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勇者は本を残して帰った

作者: 鍋の地
掲載日:2025/11/28

勇者は本を残して元の世界に帰った。

魔法使いの少女は、それを。

「俺は本を書こうと思う」

「本?」

「冒険を書いた本」

「けっ、誰が読むか。勇者の冒険なんて、どうでもいいよ、もう、この平和な世界じゃ」

「…伝説にならね? 皆の愛読書、とか」

「元の世界に帰るまで迷惑人間か。

私は読まんからな」

「えー」


「…」

城の書斎。

私は1人で本を読んでいる。

静か。いや、今までが騒がしすぎたのか。


勇者が帰って、1ヶ月くらいか?




「先生。授業の時間です」

「わかってる」

私は本を閉じる。

そして、息を吐く。

「あれ? また、勇者の本ですか?」

生徒に指摘される。

「つまらん本だ、本当につまらん」

「でも、あの勇者が書いた本ですよね? 魔王を倒し、この世界を平和にした」

「つまらんものはつまらん」

「先生も、一緒に冒険したんですよね?」

しつこい生徒だ。

「たった5年冒険しただけだ。

それに、勇者自身迷惑人間だった、本当につまらない奴だったよ。

これ以上しつこくすると減点するぞ?」

「ただでさえ厳しいのに、魔法の授業は」

生徒はため息を吐く。私は、それに鼻で笑って返す。




つまらない奴が書いた、つまらない本。

困っている人がいたら事情を聞かず助け、結果私たちに迷惑を掛けて。

魔物を倒すのは可哀想だからと戦いを避け、結果あいつは死にかけ。


お人好し、結局この世界に染まりきることはできなかった。

つまらない勇者。


本当に、馬鹿だった。

そんな奴と楽しく冒険をした私も馬鹿か。


下らない思い出。

それを勇者は魔王を倒してから元の世界に帰るまで、ずっと書いて。


たまに読みたくなるが、ああ、あいつは馬鹿だったなと思うだけで。

笑えてくる。




「あの本とはずっと一緒だな」

私は不老不死の魔法使いだけど、あの5年は特別。

あいつは元の世界に帰ったが、本であいつに会える。あの馬鹿に。


いや、つまらない冒険だったんだがな?

ありがとうございました!

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