勇者は本を残して帰った
勇者は本を残して元の世界に帰った。
魔法使いの少女は、それを。
「俺は本を書こうと思う」
「本?」
「冒険を書いた本」
「けっ、誰が読むか。勇者の冒険なんて、どうでもいいよ、もう、この平和な世界じゃ」
「…伝説にならね? 皆の愛読書、とか」
「元の世界に帰るまで迷惑人間か。
私は読まんからな」
「えー」
「…」
城の書斎。
私は1人で本を読んでいる。
静か。いや、今までが騒がしすぎたのか。
勇者が帰って、1ヶ月くらいか?
「先生。授業の時間です」
「わかってる」
私は本を閉じる。
そして、息を吐く。
「あれ? また、勇者の本ですか?」
生徒に指摘される。
「つまらん本だ、本当につまらん」
「でも、あの勇者が書いた本ですよね? 魔王を倒し、この世界を平和にした」
「つまらんものはつまらん」
「先生も、一緒に冒険したんですよね?」
しつこい生徒だ。
「たった5年冒険しただけだ。
それに、勇者自身迷惑人間だった、本当につまらない奴だったよ。
これ以上しつこくすると減点するぞ?」
「ただでさえ厳しいのに、魔法の授業は」
生徒はため息を吐く。私は、それに鼻で笑って返す。
つまらない奴が書いた、つまらない本。
困っている人がいたら事情を聞かず助け、結果私たちに迷惑を掛けて。
魔物を倒すのは可哀想だからと戦いを避け、結果あいつは死にかけ。
お人好し、結局この世界に染まりきることはできなかった。
つまらない勇者。
本当に、馬鹿だった。
そんな奴と楽しく冒険をした私も馬鹿か。
下らない思い出。
それを勇者は魔王を倒してから元の世界に帰るまで、ずっと書いて。
たまに読みたくなるが、ああ、あいつは馬鹿だったなと思うだけで。
笑えてくる。
「あの本とはずっと一緒だな」
私は不老不死の魔法使いだけど、あの5年は特別。
あいつは元の世界に帰ったが、本であいつに会える。あの馬鹿に。
いや、つまらない冒険だったんだがな?
ありがとうございました!




