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勇者の贖罪  作者:
2章 『ロード村』
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14.『運命の再会』

今朝は、何だかいつもと違う空気だった。

特段寒い訳ではなかったが、悪寒が止まらなかった。


毛布を取って上体を起こすと、カーテンの隙間から眩しい日差しが差し込んでくる。

いつもよりより強く、日差しが差し込んでくる。


日差し.....。


「...ジュエリーは?」


いつもは、ジュエリーがもっと早い時間に起こしてくるはずだった。


『大悪党』ルイ・レルゼン

『英雄』ロイ・レルゼン

2人の母親である、ミレイル・レルゼンの脳裏に、ほんの僅かに、最悪の想像が過ぎった。


ベッドから急いで出て、軽く羽織れる物を着る。

扉を開けると、玄関が開く音がした。


「――ぁ」


すると、顔見知りであるネファが、そこには立っていた。


「...あの、ネファさん...」


「...ミレイル、話がある。」



――――――


「なぁ、ダール。お前って『転移魔法』をその目で見た事あるかぁ?」


相も変わらず、のらりくらにと喋り出すニックスであるが、この緊急時に的はずれな質問をするような奴でも無いので、素直にダールも応える。


「いいや、見た事ないが?それがどうかしたのか。」


「いやぁ、ちょっと気になったんだよ。転移って、どういう理屈なんだ?光速瞬間移動か?空間の圧縮みたいなやつか?」


「知らん。特段気にする事でも無いだろ。転移が出来るなら、出来るんだ。それ以外理由は...」


ため息混じりに、ニックスの質問に答えていると、とある疑問がダールにの脳に思い浮かぶ。


「俺は一度空間に作用する魔法をこの目で見た事あるんだがよ、ソイツは壁とか結界とか関係無しに異空間を通して移動するからさ、結界を無視出来るんだ。」


「...その可能性が、あると?」


「ある、かもしれない。」


「...警備結界の時から既に奴らは転移で移動していたとしたら...っ!クソッ!ニックス!村長に一瞬結界解いてもらってくれ!」


そう言い、ダールはニックスに円状の通信機を渡し、森の方向へ走って行く。


「おいおい!どうすんだよ!可能性の話だし、まだ手がかりもないぞ!」


「結果内、結界外、どちらとも可能性がある時点でどっちも確認すべきだ!死んでも俺が見つけ出す!」


既に、ダールの後ろ姿は小さくなっており、ニックスからは米粒程の大きさになっていた。

1人置いてけぼりにされたニックスはほおけた面をして通信機を見る。


「...アイツ、絶対村長ん家からコレパクって来たろ...。」


『緊急時なんだしいいだろ。』


「うわっ!お前、聞いてたのかよ!?って、俺が勝手にボタン押してたのか...使い方イマイチわかんねー。」


『それより、村長のとこに着いたか?もう結界前に着いたんだが。』


「早すぎだろ!1ミリも動いてぇぞ俺!」


『早くしてくれ、一刻を争う。』


「わーったよ、めんどくせーなー。」


ニックスはそう言いつつも、村の中心へと駆けていく。


――――――


「村長、ミレイルを連れて来た。」


「...ご苦労、ネファ。」


村の中心、噴水広場に腰掛ける1人の老人。

髪の毛は無く、白い髭が口周りを覆っているその姿から、年齢は90代と見える。


「...あの、村長...これは?」


そんな老人に近づくのは、ネファによって連れてこられし女性、ミレイル・レルゼン。走ることも出来ない彼女はネファにおぶられてここまで来た訳だが、何一つとしてここまで連れてこられた理由を聞いてない。


「あの、結界は何ですか?それと...あの、ジュエリーはどこに?」


「...落ち着いて聞くんだ。ミレイル。」


「........へ?」


「...実は、――――――」




事細かに、この経緯を全て彼女に話した。

ジュエリーの生死については、濁したが、医者の話よれば、既に助かる見込みは無いとの事。


村人達には教会の僧侶に回復魔法を受けてもらっていると言っているが、この近くの教会に行った所で、たかがしれいてる。

ロード村で50年間医者をやってきた回復魔法のエキスパートが助かる見込みは無いと判断したのだ。


ジュエリーは、おそらく死ぬ。


だが、その事実を彼女に今伝えるわけにはいかない。だって、今、それを言えば――


「――――との事だ。ジュエリーは西の教会にいる。まだ、分からんが..."その時"が来たら、傍にいてやって欲しい。ミレイル、行ってくれるか?」


「――――」


「...ミレイル」


「――――」


彼女からの返答は無い。魂が抜けた抜け殻の様な状態になり、何も喋ろうとしなかった。


「村長、彼女は俺が連れて行こう。村長はこのまま結界を張り続けてくれ。」


そんな静寂な間を割って入ったのはネファだった。

大柄な彼の身体であれば西の教会まで彼女を背負いながら行くなど朝飯前であろう。


村長は彼の言葉に頷き、ミレイルをネファに託す。


「...ま、って....へ?」


「...ミレイル。」


連れて行かようとした時だった。彼女は口を震わせながら、言葉を放つ。


「...じゅえ...りーは、.......わた...しの.....あぁ」


「ミレイル、落ち着け。」


「...ぁ、あぁ、あああああああ――――――」




喉を切り裂く様な絶叫声を、彼女はその場で上げた。

地面に叩きつけられた様に倒れていく彼女の身体からは魂が抜けていく様だった。


「無理も無い。ミレイルは、限界だったんだ、ずっとな。」


村長が倒れ彼女を細い目で見つめた。透き通る白い肌も、白い髪も、生気が失われており、徐々に弱っていく彼女の精神状態を現していた。

ルイが非行に走ってからの彼女の心情は計り知れない。


「...ミレイルは、親として何も間違ってなかったはずだった...それでも、子供はそれを蔑ろにしたんだ。」


ネファの言葉に込められた感情の矛先は、村長にも理解出来た。


「...ジュエリーが死に、ルイも村にいる可能性がある...ネファよ、気を引き締めろよ。今日は荒れるぞ。」


「はい、村長。」


ネファと村長の熱い語らいが、噴水広場で行われている。倒れたミレイルは近くに横たわらせて、安全を確保している。今後の方針について、話し合いをしようとした、その時だった。




「――どういう事だ。」


ロード村 村長 ハルルグ・ジュパイヤは、見た。


自身で作り上げたフェイとセレナを閉じ込める為の結界が、たった今、崩壊した瞬間を。


「...誰か、いるっ!!!!」


「っ!ネファ!奴は――」


崩壊した結界の遥か上空、浮遊している物体に目が行く。そこには、人間がいた。


髪は整えられた赤髪で、真っ白なコートを着飾る男。

遠目からだとそれだけの情報が分かった。しかし、村長はその人物を知っていた。


村長は、彼と一度会っていた。


忘れもしない、人生のトラウマ。


命を賭けた逃亡劇。





「――やっぱり、"運命"は、僕の味方らしいね。」


上空からロード村を見下して、ある一点を見つめた。そこにあった"探し物"を見つけて、彼は乾いた笑みを浮かべる。

金の紋章を揺らしながら。


――――――


「...なんだよ、意外と早いじゃん。」


ダールは突然目の前で結界術が崩壊したのを見て、口をへの字にしてしまった。

ニックスにああは言ったが、正直自分が大分焦っているのを理解しているし、ニックスに無理を言ってるのも理解してる。


それでも、結界は解かれた。ニックスは最高速度で村長の元まで行って結界を解いてくれたのだろう。


「やっぱ、良い奴じゃん」


ダールは絶対に本人には言わない言葉を小さな声で呟きいた後、村を出て森の方向をかけ登る。


ちなみに、この森は木々が想像以上に張り巡らされており、意外と方向感覚を失いやすい。行方不明者もちょこちょこ出ている。

その為、この森を駆け巡る時は慎重に進まねばならない。


「アイツらがどこ行ったか分かんねぇし、とりあえず...教会の方向、行ってみようかな。」


ジュエリー助けると豪語はしたものの、やはり心配が勝ってしまう。

2人を探しつつ、ジュエリーの元へ急ぐ。少しでも彼女の顔を眺めていたい。


ダールはそんな気持ちを抱えて、走る。


「教会は西だから、左だな。」


そう言って、左の方向へ走って行くダールであった。


ちなみに、ダールは極度の方向音痴である。


5分後、既に彼は全く逆の右方向を目指して走っていくのは、村人であれば全員納得する結末であった。


――――――


セレナ・リーベは、アイリス王国の王女だ。


「――――――」


見開いた目玉は、ある一点しか見つめていない。そこから目を離せられない。


アイリス王国は燃えた。"彼"によって。


セレナ・リーベは、リリアナ・リーベの娘だ。


「――――――」


脳裏に電撃が走り込み、全神経が覚醒された様に筋肉が硬直する。心臓の鼓動が体内を響かせる。


リリアナ・リーベは死んだ。"彼"によって。


セレナ・リーベは、リーベ家の一人娘だ。


「――――――」


居た。


リーベ家は崩壊した。"彼"によって。




「――――っ!!!!!!しんまかいいいっーーーー!!!!!!!!!!!」


セレナの叫び声は、村全体にまで届き渡り、居場所を全員に分からせるような愚行と言えた。しかし、そんな事すら気づかなかった。


だって、彼女の、人生の宿敵が今目の前にいるのだから。


「デケェ声だすなよ。お前が僕を嫌ってる以上に、僕もお前がきらいなんだからさぁっ!!!」


降りてくる赤髪の男、珍しきオッドアイでも、特段驚くことは無かった。既に彼とは相対していた。


「セレナ・リーベ、お前は運命の反逆者だ。」


『新魔会』セグルド・サターンは、確かな怒りを込めて、セレナを睨んだ。

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