12.『ダール・シルドの誓い』
「――ダール!お兄ちゃん達どこ行ったか知らないっ!?」
赤く美しい髪は風に揺られながら、彼の元まで近付いてきた。
彼は、彼女の言葉を聞いて、複雑な感情に蓋をして満面の笑みを浮かべる。そして、村の外れを指差し、言う。
「森の方に行ったよ。どーせ、今日も特訓じゃないのか?」
「もーっ!早すぎるよ、お兄ちゃん達...。それじゃ!私も行ってくるから!ありがとねっ!ダール!」
「ジュエリー!お、お前は行かなくてもいいだろ!」
「へ?」
つぶらな瞳が輝きながら、彼を見つめる。咄嗟に向けられたその視線についキョドりそうになるが、頑張って耐える。
伸ばした手は無意識に彼女の腕を掴んでおり、遠くへ行くのを阻んでいた。
「...えっと、アイツらの特訓見てたって、退屈だろ...?アイツら、ジュエリーの事、いつもほったらかしじゃん!だったら、俺と、その....」
「...ダール。」
一呼吸開けてから、彼女は口を開き、彼に微笑みながら言った。
「あんまり、お兄ちゃん達の悪口は、聞きたくない、かな。」
「いやっ!そういう訳じゃ!」
「大丈夫、分かってるよ。ダールは優しいもん。悪意なんて無いことぐらい分かってる。だから、知って欲しい。」
「何を?」
「私が、居たくてお兄ちゃん達と一緒に居ること。それに、見てるだけでも、全然私は退屈なんかじゃないことも。」
きっと、彼女の心は揺るがないだろう。2人の兄にベッタリと着いていく彼女。彼女の目に映るのは、白と黒の兄貴達だけなんだろう。
だから、ダールが何を言っても、ジュエリーの2人に対する気持ちには敵わないのだ。
「...そっか、気をつけて。」
「うん!じゃあまたね!」
軽やかなステップと共に森の方向へ走って行く彼女の姿は段々と見えなくなっていく。
赤い少女の後ろ姿を見つめ、ダールは今日も畑作業へと赴く。
ジュエリーはあの頃と比べたら、別人になってしまったと思う人もいるだろう。と言うか、皆がそう思うだろう。
でも、ダールだけは、分かっていた。
彼女は子供の時から、何も変わってない。
――――――
「絶対に、ぶっ殺してやる。」
金髪の髪をかきあげ、赤い瞳を輝かせる青年
ダール・シルドは、ジュエリーを殺害した騎士フェイ・ハイルを、血眼で探していた。
「落ち着けや、ダール。早まって殺そうとすんな。色々聞いてからじゃないと。」
「あぁ!?ふざけんな!だったらジュエリーはどうなる!?」
「だから、ジュエリーはまだ確定で死んだ訳じゃないんだから。近くの教会まで運んでるらしい。それにな、不自然だと思わねえか、なんで騎士であるフェイが一般市民を殺すのか。」
「...おい、ニックス、お前はいつも楽観視し過ぎなんだよ。何も緊張感が伝わって来ない。お前は適当過ぎだ。」
「ハハッ、違いねぇかもな。」
ニックス・ドルトムント。茶髪で男にしては長い髪をしているが、それが似合う程整った顔をしている美形の青年。彼も、ロード村の村人の1人だ。ダール程では無いが、彼もそこそこジュエリー達とは交流があった。
それだと言うのに、あまり悲しい感情も憎しみの感情も見せようとしない彼に対して、ダールは若干苛立っていた。
村の北側、村長が住んでる屋敷の周辺を探してる彼等。手がかりを求めて、辺りをくまなく探す。
「ところで、セレナ・リーベって、なんか聞いたことあるくね?」
近くの小屋の中を探索している時、ニックスがそんなことを言い始めた。
「...なんだよ、知らねぇよ。」
「なぁんだっけ?えーと...どっかの国の王女だった気がするんだけどなぁ。」
「だったら、なんでそんなどっかの国の王女がこんな小さい村に居るんだよ。ただ名前が似てるだけだ。」
「それもそうかぁ」
小屋を出て、2人は更に北へと進んで行く。
緑広がる草原と森が見えてきた所で、2人は村の方へ再び引き返し探索に勤しむ。
森の方に向かった場合、村長の警備結界に引っかかる為、すぐに伝わるのだが、結界には何の異常もない為、フェイとセレナはまだ村の中にいるということは確定していた。
その為、村人達は捜索範囲を村だけに絞っている。
「にしても...あれは、『転移』。滅多に見れねぇ空間に作用する魔法だ。また見つけてもすぐ魔法使われたら捕まえられねぇぞ。」
ダールが顔を顰めながら、懸念していた事を言及する。『転移』は、逃亡において最強クラスの魔法になる。魔力が尽きない限り何度も瞬間移動される訳で、見つけた瞬間に消える、という無限ループに陥る可能性がある。
「死角から攻める、もしくは...お、ウワサをすれば。」
「ん?おい、ニックス。誰か走って来たぞ。」
2人が歩いている道の奥から、1人の少年が息を切らしながら走って来ていた。
「...アレ、村長のとこの...。」
「やっぱり、村長優秀だなぁ。」
「どういう事だ、ニックス。」
「それはこの子が教えてくれる。だろ?」
2人の元まで走って来た少年はぜえぜえ息を切らし、汗を垂れ流す。茶色の髪からポタポタと滴り落ちる汗の量から、彼がどれだけ全力で走ったのか良く分かる。
「はぁ...はぁ、お二人様...旦那様の、準備が整ったようです!」
「...準備?」
「はいっ!これより、ここロード村は、絶対監獄となりますっ!!!」
少年はそう言いながら、満面の笑みを浮かべた。
「...なるほど、ニックスお前知ってたのか?」
「いやいや、警備結界が反応した所で結局森に行かれたら転移魔法の奴なんてほぼほぼ捕まえられないんだから、早めに閉じ込めるのが当たり前だろ。」
「確かにな。...お前って、一応"考える"っていう思考はあるんだな。」
「何が言いてぇんだっ!」
ニックスとは子供の頃からの幼馴染であるが、基本的にバカでのらりくらりと生きてきた彼を、ダールはその目で見たきた。
なので、時たまにこういった発言をすると、何とも感心してしまうものだ。
「あ、あと!結界が安定してきたら、縮ませるとの事でしたので、ご理解を!」
「成程、逃がさない上に範囲を更に狭めると。これで、奴らに逃げ場は無いな。」
「はいっ!あ、あとダール様、先程ジュエリー様の様態についての情報が届きましてっ!」
「っ!ジュエリーは大丈夫なのかっ!?」
「...ジュエリー様の、身体の中に注がれた毒なのですが、現代の魔法技術では治癒不能との事で...」
「...」
「旦那様が、ダール様はジュエリー様の元に行ってもらって構わないとの事です。...息がある内に、傍にいてあげて欲しいとの...事で。」
少年は軽くお辞儀をした後、再び村の方へと走って行った。きっと情報の伝達係なのだろう。
「...ダール?」
バカと評判のニックスですら、空気の重さに気付いており、軽い発言は出来なかった。
全く喋らないダールの心境を察して、ニックスは静かに足を進めようとする。
「...ける。」
「ん?」
すると、ダールが何かを喋った。
「絶対、ジュエリーは俺が助ける!」
「お、お前助けるったって...」
「犯人なら、毒の解毒剤とかあるかもしれないっ!必ず見つけ出して、洗いざらい吐かせてやるっ!」
「...ダール、お前やっぱかっけえな。」
ダール・シルド
かつて、勇者を目指していた青年は、夢を諦め剣を置いた。生涯をここロード村で生き、平穏な人生を送ろうとしていた。しかし、今日この日、彼は再び剣を手に取る事となった。
勇者になる為では無い。
愛しの人を、救い出す為に。
フェイ・ハイル、セレナ・リーベを見つけ出し、必ずジュエリーの救いの手がかりを見つけ出す。
――――――
ロード村より、北東の森の中を、20人の騎士が歩いていた。
白いマントに身を包み、確固たる信念を抱いている彼等の眼差しの奥には、"始まりの村"『ロード村』が見えていた。
「ミルーラ、アレがロード村で間違いないな?」
「えぇ、シャイル、ここにセレナ様とフェイ殿がいるとの事よ。」
「転移の影響で、魔族共も世界中に散りばめられた...もはや、今この世界で安全と言える保証のある場所は存在しない...!一刻も早く、セレナ様を護衛するぞ。」
「...魔族が潜んでるかもしれないしね。急がないと。」
2人が神妙な面持ちで村を見つめる。
大柄で、短い金髪姿の男、シャイル・スレイダー。
小柄で、長い茶髪の美女、ミルーラ・オーリリア。
魔王城でフェイと共に行動していた2人の騎士。
「まーた、お前らはそうやってすーぐに怖い顔するぅ。ほらほら、もうちょい肩の力抜け。」
2人の髪を後ろから乱すのは、金髪の男。
彼もまた白いマントを羽織ってはいるが、ボサボサの金髪に、適当な着こなしの制服を見るに、騎士とは思えない。
「貴方はもう少し慎重になさった方がよろしいのでは?セリシア騎士団6番隊隊長 ファルス・ヘーベル殿。」
「はっ、堅っ苦しいなぁ。」
セリシア騎士団 6番隊隊長 ファルス・ヘーベル。
彼が、騎士として掲げているモットーは――
「真面目なやつほど、すぐに死ぬ。もっとズルく、賢く、生きようや。堅苦しい騎士様方よぉ。」
――『ズルく、賢く』それが、この理不尽な世界を生き延びる為のコツなのだ。




