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勇者の贖罪  作者:
2章 『ロード村』
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15.『我慢対決』

アイリス王国とセリシア王国の間は土地が分断されたような割れ目が存在し、そこを渡るには船で数時間の旅路が必要である。


「船は、無いな。時間かかりすぎ。」


セグルドは民家に置いてあった古びた地図を目にしながら、眉を細めていた。

辺りは火によって焦げてしまった木々の香りがしてくる。血と炎の残り香は今や、アイリス王国の王都全体に広がっている。


そんな悪臭によってではなく、セリシア王国への行き方で眉を細めるセグルドは、指を鳴らして案を思い付く。


「あ、大樹ってまだあんのかな?」


それは、アイリス王国とセリシア王国の分断された土地を唯一繋ぐ、規格外の大きさを持つ大樹、『フェリスの大樹』を利用した移動法であった。


「...面倒くさいなぁ、リリアナが一番手っ取り早かったのに。」


セグルドは焦げた民家の扉に手をかけて、外へ赴く。


荒野となったアイリス王国王都に目も向けず、『フェリスの大樹』へ進んで行った。


――――――


「お前は母親より血が薄いからなぁ!探すのがほとんど勘だったけど、やっぱり僕は運が良い!」


「――っ!!!!」


突如現れた『新魔会』セグルド・サターンを見て、セレナは憎しみを胸に、精一杯の威圧をする。

それと比べ、隣で横たわっているフェイの反応は――



――『新魔会』....このタイミング.....いや、逆に...



「セレナ様...僕に案が。――――」


セレナに向けて案を出すフェイ。しかし、彼の囁きを聞いた直後、セレナは耳を疑う。


「フェイ!それって...」


「これが、最善です...!」


フェイの目を見つめて、彼の言葉を信じようとする。

しかし、


「――――」


フェイ・ハイル、彼の"正義"は――


「そこのお前、邪魔だよ。」


「――っ!」


頭を悩ませている間もなく、フェイに向けて指を指すセグルド。次の瞬間、音速の風圧が彼を襲った。


「っ!防御魔――」


そして、防御魔法を張ろうとしたフェイの右腕は、いとも簡単に上空へ投げ飛ばされた。

刀で斬られたかのような綺麗な断面から、真っ赤な肉と神経、骨の全てが空気に晒される。


「――――っ!!!!」


「フェイ!!!!」


血がボタボタと流れ落ち、右腕は熱を持ったように熱くなっていく。

それでも、フェイは頭を休めない。


――今のは何だ?斬撃を飛ばしたのか?アイツは『新魔会』のセグルド・サターン。『新魔会』の中ではかなり動くタイプ。名前は割れてるが魔法までは知らないが、これは...。


「...斬撃?」


斬られた腕を擦りながら、フェイはそう呟く。

顔で正解がどうか判断したい所だ。


「...」


チラッとセグルドの顔を伺うが、


「...」


彼は、フェイを見ていなかった。眼中に無いようだ。

セレナのことしか見ていない。腕の切り落とされた騎士であるフェイではなく、セレナを。


――無理だ、魔法は分からない。でもこの位の距離でも腕を切り落とされる事は分かった。つまり、防御魔法を常に使い続ける必要がある。それであの斬撃みたいなのは回避できる。


「――と、信じるしかないっ!」


フェイは自身の周りに魔力を高めた防御魔法を張る。

実際、斬撃の威力がどのくらいか分からないため、防御魔法が機能するかどうかも怪しい。しかし、次に狙われるのが首だとしたら、一瞬で死ぬ。


防御魔法で防げると考えて動くしかなかった。


「皆さん、出番ですよっ!」


フェイは残った片腕をセグルドに向ける。

そして、3人が居る家の屋根目掛けて飛んでくる、無数の――



「――ハエ?」


人の親指程の大きさをした無数のハエが森の方から飛んでくる。全てのハエの目の色は赤く輝いており、フェイも同様赤く輝く。


「きゃあああああ!!!!」


「セレナ様!転移を!」


フェイの魔法『シンクロ』の使い方、それは生物を通して対象の人物を監視する事が主な使い方。

おまけ程度に使えるのが、フェイの人格汚染。これはただただ一時的に人間不信になるだけでそこまで使えない。ルイを除いて。


そして、フェイが着目した最も有効的活用が可能な力、それは"共感覚"だった。


「これだけの虫を、どこから持ってきた!?」


「みんな、僕の大事な契約者ですよっ!」


「は?って!っ――――」


セグルドが無数のハエから一瞬でも目を離した瞬間、その瞬間に、セグルドの皮膚は、1匹のハエによって噛みちぎられた。


「――っ!おいっ!っ!!!!!」


それに続くように、ハエ達はセグルドを食い始める。

白いコートの奥へ奥へと進んで行き、身体を貪り始める。


フェイ・ハイルは、"フリューバエ"とある契約を交わしている。

普通のハエより一回り大きいフリューバエ。大きい生物を無差別に食う彼らは、魔物に近い。彼らは魔力を無意識に温存している為、身体が勝手に回復魔法を使用する。


「うっとおしい!!!!」


セグルドは、ボロボロになったコートを脱ぎ捨て、辺り一面のハエを全て真っ二つにする。


「たく、なんの真似だ。こんなもの、時間稼ぎにも――」


フリューバエの回復能力は尋常では無く、身体の3分の1が欠損しても復活する。

しかし、半分ともなると話は別で、回復に全振りされてるフリューバエの身体は崩壊する。


そこで、フェイ・ハイルの"契約"が活きる。


「は?」


真っ二つにされたハズのフリューバエは、崩壊すること無く、身体の再生を始めた。

セグルドはその光景を見て、真っ先にフェイの顔に視線を移す。


「...我慢対決です。」


唾液を垂れ流し、蹲るフェイの姿。


今、フェイ・ハイルは無数のフリューバエの回復可能なギリギリまでの欠損を肩代わりした。


彼らの"契約"――それは、フリューバエの命の保証と、フェイへの服従であった。


フェイからフリューバエに課せられた命令は、

【セグルドへの徹底攻撃】であった。


フリューバエの小さな歯が、セグルドの皮膚を貪り食い尽くす。


「――我慢対決?僕は、何を我慢するの?」


密集する黒いハエ達の中で、セグルドは冷徹にそう呟く。


「対決って事は僕と君、どっちが先に音を上げるかって事でしょ?それって君にも何らかの苦痛が行っちゃってるって言ってる様なもんでしょ。」


「...別に、隠すつもりありませんでしたし。そりゃ、契約には対価が必要でしょ。その程度を理解したからって自信満々で言われても反応に困りますよ。」


「はいはい、対価...このハエ共の痛みを、君が請け負ってるとか?」


「正解です。だから我慢対決ですよ。フリューバエは僕と組めば死なない。代わりに僕の精神が削られるだけです。安いもんだ。」


フェイの請け負うフリューバエの激痛は底知れぬモノであり、"共感覚"の神経で通じるフェイの魔口はギリギリだった。


――正直、持久戦になったら分が悪すぎる。


「言ったはずだ。僕は、何を我慢するのか?」


「――っ!」


再び、ハエが一斉に真っ二つにされる。


「この程度、時間稼ぎにもなりはしない。このまま、真っ二つにし続けて、お前の息の根諸共止めてやる!」



フリューバエの再生可能部位までの欠損部の神経を肩代わりし、激しい激痛に見舞われるフェイ。

何の変化も見受けられないセグルド。これでは、我慢対決とは言えなかった。


戦いが長引けば先に倒れるのはどちらか、一目瞭然。


だから、その前に、フェイはやらなければならい。


――見つけ出せ、セグルドの魔法の正体...その鍵を!


セグルド・サターンの魔法の解明を。

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