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勇者の贖罪  作者:
2章 『ロード村』
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11.『ロード村事件』

「くそっ!くそっ!ふざけやがって!」


「落ち着いて!アナタ!先生、ジュエリーちゃん、まだ生きてるんでしょ!?」


髭面の大男が、血眼になって叫んでいた。その隣で、妻であろう女が、男を宥めながら、倒れるジュエリーに応急処置を施している白髭のおじさんに、震えた声で問いかけている。


「死んでは...おらんが、このままだと助からん...早急に回復させなければ、死ぬ。」


「先生のヒール魔法でも無理なの!?」


「ワシのでも、コレは限界がある...剣の矛先に毒が塗られておる...単純なヒール魔法じゃ、コレは治せんぞ。」


「俺の血なら分ける!出血凄いんだろ!?必要なら使え!」


村人達はジュエリーの事を思って、必死に自身の血を捧げようとしていた。それ程までに、温かい環境であった。

しかし、この状況を、フェイは異様に感じた。


――何、考えてんだ。確かに応急処置も大事だ、だけど...もっとヤバい事があるだろ!?


そう、ジュエリーをこんな姿にした、犯人がいるはずなのに、誰一人として犯人について言及しようとしなかったのだ。


「あ、あの、今この瞬間にも犯人が近くにいるかもしれません。皆さん、彼女の事はそこの先生?と言われてる方と僕に任せて、身の安全の確保を...」


「アァ!?誰だお前。知らねぇ奴がとやかく言ってくんな!犯人なら分かりきってんだろ!」


「...あ」


フェイは、この時感じた。

村に蔓延る異常なまでの殺意の熱を。


昨夜からずっと村中に途絶える事なく張り巡らされた、


「ルイ・レルゼンを見つけ出せぇ!!!!」


"ルイ・レルゼン"への、殺意の執着を。



――――――



「お兄ちゃん、何だか浮かない顔してるね。」


「あたりめーだろ...身動き取れねんだよ...早くここから解放してくれ。」


「そうしたいのは山々なんだけど、私はお兄ちゃんの監視役を預かってるから、無理なことさせられないの。」


「...かんしやくぅ?」


ルイは、鉄の鎖によって地面に固定され、その場から動けない様に施されていた。勿論、誰がやったかは明白だが、意外にもセレナがフェイに協力的な事に驚いた。


『――ルイさん、無理して身体がめちゃくちゃになってるから、動かない様に監視してて下さいね。これ以上動いたら、ルイさん死んじゃいますよ。』


「私はお兄ちゃんの監視役!何処かへ行こうとしたら、直ぐに引っぱたいて寝かしつけちゃうからっ!」


「...ごめんな、俺。どうやら黒澤 零の贖罪は...険しい道のりらしい。気長に見ててくれ。」


と、子供の自分を思い出して平謝りするルイに、セレナは「?」顔を浮かべる。

そんなこんなで、草原の朝はドタバタしていた。

白狼は、未だに動こうとせず、ただひたすら、ルイを眺めていた。


「どうやら、お前は敵って訳じゃないらしいな。」


「――――」


「...お前も、"ルイ・レルゼン"と関わりがあった...そうだろ?」


「――――」


狼は何も答えないが、ルイには分かっていた。

母のようにルイを眺めるその姿は、完全に守っている様子であった。きっと、過去の"ルイ"と関わりを持っていた白狼は、今のルイを"ルイ"と捉えて扱っているのであると。


「この狼さん、ずっと眺めてたんだよ。お兄ちゃんの知り合いなんだ。」


「多分な。全く、"ルイ"って本当にどんな奴だったんだろう。獣には好かれてたとか?」


人間に嫌われて獣に好かれていたキャラだったのかもしれない。ますます"ルイ・レルゼン"の謎は深まるばかりである。


「セレナ、フェイはなんて言ってたんだ?」


「ん?フェイはね、村まで行って馬車を取りに行ったよ。王都まで連れていくんだってー。何するんだろう。」


「王都...絶対監獄とか、言ってた気がする。...このままじゃ、俺は連行されるなぁ。」


「...れんこう?何それ。」


「このままフェイに着いてったら、俺多分死刑になるんだけど、助けてくれますー?姫様。」


「そ、その呼び方、久しぶりに聞いたような...というか!死刑とか何言ってんのー?フェイはお友達なんだから!そんなことする訳ないじゃん!お兄ちゃんは臆病だなー!」


「ひめさまぁ...」


セレナの能天気すぎる頭に、ルイは顔をしかめる。このまま行けば確実に助かる道は無くなる。

ルイはまだ死ぬ訳にはいかないのだ。


脱出ポイントとして有力なのは、連行中であろう。

今は、何らかの魔法でルイはこの地点にビス止めさらている感覚。

だが、連行となれば動かざるを得ない。


「その隙に...だな。」


作戦としては、それが最善手だ。それと、もうひとつ気になることが。


「...セレナは、フェイをどう思う?」


「ん?すっごい安心する騎士!」


「...なるほどね。」


フェイのセレナへの思いだ。

正直、ルイは脱出するとなったら、セレナを連れて行きたい所ではあるが、指名手配である自分と共に行くより、公式の騎士様と共に行く方が、セレナの安全は確保される。


フェイが、本気でセレナを思っているのかは分からない。でも、セレナがここまで懐くということは、接し方は本気でセレナを思っての行動をし続けたのだろう。ならば、ルイのやることはもう一つだけだ。


「...セレナ、元気でな。」


「...ん?お兄ちゃん、死ぬの?」


セレナとは、別れる事になる。

いつかは分からないが、いずれ。


「なんか、娘が嫁ぎに行ってしまう父親の気分だ...」


「何言ってんの?」


そんなたわいもない会話をしながら、2人はフェイの帰還を待っていた。


あれから30分は経ったというのに、全く来る気配が無い。


「遅せぇなぁ...何やってんだ?」


「迷子になってるんじゃない?」


「騎士なんだろ、アイツ。セレナじゃあるまいしそれは無いだろ。」


「お兄ちゃん、私の事馬鹿だと思ってる?」


「当たり前だ――っぶ!」


セレナのパンチが頬に打ち込まれ、ルイは赤く腫れ上がる頬を撫でる。


「ってぇなぁ...もっと姫様らしくしとけよ。」


「お兄ちゃんが悪いんでしょ!セレナ馬鹿じゃないし!あと、その呼び方いい加減やめて!」


「姫様...なんかもうしっくりきすぎて今更変えられねぇ。」


「セレナって呼んでるでしょ!何か私にされた時に仕返しとしてその呼び方してるの、私気付いてるから!」


そんな会話をしていて、また時間が経つ。

フェイがやってくる気配は一行に無かった。


「流石に遅くない?」


我慢ならず、口を開けたルイにセレナも困惑気味の顔で同調する。


「うん、迷子かな?」


「...デジャブ。」


「ん?何?」


「いや、何でもない。ちょっと、村まで行って様子見に行ってくれない?この体勢のまま放置されるくらいならとっとと連行して欲しいから。」


「れんこう、はよくわかんないけど、うん、心配だから見に行ってくる。」


セレナが心配そうな顔で、フェイが向かった村の方向へ歩いて行く。

そんな後ろ姿をルイは見ながら退屈そうな顔であくびをこぼす。


「あぁ〜、暇だなぁ。」


「――――」


そんなルイを見つめる一体の狼は、今も尚体勢を変えず静かに青い瞳を輝かせていた。


「お前も変わり者だな。何で俺なんかの近くにずっと居るんだよ。食べる訳でもないんだから、もっと自由に生きろよ。」


「――――」


「ま、別に何でもいいけど。」


ルイは、上体を草へ置き顔を空に向けた。

青空が広がる晴天を眺めながら、今後の方針について頭を悩ませる。


「...黒澤 零としての贖罪...とにかく、人を助け続ける。現実世界で俺に迷惑かけられた人達に償う機会は、もう訪れない。なら、こっちの世界で誰かを助け続けて、俺の中にある罪を償い続ける意識が必要な訳だ。」


だが、結局現実世界で迷惑をかけた川口や佐藤に対しては、何の償いも出来ない。零の心が真に晴れる事は無いかもしれない。


人を憎み続けていた人生、自分を正当化し続けていた醜い男、黒澤 零は異世界に来て、初めて自分を客観視出来た。


「川口達への償いは、もう二度と出来ない。でも...だからってそれを一生引きずり続けても、何の意味も無い。」


「――――」


「過去は、変わらない。未来は違う。そうだろ?...俺。」


あの時、子供ながらに自分を説教してくれた過去の黒澤 零。彼の言葉に胸を打たれた部分は幾つもあった。

彼に見られて、恥じぬ自分でありたいと、そう思えた。


「俺の事は、俺が見てる。償い続けろ、黒澤 零。」


「――――」


「てか!セレナも遅くね!?アイツに関してはマジで迷子になってるだろ!」


ルイの声が、草原に響く。

白狼はあくびをしながら、彼の傍らに今も居続けている。


――――――


『人生とは、選択の連続よ。』


最近、その言葉がセレナの脳裏によぎる機会があまりにも多すぎる。

アイリス王国での一件も、魔王城でも、ここ、ロード村においても、人生の選択を迫られる機会が多すぎた。


「...フェイ!!!」


セレナが村に着いた頃、村の中央に位置する噴水広場が、何やら騒がしかった。


セレナは人混みを掻い潜りながら、噴水広場にたどり着いた訳だが、そこに広がる光景に、目を疑った。


「...セレナ様」


「...な、んで!なんで!?」


理解不能。そう、理解不能だった。

セリシア騎士団であり、正義の心を持つ優しき男、セレナを守り、人々を守る為全力を注いでいた騎士である、フェイ・ハイル。


彼が、村人達によって取り押さえられている状況に、誰が理解出来ようか。


セレナの頭には「?」しか無かった。


「フェイ!」


「近づくな、嬢ちゃん!」


「っ!?」


セレナを止めたのは、身体の大きい大男だった。

身長は2メートル程あり、セレナからしたら化け物並の男。


「ソイツには近づくな。人を殺したヤバい奴だ。嬢ちゃんも殺されっぞ。」


「へ?人を?そんな訳ないっ!フェイが人を殺すなんて!」


「...フェイ?...そうか、お前...セリシア騎士団の...」


セレナの発言により、何かを察した大男は真剣な眼差しでフェイを睨む。


「...『大悪党』の血筋を根絶やしにしようと...そういう狙いか?」


「...何を、言っているのかさっぱりですよ!僕は、何やもしてない!っぐ!」


「...フェイ!」


フェイの状態は酷かった。あちこちに傷や痣があり、村人達にリンチにあったことが一目で分かる。

頭から流血している彼の姿は、見ていられなかった。


必死の弁明をしようとするフェイを他の村人が押さえつけ、何も喋らせようとしない。


「まだそんな事言いやがるか、ジュエリーの傷口から、テメェの魔力の残穢が出てきたんだ...。」


「...じゅえりー?」


大男の発言に、セレナが耳を疑う。

ジュエリー、それは知ってる名だ。


「ちょ、ちょっと待って!ジュエリーさん!?ねぇ、どういう事!?何があったの!?」


「...フェイ・ハイル、そこの男は、ジュエリーを殺した犯人なんだよ。」


「...へ?」


「そいつがフェイ・ハイルってんなら、説明がつく。『大悪党』であるルイ・レルゼンの妹であるジュエリーを、セリシア騎士団の名の元に殺したかったんだろ?正義気取りのクソ野郎が。」


大男は、本気の軽蔑を、フェイに向けた。


「...フェイ?」


そんな事、するわけが無い。

それをセレナは分かりきっている。


今すぐ、フェイの前に立って手を広げて彼を守りたい。彼は人なんか殺さない、と、声を大にして叫びたい。


だが、他の村人達が、先程からセレナを睨んでいた。


「...」


鋭い視線を尖らせて、セレナの事を皆が見つめる。

子供ながらに、セレナでも理解出来た。

視線の意味を。


「...なぁ、そこの嬢ちゃん。」


口を開けたのは、フェイを取り押さえている一人の男だった。

彼はセレナを睨みつけながら、発言した。


「...はい?」


「さっきから、コイツの事よく知ってそうな発言ばかりだが、もしかして、お前...」


「...」


「こいつの、仲間か?」



――あ、やばい。



「...ぇ」


「...答えろ、お前は、コイツの仲間か?人を、殺したこの男の、仲間か?」


空気が凍った。皆の鋭い視線が一斉にセレナに向けられる。大男も含めて、その場にいた全員がセレナの事を見つめた。


「...セレナ様っ!」


「っ!」


小声で、フェイがセレナを見つめながら言った。


「...」


『人生とは、選択の連続よ。』


今、この場でフェイの仲間だと豪語すれば、確実にセレナも村人達の敵対対象になることは明白だった。

この場で助かる方法は、一つ。

「そんな男は知らない。」と言って去ることだ。


だが、そうすればフェイはこのまま酷い目にあう。

絶対に冤罪のフェイを、見逃せない。


だが、セレナがフェイを見ると、


「....っ!」


無言で、フェイが言っているのだ。


『逃げて下さい。セレナ様。」


と、絶対に言ってるのだ。


「フェイ...」


「答えろっ!お前は何者だ!」


怒号が、噴水広場で響く。
















「私はっ!フェイの仲間、セレナ・リーベっ!!!逃げるよ!フェイ!!!!」


「っ!!!セレナ様っ!!!!」


セレナは、フェイの目の前に立ち、広場にいる全員に向けて声を大にして素性を明かした。


「テメェ...やっぱりっ――んぶっ!!!」


取り押さえている男に向けて大突進をかますセレナ。

よろける男、すかさずフェイに触れるセレナ。


「転移するよっ!!!」


「セレナ様、何故っ!」


2人は、一瞬でその場から消え、広場に混沌が広がった。

突き飛ばされた男は、歯をギリギリさせながら空を睨む。


「ふざ...けんなっ!!!人殺しを、生かしておけるか!ジュエリーを殺した、野郎を...絶対にぶっ殺してやるっ!!!」


「全員、同じ気持ちだ。ジュエリーの事を好いていたお前からすれば、屈辱だろう。相手が子供とて、もう容赦は出来ぬ。さぁ、行くぞ。ダール。」


大男が彼に近づき、手を差しのべる。怒りを宿したその瞳は、確かな決意が籠っていた。


「あぁ、ネファさん、やったろうぜ。皆もそうだろっ!」


「「「おおぉぉーーー!!!!!」」」


村人は、男の声に釣られるように熱を宿した声を上げて、拳を空に向かって突き立てる。


「フェイ・ハイル、セレナ・リーベ、2人を見つけ出して、必ずジュエリーの仇を打つぞぉ!!!!」


「「「おおぉぉーーーー!!!!!」」」















そんな光景を、近くの屋根上から呑気に眺める髭面男が居た。


「へへっ、面白くなってきたじゃない。」


男は手刀を手に持ちながら、2人を見つけださんとする村人達を眺め続けていた。


「...面白いモン、見せてやるから見ててくれよ。神よ。」


髭面男――イニー・トラレスは、空に向かってそう呟いた。

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