聖力をこめると、それ以来力を失ってしまったかのように振る舞った。
陛下が動かざるをえなくなるくらい、私が偽物の聖女であるという噂を流したのも私。魔物の出現頻度も少なく、のどかな教会のリストを義姉様の侍女に横流ししたのも私。卒業パーティで私を追放しようとしている噂を殿下の耳に入れたのも私。殿下の側近に義姉様の悪事の証拠を送り付けたのも私。
(殿下がわがままの約束を守ってくれて良かった。義姉様が快適に過ごせるように、教会に根回ししたかいがあったなぁ。……まぁ、国外追放を撤回してくれなかったとしても、私がついて行くだけだから何の問題もなかったけど)
全部、全部、全部。
愛しい義姉様と二人きりで暮らすために私が仕組んだこと。
——あぁ、愛しい義姉様。私が裏で操っていたなんて、思っても居ないでしょう。だって、私はか弱くて一人では何も出来ない可愛い義妹なんですもの。
◇ ◇ ◇
教会での暮らしにも慣れてきた私は、今日も甲斐甲斐しく義姉様の世話を焼く。
表向きは無害な義妹を演じながら、数年のブランクを埋めて、すっかり仲の良い姉妹に戻ってきた。慣れない平民の暮らしに、頼れる相手も私だけ。義姉様は私がいないと生きていけない。そんなことを考えて口元がにやけそうになるのを我慢する。
(……そろそろ、一歩進んでもいいよね)
自分でも義姉様への執着が普通では無いことは分かっている。だからこそ、ひた隠しにしてきたし、ここへ来てすぐの関係性のまま私の愛を伝えていれば、義姉様には逃げられてしまったかもしれない。
だから、じっくりと時間をかけて私が義姉様を一番愛しているんだって分かってもらわなくちゃ。
夜になり、私たち二人の部屋に戻るといつものように義姉様の膝枕にごろんと頭をのせる。
きゅるるんと上目遣いで甘えてみれば、天使のような微笑みを浮かべて「ナターシャは甘えんぼうさんね」と言って頭を撫でてくれる。
「義姉様、お疲れ様でした」
私がそう言うと、義姉様から進んで頭を近づけてくれる。私は両手を伸ばすと義姉様の頬に手を添えて、そっとまぶたに、鼻にキスを落としていくと、くすぐったそうに声をもらす。
平民のおやすみの挨拶ですよ、と教えたら何の疑いもなく信じてしまったのだから、義姉様は純粋で無防備で可愛らしい。
(どこまでだったら信じてくれるんだろう……)
好奇心と欲望に負けて、私は義姉様の耳をかぷっと噛んだ。ひゃっ、と色っぽい声色をもらした義姉様は恥ずかしいのか耳まで真っ赤に染まる。
「ナターシャ……?」
私は返事をせずに、義姉様の唇に口づけた。
ぺろり、と上唇を舐めると流石に意図が分かったのか、義姉様が慌てて壁際へと逃げていく。
(あぁ、もう。壁際に逃げても逃げられないのに。そんなところも可愛いんだから)
「ナターシャ、平民は姉妹でこんなことまでする……わけはないわよね……?」
顔を真っ赤にしたまま、まだそんなことを言っている義姉様に思わず溜息がもれる。
義姉様を壁際に押しつけて、息がかかりそうな距離で見つめると私はゆっくりと微笑んだ。
「そうですよ、って言ったら逃げないでくれますか?」
「えっ、……んっ、……っ」
初めから返事を聞くつもりはない。
私の唇で義姉様の唇を塞いで、恋人同士がするような口づけをする。舌を絡ませていくと、びくりと肩が飛び跳ねた。可愛い。夢中で口づける私の背中にすがりつくような義姉様が愛おしい。
「……っは、」
呼吸が上手くできなかったようで、肩を上下させて、熱っぽく潤んだ瞳を向けられると、ぞくりと私の知らない私が顔を覗かせる。
(義姉様、可愛い……。もっと、泣き顔が見たいな。色んな顔が見たい。……今までのこと、私が裏で手を引いていたって言ったら、義姉様はどんな顔をするんだろう)
「可愛い義姉様。実はね、これまでのこと、本当は私が全部仕組んだんです。ずっと、義姉様と一緒にいたかったから」
「全部、って……? なんの話……」
「私が追放されるきっかけ。もう一人の聖女、あれの正体、私なんですよ。本当は聖女の力を失ってなんかいないんです。義姉様には幸せになって欲しいけれど、貴族でいたらいつかお嫁に行ってしまうでしょう? それに平民になったら義姉様を知る人はいなくなる。義姉が頼れるのは私だけ。だから、一緒に追放されるのが一番かなって」
「ナターシャ……? 何を言っているの……?」
「義姉様、私とずっと一緒にいてくれるって言ってくれましたよね」
私がにじり寄ると、義姉様がびくりと肩を震わせた。
「――あれ? 義姉様、どうしてそんなに震えているんですか? 義姉様も言っていたじゃないですか。私はか弱い『清純派ヒロイン』なんでしょう? だったら、義姉様が幸せにしてくださいね」
宝物を壊さないように、優しくそっと抱きしめる。
(良かった。義姉様、逃げないんだ)
「義姉様は私が守ります。一生かけて私の愛を伝えますからね。ふふっ、これが最初で最後のチャンスだったんですよ? もう、逃がしてあげませんからね」
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