表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者の贖罪  作者:
1章 『魔王城脱出』
6/29

5.『--どうして』

男は、極めて状況を冷静に見ていた。


今も尚、城の外で命を懸け魔王軍と剣を交える勇敢なる者達、魔王城へ共に乗り込み、魔王軍幹部と死闘を繰り広げる勇敢なる者達、魔王城に乗り込み、今現在、ループする無限の廊下に閉じ込められている、極めて不愉快な者達。


「--フェイ!お顔が怖いよぉ?」


少女が、男の横に立ち、顔を除きながらそう言った。

その言葉に男は微動だにせず、ただひたすら、ループする廊下に囚われている2人の動向を、監視していた。


黒い部屋の中、真っ白なマントを羽織り、黄緑に近い髪色をしており、真剣な表情で口に手を当てながら、何も無い空虚な壁を見続ける、様に他者からは見えるかもしれないが、男は間違いなく2人を見ていた。男の目は、赤く光っていた。


「ねぇねぇ!フェーイー!」


壁に背を寄りかからせ反対側の壁を見続ける男の腕をぶんぶんと引っ張り男の名を呼び続ける少女。

男の腰あたりの身長で真っ白なドレスの様な華美な服装をする少女。金色の髪は腰まで伸びているにも関わらず、美しく輝き、サラサラと風に揺られる。


「おーい!構えー!弱虫泣き虫フェイ〜!へたれのバカ男のフェイ〜!」


少女の言葉をガン無視し、男は見続ける。壁を、否、2人を...


「こちょこちょ」


「っうひ!?っひゃははは!ってぇ!!!何すんですか!?セレナ様!」


クールな表情は一変。腰辺りを少女の小さな手によってかき乱され、猛烈なこしょばゆい感覚が全身を緩める。


「だって、フェイが悪いんじゃない!私を無視し続けるんだから!」


「無視...?あ、もしかして僕が"シンクロ"している時に何か喋ってました?」


「んー?しんくろぉ?」


男の、フェイの言葉に首を傾げて顎に人差し指を当て全く検討のつかない事を言われたと、言いたげな顔で少女はフェイの顔を見る。


そんなら少女の反応に男は深くため息をついて、後頭部をかきながら言う。


「言ったじゃないですか...『これから少し喋れなくなるけど大人しくしてて』って...案の定全然話聞いてない...」


「むっ!何よその言い方!まるで私が言いつけも守れないおバカな子とでも言いたいのぉ!?」


「いや、守る守らない以前に、聞いてすらいないでしょ!あの時ポケーっとした顔してたし!そもそも、何で僕が無言でこんなことしてたかも説明--」


「ね〜!暇だから構って〜!ここ楽しくな〜い!」


「やっぱ、全然聞いてないですよねぇ!?」


そんな、魔王城の空気にはとても似合わない、

騎士 フェイ・ハイルと、王女 セレナ・リーベ

の2人の声は魔王城32階に響き渡っていた。



廊下に囚われている2人には聞こえぬ声が。


------


デリーナは、彼の目が好きだった。


「ルイルイ、次はどうするの!?」


無邪気な犬の様な希望の眼差しを、白髪の男に可愛さと共に注ぐ。

そんな態度に彼は「はっ」と少し笑った後、


「俺にそんな目向けんのは、お前とペルーぐらいだよ。」


と、50点くらいの笑顔でそう話し、デリーナの赤毛をよしよしと撫でてくれた。その手が、温もりが、どれ程彼女の幸福だったのであろうか、デリーナは撫でられれば撫でられる程顔が溶けていく。


「でへへへへ、って!撫ですぎよ!髪が乱れちゃうでしょぉ!?」


「っぶ!」


と、真っ赤でニヤけた顔をしていたくせに、突然彼の顔面に重い一撃を食らわすのだから、彼も彼女の扱いには相当苦労する。


「てててて...相変わらず容赦ねぇなぁデリーナ。」


「ふんっ!アンタに容赦なんて必要無いでしょ。さっさと次の作戦言いなさいよ!」


「ツンデレって、もっと最高だと思ってたけど、デリーナの場合ツンが痛すぎてデレで回復し切れねぇなぁ...」


と、赤く腫れた鼻っぱしらを触りながらルイは「やれやれ」と、床に倒れた身体を持ち上げる。

そんな彼の発言に少し、いや、大いに胸が傷んだ彼女は顔色こそ変えなかったが「ふんっ!」と言いながら腕を組み近づき、彼の前に立つ。


「...」


「...なんだよ。」


真っ赤に噴火しそうな顔で、彼女は彼の頭に手を当てて、


「よ...よぉし...よぉし...」


「...」


白い髪を右手で回しながら撫でる。

その行動に何かしら茶化しの言葉を発してくると思った彼が何故か無言なので恥ずかしさが倍増。


「っな、何か言いなさいよ!」


「いや、デリーナ...本当に、いつもありがとうな。」


「っ!!!....こっちのセリフよ!」


彼の優しく、勇ましく、格好よく、、、、、




どこか、寂しそうな目が彼女は好きで、愛おしくて、





泣きたくなるような、優しい、柔らかい、安堵が、彼の奥にはあったから。


だから、世界の皆が彼を嫌っても、


世界を敵に回しても

世界が彼を憎んでも

世界が例え、正しくても


--私は彼の隣にいる。



大好きだから、一緒にいたい。


だって、ルイは、強くて、格好よくて、ちょっと寂しがり屋で、弱音すぐ吐いて、天然で、バカで、殺人鬼で、街を終わらせ、戦争の首謀者で、、、、、



あれ、







わたしって、





何で、



ルイの事が好---


「デリーナ」


彼女の、ごちゃごちゃの思考を一気に吹っ飛ばすように、外の世界から彼女の名を呼び声がした。

それも、一番耳心地の良い声で。


「...あ、ルイ。どうしたの?」


「...なんか、ボッーとしてない?大丈夫か?」


「何言ってんの!全然へっちゃらいつもの私よ!それで、何よ!この私に何でも--」


「--いや、何って...廊下の歩数調べたが、3周した結果全部血の血痕まで252歩ずつだったから、距離感覚は同じに等しい。」


と、ツラツラと廊下の歩数について語るルイを見て、デリーナは現実へと引き戻される感覚になった。


--あ、そうだそうだ。今は、魔王城か。それと、ここは無限の廊下で、ルイは今....記憶を......


「て、ことで、俺の推測ではこの区間のループが永続的に行われている、ループの魔法使いが、手動で俺達をループさせているとは考えにくい。ここまで正確に同じ区間をループさせてると言うより、自動で同じ区間をループさせてんだ。」


「.......そ、そう。困ったわね、打つ手が無いわ。」


「諦めんの早すぎんだろぉ!」


嘆くデリーナと叫ぶルイ。

2人は永遠に続くループの打開策の捜索に難航していた。


そもそも、敵の狙いがルイの死亡であれば何かしらのアクションをあちら側から出してくるはずだと睨む。しかし、一向にその気配がないのはこの廊下で餓死でもさせようとしているのか。


この世界でのルイは強いらしいのでそれに恐れて攻撃を控えている可能性がある。


「...なるほど、可能性があるくらいならこのままこっちの勝機0のまま殺す方がいいな。」


そりゃ、このまま放置されればルイは恐らく死ぬ。餓死には誰も抗えない。だからこそ、このループを抜ける必要があるのだが、ヒントどころが何も無い。


永遠に続く漆黒の壁と床がルイの視界から消えてくれない。既にこのループにハマって十数分経っている。

打開策が何一つ見つからないのは緊急事態だ。


「クソ、相手本人が出てこない限り何も出来ねぇ、どうする...」


頭をフルに回転させても、ルイには何の策略も思いつかない。それに、この状況はほぼ詰んでいるとしか言いようがないとまでも思っている。

既にループの入り口に入り込みその道をさまよってしまっているこの時点で彼等は負けなのだ。


「...区間は統一されている。同じ区間を永続的にループさせる魔法を出している、という訳だろうな。だが、魔法ってそんなことも出来んのか...」


「魔法に常識等存在しないわ。有り得ない様な事が起こせる力、それが魔法よ。」


デリーナは落ち着いた表情で強ばる表情のルイに向けて魔法の基礎を教える。

魔法の使えないルイにとって、それは聞きたくない事であった。

その結論を飲むの、魔法の無い彼にはもう打つ手が無い、とそういう結論に結びつく。それだけはダメだ。約束したのだ、ルイ・レルゼンを取り戻すと、だから、絶対に抜けなければいけないのだ。このループ。


「...どうしよぅ.....」


「デリーナ、大丈夫だって。何とかなるよ。」


「...そ、そう....うん...」


明らかにデリーナの態度がおかしい。ルイの記憶喪失からのループによって精神的に参ってしまってるのかもしれない。

ルイも安定した精神状態とは口が裂けても言えないが、デリーナによってほんの少し救われたのは事実。


「...絶対に、俺が何とかしてみせるからな。」


その覚悟の呟きは、彼女の耳に届くことはなく、ルイのループ攻略は殆どルイ一人で勝手に進められ当然の様に上手く進まなかった。



------


「なるほど、ループの始まりはここだな。」


廊下を彷徨う事になり30分か経過していた。

ルイは着々と脱出へのピースを集め始めていた。


自身の持っていた鋭い剣で壁に引っ掻き傷をつけながら歩き続けた結果、ループの終わりと始まりの箇所の特定に成功。


引っ掻きながら歩き続けると、後ろには漆黒の壁に刻まれる白い傷跡が目印となってどこがループの地点なのかがはっきりと分かる。終わりの箇所にルイが辿り着くと、先程まで後ろにあった壁の引っ掻き傷が突然消滅し、綺麗新品の漆黒壁が現れたのだ。


勿論、魔王城の特性で壁が再生しているというファンタジー脳も備えつつ、確認してみると、前進した先には先程ルイが入れた引っ掻き傷が壁に刻まれていたのでルイによって特定したループ地点は本物だろうと推測出来る。


「何かしら転移系の道具って線もあるよな。"転移石"みたいな、そういうのあってもおかしくないよな。見た感じ見つからんし、普通に魔法かもしれんが。」


徐々に見つける。打開策を見つける。


一歩ずつ

一歩ずつ

一歩ずつ


正確に


「ルイ....」


「この区間には壁しかないな、外に出れそうな場所は無し。壁破壊は無理だし、マジで参ったな。」



一歩ずつ

一歩ずつ

一歩ずつ


確実に



「ねぇ...ルイ。」


「ほぉ、ループの標的は生物だけってことかな?物質はループの対象外。服とか剣が一緒にループすんのは俺と繋がってるから。」


ループの起点でルイはループの区間と外の区間の隔たりを発見し、その隔たりに剣を少しばかし伸ばして、剣がループするのかを確かめた。


結果、県は本来ならばループが発生する地点になってもループすることなく、外の区間に一部出ることが確認出来た。


一歩ずつ

一歩ずつ

一歩ずつ


着実に



「ルイ!!!」


「ぇ」


意識外からの唐突な叫び声に筋肉が一瞬萎縮する。

ビクついた肩は彼女に見られただろうか、どうか見られたくなかった。そんな恥ずかしい格好。


「...ど、どした?」


「話を、しましょう?」


彼女は、ルイがループの対処法を探っている時、ずっと後ろを着いてきてれていた。何も言葉を発しなかったのは精神的に衰弱しているからだと思い、こちらからも会話を投げかけることはしなかった。


「話?どうしたの、ごめんまだ全然分かんないことだらけでさ、ある程度ひと段落してからでも...」


「ひと段落って何よ、分かんないの!?もう、無理なのよ!」


彼女は、溜め込んでいたものを吐き出すかのように叫んだ。

その言葉には不安と焦りと悲しみと、





"怒り"が、込められていた。


------


白い光の先はいつだって正しかった


ように見えた。


白い光はいつだって輝いて見えた


ように見えた。


白い光が希望と愛を教えてくれた


ように見えた。



ルイが、記憶喪失になってから自分が何とかしなければならないという焦燥感に駆られ続けていた。


ルイを何とかしなければ。


ルイ・レルゼンが困っている時、隣にいるのは私しかいないから、私が諦めたら、ルイ・レルゼンはひとりぼっちになってしまうから。



『--ルイ...どうして、村人を...殺したの?』


『--ルイ、どうして!どうして!街を...』


『--ルイ、どうして.....????』


『--......どうして、あの人を殺せと、そう言うの?ルイ....』


どうして



そんなに寂しそうな目をしてるの?


どうして


どうして








どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして




「どうして、私は貴方を愛してるの?」



------


「あの、デリーナ?ループの解決策まだ全然見つかってないんだ。」


「うん」


「だから、それ終わってからにしない?やっぱこのままだとマズイと思うんだ。」


「そうね...でも、ルイ、ちょっとだけだから、聞いて?」


「...うん。」


これは、何やら重い雰囲気だ。

彼女の瞳には輝きというのが消えているように見えた。


どこか、もう決心が着いたような目にも見えた。





「あのね、ニカルドの命が消えかけてるの。」


「....っえ?それって、確か俺達の仲間の?」


「そう、これみて。」


そう言い、彼女は自身の首にかかるネックレスの様な物を見せてきた。

彼女の首にかかっているネックレスの様な物、そこには5つの球体が飾っており、左から緑、黒、白、赤、黄、の5色だった。


彼女は一番右に位置する黄色の球体を指さして、話し始めた。


「これが、ニカルドの命の灯火...今、正に消えかけている...これが....ね。」


「...」


ルイは、何も言葉が出なかった。


「私は、このループの脱出の鍵を握ってるのは、ニカルドしかいないと思ってた。もう私達にはどうすることも出来ないよ。」


「そんなこと!....俺達が力を合わせりゃ!」


「ルイ、こっからが本題。」


「...ん?」


「ねぇ、ルイ、どうして....」























































「どうして、そんなに生きたがっているの?」




デリーナのその言葉は、ルイの思考を停止させた。



心にヒビが入った感覚が、あった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ