身代わりぬいぐるみ
しいな ここみ様主催『冬のホラー企画4』参加のコメディーホラーです。
~生型聡詞視点~
「ハアッ、ハアッ、ハアッ……なにがどうなってんだよ!」
「ワンワンッ」
俺はバケモノに追われて、夜道を犬と逃げていた。
◇◆◇
今月、彼女に振られ仕事も辞めてしまった俺は、もともと実家住まいだったこともあり、そのまま自室に引きこもっていた。
しかしオカンから
「ヒマならタロちゃんの散歩くらい行きなさい!部屋にずっとこもられて暖房代ももったいないのよ!」
とこもっていた部屋から引きずり出され、しぶしぶ家の飼い犬(実質オカンの飼い犬)のタロと散歩に出た。
もう日も暮れて一段と寒さも厳しくなってるっつのに。
そして小さな祠が目についたところで思い出した。
日没後にこの祠の前で南南東微南の方に向かって一礼一拍一礼すると里神だかバケモノだかに食われちまうとかって言い伝えがあった。
なんかムカついてタブーを破ってみたい気分だった俺は言い伝えのとおりやってみた。
……やるんじゃなかった。
やったとたんに祠の裏から黒い霧を固めたようなバケモノが出てきて現在逃げ回ってるってわけだ。
バケモノは脚は遅いんで全力で走れば引き離せるがしつこく追って開いた距離を詰めてくる。
しかもさっきから人っ子一人通らないし、誰も家から出てこない。
助けを求めてスマホを掛けまくるが誰も出ない。
「クソッ……おいっタロっ引っ張んな!」
犬の方が脚が早いのでときどき転びそうになるがこのリードを離すわけにはいかねえ。
いざとなったら犬をバケモノに叩きつけて逃げるつもりだからだ。
と、どういうわけかスマホの通話が繋がった。
相手は良村っていう奴で今は何でも屋をやってる。
確か北ヶ前とかいう霊能者のアシスタントみたいなこともやってたはずだ。
これは助かるか!?
「なんだ生型か。どうした?」
通話に出た良村に事情を説明する。
「お前なんて馬鹿なマネを」
「うるせえっ!……ハアッ、ハアッ、とにかく何か助かる方法ないか?」
「ああ、ちょうど迅君がいるから聞いてみる。あ、迅君、済みませんが……」
やがて当の霊能者本人が通話に出た。
「北ヶ前家の迅と申します。早速ですが生型さん、貴方、先月うちの這子を購入しませんでしたか?今それはどこにあります?」
「ホウコ?」
「赤ちゃんのハイハイのような姿勢をとったぬいぐるみです」
「あ、あれか。あれなら俺の部屋に」
「あれは身代わりになるぬいぐるみです。その里神に向かって放り投げれば貴方と勘違いしてぬいぐるみの方を喰らいます。あとは里神が去るまでは一応音を立てないよう大人しくしていただければ」
先月、振られる前の彼女に頼まれて神社でお揃いのぬいぐるみを買っていた。
なんで神社でぬいぐるみなんか売ってるのかと思ったがそういう用途だったのかよ。
そこでまた電話口に良村が出る。
「ま、そういうことだから、全力でお前の部屋まで走って逃げろ。迅君と俺も今からお前の家へ向かうから這子だっけ?ぬいぐるみで凌いどけ」
「ああ」
「あと無事生き延びたら緊急依頼料10万振り込んどけよ」
「あああっ!振り込んでやるよ!クソがっ!」
ちょうど家に向かって逃げていたんでこのまま自室まで行けばいい。
と、少し安心したところでバケモノがまた追い付いてきやがった。
「やべ!行くぞタロ!」
「ワンワンッ」
やがて家にたどり着き、鍵を開けて家に入ると靴も脱がずに一気に二階の自室へと駆け上がる。
部屋の奥の棚に置きっぱなしになっていたぬいぐるみを手にして振り返ると、バケモノがドアをすり抜けて部屋に入ってくるところだった。
とっさにバケモノに向かってぬいぐるみを投げつけると、ぬいぐるみはバケモノに吸収されたかのように消えた。
バリッ……バリッ……
ぬいぐるみを食ってるんだろうか。
その場に止まったバケモノから咀嚼音が響き、やがてそれが止んだ。
と、バケモノがこっちに向かってきた!
俺は逃げる場所も犬を叩きつけるヒマもなくバケモノに捕らえられてしまった。
「なっ!?話が違、」
心臓に強烈な痛みを感じた俺は意識を失った。
「ワンワンッ!」
◇◆◇
~良村勇人視点~
「この度は聡詞がご迷惑をかけてしまって……本当にありがとうございました」
「いえいえ、命が助かったようで不幸中の幸いでした。では私達はこれでおいとまします」
何度も頭を下げる生型のご両親に挨拶をして迅君と俺は生型の家の玄関を出た。
昨夜、迅君と俺が部屋に飛び込んだとき、生型の奴は里神に魂を喰われかかっていた。
間一髪、迅君が里神を鎮めたものの、生型は心臓停止状態。
救急車を呼んで心肺蘇生を施しているところで生型のご両親も部屋に来て大騒ぎ。
まあ、里神鎮めたことでその結界みたいなもんも解けたしそうなるわな。
俺はご両親とも面識があったので
『生型は心臓の痛みを感じたが、無職で迷惑をかけている両親に相談できず、友人である俺(実際はたいして親しくもない)達に連絡をとってきた。本人の希望で密かに窓から家に入ったところ、生型が倒れていた』
という嘘をなんとか信じさせた。
……その部屋になんで庭で飼ってるはずのタロがいるのかとか、なんで生型が室内で靴を履いているのかとかいった疑問をご両親がどう消化したのかは俺は知らん。
ともあれ生型は助かり、意識も取り戻したらしい。
元の生活に戻るにはしばらくかかるようだが。
「しっかし生型の奴、部屋まで着いたのにぬいぐるみ身代わりにするのは間に合わなかったんですかねえ」
「いえ、間に合ってはいました。這子は確かに里神に喰われてましたよ」
「え?じゃあなんであいつ喰われかかってたんですか?」
「……あれ、犬用の這子だったんです」
「……はああああ!?」
最近、ペットの無病息災を願ったり、お祓いを依頼したりする人も増え、迅君の組織でも人間用の霊具の応用で、ペット用の霊具を開発して売り出していたそうだ。
ネットで検索してみると、人の顔の部分が犬や猫の顔になったりしてる這子の画像が出てきた。
「じゃあもしかして」
「里神は這子をタロと思って喰らったんでしょうね。で、その後は当然生型さんを喰らおうと」
「な、なんつー運の無い」
「あの通話のときにうちのリストにアクセスして生型さんが這子を購入したらしいことはわかったんですが、犬用の方だったとは。一応説明書も付けて売っていたはずなんですが」
「いや、あいつそういうの読みませんから」
彼女とお揃いのぬいぐるみ買ったって程度にしか意識してなかっただろうし。
「まあ、時間稼ぎにはなったようですし、その点では幸いでしたが」
「そーっすね。いや、むしろ犬用で良かったと思いますよ」
「え?」
「だって元は生型の悪ふざけから始まってるんですから、タロにしてみればただの巻き添えじゃないですか。これで生型が無傷でタロが亡くなったりしてたらそっちの方が後味悪いですって」
「……まあそうかもしれませんね」
「なあ、タロ。お前だってそんなことで死にたくなかったよな」
庭の犬小屋に繋がれたタロに話しかけると、タロはこっちを向いて嬉しそうに尻尾を振った。
「ワンワンッ」




